StudyMed医師国家試験

破水後の突然のショックと止まらない出血―羊水塞栓症を常位胎盤早期剥離と見分ける

第106回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第11問

羊水塞栓症について正しいのはどれか。

  1. a.未破水例に多い。
  2. b.播種性血管内凝固を伴う。
  3. c.母体の予後は良好である。
  4. d.産婦の下腹部は板状硬となる。
  5. e.妊娠高血圧症候群に合併しやすい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は羊水塞栓症の特徴を問う問題だ。ポイントは、この疾患の「起こるタイミング」「病態」「予後」を押さえること、そしてよく似た文脈で出てくる常位胎盤早期剥離の特徴と混同しないことだよ。まず、羊水塞栓症がどんな病気かイメージできるかな。
医学生医学生
羊水が母体の血管に入って、肺の血管に詰まる病気だと習いました。
ドクタードクター
昔はそう考えられていたし、名前もそこから来ている。ただ現在は、羊水中の胎児成分、つまり胎児の皮膚の扁平上皮や胎脂、毳毛、胎便などに対して、母体が過剰な免疫・炎症反応を起こすアナフィラキシー様反応が本態と考えられているんだ。物理的な「詰まり」だけでは説明がつかないほど、全身反応が激しいからね。
医学生医学生
アナフィラキシーに近いなら、急にショックになるということですか。
ドクタードクター
そう。肺血管の攣縮で肺高血圧から右心不全、さらに左心機能も落ちて、突然の呼吸困難、チアノーゼ、血圧低下、意識障害、心停止へと進む。これが一つ目の柱の心肺虚脱。もう一つの柱が凝固異常だ。羊水には組織因子など凝固系を強く活性化する物質が含まれていて、母体血中に入ると全身で凝固が進み、凝固因子と血小板が一気に消費される。
医学生医学生
それって播種性血管内凝固ですよね。血液内科の講義で、産科疾患はDICの基礎疾患として重要だと言われました。
ドクタードクター
その通り、羊水塞栓症は播種性血管内凝固を高率に伴う。これが今回の正解だ。産科DICは線溶亢進とフィブリノゲンの著しい低下が目立ち、子宮からさらさらした止まらない出血や、点滴の刺入部・創部からの出血として現れる。わが国では心肺虚脱が前面に出る「心肺虚脱型」と、出血とDICが先行する「子宮型」に分けて考えることも多いよ。
医学生医学生
では、未破水例に多いというのはどうでしょう。破水していなくても胎盤から入ることはありそうな気がして迷いました。
ドクタードクター
そこは考えてほしいところだ。羊水が母体の血管に入るには、卵膜が破れて羊水が子宮頸管や子宮壁の損傷部の開いた静脈に接する必要がある。だから発症の大部分は破水後で、特に陣痛中から分娩直後に多い。過強陣痛や陣痛誘発・促進で子宮内圧が上がると、羊水が血管内に押し込まれやすくなるのでリスク因子とされているんだ。
医学生医学生
母体の予後が良好、というのは明らかに違いますよね。
ドクタードクター
うん、予後は不良だ。かつては母体死亡率60〜80%とも報告され、集中治療の進歩で近年はもっと低い報告もあるけれど、依然として高い。救命できても低酸素脳症などの後遺症を残すことがあり、わが国の妊産婦死亡の主要な原因の一つになっている。
医学生医学生
下腹部が板状硬になる、と妊娠高血圧症候群に合併しやすい、の2つは、どちらも常位胎盤早期剥離の話に聞こえます。
ドクタードクター
鋭いね、まさにそこが出題の狙いだと思う。板状硬は、胎盤の後ろに血腫がたまって子宮筋が持続的に収縮する常位胎盤早期剥離の所見。羊水塞栓症ではむしろ子宮が弛緩して大量出血することが多い。そして妊娠高血圧症候群と強く関連するのは常位胎盤早期剥離や子癇、HELLP症候群だ。羊水塞栓症との関連は一部の研究で指摘される程度で、特徴として挙げるものではないよ。
医学生医学生
早期剥離もDICを起こすので、DICだけでは2つを区別できないんですね。
ドクタードクター
その通り。だから区別には随伴所見を使う。羊水塞栓症は破水後の突然の呼吸困難・ショックと弛緩した子宮からの出血、早期剥離は持続的な腹痛と板状硬の子宮、胎児機能不全、妊娠高血圧症候群という背景。この組み合わせで整理しておこう。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、分娩室に危機的出血のときの対応フローが貼ってあったのを思い出しました。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
根本的な治療法はないので、全身管理が中心になる。心肺蘇生、気管挿管と人工呼吸、昇圧薬や強心薬による循環管理。DICと出血には新鮮凍結血漿やフィブリノゲン、赤血球・血小板の大量輸血を行い、止血困難なら子宮動脈塞栓術や子宮摘出術も考える。心停止時に胎児が未娩出なら、母体蘇生のために速やかに帝王切開を行う、いわゆる死戦期帝王切開も選択肢だ。
医学生医学生
診断はどうやってつけるんでしょう。
ドクタードクター
基本は臨床診断で、分娩中から分娩直後の突然の心肺虚脱やDIC、ほかに説明できる原因がないことから判断する。補助的に母体血中の亜鉛コプロポルフィリンやシアリルTn抗原、C1インアクチベーター活性の低下を調べることもある。でも結果を待っている時間はないから、疑った瞬間にチームで蘇生と輸血を始めることが何より大切なんだ。

