StudyMed医師国家試験

お酒をやめた後に脳が暴れ出す―アルコール離脱の「時計」と「向き」

第106回医師国家試験 A問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第19問

長期にわたる大量飲酒の結果としてアルコール依存症となった患者が,飲酒中止後の数時間から数日以内に発症する可能性が高いのはどれか。2つ選べ。

  1. a.意識障害
  2. b.過眠
  3. c.けいれん
  4. d.作話
  5. e.徐脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、アルコール依存症の人が飲酒をやめた後、数時間から数日で何が起こるかを問う問題だ。ポイントは2つ。離脱症状が「興奮」の方向に働くことと、症状が出る時間経過だ。まず、アルコールが脳にどう作用するか覚えているかな。
医学生医学生
薬理の講義で、GABA-A受容体の働きを強めて中枢を抑制すると習いました。
ドクタードクター
その通り。加えてNMDA型グルタミン酸受容体、つまり興奮性の受容体も抑える。長く大量に飲み続けると、脳はこの抑えられた状態に慣れてしまって、GABA-A受容体の機能が落ち、NMDA受容体が増えて働きが強まる。これが身体依存だ。
医学生医学生
その状態で急にお酒が抜けると、ブレーキが弱いのにアクセルだけ強い状態になる、ということですか。
ドクタードクター
うまいたとえだね。抑制が外れて、中枢神経と交感神経が一気に過剰興奮する。これがアルコール離脱症候群だ。だから選択肢は「興奮の方向かどうか」でかなり絞れる。過眠と徐脈はどうだろう。
医学生医学生
興奮しているなら、眠れなくなって脈は速くなるはずなので、どちらも逆ですね。
ドクタードクター
正解。離脱では過眠ではなく不眠が、徐脈ではなく頻脈が出る。ほかに手指振戦、発汗、不安・焦燥、悪心、血圧上昇なども早期からみられる。次に時間経過で考えよう。飲酒中止後6〜48時間頃、24時間前後に多いのが離脱けいれんだ。
医学生医学生
どんなけいれんなんですか。
ドクタードクター
全般性の強直間代けいれん、いわゆる大発作だ。GABA系の抑制が弱まり、グルタミン酸系の興奮が優位になって起こる。多くは単発か短時間に数回で終わるけれど、けいれんを起こした人はその後に振戦せん妄へ進みやすいので要注意だ。
医学生医学生
振戦せん妄は、精神科実習で入院中の患者さんが「壁に虫がいる」と話していたのを思い出します。
ドクタードクター
典型的な小動物幻視だね。振戦せん妄は飲酒中止後およそ48〜96時間、2〜4日頃に出てくる。注意の障害を中心とした意識の変容で、失見当識、幻視、激しい興奮、粗大な振戦、発熱・頻脈・発汗を伴い、日内で変動する。治療しないと命に関わることもある重い病態だ。
医学生医学生
せん妄も意識障害の一つなので、意識障害も正解に入るんですね。
ドクタードクター
そう。今回の正解は意識障害とけいれんの2つだ。ただ、もう一つ紛らわしいのが作話だね。これはどう考える?
医学生医学生
アルコールと作話といえばKorsakoff症候群ですよね。でも、アルコールが抜けたせいで出るものではない気がします。
ドクタードクター
鋭い。Korsakoff症候群はビタミンB1欠乏によるWernicke脳症の後遺症として生じることが多く、記銘力障害、失見当識、作話が三主徴だ。覚えていない部分を本人に偽る意図なく取り繕うように作話が出る。アルコール依存症の人に起こるけれど、原因は栄養障害で、離脱で数時間〜数日のうちに出る症状ではない。振戦せん妄が落ち着いた後に明らかになることはあるけどね。
医学生医学生
離脱は「興奮」、作話は「ビタミンB1欠乏」と、メカニズムで分けると混乱しませんね。治療はどうするんでしょうか。
ドクタードクター
第一選択はベンゾジアゼピン系薬だ。アルコールと同じくGABA-A受容体を介して働くので、交差耐性を利用して置き換え、けいれんやせん妄を予防する。そして臨床で絶対に忘れてほしくないのが、ブドウ糖を含む輸液の前にビタミンB1を入れること。
医学生医学生
B1が足りない状態で糖だけ入れると、糖代謝でB1がさらに使われてWernicke脳症を起こしてしまう、という話ですね。救急科で研修医の先生に念押しされました。
ドクタードクター
その通り。Wernicke脳症は意識障害、眼球運動障害、失調性歩行が三徴だ。脱水や低カリウム血症、低マグネシウム血症の補正も忘れずに。最後に鑑別として、アルコール性幻覚症も知っておこう。意識は清明なまま、悪口などの幻聴が主体で、意識障害を伴うせん妄とはそこが違う。

まとめ

アルコールはGABA-A受容体の増強とNMDA受容体の抑制によって中枢を抑えるため、長期大量飲酒の後に急に中止すると、抑制が外れて中枢神経と交感神経が過剰に興奮するアルコール離脱症候群が生じます。早期には振戦、発汗、不眠、頻脈などに加え、中止後6〜48時間頃に全般性の離脱けいれんが起こることがあり、48〜96時間頃には意識障害や小動物幻視、自律神経症状を伴う振戦せん妄が出現します。過眠や徐脈は興奮とは逆向きであり、作話はビタミンB1欠乏によるKorsakoff症候群の症状で、離脱症状ではありません。治療はベンゾジアゼピン系薬による置換が中心で、ブドウ糖輸液の前にビタミンB1を投与してWernicke脳症を防ぐことが重要です。症状の「向き」と「時間経過」で整理しておくと、救急や病棟でのアルコール関連患者の管理に直結します。

