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酸素がある細胞ほど放射線に弱い―放射線感受性を決める4つのものさし

第106回医師国家試験 B問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第31問

放射線感受性の比較で正しいのはどれか。  ただし,「A>B」はAがBよりも放射線感受性が高いことを示す。

  1. a.腺癌 > 扁平上皮癌
  2. b.神経細胞 > 骨髄細胞
  3. c.分化した細胞 > 未分化な細胞
  4. d.細胞周期S期 > 細胞周期M期
  5. e.酸素分圧が高い組織 > 酸素分圧が低い組織

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どんな細胞や組織が放射線に弱いのかを比べる問題だ。選択肢には腫瘍の組織型、正常細胞の種類、分化度、細胞周期、酸素分圧と、感受性を左右する因子がひと通り並んでいる。それぞれのものさしで「どちらが弱いか」を正しく言えるかがポイントだよ。まず、放射線がどうやって細胞を殺すか覚えているかな。
医学生医学生
DNAを傷つけるんですよね。放射線生物学の講義で、直接作用と間接作用があると習いました。
ドクタードクター
その通り。放射線がDNAを直接電離する直接作用と、細胞内の水を電離してできたヒドロキシルラジカルなどがDNAを傷つける間接作用がある。X線ではむしろ間接作用の比重が大きいんだ。主な標的はDNAの二本鎖切断で、修復しきれなかった細胞は次の分裂のときに死ぬことが多い。これを分裂死という。
医学生医学生
分裂のときに死ぬなら、よく分裂する細胞ほど放射線に弱いということになりますね。
ドクタードクター
いい推論だね。それをまとめたのがベルゴニー・トリボンドーの法則で、分裂の頻度が高い、将来の分裂回数が多い、形態・機能が未分化である細胞ほど感受性が高い。これで分化度の比較はどう判断できる?
医学生医学生
未分化な細胞のほうが弱いので、分化した細胞が上という比較は逆ですね。同じ理屈で、ほとんど分裂しない神経細胞より、盛んに分裂する骨髄細胞のほうが弱いはずです。
ドクタードクター
そう、どちらも比較が逆になっている。全身被曝では比較的低い線量から骨髄抑制が起こるし、腸管のクリプト細胞や精原細胞も感受性が高い代表だ。逆に成熟した神経、筋肉、骨は感受性が低い。ひとつ例外として覚えてほしいのがリンパ球で、分化した細胞なのに感受性が極めて高く、アポトーシスを起こしやすい。
医学生医学生
リンパ球は例外なんですね。CBTの勉強のとき、そこで引っかかった記憶があります。では細胞周期はどうでしょう。DNAを複製しているS期が一番危なそうに思えるんですが。
ドクタードクター
直感的にはそう思いがちだけど、実は逆なんだ。最も感受性が高いのはM期とG2期で、S期、特にその後半は最も抵抗性だ。S期後半では複製された姉妹染色分体を鋳型にした相同組換え修復が働いて、二本鎖切断を正確に直せるのが一因とされている。だからS期をM期より上に置く比較は誤りだ。
医学生医学生
なるほど、修復の材料がそろっている時期だから強いんですね。腫瘍の組織型はどうですか。
ドクタードクター
一般に扁平上皮癌は中等度の感受性で、多くの腺癌は比較的低い。だから腺癌のほうが高いという比較も逆だ。頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌のように扁平上皮癌が多い領域で、化学放射線療法が根治治療の柱になっているのはこのためなんだ。
医学生医学生
放射線治療科の実習で、子宮頸癌の患者さんに外照射と腔内照射をしているのを見学しました。ということで、残る酸素分圧が正解ですね。
ドクタードクター
正解。酸素は放射線で生じたDNAのラジカルと反応して、損傷を修復されにくい形に固定する。だから酸素が十分な組織ほど感受性が高い。これを酸素効果といい、X線やγ線では、低酸素下と酸素下で同じ効果を得るのに必要な線量の比、酸素増感比がおよそ2.5〜3とされる。
医学生医学生
つまり低酸素だと3倍近い線量が必要になるということですか。腫瘍の中心部は血流が乏しいから、そこが効きにくそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の悩みどころだ。低酸素細胞は放射線抵抗性で、局所制御を悪くする原因になる。だから治療前に貧血を是正して酸素供給を保つことが勧められるんだ。また、治療を何回かに分けて照射する分割照射の根拠として、修復、再分布、再酸素化、再増殖の4Rがある。
医学生医学生
再酸素化と再分布は、分割の合間に低酸素細胞に酸素が届いたり、細胞が感受性の高い時期に移ったりするということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。一方、正常組織は分割の間に損傷を修復できるから、腫瘍との差が広がる。もうひとつ発展として、重粒子線のように線エネルギー付与、つまりLETの高い放射線は酸素効果の影響を受けにくく、低酸素の腫瘍にも効果を得やすい。ちなみに感受性の高い腫瘍の代表は悪性リンパ腫やセミノーマ、低いのは悪性黒色腫や肉腫、腎細胞癌などだ。
医学生医学生
組織型、細胞の種類、細胞周期、酸素と、それぞれのものさしで整理すれば迷わずに済みそうです。
ドクタードクター
その通り。どれも放射線治療の計画や副作用の予測に直結する知識だから、理屈とセットで押さえておこう。

