StudyMed医師国家試験

弁のまわりに何が走っているか―僧帽弁輪と回旋枝から読み解く心臓弁の立体解剖

第106回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第13問

心臓の弁について正しいのはどれか。

  1. a.僧帽弁は三尖で構成される。
  2. b.大動脈弁には腱索が付着する。
  3. c.肺動脈弁輪周囲を刺激伝導系が走行する。
  4. d.三尖弁と肺動脈弁には線維性連続がある。
  5. e.僧帽弁輪周囲を左冠動脈回旋枝が走行する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心臓の4つの弁の構造と、その周囲を走る血管や刺激伝導系の位置関係を問う問題だ。単なる暗記ではなく、心臓を立体的にイメージできるかどうかがカギになる。まずは弁の分類から整理しよう。4つの弁は大きく2つのグループに分けられるけれど、覚えているかな。
医学生医学生
心房と心室の間にある房室弁と、心室と大血管の間にある半月弁ですね。房室弁が三尖弁と僧帽弁、半月弁が肺動脈弁と大動脈弁です。
ドクタードクター
その通り。では弁尖の数はどうだろう。
医学生医学生
三尖弁は名前の通り3枚で……僧帽弁も3枚だった気がします。弁はだいたい3枚というイメージがあって。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。僧帽弁は前尖と後尖の2枚からなる二尖弁なんだ。2枚の弁尖の形がカトリック司教のかぶるミトラという帽子に似ていることが名前の由来だよ。3枚なのは三尖弁と、半月弁である大動脈弁・肺動脈弁のほうだ。
医学生医学生
左の房室弁だけが2枚と覚えればいいんですね。解剖実習で僧帽弁を開いたとき、確かに大きな前尖が目立っていました。
ドクタードクター
いい記憶だね。次は弁を支える構造だ。腱索と乳頭筋はどの弁にあるかな。
医学生医学生
腱索は弁を引っ張って支えるひもなので、圧の高い大動脈弁にもありそうに思えます。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、腱索と乳頭筋をもつのは房室弁だけなんだ。心室が収縮するとき、乳頭筋が収縮して腱索を引き、房室弁が心房側にめくれ返らないように支える。一方、半月弁はポケット状の弁尖が逆流してくる血液を受けて膨らみ、受動的に閉じる構造で、腱索も乳頭筋もない。
医学生医学生
だから心筋梗塞の機械的合併症で乳頭筋断裂が起こると、急性の僧帽弁逆流になるんですね。循環器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
まさにそれがつながる知識だ。ここからが本題の弁周囲の解剖。4つの弁輪は心臓の線維骨格という結合組織の枠組みに支えられている。その中心で大動脈弁・僧帽弁・三尖弁が接する部分が中心線維体で、房室結節から出たHis束はここを貫いて心室中隔に向かう。では刺激伝導系の近くにある弁はどれだろう。
医学生医学生
中心線維体に接しているのは三尖弁と大動脈弁と僧帽弁なので、肺動脈弁は入っていませんね。
ドクタードクター
正解。His束が近いのは三尖弁の中隔尖付近や、大動脈弁の無冠尖と右冠尖の交連付近だ。だから大動脈弁置換術や三尖弁手術のあとに房室ブロックが起こりうる。肺動脈弁は4弁の中で最も前上方にあり、筋性の右室流出路の上に乗っているので、刺激伝導系からは離れているんだ。
医学生医学生
右室流出路が筋肉でできているということは、三尖弁と肺動脈弁の間も筋肉で隔てられているんですか。
ドクタードクター
鋭いね。右心系では三尖弁と肺動脈弁の間に漏斗部、室上稜と呼ばれる筋性の部分が介在していて、両者に線維性連続はない。線維性連続があるのは左心系、大動脈弁と僧帽弁前尖の間だ。肺動脈弁が筋性の流出路の上に独立しているからこそ、自己肺動脈弁を大動脈弁位に移植するRoss手術が可能になる。
医学生医学生
左は大動脈弁と僧帽弁がくっついていて、右は三尖弁と肺動脈弁が離れている。左右で対になっていないのが面白いです。
ドクタードクター
そして最後が正解の選択肢、僧帽弁輪周囲を左冠動脈回旋枝が走行する、だ。回旋枝は左冠動脈主幹部から分かれ、左房と左室の境である左側の冠状溝を後方へ回り込むように走る。この溝のすぐ内側に僧帽弁輪があるんだ。同じ溝には冠静脈洞、大心臓静脈も走っている。
医学生医学生
右側では三尖弁輪に沿って右冠動脈が走っているんですよね。冠動脈造影のイメージと重なります。
ドクタードクター
その通り。この知識は手術の合併症に直結する。僧帽弁置換術や弁形成術で後尖側の弁輪に糸をかけるとき、回旋枝を損傷したり圧迫したりして術後に心筋虚血を起こすことがある。特に回旋枝が発達した左冠動脈優位型では注意が必要だ。
医学生医学生
弁の手術ごとに、大動脈弁と三尖弁なら房室ブロック、僧帽弁なら回旋枝、三尖弁なら右冠動脈、と整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
よくまとまっているね。最後に発展知識をひとつ。線維骨格は心房筋と心室筋を電気的に絶縁する役割ももっていて、正常ではそれを貫く電気的経路はHis束だけだ。ここにKent束という副伝導路があるとWPW症候群になる。解剖が不整脈の病態理解にもつながっているんだよ。