まとめ

羊水塞栓症は、破水後、特に陣痛中から分娩直後に羊水中の胎児成分が母体血中に流入し、アナフィラキシー様反応を起こす重篤な産科救急疾患です。肺高血圧・心不全による心肺虚脱と、羊水中の組織因子による播種性血管内凝固(DIC)・大量出血が二大病態で、母体の予後は不良であり、わが国の妊産婦死亡の主要な原因の一つです。子宮の板状硬や妊娠高血圧症候群との強い関連は常位胎盤早期剥離の特徴で、両者はともにDICを合併するため、ショックの出方や子宮所見、背景因子で区別することが求められます。根本治療はなく、心肺蘇生・循環管理と大量輸血による迅速な集学的対応が救命の鍵であり、病態を理解しておくことが分娩現場での初動を支えます。

解答・解説

正解はbです

羊水塞栓症とは

羊水塞栓症(amniotic fluid embolism:AFE)は、分娩時や分娩直後に羊水とその中の胎児成分(胎児の皮膚から剥がれた扁平上皮、胎脂、毳毛、胎便など)が母体血中に流入することで起こる、まれだが極めて重篤な産科救急疾患である。発症頻度は数万分娩に1例程度とされるが、わが国の妊産婦死亡の主要な原因の一つである。

病態

当初は羊水中の成分が肺血管を物理的に詰まらせる「塞栓」と考えられていたが、現在では、流入した胎児成分に対して母体が過剰な免疫・炎症反応を起こすアナフィラキシー様(アナフィラクトイド)反応が本態と考えられている。この反応により、 ・肺血管の攣縮による肺高血圧、右心不全、左心機能低下 → 心肺虚脱(呼吸困難、低酸素血症、ショック、心停止) ・羊水中の組織因子などによる凝固系の活性化 → 播種性血管内凝固(DIC)と、それに続く大量出血 が急激に生じる。

臨床像

破水後、とくに陣痛中から分娩直後に、突然の呼吸困難、チアノーゼ、胸痛、血圧低下、意識障害、けいれんなどが出現する。わが国では、心肺虚脱が前面に出る「心肺虚脱型」と、子宮からの止まらない出血とDICが先行する「子宮型(DIC先行型)」に分けて考えることが多い。

本問の考え方

羊水塞栓症の特徴(破水後に発症、DICを伴う、予後不良)と、しばしば対比される常位胎盤早期剥離の特徴(板状硬の子宮、妊娠高血圧症候群との関連)を区別できるかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  未破水例に多い。

    羊水が母体血中に入るには、卵膜が破れて羊水が子宮頸管や子宮壁の損傷部などの開いた静脈に接することが必要である。そのため発症の大部分は破水後であり、特に陣痛中から分娩直後に多い。過強陣痛や陣痛誘発・促進により子宮内圧が高まった状態は、羊水が血管内に押し込まれやすいリスク要因とされる。未破水例に多いという記述は誤りである。

