「休ませた」は守ったことになる?―請求と義務で読み解く働く妊婦の母性保護
第106回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
事業者が行う母性に関する保護措置として法令に基づいているのはどれか。
- a.出産予定日の6週前になったので,休業させた。
- b.妊娠希望の申出があったので,休日業務から外した。
- c.妊婦健康診査の受診を希望したので,当日を欠勤とした。
- d.通勤時の混雑が著しいため,産前休業を待たずに休業させた。
- e.母性健康管理指導事項連絡カードの記載に従い,負担の大きい作業を制限した。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
働く女性の母性保護は主に労働基準法と男女雇用機会均等法に定められており、「本人の請求があって初めて義務となるもの」と「請求がなくても義務となるもの」を区別することが解答の鍵です。産前休業(予定日の6週前、多胎は14週前)は本人の請求によるもので、事業者が一方的に休ませるものではない一方、産後8週間は原則就業禁止です。妊婦健診の時間確保は事業者の義務であって欠勤扱いにはできず、妊娠希望段階の女性は母性保護規定の対象外です。母性健康管理指導事項連絡カードは医師などの指導内容を事業者に伝える書式で、事業者はその記載に従い作業制限や勤務時間短縮、通勤緩和などを講じる義務を負います。医師が記載する書類が患者の就労環境を守る出発点となるため、制度の理解は臨床に直結します。
解答・解説
正解はeです
働く女性の母性保護について、事業者(事業主)が講じる措置のうち法令に根拠があるものを選ぶ問題である。関係する主な法律は、労働基準法と男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律。以下、均等法)の二つである。
解き方の視点
母性保護の規定には、大きく分けて次の2種類がある。 ・本人の請求(申出)があって初めて事業者に義務が生じるもの:産前休業、軽易な業務への転換、時間外・休日・深夜労働の制限、妊婦健康診査のための時間確保など。 ・本人の請求がなくても事業者に義務があるもの:産後休業(産後6週間は例外なく就業禁止)、妊産婦への危険有害業務の就業制限など。 したがって、「本人の請求がないのに事業者の判断で一方的に休ませる」「法律で保障された時間を欠勤として扱う」といった対応は、法令に基づく措置とはいえない。また、医師などの指導内容を事業者に伝えるための書式として「母性健康管理指導事項連絡カード」があり、事業者はその記載内容に沿って必要な措置を講じる義務を負う。 この視点で各選択肢を見ると、主治医などの指導に基づいて作業を制限する選択肢eだけが、法令(均等法)に基づく保護措置である。
選択肢考察
- ×a. 出産予定日の6週前になったので,休業させた。
法令に基づく措置ではない。労働基準法第65条により、産前休業は出産予定日の6週間前(多胎妊娠では14週間前)から取得できるが、これは本人が請求した場合に事業者が就業させてはならないという規定である。本人が働き続けることを望み、休業を請求していないのに、予定日の6週前になったことだけを理由に事業者が一方的に休業させることは法令の趣旨とは異なる。これに対し、産後休業は本人の意思にかかわらず産後8週間は就業させてはならず、例外として産後6週間を経過した後、本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に限って就業させることができる。産前は「任意(請求による)」、産後は「強制(原則)」という違いが重要である。
- ×b. 妊娠希望の申出があったので,休日業務から外した。
法令に基づく措置ではない。労働基準法や均等法の母性保護規定の対象は、妊娠中および産後1年を経過しない女性(妊産婦)であり、「妊娠を希望している」段階の女性に対して休日労働を免除すべきとする法令上の規定はない。事業者が配慮として行うことは可能であるが、法令に基づく措置ではない。なお、妊産婦が請求した場合には、労働基準法第66条により休日労働・時間外労働・深夜業をさせてはならないと定められている。不妊治療のための通院については、年次有給休暇の利用や、事業者が独自に設ける休暇制度などで対応するのが一般的である。
- ×c. 妊婦健康診査の受診を希望したので,当日を欠勤とした。
