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消えた心腰部が教えるもの―左第3弓の突出は「左房拡大」のサイン

第106回医師国家試験 C問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第8問

胸部エックス線写真で左第3弓の突出がみられやすいのはどれか。

  1. a.僧帽弁狭窄症
  2. b.肥大型心筋症
  3. c.陳旧性心筋梗塞
  4. d.大動脈弁狭窄症
  5. e.大動脈弁閉鎖不全症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸部エックス線写真の心陰影を読む問題だ。ポイントは、心陰影の各「弓」がどの構造に対応しているかを覚えているかどうか。左第3弓が何なのかがわかれば、問題は「どの疾患でその構造が大きくなるか」に読み替えられる。
医学生医学生
解剖の講義で習った気はするんですが、右が2つ、左が4つでしたっけ。
ドクタードクター
そう。立位の後前像で、右第1弓は上大静脈、高齢者では上行大動脈が加わる。右第2弓は右房。左第1弓は大動脈弓、左第2弓は肺動脈、左第3弓は左房、正確には左房の一部である左心耳、そして左第4弓が左室だ。
医学生医学生
左第3弓が左房なら、左房が大きくなる病気を探せばいいんですね。
ドクタードクター
その通り。左第3弓はふだんほとんど目立たず、第2弓と第4弓の間のくぼみ、つまり心腰部として見える。左房が拡大すると左心耳が張り出して、ここが外へ突出し、心腰部が消失する。では、左房に負担がかかるのはどんな病態だろう。
医学生医学生
左房から左室へ血液が流れにくい僧帽弁狭窄症とか、左室から左房へ逆流する僧帽弁閉鎖不全症でしょうか。
ドクタードクター
完璧だ。選択肢の中では僧帽弁狭窄症が正解になる。弁口が狭いため拡張期に左房から左室へ血液が流れにくく、左房圧が持続的に上がって血液がうっ滞し、左房が徐々に拡大する。心房の壁は薄いので、肥大して圧に対抗することができず、拡大していくんだ。
医学生医学生
左室には血液が入りにくいので、左室はむしろ大きくならないということですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。僧帽弁狭窄症では左室は拡大せず、左第4弓は目立たないのが特徴だ。一方、左房圧の上昇が肺静脈から肺動脈へ波及すると肺高血圧が起こり、左第2弓も突出してくる。さらに左房拡大が進むと、右第2弓の内側に左房の輪郭が重なる二重陰影や、気管分岐角の開大がみられることがある。
医学生医学生
循環器内科の実習で、指導医の先生に「心腰部が消えていたらまず僧帽弁を考えて」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
臨床的にも大事な着眼点だよ。では、ほかの選択肢も見ていこう。大動脈弁閉鎖不全症はどうかな。
医学生医学生
逆流性の弁膜症なので、左房も大きくなりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。大動脈弁閉鎖不全症では拡張期に大動脈から左室へ逆流するから、容量負荷を受けるのは左室だ。左室は遠心性肥大、つまり内腔が拡大して、左第4弓が左下方へ突出し心胸郭比が増える。僧帽弁が正常に機能していれば左房には負荷が及びにくいので、左第3弓の突出は典型的ではない。
医学生医学生
大動脈弁狭窄症は左室の圧負荷ですよね。CBTの勉強で求心性肥大と覚えました。
ドクタードクター
その通り。左室壁が厚くなって内腔はむしろ狭くなるから、代償期には心陰影の拡大は乏しく、左房拡大も原則として起こらない。エックス線で目立つのは、狭窄部を通過した速い血流による上行大動脈の狭窄後拡張と、弁の石灰化だ。狭窄後拡張は右第1弓の突出として見えることがある。
医学生医学生
肥大型心筋症も、心筋が内側に厚くなるタイプなので似た考え方でしょうか。
ドクタードクター
そう考えていい。主に左室心筋が内腔側に厚くなり、内腔の拡大を伴わないから、心陰影はほぼ正常か軽度の拡大にとどまることが多い。拡張障害で左房が拡大する例はあるけれど、典型的な所見として左第3弓の突出を挙げる疾患ではない。
医学生医学生
陳旧性心筋梗塞は、左室が大きくなるリモデリングのほうですね。
ドクタードクター
正解。広範な梗塞では左室が拡大したり心室瘤をつくったりして、その変化は左第4弓に出る。乳頭筋の機能不全で僧帽弁閉鎖不全症を合併すれば左房も大きくなりうるけれど、それは二次的なもので、梗塞そのものが左房拡大を起こすわけではない。
医学生医学生
圧負荷か容量負荷か、そしてどの部屋に負荷がかかるかで、どの弓が出るかが決まるんですね。
ドクタードクター
まさにそれが本質だ。圧負荷では心室は求心性肥大となって内腔は拡大しにくく、容量負荷では遠心性肥大となって陰影の突出として現れやすい。ついでに整理しておくと、左第2弓の突出は肺高血圧症や心房中隔欠損症などの左右短絡、左第4弓は大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、右第2弓は右房負荷で目立つ。左房拡大は側面像や食道造影での食道の後方圧排としても確認できるよ。心電図の僧帽性P波や心エコーと合わせて評価すると、より確実になる。

