がん死亡は「増えている」のか「減っている」のか―死亡数と年齢調整死亡率を読み分ける
第106回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
近年の我が国における悪性新生物死亡に関する動向で正しいのはどれか。
- a.全がんの年齢調整死亡率は上昇している。
- b.全がんの死亡者数は年間30万人を超えている。
- c.全がんの死亡者数は死亡全体の50%を超えている。
- d.胃がんの年齢調整死亡率は上昇している。
- e.女性の乳がんの年齢調整死亡率は低下している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本では悪性新生物が1981年以降死因第1位であり、高齢化を背景に年間死亡数は1998年頃に30万人を超え、2023年には約38万人に達しています。一方、年齢構成の影響を除いた全がんの年齢調整死亡率は1990年代半ば以降男女とも低下しており、とくに胃がんはピロリ菌感染率の低下や減塩、内視鏡診断の進歩などを背景に大きく低下しました。これに対して女性の乳がんは長期的に上昇傾向を示してきた数少ないがんで、エストロゲン曝露期間の延長や検診受診率の低さが課題とされます。がん死亡が死亡総数に占める割合は約4分の1から3割程度で、「2人に1人ががんになる」という罹患の数字と混同しないことが大切です。死亡数・粗死亡率と年齢調整死亡率を読み分ける視点は、国家試験の衛生統計問題だけでなく、疫学データを正しく解釈するための基本となります。
解答・解説
正解はbです
がん(悪性新生物)の死亡統計を読むときは、「死亡数・粗死亡率」と「年齢調整死亡率」を区別することが最も重要である。 ・死亡数・粗死亡率:実際に死亡した人数、およびそれを人口で割った値。がんは高齢になるほど多く発生するため、高齢化が進む日本では、がんのリスクそのものが変わらなくても死亡数・粗死亡率は増え続ける。 ・年齢調整死亡率:人口の年齢構成の違いを取り除いて比べられるよう、基準となる人口(日本では従来昭和60年モデル人口、2020年分からは平成27年モデル人口)の年齢構成に合わせて計算し直した死亡率。年次推移や地域間の比較に用いる。 日本のがん死亡について押さえるべき全体像は次のとおりである。 1. 悪性新生物は1981年以降、死因の第1位であり続けている。 2. 死亡数は増え続けており、本問出題時(2012年)の前後で年間約36万人、2023年には約38万人に達している。 3. 死亡総数(2023年で約157万人)に占める割合はおよそ4人に1人(約25%前後)である。かつてはおよそ3割程度を占めていたが、高齢化により老衰などの死亡も増えたため、割合はやや低下している。 4. 年齢調整死亡率は、全がんとしては1990年代半ば以降、男女とも低下傾向にある。部位別では胃がん・肝がんなどが大きく低下している一方、女性の乳がんは長く上昇傾向を示してきた。 この枠組みで各選択肢を検討すれば、実数の大きさ(30万人超)を問うbが正しいとわかる。
選択肢考察
- ×a. 全がんの年齢調整死亡率は上昇している。
誤り。高齢化の影響で死亡数や粗死亡率は増加しているが、年齢構成の影響を除いた年齢調整死亡率は、1990年代半ばをピークに男女とも低下傾向にある。背景には、胃がん・肝がんの減少(ヘリコバクター・ピロリ感染や肝炎ウイルス感染の減少など)、喫煙率の低下、検診による早期発見、治療成績の向上などがある。粗死亡率と年齢調整死亡率の動きが逆になる点が本選択肢の引っかけである。
- ○b. 全がんの死亡者数は年間30万人を超えている。
正しい。がんによる年間死亡数は1998年頃に30万人を超え、その後も増加を続けている。本問出題時の2012年には約36万人(360,963人)であり、2023年には約38万人(男性約22万人、女性約16万人)となっている。高齢化の進行により、今後も当面は死亡数の増加が続くと見込まれる。
- ×c. 全がんの死亡者数は死亡全体の50%を超えている。
誤り。がんは死因第1位ではあるが、死亡総数に占める割合は2012年で約29%、2023年で約24%であり、50%には遠く及ばない。「日本人の2人に1人ががんになる(生涯罹患リスク)」「3〜4人に1人ががんで死亡する」という言い回しがよく使われるが、前者は罹患、後者が死亡についての数字であり、両者を混同しないことが大切である。
- ×d. 胃がんの年齢調整死亡率は上昇している。
誤り。胃がんの年齢調整死亡率は、男女とも数十年にわたり大きく低下し続けている。ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下(衛生環境の改善)、冷蔵庫の普及などによる塩分摂取量の減少、胃がん検診・内視鏡による早期発見と治療の進歩が要因と考えられている。なお死亡数としては依然上位の部位である。
- ×e. 女性の乳がんの年齢調整死亡率は低下している。
誤り。女性の乳がんは、多くの部位で年齢調整死亡率が低下するなか、長期的に上昇傾向を示してきた数少ないがんである(近年は横ばいに近づいているとする見方もあるが、欧米のような明らかな低下には至っていない)。晩婚化・少産化、初経年齢の早期化、閉経年齢の遅延、食生活の欧米化・肥満などによるエストロゲン曝露期間の延長が罹患増加の背景と考えられている。わが国のマンモグラフィ検診受診率が欧米より低いことも課題とされる。
部位別のがん死亡の動向(年齢調整死亡率)
・胃:男女とも長期的に低下。 ・肝臓:1990年代後半以降、男女とも低下(C型肝炎ウイルス感染者の減少・治療の進歩など)。 ・肺:男性は近年低下、女性は横ばい〜低下。 ・大腸:2000年前後まで上昇し、その後は横ばい〜低下。 ・乳房(女性):長く上昇傾向が続いてきた。 ・子宮:子宮頸がんを中心に長期的には低下したが、近年は横ばいで、若年層の子宮頸がんが問題となっている。 ・膵臓:男女とも増加傾向がみられ、死亡数の上位に入ってきている。
部位別死亡数の順位(近年の概略)
・男性:肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の順が多い。 ・女性:大腸、肺、膵臓、乳房、胃の順が多い。 ・男女計:肺が第1位。
統計用語の整理
・粗死亡率=一定期間の死亡数÷その期間の人口(人口10万対で表すことが多い)。 ・年齢調整死亡率:年齢構成の異なる集団や年次を比較するための指標。直接法では、観察集団の年齢階級別死亡率を基準人口に当てはめて算出する。 ・標準化死亡比(SMR):間接法による指標で、市町村など小集団の比較に用いられる。
POINT
・悪性新生物は1981年以降死因第1位で、年間死亡数は30万人を大きく超える(2023年約38万人)。 ・死亡総数に占める割合は約4分の1(50%ではない)。 ・高齢化で死亡数・粗死亡率は増加するが、全がんの年齢調整死亡率は低下傾向。 ・胃がんの年齢調整死亡率は低下、女性の乳がんは上昇傾向を示してきた。
