お酒をやめた後に脳が暴れ出す―アルコール離脱の「時計」と「向き」
第106回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
長期にわたる大量飲酒の結果としてアルコール依存症となった患者が,飲酒中止後の数時間から数日以内に発症する可能性が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.意識障害
- b.過眠
- c.けいれん
- d.作話
- e.徐脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
アルコールはGABA-A受容体の増強とNMDA受容体の抑制によって中枢を抑えるため、長期大量飲酒の後に急に中止すると、抑制が外れて中枢神経と交感神経が過剰に興奮するアルコール離脱症候群が生じます。早期には振戦、発汗、不眠、頻脈などに加え、中止後6〜48時間頃に全般性の離脱けいれんが起こることがあり、48〜96時間頃には意識障害や小動物幻視、自律神経症状を伴う振戦せん妄が出現します。過眠や徐脈は興奮とは逆向きであり、作話はビタミンB1欠乏によるKorsakoff症候群の症状で、離脱症状ではありません。治療はベンゾジアゼピン系薬による置換が中心で、ブドウ糖輸液の前にビタミンB1を投与してWernicke脳症を防ぐことが重要です。症状の「向き」と「時間経過」で整理しておくと、救急や病棟でのアルコール関連患者の管理に直結します。
解答・解説
正解はa, cです
アルコールは中枢神経系の抑制薬であり、主にGABA-A受容体(抑制性)の機能を増強し、NMDA型グルタミン酸受容体(興奮性)を抑える。長期に大量飲酒を続けると、脳はこの抑制状態に適応し、GABA-A受容体の機能低下とNMDA受容体の増加・機能亢進が起こる(身体依存の形成)。この状態で急に飲酒を中止・減量すると、抑制が外れて中枢神経と交感神経が過剰に興奮し、アルコール離脱症候群が生じる。
離脱症状の時間経過
・早期離脱症状(飲酒中止後数時間〜48時間程度):手指振戦、発汗、不安・焦燥、不眠、悪心、頻脈・血圧上昇などの自律神経症状。一過性の幻覚(アルコール性幻覚症)を伴うこともある。中止後6〜48時間頃には全般性強直間代けいれん(離脱けいれん)が起こりうる。 ・後期離脱症状(中止後48〜96時間頃、72〜96時間頃がピーク):振戦せん妄(アルコール離脱せん妄)。意識の変容(せん妄)、失見当識、小動物幻視などの幻覚、著しい精神運動興奮、高度の自律神経症状(発熱、頻脈、発汗)を呈し、適切に治療しないと死亡しうる重篤な病態である。 本問は「飲酒中止後の数時間から数日以内」に起こる症状を問うており、上記の離脱症状に当てはまるものを選べばよい。離脱症状は中枢神経・交感神経の「過剰興奮」の方向に働くことを押さえると、不眠(過眠ではない)、頻脈(徐脈ではない)と判断できる。作話は離脱症状ではなく、ビタミンB1欠乏による別の病態の症状である。
選択肢考察
- ○a. 意識障害
飲酒中止後およそ2〜4日(48〜96時間)頃に、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)が出現することがある。せん妄は注意の障害を中心とした意識の変容であり、意識障害の一型である。症状は日内で変動し、失見当識、記憶障害、壁や床を虫などの小動物がはいまわるように見える幻視、激しい興奮、粗大な振戦、発熱・頻脈・発汗などの自律神経症状を伴う。飲酒中止後数日以内に起こる代表的な症状である。
- ×b. 過眠
離脱時は中枢神経が過剰に興奮した状態となるため、過眠ではなく不眠が生じる。不眠は不安・焦燥感や手指振戦とともに、飲酒中止後早期からみられる代表的な離脱症状である。
- ○c. けいれん
飲酒中止後6〜48時間頃(24時間前後に多い)に、全般性の強直間代けいれん(大発作)が出現することがある(アルコール離脱けいれん)。GABA系の抑制が弱まり、グルタミン酸系の興奮が優位になることによる。多くは単発または短時間に数回で終わるが、けいれんを起こした患者はその後に振戦せん妄へ進展しやすいため注意が必要である。予防・治療にはベンゾジアゼピン系薬が用いられる。
- ×d. 作話
作話は、実際にはなかった出来事を本人は偽るつもりなく語る症状で、Korsakoff症候群(コルサコフ症候群)の特徴である。Korsakoff症候群はビタミンB1(チアミン)欠乏によるWernicke脳症の後遺症として生じることが多く、記銘力障害、失見当識、作話を三主徴とし、健忘を取り繕うように作話がみられる。アルコール依存症患者に起こるが、飲酒中止による離脱症状として数時間〜数日で出現するものではない。振戦せん妄の経過後に明らかになることはあるが、本問の時間経過には当てはまらない。
- ×e. 徐脈
離脱症候群では交感神経機能が亢進し、頻脈、血圧上昇、発汗、発熱、散瞳などがみられる。徐脈は離脱症状とは逆方向の所見である。
アルコール離脱症候群の治療
・ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、ロラゼパムなど)が第一選択である。アルコールと同じくGABA-A受容体を介して作用するため、離脱症状を和らげ、けいれんやせん妄を予防する(交差耐性を利用した置換療法)。 ・Wernicke脳症の予防のため、ブドウ糖を含む輸液の前にビタミンB1を投与する。ビタミンB1欠乏状態でブドウ糖だけを投与すると、糖代謝でチアミンがさらに消費されWernicke脳症を誘発・悪化させるおそれがある。 ・脱水・電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)の補正、全身管理を行う。
Wernicke脳症とKorsakoff症候群
・Wernicke脳症:ビタミンB1欠乏による急性の脳症。意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺、眼振)、失調性歩行が三徴。乳頭体、視床内側、中脳水道周囲などに病変を生じる。 ・Korsakoff症候群:Wernicke脳症の慢性期に残る健忘症候群。前向性健忘(記銘力障害)、逆向性健忘、失見当識、作話。ビタミンB1を補充しても回復は限定的なことが多い。
アルコール性幻覚症
意識が清明なまま主に幻聴(悪口や脅しの声など)が出現する病態で、せん妄とは異なり意識障害を伴わない点が鑑別の要点となる。
POINT
・離脱症状は中枢神経と交感神経の過剰興奮:不眠、振戦、発汗、頻脈、血圧上昇。 ・早期(数時間〜48時間):振戦、不安・焦燥、不眠、離脱けいれん(6〜48時間)。 ・後期(72〜96時間頃がピーク):振戦せん妄(意識障害、小動物幻視、精神運動興奮、自律神経症状)。 ・作話はKorsakoff症候群(ビタミンB1欠乏)の症状で、離脱症状ではない。 ・治療はベンゾジアゼピン系薬とビタミンB1補充。
