StudyMed医師国家試験

被災地の「最後の砦」はどんな病院か―災害拠点病院の役割と指定要件を整理する

第106回医師国家試験 B問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第37問

災害拠点病院について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.広域災害医療に対応する。
  2. b.医療救護班の派遣機能を持つ。
  3. c.救急救命士を配置する必要がある。
  4. d.免震構造であることが指定要件である。
  5. e.災害発生現場に最も近い病院が指定される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の制度問題、災害拠点病院がテーマだ。ポイントは「何のための病院か」という役割と、「どんな条件で指定されるか」という指定要件の2つ。紛らわしい言葉の違いにも注意して見ていこう。まず、災害拠点病院ができたきっかけは知っているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、阪神・淡路大震災がきっかけだったと習った気がします。
ドクタードクター
その通り。1995年の阪神・淡路大震災では病院そのものが被災してライフラインが止まり、患者が被災地の病院に集中したうえ、重症患者を被災地の外へ運ぶこともうまくいかなかった。その教訓から1996年に制度ができたんだ。
医学生医学生
つまり、被災しても診療を続けられて、患者を外に送り出せる病院を前もって決めておこう、ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。だから「被災地内で重症者を受け入れる」「被災地外へ搬送する」「医療チームを派遣する」の3つが柱になる。この視点で選択肢を見ると、広域災害医療に対応するというのはどうだろう。
医学生医学生
ヘリポートが必要と聞いたことがあるので、広い範囲での搬送を担うという意味で正しいと思います。
ドクタードクター
正解。原則として敷地内にヘリポートを設け、ヘリコプターでの広域搬送に対応する。さらに広域災害・救急医療情報システム、通称EMISに参加して、被災状況や受け入れ可能な患者数を行政や他の医療機関と共有する。一つの地域だけでは対応しきれない災害医療を支えることが基本的な役割なんだ。
医学生医学生
医療救護班の派遣機能も、さっきの3本柱に入っていましたね。
ドクタードクター
そう、これも正しい。制度ができた当初は、食料や水、移動手段、通信手段を自前で用意して被災地に負担をかけない「自己完結型」の医療救護チームを派遣できることが求められた。現在はDMAT、つまり災害派遣医療チームを保有し、派遣できる体制が指定要件になっている。
医学生医学生
救急救命士の配置はどうでしょう。救急の病院なら必要そうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。救急救命士は医師の指示のもとで救急救命処置を行う国家資格者だけど、主に消防の救急隊員として病院前、いわゆるプレホスピタルで活動している。災害拠点病院の指定要件に救急救命士の配置は含まれていない。求められる人員は、DMATを構成する医師・看護師・業務調整員などだ。
医学生医学生
免震構造も、大地震に備えるなら当然必要な気がしました。
ドクタードクター
ここは言葉の違いが問われている。要件は診療機能を持つ施設が「耐震構造」であること。耐震は建物自体を強くして揺れに耐える構造、免震は建物と地盤の間に積層ゴムなどを入れて揺れを伝わりにくくする構造だ。免震を採用している病院もあるけれど、指定の条件ではないんだ。
医学生医学生
耐震と免震、似ていて混同しそうです。災害現場に最も近い病院が指定されるというのは、そもそも災害が起きる前に決めるものだから違いますよね。
ドクタードクター
その通り。都道府県が平時のうちに、要件を満たす病院を指定しておく。基幹災害拠点病院は原則として都道府県ごとに1か所で、研修機能も担う。地域災害拠点病院は原則として二次医療圏ごとに1か所。災害現場からの距離は基準ではないよ。
医学生医学生
正解は広域災害医療への対応と医療救護班の派遣機能、ということですね。臨床実習で救命センターを回ったとき、DMATの訓練の話を聞きました。
ドクタードクター
いい経験だね。DMATは医師・看護師・業務調整員の4名程度を基本とする、専門研修を受けたチームで、おおむね発災後48時間以内の急性期に被災地へ入る。病院支援、現場でのトリアージや応急処置、搬送中の治療、広域医療搬送への協力などを行うんだ。
医学生医学生
トリアージはOSCE前に色分けを覚えました。赤が最優先、黄が待機可能、緑が軽症、黒が死亡または救命困難でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ほかにも、2011年の東日本大震災を受けて要件が強化された点は押さえておきたい。自家発電機や受水槽でライフラインを維持し、食料・飲料水・医薬品・燃料を3日分程度備蓄すること、そして災害時にも診療を続けるための業務継続計画、BCPの整備が求められるようになった。空港などに設ける広域搬送拠点臨時医療施設SCUや、精神医療を支えるDPATも関連用語として知っておくと理解が深まるよ。