まとめ

心臓の弁は房室弁(三尖弁・僧帽弁)と半月弁(肺動脈弁・大動脈弁)に分けられ、僧帽弁だけが二尖で、腱索と乳頭筋をもつのは房室弁に限られます。His束は大動脈弁・僧帽弁・三尖弁が接する中心線維体を貫くため、刺激伝導系に近いのは三尖弁中隔尖や大動脈弁で、前上方の筋性流出路上にある肺動脈弁は離れています。線維性連続は大動脈弁と僧帽弁前尖の間にあり、三尖弁と肺動脈弁の間には筋性漏斗部が介在します。左右の房室弁輪の外側には冠状溝があり、僧帽弁輪に沿って回旋枝と冠静脈洞、三尖弁輪に沿って右冠動脈が走行します。これらの位置関係は、弁膜症手術後の房室ブロックや冠動脈損傷といった合併症を理解するうえでの基盤となる知識です。

解答・解説

正解はeです

心臓には4つの弁があり、心房と心室の間にある房室弁(右:三尖弁、左:僧帽弁)と、心室と大血管の間にある半月弁(右:肺動脈弁、左:大動脈弁)に分けられる。

房室弁と半月弁の構造の違い

・房室弁:弁尖に腱索が付き、腱索は心室壁の乳頭筋につながる。心室収縮時に乳頭筋が収縮して腱索を引き、弁尖が心房側へ反転(逸脱)しないように支える。三尖弁は前尖・後尖・中隔尖の3枚、僧帽弁は前尖・後尖の2枚からなる。 ・半月弁:ポケット状の3枚の半月形の弁尖からなり、腱索や乳頭筋はない。血液の逆流圧で弁尖が膨らんで閉じる受動的な構造である。

弁周囲の重要な解剖(弁膜症手術の合併症に直結する)

・4つの弁輪は心臓の線維骨格(線維輪)に支えられている。その中心部で、大動脈弁・僧帽弁・三尖弁が接する部分を中心線維体(右線維三角)といい、房室結節から出たHis束(房室束)はここを貫いて心室中隔へ向かう。 ・大動脈弁(左冠尖・無冠尖)と僧帽弁前尖は線維組織で直接つながっている(大動脈‐僧帽弁線維性連続)。一方、右心系では三尖弁と肺動脈弁の間に筋性の漏斗部(右室流出路、室上稜)が介在し、線維性連続はない。 ・左右の房室弁輪の外側には、心房と心室の境である冠状溝(房室間溝)が走り、そこを冠動脈が通る。左側では左冠動脈回旋枝と冠静脈洞(大心臓静脈)が僧帽弁輪に沿って走行し、右側では右冠動脈が三尖弁輪に沿って走行する。 本問はこれらの位置関係を理解しているかを問うものであり、特にc〜eは弁置換術・弁形成術で房室ブロックや冠動脈損傷を避けるために必要な知識である。

選択肢考察

  1. ×a.  僧帽弁は三尖で構成される。

    誤り。僧帽弁は前尖と後尖の二尖からなる。二枚の弁尖の形がカトリック司教の帽子(mitre)に似ていることが名称の由来であり、二尖弁(bicuspid valve)とも呼ばれる。三尖で構成されるのは右側の房室弁である三尖弁(前尖・後尖・中隔尖)で、半月弁である大動脈弁・肺動脈弁も通常は3枚の弁尖をもつ。

