出てきた胎盤は何を語るか―「形の異常」と「場所の異常」を見分ける胎盤観察の基本
第106回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
娩出された胎盤の肉眼的観察が診断に重要でないのはどれか。
- a.前置胎盤
- b.胎盤腫瘍
- c.分葉胎盤
- d.癒着胎盤
- e.常位胎盤早期剝離
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
娩出された胎盤の肉眼的観察には、胎盤や卵膜の遺残を確認することと、胎盤そのものの病変を確認・確定することの2つの目的があります。分葉胎盤や副胎盤などの形の異常、絨毛血管腫などの胎盤腫瘍、癒着胎盤における母体面の欠損、常位胎盤早期剝離における母体面の凝血塊や圧痕は、いずれも娩出胎盤を見て確認できる重要な所見です。一方、前置胎盤は胎盤の付着部位の異常であり、子宮の外に出た胎盤からは判定できないため、妊娠中の経腟超音波検査で内子宮口との位置関係をもとに診断します。性状の異常か位置の異常かを区別して考えることは、分娩後の胎盤観察の意義を理解し、弛緩出血や遺残といった産後合併症を防ぐうえでの基本となります。
解答・解説
正解はaです
分娩第3期に娩出された胎盤は、そのまま廃棄するのではなく、必ず肉眼的に観察する。胎児面・母体面・卵膜・臍帯を順に確認し、大きさ・重量・形・欠損の有無・凝血塊の付着・腫瘤の有無などを記録する。この観察には大きく二つの目的がある。 一つは、胎盤や卵膜の一部が子宮内に残っていないかを確かめることである。遺残があれば弛緩出血(子宮収縮不良による産後の大量出血)や感染の原因となるため、見逃すと母体に重大な危険が生じる。 もう一つは、胎盤そのものに生じた病変を確認・確定することである。形の異常(分葉胎盤、副胎盤、周郭胎盤など)、腫瘍性病変、剝離の痕跡(血腫・凝血塊)などは、娩出された胎盤を見て初めて明らかになる、あるいは診断が裏づけられるものが多い。 本問では、「娩出後の胎盤を見ることが診断に役立つかどうか」を各病態について考えればよい。ポイントは、その病態が「胎盤そのものの性状の異常」なのか、それとも「胎盤が子宮内のどこに付着していたかという位置の異常」なのかである。後者は子宮内にある状態で画像により評価するものであり、胎盤を子宮の外に取り出してしまえば判定する手段がない。
選択肢考察
- ○a. 前置胎盤
前置胎盤とは、胎盤が子宮下部に付着し、その一部または全部が内子宮口を覆う状態をいう。これは胎盤の形や組織の異常ではなく、付着部位(位置)の異常である。診断は妊娠中の経腟超音波検査で、胎盤の辺縁と内子宮口との位置関係を確認して行う。内子宮口をどの程度覆うかにより全前置胎盤・部分前置胎盤・辺縁前置胎盤に分け、覆ってはいないが胎盤辺縁が内子宮口の近く(おおむね2cm以内)にあるものを低位胎盤とする。この区分によって分娩様式(通常は予定帝王切開)や出血への備えが決まる。娩出された胎盤を見ても、それが子宮のどこに付いていたかはわからないので、肉眼的観察は診断に役立たない。したがって本問の正解である。なお、前置胎盤では癒着胎盤を合併しやすいという臨床上の注意点はあるが、それは前置胎盤そのものの診断とは別の問題である。
- ×b. 胎盤腫瘍
胎盤に生じる腫瘤性病変としては、最も頻度の高い良性腫瘍である絨毛血管腫(chorioangioma)のほか、嚢胞などがある。また胞状奇胎や絨毛癌などの絨毛性疾患(絨毛細胞に由来する疾患)も、娩出・排出された組織の肉眼所見が診断の重要な手がかりとなる(胞状奇胎では嚢胞化した絨毛がブドウの房状にみえる)。これらは胎盤の実質に病変があるので、娩出後に胎盤を観察して割面まで確認し、必要に応じて病理検査に提出することが診断につながる。したがって肉眼的観察は重要であり、誤りである。
- ×c. 分葉胎盤