  2. ○b.  播種性血管内凝固を伴う。

    羊水中には組織因子など凝固系を強く活性化する物質が含まれており、母体血中に流入すると全身で凝固が進行し、凝固因子と血小板が急速に消費される。その結果、消費性凝固障害と線溶亢進を特徴とする播種性血管内凝固(DIC)を高率に合併する。産科DICは線溶亢進とフィブリノゲンの著しい低下が目立つのが特徴で、子宮からのさらさらとした止まらない出血や、穿刺部位・創部からの出血として現れる。子宮型では心肺症状より先に、このDICによる大量出血が主症状となる。

  3. ×c.  母体の予後は良好である。

    羊水塞栓症は発症が突然で進行が極めて速く、母体の予後は不良である。かつては母体死亡率が60〜80%とも報告されてきた。集中治療の進歩により近年の報告ではこれより低い値も示されているが、依然として死亡率は高く、救命できても低酸素脳症などの重い後遺症を残すことがある。わが国の妊産婦死亡の原因として、産科危機的出血と並んで上位を占める。

  4. ×d.  産婦の下腹部は板状硬となる。

    下腹部(子宮)が板のように硬くなる「板状硬」は、常位胎盤早期剥離の特徴的所見である。早期剥離では胎盤の後ろに出血(胎盤後血腫)がたまって子宮筋が持続的に収縮し、子宮が硬く触れ、強い持続的腹痛を伴う。羊水塞栓症では呼吸困難、チアノーゼ、ショックなどの心肺症状や、弛緩した子宮からの大量出血が中心であり、板状硬は特徴ではない。なお、常位胎盤早期剥離もDICを合併しやすい点は共通するので、両者を所見で区別できるようにしておく。

  5. ×e.  妊娠高血圧症候群に合併しやすい。

    妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)と強く関連する産科合併症は、常位胎盤早期剥離、子癇、HELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)などである。羊水塞栓症のリスク因子として挙げられるのは、高年妊娠、陣痛誘発・促進、過強陣痛、帝王切開や器械分娩(鉗子・吸引)、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、多胎などであり、HDPとの関連は一部の疫学研究で指摘される程度で、羊水塞栓症の特徴として挙げられるものではない。本選択肢は常位胎盤早期剥離の特徴と取り違えさせる意図のものと考えられる。

羊水塞栓症の診断

臨床診断が基本で、分娩中または分娩後早期に突然発症する心肺虚脱、DIC、他に説明できる原因がないことなどから判断する。補助的に、母体血中の亜鉛コプロポルフィリン、シアリルTn抗原(STN)といった胎児・羊水由来成分の測定や、補体系の制御因子であるC1インアクチベーター活性の低下の確認が行われる。剖検では肺血管内に胎児由来の扁平上皮や毳毛が確認される。

治療

根本的な治療法はなく、全身管理が中心である。 ・心肺蘇生、気管挿管・人工呼吸、昇圧薬・強心薬による循環管理 ・DICと出血への対応:新鮮凍結血漿、フィブリノゲン、赤血球・血小板の大量輸血。止血困難なら子宮動脈塞栓術や子宮摘出術 ・心停止時に胎児が未娩出であれば、母体蘇生のため速やかな帝王切開(死戦期帝王切開)を行う

常位胎盤早期剥離との比較

・羊水塞栓症:破水後の突然の呼吸困難・ショック、DIC、弛緩した子宮からの出血 ・常位胎盤早期剥離:持続的な腹痛、子宮の板状硬、胎児機能不全、外出血は少なめでも内出血が多い、DIC合併。HDPが最大のリスク因子

肺血栓塞栓症との区別

肺血栓塞栓症は下肢などの深部静脈血栓が肺動脈に詰まる疾患で、帝王切開後の安静、肥満、高年齢、HDPなどがリスクとなり、産褥期、とくに術後の初回歩行時などに起こりやすい。発症時期と原因物質が羊水塞栓症とは異なる。

POINT

・羊水塞栓症は破水後、陣痛中〜分娩直後に突然発症する。 ・本態はアナフィラキシー様反応で、心肺虚脱とDIC(大量出血)が二大病態である。 ・母体の予後は不良で、わが国の妊産婦死亡の主要な原因の一つ。 ・板状硬の子宮とHDPとの関連は常位胎盤早期剥離の特徴であり、羊水塞栓症と混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。