  2. ×b.  大動脈弁には腱索が付着する。

    誤り。腱索が付着するのは房室弁(僧帽弁・三尖弁)であり、腱索は乳頭筋とともに弁下組織を形成する。大動脈弁は肺動脈弁と同じ半月弁で、腱索も乳頭筋ももたない。そのため、腱索断裂や乳頭筋断裂(急性心筋梗塞の機械的合併症)による急性の弁逆流は房室弁、特に僧帽弁で問題となる。

  3. ×c.  肺動脈弁輪周囲を刺激伝導系が走行する。

    誤り。房室結節から出たHis束は、三尖弁中隔尖・僧帽弁・大動脈弁が接する中心線維体(右線維三角)を貫き、膜性中隔の下縁を経て心室中隔の頂部を走る。したがって刺激伝導系の近くにあるのは三尖弁輪(中隔尖付近)や大動脈弁輪(無冠尖と右冠尖の交連付近)であり、大動脈弁置換術や三尖弁手術後に房室ブロックが起こりうるのはこのためである。肺動脈弁は4弁の中で最も前方・上方に位置し、筋性の右室流出路の上に乗っているため、刺激伝導系からは離れている。

  4. ×d.  三尖弁と肺動脈弁には線維性連続がある。

    誤り。右心系では三尖弁と肺動脈弁の間に筋性の漏斗部(円錐部、室上稜)が介在しており、両弁は離れていて線維性連続はない。線維性連続がみられるのは左心系の大動脈弁と僧帽弁前尖の間である。肺動脈弁が筋性の流出路上に独立して存在することは、自己肺動脈弁を大動脈弁位に移植するRoss手術が可能な解剖学的背景でもある。

  5. ○e.  僧帽弁輪周囲を左冠動脈回旋枝が走行する。

    正しい。左冠動脈主幹部から分かれた回旋枝は、左房と左室の境界である左側の冠状溝(房室間溝)を後方へ回り込むように走行し、この溝のすぐ内側に僧帽弁輪がある。そのため僧帽弁置換術・弁形成術で後尖側の弁輪に糸をかける際に回旋枝を損傷・圧迫し、術後の心筋虚血を起こすことがある(特に回旋枝が発達した左冠動脈優位型で注意が必要)。同じ溝には冠静脈洞(大心臓静脈)も走行する。

4弁の比較

・三尖弁:右房‐右室間の房室弁。3尖(前尖・後尖・中隔尖)。腱索・乳頭筋あり。弁輪の外側を右冠動脈が走行し、中隔尖付近にHis束がある。 ・僧帽弁:左房‐左室間の房室弁。2尖(前尖・後尖)。腱索・乳頭筋(前外側乳頭筋・後内側乳頭筋)あり。弁輪の外側を回旋枝と冠静脈洞が走行する。前尖は大動脈弁と線維性連続をもつ。 ・肺動脈弁:右室‐肺動脈間の半月弁。3尖。4弁中最も前上方に位置し、筋性の漏斗部の上にある。 ・大動脈弁:左室‐大動脈間の半月弁。3尖(右冠尖・左冠尖・無冠尖)。右冠尖・左冠尖の上方のバルサルバ洞から左右冠動脈が起始する。無冠尖と右冠尖の交連下方をHis束が走行する。

心臓の線維骨格

4つの弁輪を支える結合組織の枠組みで、心房筋と心室筋を電気的に絶縁する役割ももつ。正常ではこの絶縁を貫く電気的経路はHis束のみであり、ほかに副伝導路(Kent束)が存在するとWPW症候群となる。

弁膜症手術で注意すべき合併症と解剖

・大動脈弁置換術、三尖弁手術:His束損傷による房室ブロック。 ・僧帽弁手術:回旋枝損傷による心筋虚血、左室後壁の損傷など。 ・三尖弁手術:右冠動脈の損傷。

POINT

・僧帽弁は二尖、三尖弁は三尖、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)は三尖。 ・腱索・乳頭筋をもつのは房室弁(僧帽弁・三尖弁)のみ。 ・His束は中心線維体(右線維三角)を貫き、三尖弁中隔尖・大動脈弁の近くを通る。肺動脈弁からは離れている。 ・線維性連続は大動脈弁‐僧帽弁間にあり、三尖弁‐肺動脈弁間にはない(筋性漏斗部が介在)。 ・僧帽弁輪に沿って回旋枝(と冠静脈洞)、三尖弁輪に沿って右冠動脈が走行する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。