カルシウムを「上げる」病気の中に紛れた1つ―PTHが足りないと何が起こるか
第106回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
高カルシウム血症がみられないのはどれか。
- a.副甲状腺機能低下症
- b.成人T細胞白血病
- c.サルコイドーシス
- d.ビタミンD中毒
- e.多発性骨髄腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血清カルシウムはPTHと活性型ビタミンDによって調節され、高カルシウム血症は骨吸収の亢進、腸管吸収の増加、腎排泄の低下によって生じます。成人T細胞白血病はPTHrP産生やRANKLによる骨吸収、多発性骨髄腫は破骨細胞活性化による骨破壊、サルコイドーシスは肉芽腫での活性型ビタミンD産生、ビタミンD中毒は腸管吸収の亢進によって、いずれも高カルシウム血症をきたします。一方、副甲状腺機能低下症はPTH作用が失われるため、低カルシウム血症と高リン血症を呈し、テタニーやQT延長の原因となります。高カルシウム血症の二大原因は原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍で、PTH値が両者の鑑別の手がかりになります。各疾患がカルシウムを動かす機序を理解しておくことは、電解質異常の鑑別と治療方針の判断に直結します。
解答・解説
正解はaです
血清カルシウム(Ca)濃度は、主に副甲状腺ホルモン(PTH)と活性型ビタミンD〔1,25-ジヒドロキシビタミンD、1,25(OH)2D〕によって一定範囲(総Caでおおむね8.5〜10.2 mg/dL前後)に保たれている。 ・PTH:骨吸収を促して骨からCaを動員し、腎尿細管でのCa再吸収を増やし、さらに腎での活性型ビタミンD産生を促進する。 ・活性型ビタミンD:主に腸管からのCa吸収を高める。 したがって高Ca血症は、「骨からのCa流出(骨吸収)の増加」「腸管からの吸収増加」「腎からの排泄低下」のいずれか、または組み合わせで生じる。原因として頻度が高いのは原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍で、両者で大部分を占める。悪性腫瘍では、腫瘍が産生するPTH関連蛋白(PTHrP)による液性の機序と、骨に浸潤・転移した腫瘍細胞が局所で骨吸収を促す機序とがある。そのほか、肉芽腫性疾患やビタミンD過剰など、活性型ビタミンDが過剰となる病態でも高Ca血症が起こる。 本問では、各疾患がCaを上げる方向・下げる方向のどちらに働くかを機序から考えればよい。PTHの分泌が不足する疾患は、上記のPTH作用がすべて失われるため、逆に低Ca血症をきたす。
選択肢考察
- ○a. 副甲状腺機能低下症
高Ca血症はみられない。PTHの分泌不足により、骨からのCa動員、腎尿細管でのCa再吸収、腎での活性型ビタミンD産生がいずれも低下し、低Ca血症となる。同時に腎でのリン排泄が減るため高リン血症を伴うのが特徴である。低Ca血症により神経筋の興奮性が高まり、テタニー、Chvostek徴候・Trousseau徴候、QT延長などがみられる。低Ca血症の代表的原因疾患である。
- ×b. 成人T細胞白血病
高Ca血症をきたす。成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染を背景とするT細胞腫瘍で、高Ca血症の合併頻度が高く、急性型ではとくに多い。腫瘍細胞がPTHrPを産生してPTHと同様に骨吸収・腎Ca再吸収を促進することに加え、破骨細胞を活性化する因子であるRANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)を発現して骨吸収を高めることが原因と考えられている。
- ×c. サルコイドーシス
高Ca血症をきたす。サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が全身に形成される疾患である。肉芽腫を構成するマクロファージ・類上皮細胞が1α-水酸化酵素をもち、25-ヒドロキシビタミンDを活性型の1,25(OH)2Dへ変換する。この変換はPTHによる調節を受けないため活性型ビタミンDが過剰となり、腸管からのCa吸収が増えて高Ca血症や高Ca尿症を生じる。血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)高値なども参考所見となる。結核など他の肉芽腫性疾患でも同様の機序で起こりうる。
- ×d. ビタミンD中毒
高Ca血症をきたす。ビタミンD製剤(特に活性型ビタミンD製剤)の過量投与やサプリメントの大量摂取により、腸管からのCa吸収が亢進し、骨吸収も促進されて血清Caが上昇する。骨粗鬆症などで活性型ビタミンD製剤を服用中の高齢者が、脱水や腎機能低下を契機に高Ca血症を起こすことは臨床上しばしば経験される。
- ×e. 多発性骨髄腫
高Ca血症をきたす。多発性骨髄腫では、骨髄中の腫瘍性形質細胞がRANKLやMIP-1α(マクロファージ炎症蛋白1α)などを介して破骨細胞を活性化し、骨吸収を亢進させる。一方でDKK-1(dickkopf-1)などにより骨芽細胞の分化が抑えられ骨形成が低下する。その結果、骨破壊(打ち抜き像)が進み、骨からCaが流出して高Ca血症となる。高Ca血症は骨髄腫の臓器障害を示すCRAB症状(高Ca血症、腎障害、貧血、骨病変)の一つであり、診断のきっかけとなることも多い。
高Ca血症の主な原因
1. PTH作用の過剰 ・原発性副甲状腺機能亢進症(腺腫が最多)。外来で偶然見つかる高Ca血症の代表。PTHは高値〜不適切に正常。 2. 悪性腫瘍(入院患者の高Ca血症で多い。PTHは抑制されて低値) ・液性機序:PTHrP産生腫瘍(肺・頭頸部・食道などの扁平上皮癌、腎癌、ATLなど)。 ・局所性骨溶解:乳癌の骨転移、多発性骨髄腫など。 3. 活性型ビタミンDの過剰 ・サルコイドーシス、結核などの肉芽腫性疾患、一部の悪性リンパ腫、ビタミンD中毒。 4. その他 ・サイアザイド系利尿薬(腎でのCa再吸収増加)、ミルク・アルカリ症候群、長期臥床(不動による骨吸収亢進)、甲状腺機能亢進症、副腎不全、家族性低Ca尿性高Ca血症など。
低Ca血症の主な原因
副甲状腺機能低下症(術後性・特発性など)、偽性副甲状腺機能低下症(PTHは高値だが標的臓器が反応しない)、ビタミンD欠乏、慢性腎臓病、低マグネシウム血症、急性膵炎など。
高Ca血症の症状
口渇・多尿(腎の尿濃縮力低下)、脱水、食欲不振・悪心・便秘、筋力低下、意識障害、QT短縮など。重症例では生理食塩液による補液、カルシトニン、ビスホスホネート製剤などで治療する。
POINT
・副甲状腺機能低下症は低Ca血症・高リン血症をきたす。 ・高Ca血症の二大原因は原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍。 ・悪性腫瘍の機序:PTHrP産生(扁平上皮癌、ATLなど)と骨局所での骨吸収亢進(骨転移、多発性骨髄腫)。 ・サルコイドーシスは肉芽腫での活性型ビタミンD産生により高Ca血症をきたす。 ・ビタミンD過剰は腸管Ca吸収亢進により高Ca血症をきたす。