解答・解説

正解はa, cです

アルコールは中枢神経系の抑制薬であり、主にGABA-A受容体(抑制性)の機能を増強し、NMDA型グルタミン酸受容体(興奮性)を抑える。長期に大量飲酒を続けると、脳はこの抑制状態に適応し、GABA-A受容体の機能低下とNMDA受容体の増加・機能亢進が起こる(身体依存の形成)。この状態で急に飲酒を中止・減量すると、抑制が外れて中枢神経と交感神経が過剰に興奮し、アルコール離脱症候群が生じる。

離脱症状の時間経過

・早期離脱症状(飲酒中止後数時間〜48時間程度):手指振戦、発汗、不安・焦燥、不眠、悪心、頻脈・血圧上昇などの自律神経症状。一過性の幻覚(アルコール性幻覚症)を伴うこともある。中止後6〜48時間頃には全般性強直間代けいれん(離脱けいれん)が起こりうる。 ・後期離脱症状(中止後48〜96時間頃、72〜96時間頃がピーク):振戦せん妄(アルコール離脱せん妄)。意識の変容(せん妄)、失見当識、小動物幻視などの幻覚、著しい精神運動興奮、高度の自律神経症状(発熱、頻脈、発汗)を呈し、適切に治療しないと死亡しうる重篤な病態である。 本問は「飲酒中止後の数時間から数日以内」に起こる症状を問うており、上記の離脱症状に当てはまるものを選べばよい。離脱症状は中枢神経・交感神経の「過剰興奮」の方向に働くことを押さえると、不眠(過眠ではない)、頻脈(徐脈ではない)と判断できる。作話は離脱症状ではなく、ビタミンB1欠乏による別の病態の症状である。

選択肢考察

  1. ○a.  意識障害

    飲酒中止後およそ2〜4日(48〜96時間)頃に、アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)が出現することがある。せん妄は注意の障害を中心とした意識の変容であり、意識障害の一型である。症状は日内で変動し、失見当識、記憶障害、壁や床を虫などの小動物がはいまわるように見える幻視、激しい興奮、粗大な振戦、発熱・頻脈・発汗などの自律神経症状を伴う。飲酒中止後数日以内に起こる代表的な症状である。

  2. ×b.  過眠

    離脱時は中枢神経が過剰に興奮した状態となるため、過眠ではなく不眠が生じる。不眠は不安・焦燥感や手指振戦とともに、飲酒中止後早期からみられる代表的な離脱症状である。

  3. ○c.  けいれん

    飲酒中止後6〜48時間頃(24時間前後に多い)に、全般性の強直間代けいれん(大発作)が出現することがある(アルコール離脱けいれん)。GABA系の抑制が弱まり、グルタミン酸系の興奮が優位になることによる。多くは単発または短時間に数回で終わるが、けいれんを起こした患者はその後に振戦せん妄へ進展しやすいため注意が必要である。予防・治療にはベンゾジアゼピン系薬が用いられる。

  4. ×d.  作話

    作話は、実際にはなかった出来事を本人は偽るつもりなく語る症状で、Korsakoff症候群(コルサコフ症候群)の特徴である。Korsakoff症候群はビタミンB1(チアミン)欠乏によるWernicke脳症の後遺症として生じることが多く、記銘力障害、失見当識、作話を三主徴とし、健忘を取り繕うように作話がみられる。アルコール依存症患者に起こるが、飲酒中止による離脱症状として数時間〜数日で出現するものではない。振戦せん妄の経過後に明らかになることはあるが、本問の時間経過には当てはまらない。

  5. ×e.  徐脈

    離脱症候群では交感神経機能が亢進し、頻脈、血圧上昇、発汗、発熱、散瞳などがみられる。徐脈は離脱症状とは逆方向の所見である。

アルコール離脱症候群の治療

・ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、ロラゼパムなど)が第一選択である。アルコールと同じくGABA-A受容体を介して作用するため、離脱症状を和らげ、けいれんやせん妄を予防する(交差耐性を利用した置換療法)。 ・Wernicke脳症の予防のため、ブドウ糖を含む輸液の前にビタミンB1を投与する。ビタミンB1欠乏状態でブドウ糖だけを投与すると、糖代謝でチアミンがさらに消費されWernicke脳症を誘発・悪化させるおそれがある。 ・脱水・電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)の補正、全身管理を行う。

Wernicke脳症とKorsakoff症候群

・Wernicke脳症:ビタミンB1欠乏による急性の脳症。意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺、眼振)、失調性歩行が三徴。乳頭体、視床内側、中脳水道周囲などに病変を生じる。 ・Korsakoff症候群:Wernicke脳症の慢性期に残る健忘症候群。前向性健忘(記銘力障害)、逆向性健忘、失見当識、作話。ビタミンB1を補充しても回復は限定的なことが多い。

アルコール性幻覚症

意識が清明なまま主に幻聴(悪口や脅しの声など)が出現する病態で、せん妄とは異なり意識障害を伴わない点が鑑別の要点となる。

POINT

・離脱症状は中枢神経と交感神経の過剰興奮:不眠、振戦、発汗、頻脈、血圧上昇。 ・早期(数時間〜48時間):振戦、不安・焦燥、不眠、離脱けいれん(6〜48時間)。 ・後期(72〜96時間頃がピーク):振戦せん妄(意識障害、小動物幻視、精神運動興奮、自律神経症状)。 ・作話はKorsakoff症候群(ビタミンB1欠乏)の症状で、離脱症状ではない。 ・治療はベンゾジアゼピン系薬とビタミンB1補充。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。