StudyMed医師国家試験

父と子の細い下腿―治らない病気にこそ「装具とストレッチ」が効く、Charcot-Marie-Tooth病の対応

第106回医師国家試験 A問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第54問

20歳の男性。3年前からつまずきやすくなったことを主訴に来院した。両足関節の背屈が困難で,足尖が下垂している。凹足と下腿筋萎縮とを認める。同伴した父親にも軽度の下腿筋萎縮を認める。  対応として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.短下肢装具の処方
  2. b.神経ブロックの施行
  3. c.経皮的電気刺激の施行
  4. d.下肢の関節可動域訓練
  5. e.副腎皮質ステロイドの投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い男性のつまずきやすさから遺伝性の末梢神経疾患を見抜き、そのうえで「何をしてあげられるか」を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、発症年齢と進み方、足の形、そして家族歴の3点。まずは診断から考えてみよう。
医学生医学生
足首が上がらない下垂足で下腿が細いので、腓骨神経麻痺も思い浮かびました。でも両側というのが引っかかります。
ドクタードクター
いい違和感だね。腓骨神経麻痺は膝の外側の圧迫などで片側に起こることが多い。両側対称に下肢の遠位、つまり足先に近いほど筋萎縮と筋力低下が強いのは、長い神経線維ほど障害されやすい多発ニューロパチーのパターンなんだ。
医学生医学生
凹足があるのも意味がありますか。整形外科の講義で、凹足は神経疾患を疑うサインだと聞いた覚えがあります。
ドクタードクター
その通り。凹足は足の内在筋や下腿筋のバランスが、成長期から長い年月かけて崩れてきた結果できる変形だ。つまり病気が最近始まったのではなく、もともと持っていたものがゆっくり進んできたことを示唆する。そこに父親にも下腿筋萎縮があるという家族歴が加わる。
医学生医学生
親から子へ伝わっているので常染色体顕性遺伝でしょうか。若年発症、緩徐進行、凹足、家族歴で、Charcot-Marie-Tooth病ですね。
ドクタードクター
正解。遺伝性運動感覚ニューロパチーとも呼ばれ、遺伝性ニューロパチーの中で最も多い。下腿が細く大腿下部で急に太くなる逆シャンパンボトル様の外観や、腱反射の低下・消失、遠位優位の感覚障害もよくみられる。では本題、この患者さんへの対応はどうする?
医学生医学生
遺伝性だと、病気そのものを治す薬はないんですよね。
ドクタードクター
そう、現時点で進行を止める根本的治療は確立していない。だから対応の中心はリハビリテーションと装具療法になる。目標は残っている機能を保ち、歩行を安全にし、関節の拘縮や変形の進行を防ぐことだ。その観点で、まず短下肢装具はどうだろう。
医学生医学生
足首を固定して足先が垂れないようにすれば、つまずきにくくなりそうです。
ドクタードクター
その理解でいい。短下肢装具は下腿から足部までを覆い、足関節を背屈位から中間位に保つ。下垂足では歩くときに足先が床に引っかかったり、足を高く持ち上げる鶏歩になったりするけれど、装具で引っかかりを防ぎ、着地時の足関節も安定させられる。転倒予防の基本だね。次に下肢の関節可動域訓練は?
医学生医学生
筋力が落ちる病気なのに、関節を動かす訓練が必要なのは少し意外です。
ドクタードクター
ここが大事なポイントなんだ。この病気では足首を上げる前脛骨筋などが先に弱くなり、相対的に強いふくらはぎの下腿三頭筋に引っ張られて、アキレス腱が短縮し尖足拘縮が進みやすい。尖足になると立つのも歩くのも不安定になり、装具も合わなくなる。だから足関節の背屈ストレッチなどで拘縮を予防しておくことが歩行機能の維持につながる。過度な負荷を避けた筋力維持訓練もあわせて行う。
医学生医学生
装具とストレッチは車の両輪なんですね。では神経ブロックはどうでしょう。リハビリテーション科の実習で、脳卒中後の患者さんに使っているのを見ました。
ドクタードクター
よく見ているね。神経ブロックは痛みの緩和や、痙縮、つまり筋緊張が異常に高まった状態を和らげるのに使う。脳卒中の痙縮は上位運動ニューロンの障害だけど、この病気は末梢神経そのものが傷んで筋力が落ちる病態で、痙縮も強い痛みも主な問題ではない。神経をさらに遮断すれば筋力低下を悪化させかねないから適応はない。
医学生医学生
経皮的電気刺激も、筋肉を刺激して鍛えるものだと思っていました。
ドクタードクター
誤解しやすいところだね。ここでいう経皮的電気神経刺激、いわゆるTENSは、皮膚から低周波電流を流して太い触覚線維を刺激し、脊髄後角で痛みの伝達を抑えるゲートコントロール説に基づく鎮痛法なんだ。この患者さんは痛みを訴えていないし、筋萎縮や下垂足を改善する治療でもない。
医学生医学生
副腎皮質ステロイドはCIDPで使うと神経内科の講義で習いました。同じ末梢神経の病気でも効かないんですか。
ドクタードクター
CIDPは自己免疫が原因の後天性の脱髄性ニューロパチーだから、ステロイドや免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換が効く。一方Charcot-Marie-Tooth病は遺伝子異常による神経の構造や機能の障害で、炎症が主体ではない。ステロイドは無効で、骨粗鬆症やステロイドミオパチーといった副作用だけが残ってしまう。
医学生医学生
原因が遺伝か免疫かで、治療の考え方がまったく変わるということですね。
ドクタードクター
そのとおり。発展知識もまとめておこう。最も多いのは脱髄型のCMT1で、なかでもPMP22遺伝子を含む領域の重複によるCMT1Aが最多だ。神経伝導速度が著明に低下し、神経生検では脱髄と再髄鞘化を繰り返したonion bulb形成がみられる。軸索型のCMT2では伝導速度は比較的保たれ、複合筋活動電位の振幅が低下する。
医学生医学生
CBTでonion bulbは出てきました。CIDPでも見られることがあるので混同しそうです。
ドクタードクター
組織だけでなく、家族歴や経過、伝導速度の低下が均一か不均一かといった所見を総合して見分けるのが大切だね。臨床での注意点としては、足部変形が進んだ場合に腱移行術や骨切り術などの整形外科手術を検討すること、そしてビンクリスチンのような神経毒性のある薬が症状を悪化させうることを覚えておこう。抗がん剤を使う場面で既往を確認する意味があるんだ。