法令に基づく措置ではない。均等法第12条により、事業者は妊産婦が母子保健法に基づく保健指導や健康診査(妊婦健康診査)を受けるために必要な時間を確保できるようにしなければならない。確保すべき回数の目安は、妊娠23週までは4週に1回、24〜35週は2週に1回、36週以降は1週に1回、産後1年以内は医師などの指示する回数である。本人の請求があれば勤務時間内でも受診の時間を与える必要があり、これを「欠勤」として扱うことは法の趣旨に反する。なお、その時間を有給とするか無給とするかは法律で定められておらず、就業規則などによる。
- ×d. 通勤時の混雑が著しいため,産前休業を待たずに休業させた。
法令に基づく措置ではない。均等法第13条に基づく指針では、妊娠中の通勤ラッシュによる負担を軽くする措置(通勤緩和)として、時差通勤、勤務時間の短縮、交通手段・通勤経路の変更などが挙げられている。これらは医師などの指導や本人の申出を受けて講じるものであり、事業者が混雑を理由に一方的に休業させることは、法令が想定する措置ではない。本人の意に反した休業の強制は、妊娠を理由とする不利益な取扱い(均等法第9条で禁止)にあたるおそれもある。
- ○e. 母性健康管理指導事項連絡カードの記載に従い,負担の大きい作業を制限した。
法令に基づく措置である。均等法第13条により、事業者は妊娠中・出産後の女性が保健指導や健康診査で受けた指導事項を守れるように、勤務時間の変更、勤務の軽減などの必要な措置を講じなければならない。母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、主治医や助産師の指導内容を事業者に正確に伝えるための書式で、母子健康手帳にも様式が載っている。事業者はその記載に従い、負担の大きい作業の制限、休憩時間の確保、勤務時間の短縮、症状によっては休業などの措置をとる。本選択肢はまさにこの規定に沿った対応である。
労働基準法の主な母性保護規定
・産前休業(第65条):出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、本人の請求により休業させる。 ・産後休業(第65条):産後8週間は就業させてはならない。ただし産後6週間を経過し、本人が請求し医師が支障がないと認めた業務には就かせてよい。 ・軽易な業務への転換(第65条):妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させる。 ・危険有害業務の就業制限(第64条の3):妊産婦を重量物を扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務などに就かせてはならない。 ・変形労働時間制の適用制限、時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条):妊産婦が請求した場合に適用される。 ・育児時間(第67条):生後1年に達しない子を育てる女性は、通常の休憩時間のほかに1日2回、それぞれ少なくとも30分の育児時間を請求できる。 ・生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(第68条):請求があれば生理日に就業させてはならない。
男女雇用機会均等法の主な母性健康管理規定
・保健指導・健康診査を受けるための時間の確保(第12条) ・指導事項を守るための措置(第13条):通勤緩和、休憩に関する措置、症状などに対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休業など)。母健連絡カードはこのための伝達手段である。 ・妊娠・出産などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止(第9条)
その他の関連制度
・育児・介護休業法:原則として子が1歳(一定の場合は最長2歳)になるまでの育児休業、子の看護休暇、所定外労働の制限など。 ・休業中の賃金については、労働基準法・均等法では有給か無給かを定めていない。産前産後休業中は健康保険から出産手当金が、育児休業中は雇用保険から育児休業給付金が支給される。
POINT
・産前休業(予定日の6週前、多胎は14週前)は本人の請求があって初めて与えるもので、事業者が一方的に休ませるものではない。 ・産後8週間は原則就業禁止(産後6週経過後、本人の請求と医師の許可があれば就業可)。 ・妊婦健康診査の時間確保(均等法第12条)は事業者の義務であり、欠勤扱いにはしない。 ・母性健康管理指導事項連絡カードの記載に従い、作業制限・勤務時間短縮・通勤緩和などを講じる(均等法第13条)。 ・妊娠希望の段階の女性に対する休日労働免除などの法令上の規定はない。