まとめ

胸部エックス線正面像の心陰影は右2弓・左4弓からなり、左第3弓は左房(左心耳)、左第4弓は左室に対応します。左第3弓の突出、すなわち心腰部の消失は左房拡大を意味し、その代表が僧帽弁狭窄症で、左室は拡大しない一方、肺高血圧が進むと左第2弓も突出し、二重陰影や気管分岐角の開大を伴うことがあります。大動脈弁閉鎖不全症や陳旧性心筋梗塞では左室の変化が左第4弓に現れ、大動脈弁狭窄症や肥大型心筋症は求心性肥大のため心陰影の拡大は乏しいのが基本です。どの部屋に圧負荷・容量負荷がかかるかを考えれば、どの弓が突出するかを論理的に導けるため、この考え方は胸部写真の読影と弁膜症の理解の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

心陰影の構成を思い出す

胸部エックス線正面像(立位の後前像)の心・大血管陰影は、右側が2つ、左側が4つの弓(膨らみ)で構成される。 ・右第1弓:上大静脈(高齢者では上行大動脈が加わる) ・右第2弓:右房 ・左第1弓:大動脈弓(大動脈球) ・左第2弓:肺動脈(主肺動脈幹) ・左第3弓:左房(正確には左房の一部である左心耳) ・左第4弓:左室

設問の考え方

左第3弓は左心耳が心陰影の左縁をつくる部分であり、通常はほとんど目立たず、第2弓と第4弓の間のくぼみ(心腰部)として見える。左房が拡大すると左心耳も張り出し、この部分が外側へ突出して心腰部が消失する(いわゆる「心腰部の消失」「左第3弓の突出」)。 したがって本問は「左房が拡大しやすい疾患はどれか」と読み替えればよい。左房の拡大は、左房から左室への流入障害(僧帽弁狭窄症)や、左室から左房への逆流(僧帽弁閉鎖不全症)のように、左房そのものに圧や容量の負荷がかかる病態で生じる。一方、左室が主に負荷を受ける疾患では、まず左室の肥大や拡大が起こり、心陰影の変化は左第4弓に現れる。

選択肢考察

  1. ○a.  僧帽弁狭窄症

    僧帽弁狭窄症(mitral stenosis:MS)では、弁口が狭くなるため拡張期に左房から左室へ血液が流れにくくなる。その結果、左房内圧が持続的に上昇し、血液がうっ滞して左房は徐々に拡大する。拡大した左心耳が心陰影の左縁で張り出すため、左第3弓が突出する。左室にはむしろ血液が入りにくいので左室は拡大せず、左第4弓は目立たないのが特徴である。左房圧の上昇が肺静脈から肺動脈へ波及すると肺高血圧を生じ、左第2弓(肺動脈)の突出も加わる。さらに左房拡大が進むと、右第2弓の内側に左房の輪郭が重なって見える二重陰影(double contour)や、気管分岐角の開大がみられることがある。