まとめ

若年発症で緩徐に進行する両側の下垂足、凹足、下腿筋萎縮に家族歴が加われば、遺伝性運動感覚ニューロパチーであるCharcot-Marie-Tooth病を考えます。根本的治療は確立していないため、対応の中心は短下肢装具による歩行の安定化・転倒予防と、関節可動域訓練による尖足拘縮の予防などのリハビリテーションです。神経ブロックや経皮的電気神経刺激は疼痛や痙縮に対する治療であり、副腎皮質ステロイドはCIDPのような免疫介在性ニューロパチーには有効でも本症には無効です。最多病型はPMP22重複によるCMT1Aで、伝導速度の著明な低下とonion bulb形成が特徴であり、ビンクリスチンなど神経毒性薬への注意も必要です。治せない病気であっても機能を守る具体的な手段を選べることは、リハビリテーション医療を理解するうえで重要な視点です。

解答・解説

正解はa, dです

所見の整理

・20歳の男性で、17歳頃からつまずきやすさが出現し、3年かけてゆっくり進行している(若年発症・緩徐進行)。 ・両側の足関節背屈が困難で、足尖が下垂している(下垂足)。つまずきやすさは、遊脚期に足先が上がらず床に引っかかることによる。 ・凹足(足の縦アーチが異常に高い変形)と下腿筋萎縮を認める。凹足は幼少期から長期間にわたり足の内在筋・下腿筋の筋力バランスが崩れていたことを示唆し、先天性・遺伝性の末梢神経疾患を疑わせる所見である。 ・父親にも軽度の下腿筋萎縮がある。親から子への垂直伝播であり、常染色体顕性(優性)遺伝が考えやすい。

診断へのプロセス

両側対称性に下肢遠位(下腿以下)の筋萎縮と筋力低下が目立つことから、筋疾患よりも神経原性、特に長い神経線維ほど障害されやすい多発ニューロパチーが考えられる。若年発症で緩徐に進行し、凹足を伴い、家族内発症がある点から、遺伝性運動感覚ニューロパチーであるCharcot-Marie-Tooth病(CMT)が最も考えやすい。CMTでは下腿の筋萎縮が大腿下部で途切れる「逆シャンパンボトル様(コウノトリ脚様)」の外観や、腱反射低下・消失、遠位優位の感覚障害を伴うことが多い。

設問の考え方

CMTには現時点で病気の進行そのものを止める根本的治療(疾患修飾療法)は確立していない。したがって対応の中心はリハビリテーションと装具療法であり、残存機能を保ちつつ、歩行の安全性を高め、関節拘縮や変形の進行を防ぐことが目標となる。痛みに対する治療や免疫治療は本例の病態に合わない。

選択肢考察

  1. ○a.  短下肢装具の処方

    短下肢装具(ankle-foot orthosis:AFO)は下腿から足部までを覆う装具で、足関節を背屈位〜中間位に保持する。下垂足では遊脚期に足先が床に引っかかってつまずいたり、足を高く持ち上げる鶏歩(steppage gait)になったりし、着地時の足関節も不安定になる。AFOにより足先の引っかかりを防ぎ、立脚期の足関節を安定させることで、転倒予防と歩行の安定化が得られる。CMTの下垂足に対する基本的な対応である。