まとめ

災害拠点病院は阪神・淡路大震災の教訓から1996年に整備が始まり、都道府県が平時のうちに指定する病院で、基幹災害拠点病院は都道府県ごとに1か所、地域災害拠点病院は二次医療圏ごとに1か所が原則です。役割は被災地内での重症者の受け入れ、ヘリコプターなどによる被災地外への広域搬送、DMATの保有と派遣であり、EMISへの参加も求められます。施設面では「耐震構造」が要件で「免震構造」ではなく、救急救命士の配置も要件ではない点がよく問われます。東日本大震災後には3日分程度の備蓄やBCPの整備などが加わりました。災害時に医療を止めない仕組みを理解することは、将来どの診療科に進んでも災害対応の一員となる医師にとって欠かせない知識です。

解答・解説

正解はa, bです

災害拠点病院は、地震などの大規模災害が起きたときに地域の医療の中心となる病院である。1995(平成7)年の阪神・淡路大震災では、医療機関そのものが被災してライフラインが途絶えた。そのうえ患者が被災地の病院に集中し、被災地外への重症患者の搬送もうまく進まなかった。この教訓から、1996(平成8)年に厚生省(当時)の通知で制度がつくられた。都道府県が、あらかじめ定められた指定要件を満たす病院を平時のうちに指定する。 災害拠点病院には2種類がある。 ・基幹災害拠点病院(当初の名称は基幹災害医療センター):原則として各都道府県に1か所。地域災害拠点病院の機能に加え、災害医療に関わる人の研修を行う。 ・地域災害拠点病院(当初の名称は地域災害医療センター):原則として二次医療圏ごとに1か所。 主な指定要件(運営・施設・設備)は次のとおりである。2011(平成23)年の東日本大震災を受けて、2012年以降に要件が強化されている。 ・24時間、緊急の対応ができ、災害時に被災地内の重症傷病者を受け入れ、被災地外へ搬送できる体制があること ・災害派遣医療チーム(DMAT)を保有し、その派遣体制があること ・広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加し、情報を入力できる体制があること ・ヘリコプターによる広域搬送に対応できること(原則として病院の敷地内にヘリポートを設ける) ・診療機能を持つ施設は耐震構造であり、自家発電機や受水槽などでライフラインを維持できること。食料・飲料水・医薬品・燃料などを3日分程度備蓄すること ・業務継続計画(BCP:災害時にも診療を続けるための計画)を整備していること つまり災害拠点病院は、被災地の中で重症者を受け入れる、被災地の外へ患者を送り出す、医療チームを派遣するという役割を持ち、広い範囲にわたる災害医療を支える拠点である。選択肢は、これらの要件と照らし合わせて判断すればよい。

選択肢考察

  1. ○a.  広域災害医療に対応する。

    正しい。災害拠点病院は、広域災害・救急医療情報システム(EMIS:Emergency Medical Information System)で、被災状況や受け入れ可能な患者数などの情報を行政や他の医療機関と共有する。また、ヘリコプターなどを使って重症患者を被災地の外へ広域搬送する機能も求められている。このように、一つの地域だけで対応できない広い範囲の災害医療に対応することが、災害拠点病院の基本的な役割である。