まとめ

放射線は主にDNA二本鎖切断によって細胞を死に至らせ、その感受性はいくつかの因子で決まります。酸素はDNA損傷を固定して修復されにくくするため、酸素分圧が高い組織ほど感受性が高く(酸素効果、X線の酸素増感比は約2.5〜3)、低酸素の腫瘍細胞は放射線抵抗性となります。ベルゴニー・トリボンドーの法則により分裂が盛んで未分化な細胞ほど感受性が高く、骨髄は神経より弱いものの、リンパ球は分化細胞でありながら例外的に高感受性です。細胞周期ではM期・G2期が最も高感受性、S期後半が最も抵抗性であり、腫瘍では扁平上皮癌が多くの腺癌より感受性が高いことも重要です。これらの原理は分割照射の4Rや貧血是正、重粒子線の利点など、放射線治療を理解するうえでの土台となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、細胞・組織・腫瘍の放射線感受性を左右する因子についての基本知識を問うている。

放射線が細胞を傷害するしくみ

X線などの放射線は、DNAを直接電離する作用(直接作用)に加え、細胞内の水を電離して生じたヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカルがDNAを傷つける作用(間接作用)によって、主にDNA二本鎖切断を起こす。修復しきれない損傷をもつ細胞は、次の分裂の際に死に至る(分裂死)ことが多い。

感受性を決める主な因子

1.細胞の性質:ベルゴニー・トリボンドーの法則によれば、①分裂の頻度が高い、②将来の分裂回数が多い、③形態・機能が未分化である細胞ほど感受性が高い。 2.細胞周期:M期とG2期が最も感受性が高く、S期(特に後半)が最も抵抗性である。 3.酸素:酸素が存在するとDNA損傷が固定されて修復されにくくなり、感受性が高まる(酸素効果)。 4.腫瘍の組織型:一般に悪性リンパ腫・セミノーマなどは非常に高感受性、扁平上皮癌は中等度、腺癌の多くや肉腫・悪性黒色腫は比較的低感受性である。 これらを当てはめると、正しい比較は「酸素分圧が高い組織>酸素分圧が低い組織」である。

選択肢考察

  1. ×a.  腺癌 > 扁平上皮癌

    一般に扁平上皮癌のほうが腺癌より放射線感受性が高く、比較が逆である。このため頭頸部癌・食道癌・子宮頸癌・肺扁平上皮癌など扁平上皮癌の多い領域では、放射線治療(化学放射線療法を含む)が根治的治療として重要な位置を占める。腺癌は乳癌など一部を除き、一般に感受性が相対的に低い。

