狭い出口が命取りに―弁膜症で突然死を招く大動脈弁狭窄症
第106回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
突然死をきたしやすいのはどれか。
- a.三尖弁閉鎖不全症
- b.僧帽弁狭窄症
- c.僧帽弁閉鎖不全症
- d.大動脈弁狭窄症
- e.大動脈弁閉鎖不全症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
弁膜症の多くは心不全や心房細動を経て緩徐に進行しますが、大動脈弁狭窄症は突然死をきたしやすい代表的な弁膜症です。圧負荷による求心性左室肥大で心筋の酸素需要が増える一方、冠血流予備能が低下して虚血から心室性不整脈を生じやすく、固定した流出路狭窄のため労作時に心拍出量を増やせず失神を招きます。狭心痛・失神・心不全の三大症状が出現すると予後は急速に悪化するため、症状のある重症例は外科的弁置換術やTAVIの適応となり、血管拡張薬による血圧低下にも注意が必要です。僧帽弁狭窄症は塞栓症、慢性の閉鎖不全症は容量負荷による緩徐な心不全が主体で、突然死はきたしにくい点と対比して理解しましょう。突然死の原因疾患を病態生理から整理しておくことは、手術時期の判断や日常診療でのリスク評価に直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、弁膜症のなかで突然死をきたしやすいものを問うている。
突然死とは
突然死は、外因(外傷・事故など)によらず、症状の出現から短時間(一般に24時間以内、心臓突然死では1時間以内とする定義も多い)で死に至るものをいう。成人の突然死の過半数は心臓が原因であり、その多くは心室細動などの致死的不整脈によるもので、基礎疾患としては虚血性心疾患が最も多い。
弁膜症と突然死
弁膜症の多くは、心不全・心房細動などを経て緩徐に進行するため、適切な管理のもとでは突然死はまれである。例外が大動脈弁狭窄症(AS)である。ASでは、狭い弁口を通して血液を押し出すために左室が求心性に肥大する。肥大心筋は酸素需要が大きい一方で、冠血流の予備能が低下しているため、心筋虚血が起こりやすく、これが心室性不整脈の引き金となる。また、左室流出路が固定的に狭いため、運動時などに心拍出量を増やせず、急激な血圧低下や脳血流低下(失神)をきたす。 ASの三大症状は狭心痛、失神、心不全であり、これらの症状が出現すると予後が急速に悪化し、突然死の危険も高まる。このため症状を伴う重症ASは速やかに弁置換術(外科的大動脈弁置換術または経カテーテル的大動脈弁置換術)の適応となる。以上から、突然死をきたしやすいのは大動脈弁狭窄症である。
選択肢考察
- ×a. 三尖弁閉鎖不全症
三尖弁閉鎖不全症(TR)の多くは、左心系の弁膜症や肺高血圧による右室拡大に伴う二次性(機能性)である。一次性の原因にはEbstein(エプスタイン)奇形、感染性心内膜炎(静注薬物使用者など)、カルチノイド症候群、ペースメーカリードによる損傷などがある。症状は頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫、腹水などの右心不全で、心陰影が大きく拡大しても慢性的に経過することが多く、突然死をきたしやすい疾患ではない。
- ×b. 僧帽弁狭窄症
僧帽弁狭窄症(MS)の多くはリウマチ熱の後遺症である。左房圧の上昇から肺うっ血・労作時呼吸困難をきたし、左房拡大に伴って心房細動を合併しやすい。心房細動そのものは致死的不整脈ではなく、左房内血栓による脳塞栓症などの塞栓症が重要な合併症となるが、突然死をきたしやすい疾患とはいえない。活動制限が強くなっても、経過は比較的緩徐である。
- ×c. 僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、慢性例では左房・左室の容量負荷に対する代償が長く続き、左心不全や心房細動を徐々にきたす。薬物療法や生活指導である程度コントロールでき、適切な時期に弁形成術・弁置換術を行えば予後は良好で、突然死をきたしやすい疾患ではない。なお、急性心筋梗塞に伴う乳頭筋断裂などによる急性MRは急激な肺水腫・ショックをきたし緊急手術を要するが、これは慢性の弁膜症としてのMRとは別に考える。
- ○d. 大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症は弁膜症のなかで突然死をきたしやすい代表的疾患である。求心性左室肥大により心筋の酸素需要が増す一方、冠血流予備能が低下して心筋虚血が起こりやすく、心室性不整脈の原因となる。さらに固定された流出路狭窄のため、労作時に心拍出量を増やせず、血圧低下や失神を招く。狭心痛・失神・心不全のいずれかが出現すると予後は不良となるため、症状のある重症例は早期に大動脈弁置換術(外科手術またはTAVI)を行う。
- ×e. 大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症(AR)の慢性例では、逆流による容量負荷に対して左室が拡大(遠心性肥大)し、一回拍出量を増やして長期間代償する。このため脈圧の大きい大脈・速脈を呈し、無症状の期間が長い。薬物療法や生活管理で比較的コントロールでき、左室機能が低下する前の適切な時期に手術を行えばよく、突然死をきたしやすい疾患ではない。ただし大動脈解離や感染性心内膜炎による急性ARは急激な心不全をきたし、緊急手術の対象となる。
大動脈弁狭窄症(AS)の要点
原因:高齢者の加齢に伴う石灰化(退行変性)が最も多く、比較的若年では先天性二尖弁、ほかにリウマチ性がある。 身体所見:胸骨右縁第2肋間を最強点とし頸部に放散する収縮期駆出性雑音、遅脈・小脈、Ⅱ音の減弱や奇異性分裂。 重症度の目安(心エコー):重症ASは弁通過血流の最高速度4.0m/s以上、平均圧較差40mmHg以上、弁口面積1.0cm²未満。 予後:無症状の間の突然死はまれだが、症状出現後は予後が急速に悪化する。古典的には、狭心痛出現後の平均余命約5年、失神出現後約3年、心不全出現後約2年とされる。 治療:症状のある重症ASには弁置換術の適応がある。外科的大動脈弁置換術(SAVR)のほか、高齢者やハイリスク例では経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が行われる。 注意点:左室流出路狭窄のため、過度の血管拡張薬(硝酸薬など)は血圧低下を招きやすく、慎重に用いる。
突然死をきたしやすい主な心疾患
・虚血性心疾患(急性心筋梗塞など) ・肥大型心筋症(特に若年者やスポーツ中の突然死の原因として重要) ・大動脈弁狭窄症 ・遺伝性不整脈(QT延長症候群、Brugada症候群など)、WPW症候群に伴う心房細動(偽性心室頻拍) ・拡張型心筋症、心サルコイドーシスなど ・大動脈解離、肺血栓塞栓症など
弁膜症の手術時期
弁膜症は内科的治療では根本的に改善しないため、症状、心機能(左室駆出率・左室径)、重症度をもとに手術の至適時期を逃さないことが重要である。
POINT
・弁膜症で突然死をきたしやすいのは大動脈弁狭窄症である。 ・ASの三大症状は狭心痛・失神・心不全で、症状出現後は予後不良のため早期に弁置換術(SAVR/TAVI)を行う。 ・突然死の原因として、ほかに虚血性心疾患、肥大型心筋症、遺伝性不整脈なども押さえる。 ・MS・MR・AR・TRは慢性経過で代償されることが多く、突然死はきたしにくい。
