胸やけを悪くするもの、軽くするもの―下部食道括約筋と腹圧で読み解くGERDの増悪因子
第106回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
胃食道逆流症〈GERD〉の増悪因子でないのはどれか。
- a.臥位
- b.硝酸薬
- c.高脂肪食
- d.体重の減量
- e.カルシウム拮抗薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
GERDは胃内容物が食道へ逆流して胸やけや食道炎を生じる疾患で、LES圧の低下や一過性LES弛緩、腹圧の上昇、食道裂孔ヘルニア、臥位による重力の消失や食道クリアランスの低下が主な発症機序です。臥位、平滑筋を弛緩させてLES圧を下げる硝酸薬やカルシウム拮抗薬、コレシストキニンを介したLES弛緩と胃排出遅延をもたらす高脂肪食は、いずれも増悪因子です。一方、肥満は腹圧を上げる危険因子であり、体重の減量は逆流を減らすため、生活習慣改善として推奨されます。治療は生活指導に加えてPPIまたはP-CABが第一選択で、放置するとBarrett食道や食道腺癌につながりうる点にも注意が必要です。増悪因子を逆流の仕組みから理解しておくことは、試験対策だけでなく、患者さんへの説得力ある生活指導にも直結します。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は、胃内容物(主に胃酸)が食道へ逆流することで、胸やけ・呑酸(酸っぱいものが上がってくる感覚)などの症状や食道粘膜のびらん・潰瘍(逆流性食道炎)を生じる疾患の総称である。内視鏡でびらんを認める「びらん性GERD(逆流性食道炎)」と、症状はあるがびらんを認めない「非びらん性GERD(NERD)」に分けられる。
逆流が起こる仕組み
通常、食道と胃の境界部では、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)が持続的に収縮して一定の圧(LES圧)を保ち、横隔膜脚による締め付けとともに逆流を防いでいる。逆流は次のような状況で起こる。 1. LES圧の低下、またはLESの一過性弛緩(嚥下と無関係にLESが数秒〜数十秒ゆるむ現象。GERDの逆流の主な機序)の増加 2. 腹圧・胃内圧の上昇(肥満、妊娠、前屈位、過食など)により、胃内圧がLES圧を上回る 3. 食道裂孔ヘルニアによる逆流防止機構の破綻 4. 重力の影響の消失(臥位)や、食道の蠕動低下による逆流物の排出(クリアランス)の遅れ
考え方
各選択肢が上記のいずれかの機序で逆流を増やすかどうかを判定する。臥位(重力の消失)、硝酸薬とカルシウム拮抗薬(平滑筋弛緩によるLES圧低下)、高脂肪食(LES弛緩と胃排出遅延)はいずれも増悪因子である。一方、体重の減量は腹圧を下げるため、逆流を減らす方向に働き、生活習慣改善として治療に用いられる。
選択肢考察
- ×a. 臥位
立位や座位では重力が逆流を防ぎ、逆流した内容物も重力と蠕動で速やかに胃へ戻る。臥位では食道と胃がほぼ水平となるため逆流しやすく、さらに逆流物が食道内にとどまりやすい(クリアランスの低下)ため、GERDの増悪因子である。特に食後すぐに横になると逆流が増える。生活指導としては、夕食後2〜3時間は横にならないこと、就寝時に上半身(頭側)を挙上することが勧められる。体位の向きでは右側臥位で逆流が起こりやすく、左側臥位のほうが逆流が少ないとされる。
- ×b. 硝酸薬
硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなど)は体内で一酸化窒素(NO)を放出し、血管平滑筋だけでなく消化管の平滑筋も弛緩させる。LESも平滑筋でできているため、硝酸薬によりLES圧が低下し、逆流が起こりやすくなる。したがってGERDの増悪因子である。なお、この平滑筋弛緩作用は、LESがゆるまない食道アカラシアの治療に硝酸薬が用いられる根拠でもある。
- ×c. 高脂肪食
脂肪を多く含む食事は、十二指腸からコレシストキニン(CCK)などの消化管ホルモンの分泌を促し、これがLES圧を低下させ、LESの一過性弛緩を増やす。また、脂肪は胃排出を遅らせるため、胃内に食物が長くとどまって胃が伸展された状態が続き、これも一過性LES弛緩の誘因となる。そのため高脂肪食はGERDの増悪因子である。ほかにもチョコレート、アルコール、コーヒー(カフェイン)、柑橘類・香辛料などの刺激物、甘いもの、喫煙、過食が増悪因子として知られる。
- ○d. 体重の減量
肥満、特に内臓脂肪の多い腹部肥満では腹腔内圧が上昇して胃が圧迫され、胃内圧がLES圧を上回りやすくなる。また、肥満は食道裂孔ヘルニアの形成も促す。したがって肥満がGERDの危険因子であり、体重を減らすと腹圧が下がって逆流が減少する。実際に減量は肥満を伴うGERD患者に推奨される生活習慣改善の一つであり、増悪因子ではなく、むしろ症状を軽くする方向に働く。よって本問の正解である。
- ×e. カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬(ニフェジピン、アムロジピンなど)は、平滑筋細胞へのカルシウムイオンの流入を妨げて平滑筋を弛緩させる。血管平滑筋に作用して降圧効果を示すが、同時にLESの平滑筋も弛緩させるため、LES圧が低下して逆流が起こりやすくなる。したがってGERDの増悪因子である。硝酸薬と同様に、食道アカラシアでLES圧を下げる目的で用いられることがある。
GERDの主な増悪因子の整理
・LES圧を下げる/一過性弛緩を増やすもの 薬剤:硝酸薬、カルシウム拮抗薬、抗コリン薬、β刺激薬、テオフィリン、ベンゾジアゼピン系薬、プロゲステロンなど 食品・嗜好品:高脂肪食、チョコレート、アルコール、カフェイン、喫煙、ペパーミント 過食(胃の伸展) ・腹圧・胃内圧を上げるもの:肥満、妊娠、前屈姿勢、ベルトなどによる腹部の締め付け、慢性の咳嗽、便秘によるいきみ ・解剖学的要因:食道裂孔ヘルニア ・その他:臥位(特に食後)、高齢者の円背(腰曲がり)、全身性強皮症(食道の蠕動低下とLES圧低下)、Helicobacter pylori除菌後の胃酸分泌回復
GERDの治療
1. 生活習慣の改善:減量、禁煙、節酒、脂肪・刺激物・過食を控える、食後すぐに横にならない、就寝時の上半身挙上、腹部を締め付けない、前屈姿勢を避ける 2. 薬物療法:胃酸分泌を抑える薬が中心。第一選択はプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:ボノプラザン)。補助的にH2受容体拮抗薬、消化管運動改善薬、制酸薬、アルギン酸塩など 3. 外科的・内視鏡的治療:薬物療法で効果不十分、または長期投与を避けたい例では腹腔鏡下噴門形成術(Nissen法など)や内視鏡的治療を検討する
合併症
食道狭窄、出血、Barrett食道(下部食道の扁平上皮が円柱上皮に置き換わった状態)と、それを背景とする食道腺癌。
POINT
・GERDの逆流の主な機序は、LESの一過性弛緩、LES圧低下、腹圧上昇、食道裂孔ヘルニア。 ・増悪因子:臥位(特に食後)、硝酸薬・カルシウム拮抗薬(平滑筋弛緩)、高脂肪食、アルコール、喫煙、過食、肥満、妊娠、前屈姿勢。 ・減量は増悪因子ではなく、肥満を伴うGERDの生活指導の一つ。 ・薬物療法の第一選択はPPIまたはP-CAB。