  2. ×b.  神経細胞 > 骨髄細胞

    比較が逆である。骨髄の造血細胞は盛んに分裂を繰り返す未分化な細胞であり、放射線感受性が非常に高い。全身被曝では比較的低い線量から骨髄抑制(造血障害)が生じる。一方、成熟した神経細胞はほとんど分裂しない高度に分化した細胞であり、感受性は低い。

  3. ×c.  分化した細胞 > 未分化な細胞

    比較が逆である。ベルゴニー・トリボンドーの法則により、形態・機能が未分化な細胞ほど、また分裂頻度が高く将来の分裂回数が多い細胞ほど放射線感受性が高い。造血幹細胞、腸管のクリプト細胞、精原細胞などが感受性の高い代表例である。なお、リンパ球は分化した細胞でありながら例外的に感受性が極めて高く、アポトーシスを起こしやすい。

  4. ×d.  細胞周期S期 > 細胞周期M期

    比較が逆である。細胞周期のなかではM期(分裂期)とG2期が最も放射線感受性が高く、S期、特にその後半は最も抵抗性である。S期後半では複製された姉妹染色分体を鋳型とする相同組換え修復が働き、DNA二本鎖切断を正確に修復できることが一因とされる。G1期が長い細胞ではG1初期も比較的抵抗性で、G1後期からS期初めにかけて再び感受性が高くなる。

  5. ○e.  酸素分圧が高い組織 > 酸素分圧が低い組織

    酸素は放射線によって生じたDNAのラジカルと反応して損傷を修復されにくい形に固定するため、酸素が十分な組織ほど放射線感受性が高い(酸素効果)。X線やγ線では、低酸素下と十分な酸素下で同じ効果を得るのに必要な線量の比(酸素増感比、OER)はおよそ2.5〜3である。腫瘍の中心部などの低酸素細胞は放射線抵抗性となるため、治療前に貧血を是正して組織への酸素供給を保つことが勧められる。

ベルゴニー・トリボンドーの法則

放射線感受性は、①細胞分裂の頻度が高いほど、②将来行う細胞分裂の回数が多いほど、③形態・機能が未分化であるほど高い。

正常組織の感受性の目安

高い:リンパ組織、骨髄(造血組織)、生殖腺(精巣・卵巣)、腸管上皮 中等度:皮膚、水晶体、毛嚢、血管内皮など 低い:筋肉、骨、成熟した神経組織、結合組織 ※リンパ球は分裂の少ない成熟細胞だが例外的に感受性が高い。

腫瘍の感受性の目安

高い:悪性リンパ腫、セミノーマ(精上皮腫)、ウィルムス腫瘍、神経芽腫、髄芽腫、小細胞肺癌など 中等度:扁平上皮癌(頭頸部、食道、子宮頸部、皮膚など) 低い:多くの腺癌、骨肉腫・軟部肉腫、悪性黒色腫、腎細胞癌など

放射線生物学の4R

分割照射の根拠として、修復(Repair)、再分布(Redistribution:細胞周期上の感受性の高い時期への移行)、再酸素化(Reoxygenation:低酸素だった腫瘍細胞への酸素供給の回復)、再増殖(Repopulation)の4つが挙げられる。正常組織は分割の間に損傷を修復でき、腫瘍では再分布と再酸素化によって次の照射への感受性が高まる。

酸素効果と臨床

低酸素細胞は放射線抵抗性であり、局所制御を悪くする原因となる。貧血の是正はこの観点から行われる。なお、粒子線の中でも線エネルギー付与(LET)の高い重粒子線は酸素効果の影響を受けにくく、低酸素の腫瘍にも効果を得やすい。

POINT

・酸素分圧が高いほど放射線感受性が高い(酸素効果、X線のOERは約2.5〜3)。 ・未分化で分裂の盛んな細胞ほど感受性が高い(ベルゴニー・トリボンドーの法則)。例外はリンパ球。 ・細胞周期ではM期・G2期が最も高感受性、S期後半が最も抵抗性。 ・扁平上皮癌は腺癌より放射線感受性が高い。骨髄は神経より高感受性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。