  2. ×b.  神経ブロックの施行

    神経ブロックは局所麻酔薬などで神経の伝導を一時的・持続的に遮断する手技で、主に疼痛の緩和、痙縮(筋緊張の異常な亢進)の軽減、交感神経ブロックによる血流改善などに用いられる。CMTは運動神経・感覚神経そのものが障害されて筋力が低下する疾患であり、痙縮も強い痛みも主要な問題ではない。神経をさらに遮断すれば筋力低下を悪化させることになり、適応はない。

  3. ×c.  経皮的電気刺激の施行

    経皮的電気神経刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)は、皮膚に貼った表面電極から低周波電流を流す鎮痛法である。太い有髄の触覚線維(Aβ線維)を刺激することで、脊髄後角で痛みの信号の伝達が抑えられるというゲートコントロール説に基づいている。CMTで強い痛みが主症状となることは少なく、本例も痛みの訴えはない。筋萎縮や下垂足を改善する治療ではないため、適切な対応とはいえない。

  4. ○d.  下肢の関節可動域訓練

    CMTでは前脛骨筋など足関節背屈筋が先に弱くなり、相対的に強い下腿三頭筋によってアキレス腱の短縮と尖足拘縮が進みやすい。尖足になると立位や歩行が不安定になり、装具も装着しにくくなる。関節可動域訓練(足関節の背屈ストレッチなど)で拘縮を予防・改善しておくことは、歩行機能の維持に有効である。あわせて、過度の負荷を避けた筋力維持訓練を行う。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイドの投与

    副腎皮質ステロイドは、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)のような免疫介在性ニューロパチーでは有効な治療の一つである。しかしCMTは遺伝子異常による末梢神経の構造・機能の障害であり、炎症や自己免疫が主体ではないため、ステロイドは無効である。長期投与による副作用(骨粗鬆症、ステロイドミオパチーなど)の不利益のみが残る。

Charcot-Marie-Tooth病(CMT)の概要

・遺伝性運動感覚ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathy:HMSN)とも呼ばれ、遺伝性ニューロパチーの中で最も頻度が高い。 ・遺伝形式は常染色体顕性(優性)が多いが、常染色体潜性(劣性)やX連鎖性のものもある。 ・症状:小児期〜青年期に発症し、緩徐に進行する。下肢遠位からの筋力低下・筋萎縮(下垂足、鶏歩、逆シャンパンボトル様の下腿)、凹足やハンマー趾などの足部変形、遠位優位の感覚障害、腱反射低下・消失。進行すると手内筋の萎縮も加わる。

主な病型

・脱髄型(CMT1):最も多い病型で、神経伝導速度が著明に低下する(正中神経の運動神経伝導速度がおよそ38 m/s未満)。神経生検では、脱髄と再髄鞘化を繰り返した結果としてのonion bulb(タマネギ様)形成を認める。CMT1AはPMP22遺伝子を含む領域の重複によるもので、CMT全体の中で最多である。CMT1Bはmyelin protein zero(MPZ)遺伝子の異常による。 ・軸索型(CMT2):伝導速度は比較的保たれ、複合筋活動電位の振幅が低下する。CMT2AのMFN2遺伝子異常などが知られる。 ・その他:X連鎖型(CMTX1、GJB1遺伝子)、乳幼児期発症の重症型(Dejerine-Sottas病、かつてCMT3とも呼ばれた)、常染色体潜性の脱髄型(CMT4)などがある。

治療・対応

根本的治療は確立しておらず、リハビリテーション(関節可動域訓練、筋力維持訓練)、装具療法(短下肢装具)、足部変形に対する整形外科手術(腱移行術、骨切り術など)が中心である。ビンクリスチンなど神経毒性のある薬剤は症状を悪化させうるため、使用には注意する。

鑑別

CIDPは後天性の免疫介在性脱髄性ニューロパチーで、近位筋も障害されうること、髄液蛋白細胞解離、伝導ブロックや伝導速度の不均一な低下を示すことなどが特徴であり、ステロイド・免疫グロブリン大量静注療法・血漿交換が有効である。

POINT

・若年発症の緩徐進行性の下垂足+凹足+下腿筋萎縮+家族歴 → Charcot-Marie-Tooth病。 ・根本的治療はなく、短下肢装具と関節可動域訓練(尖足拘縮の予防)などのリハビリテーションが対応の中心。 ・ステロイドはCIDPには有効だがCMTには無効。 ・神経ブロックやTENSは疼痛・痙縮に対する治療で、CMTの筋力低下には適応がない。 ・最多はCMT1A(PMP22重複、脱髄型、onion bulb形成)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。