  2. ×b.  肥大型心筋症

    肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に左室心筋が内腔側に向かって厚くなる疾患であり、左室内腔はむしろ狭くなる。心室内腔の拡大を伴わないため、胸部エックス線写真では心陰影の拡大が軽度か、ほとんど正常のことも多い。拡張障害により左房圧が上がって左房が拡大する例はあるが、典型的な所見として左第3弓の突出を挙げる疾患ではない。

  3. ×c.  陳旧性心筋梗塞

    陳旧性心筋梗塞では、梗塞部の壁運動が低下し、広範な梗塞では左室が拡大する(リモデリング)ことや、心室瘤を形成することがある。これらの変化は左室の輪郭、すなわち左第4弓に現れる。梗塞後に乳頭筋の機能不全などで僧帽弁閉鎖不全症を合併すれば左房が拡大することもあるが、心筋梗塞そのものが左房拡大を起こすわけではなく、左第3弓突出が起こりやすい疾患とはいえない。

  4. ×d.  大動脈弁狭窄症

    大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)は、左室から大動脈への駆出が妨げられる左室の圧負荷疾患である。左室は壁を厚くして高い圧を生み出そうとするため求心性肥大を起こし、内腔はむしろ狭小化する。そのため代償期には心陰影の拡大は乏しく、左房拡大も原則として起こらない。胸部エックス線写真で目立つのは、狭窄部を通過した速い血流による上行大動脈の狭窄後拡張(右第1弓の突出として見えることがある)や、弁の石灰化である。

  5. ×e.  大動脈弁閉鎖不全症

    大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)では、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流するため、左室に容量負荷がかかり、左室は遠心性肥大(内腔の拡大)を起こす。そのため胸部エックス線写真では左第4弓が左下方へ突出し、心胸郭比が増大する。僧帽弁が正常に機能している限り左房へは負荷が及びにくく、左第3弓の突出は典型的所見ではない。

心陰影の各弓と、突出を来す代表的病態

・右第1弓(上大静脈・上行大動脈):大動脈弁狭窄症の狭窄後拡張、上行大動脈瘤 ・右第2弓(右房):三尖弁閉鎖不全症、心房中隔欠損症など右房負荷 ・左第1弓(大動脈弓):高血圧、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈瘤 ・左第2弓(肺動脈):肺高血圧症、心房中隔欠損症などの左右短絡、僧帽弁狭窄症の進行例、肺動脈弁狭窄症の狭窄後拡張 ・左第3弓(左房・左心耳):僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症 ・左第4弓(左室):大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、心室中隔欠損症、動脈管開存症

左房拡大を示唆する胸部エックス線所見

・左第3弓の突出(心腰部の消失・直線化) ・右第2弓の内側に左房縁が重なる二重陰影(double contour) ・気管分岐角の開大(左主気管支が上方へ押し上げられる) ・側面像や食道造影での食道の後方圧排

圧負荷と容量負荷

圧負荷(狭窄や高血圧)では心室は求心性肥大となり内腔は拡大しにくく、心陰影の変化は乏しい。容量負荷(逆流や短絡)では遠心性肥大となり内腔が拡大するため、心陰影の突出として現れやすい。僧帽弁狭窄症は左房に対する圧負荷であるが、心房壁は薄く肥大で対抗できないため、左房は拡大する。

POINT

・左第3弓=左房(左心耳)、左第4弓=左室。 ・左第3弓の突出=左房拡大であり、代表は僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症。 ・僧帽弁狭窄症では左房拡大(左第3弓)と肺高血圧による肺動脈拡大(左第2弓)がみられ、左室は拡大しない。 ・大動脈弁閉鎖不全症・僧帽弁閉鎖不全症など左室の容量負荷では左第4弓が突出する。 ・大動脈弁狭窄症や肥大型心筋症は求心性肥大で、心陰影の拡大は乏しい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。