分葉胎盤は、胎盤の実質が二つ(二葉胎盤)あるいはそれ以上の葉に分かれている形態異常である。形の異常なので、娩出された胎盤を広げて観察すれば肉眼的に確認できる。類似するものに副胎盤があり、これは主胎盤から離れた位置に小さな胎盤葉が存在し、両者が卵膜内を走る血管で連絡しているものである。副胎盤は主胎盤と別に子宮内に取り残されやすく、遺残すると出血や感染の原因となる。卵膜の断端で血管が途切れている所見があれば、副胎盤が子宮内に残っている可能性を考える。このように胎盤の形の異常は、娩出後の肉眼的観察で確認するのが基本であり、誤りである。
- ×d. 癒着胎盤
癒着胎盤は、胎盤と子宮筋層の間にある脱落膜(とくに基底脱落膜)が欠損・菲薄化しているため、絨毛が子宮筋層に直接付着あるいは侵入し、胎盤が子宮壁から自然に剝がれなくなる状態である。子宮内膜掻爬術の反復、帝王切開などの子宮手術の既往、前置胎盤、子宮奇形などが危険因子となる。分娩時には胎盤が娩出されず、用手剝離を試みることになるが、たとえ胎盤が出てきても一部が子宮壁に残っていることがある。そのため、娩出された胎盤の母体面に欠損がないかを肉眼的に確かめ、遺残の有無を判断することが重要である。母体面に胎盤組織の欠け(欠損部)があれば、その部分が子宮内に遺残していると考える。したがって肉眼的観察は重要であり、誤りである。
- ×e. 常位胎盤早期剝離
常位胎盤早期剝離は、正常な位置(子宮体部)に付着した胎盤が、胎児娩出前に子宮壁から剝がれてしまう病態である。胎盤の後面(胎盤と子宮壁の間)に出血して胎盤後血腫ができ、剝離面積が大きいほど胎児への酸素供給が減って胎児機能不全・胎児死亡の危険が高まる。母体では播種性血管内凝固(DIC)を起こしやすい。娩出された胎盤の母体面には、剝離部に一致して凝血塊や血腫が付着し、その部分が圧迫されてくぼんでいる所見がみられる。臨床診断は腹痛・性器出血・子宮の硬直・超音波所見・胎児心拍数モニタリングなどで行うが、娩出後の胎盤所見は診断を裏づけ、剝離の範囲を推定するうえで重要である。したがって誤りである。
胎盤の基本
妊娠末期の胎盤は直径約15〜20cm、厚さ約2〜3cmの円盤状で、重量は約500g(胎児体重のおよそ1/6)である。母体面は脱落膜に覆われ、分葉状の胎盤葉(コチレドン)に分かれてみえる。胎児面は羊膜に覆われて光沢があり、臍帯が付着して血管が放射状に走る。
重量の異常
・巨大胎盤(おおむね800g以上): 梅毒などの子宮内感染、胎児水腫(Rh不適合など)、糖尿病合併妊娠、巨大児、多胎などでみられる。 ・過小胎盤(おおむね300g以下): 妊娠高血圧症候群や胎児発育不全(FGR)などでみられ、胎盤機能の低下と関連する。
形の異常
・分葉胎盤: 胎盤実質が2葉以上に分かれる。 ・副胎盤: 主胎盤から離れた小さな胎盤葉が卵膜内の血管で主胎盤とつながる。遺残による出血・感染に注意する。 ・周郭胎盤: 胎児面の辺縁に白色の輪状の隆起がみられるもの。かつては早産や早期剝離の原因と考えられたこともある。
加齢・循環障害による変化
胎盤の老化や循環障害に伴い、梗塞、石灰化、フィブリン沈着、血栓などが起こる。過期妊娠ではこうした変化による胎盤機能の低下が胎児の低酸素状態を招くことがある。
娩出後の胎盤観察の要点
・母体面: 胎盤葉の欠損(遺残の疑い)、凝血塊・血腫の付着(早期剝離)、梗塞・石灰化。 ・卵膜: 欠損の有無、断端で途切れる血管(副胎盤遺残の疑い)。 ・臍帯: 付着部位(中央・側方・辺縁・卵膜付着)、血管数(正常は動脈2本・静脈1本)、真結節など。 ・腫瘤・異常な色調の有無、必要に応じて病理検査。
前置胎盤の分類(超音波による)
・全前置胎盤: 内子宮口を胎盤が完全に覆う。 ・部分前置胎盤: 内子宮口の一部を覆う。 ・辺縁前置胎盤: 胎盤辺縁が内子宮口の縁にかかる。 ・低位胎盤: 内子宮口は覆わないが、胎盤辺縁が内子宮口に近接する(おおむね2cm以内)。
POINT
・娩出後の胎盤観察の目的は、胎盤・卵膜の遺残の確認と、胎盤自体の病変(形の異常・腫瘍・剝離痕など)の確認である。 ・前置胎盤は「付着部位(位置)」の異常であり、妊娠中の経腟超音波検査で診断する。娩出後の胎盤を見ても診断できない。 ・分葉胎盤・副胎盤、胎盤腫瘍、癒着胎盤(母体面の欠損=遺残の確認)、常位胎盤早期剝離(母体面の凝血塊・血腫)は娩出胎盤の肉眼的観察が重要である。 ・副胎盤は卵膜断端の途切れた血管から遺残を疑う。