  2. ○b.  医療救護班の派遣機能を持つ。

    正しい。指定要件には、被災地に医療チームを派遣できることが含まれている。制度ができた当初は「自己完結型の医療救護チーム」の派遣機能が求められていた。自己完結型とは、食料・水・移動手段・通信手段などを自前で用意し、被災地に負担をかけずに活動できることを意味する。現在は、災害派遣医療チーム(DMAT)を保有し、派遣できる体制を持つことが指定要件になっている。

  3. ×c.  救急救命士を配置する必要がある。

    誤り。指定要件に救急救命士の配置は含まれていない。救急救命士は、医師の指示のもとで救急救命処置を行う国家資格者である。主に消防機関の救急隊員として病院前(プレホスピタル)で活動しており、病院に配置することは災害拠点病院に求められていない。災害拠点病院に求められる人員体制は、DMATを構成する医師・看護師・業務調整員などである。

  4. ×d.  免震構造であることが指定要件である。

    誤り。指定要件では、診療機能を持つ施設が「耐震構造」であることが求められている。「免震構造」までは求められていない。耐震構造は、建物自体を強くして地震の揺れに耐える構造である。免震構造は、建物と地盤の間に積層ゴムなどの装置を入れ、揺れが建物に伝わりにくくする構造である。免震構造を採用している災害拠点病院もあるが、指定の条件ではない。

  5. ×e.  災害発生現場に最も近い病院が指定される。

    誤り。災害拠点病院は、災害が起きてからその場で決めるものではない。平時のうちに、指定要件を満たす病院を都道府県が指定しておく。配置の原則は、地域災害拠点病院が二次医療圏ごとに1か所、基幹災害拠点病院が都道府県ごとに1か所である。災害現場からの距離は指定の基準ではない。

災害医療に関わる主な法律

・災害救助法(1947年):被災者の救助(避難所、食料、医療など)を定める法律。 ・災害対策基本法(1961年):防災計画の作成など、国や自治体の防災体制の基本を定める法律。

DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)

2005(平成17)年に厚生労働省が発足させた。医師・看護師・業務調整員(ロジスティクス担当)の4名程度で1チームを組むのが基本で、専門の研修を受けている。災害の急性期(おおむね発災後48時間以内)に被災地に入り、次のような活動を行う。 ・被災地の病院を支援する ・現場でトリアージや応急処置を行う ・患者を搬送しながら治療を続ける ・自衛隊機などを使った広域医療搬送に協力する 東日本大震災以降は、活動が長引く場合に備えて、次々と派遣されるチームが活動を引き継ぐ体制もとられている。

災害時の医療関連の用語

・EMIS(広域災害・救急医療情報システム):医療機関の被災状況、受け入れ可能な患者数、DMATの活動状況などをインターネット上で共有するシステム。 ・SCU(Staging Care Unit:広域搬送拠点臨時医療施設):空港などに設置する臨時の医療施設。広域搬送する患者の状態を安定させ、搬送前に待機させる。 ・トリアージ:負傷者を緊急度と重症度によって選別すること。日本ではSTART法などが用いられ、判定結果を赤(最優先で治療)・黄(治療を待てる)・緑(軽症)・黒(死亡または救命困難)のトリアージタッグで示す。 ・DPAT(災害派遣精神医療チーム):被災地の精神医療を支援するチーム。

災害拠点病院の数

全国で700か所を超える病院が指定されており、東日本大震災の後に要件の強化とともに整備が進められた。

POINT

・災害拠点病院は、阪神・淡路大震災を教訓に1996年に整備が始まった。 ・基幹災害拠点病院は都道府県ごとに1か所、地域災害拠点病院は二次医療圏ごとに1か所を原則とし、平時のうちに都道府県が指定する。 ・求められる機能:24時間の救急対応、重症傷病者の受け入れと広域搬送、DMATの保有と派遣、EMISへの参加、ヘリポート、耐震構造、ライフラインの維持と備蓄、BCPの整備。 ・求められているのは「耐震構造」であり、「免震構造」ではない。救急救命士の配置は要件ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。