詰まった出口を開けよ―胆管炎+膵炎の初期対応は「胆道ドレナージ」
第105回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
膵炎を合併した急性胆管炎の初期対応として正しいのはどれか。
- a.血漿交換を行う。
- b.緊急開腹手術を行う。
- c.高脂肪食に変更する。
- d.胆道ドレナージを行う。
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急性胆管炎と急性膵炎が同時に起こる典型は、総胆管結石が胆管と主膵管の共通出口であるVater乳頭に嵌頓する胆石性膵炎です。胆管炎の本態は閉塞した胆管内の感染胆汁のうっ滞であり、絶食・輸液・抗菌薬などの全身管理に加えて、閉塞を解除する胆道ドレナージが治療の柱となります。胆管炎を合併した胆石性膵炎では早期のERCP/ESTによる結石除去やドレナージが推奨され、内視鏡的処置が第一選択、困難なら経皮経肝的ドレナージ、開腹は最終手段です。脂肪摂取は膵・胆道を刺激するため避け、NSAIDsなどの鎮痛は対症療法にとどまります。Charcotの3徴やReynoldsの5徴で重症度を意識し、膵炎改善後の胆嚢摘出による再発予防まで見通すことが、実臨床での適切な判断につながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
急性胆管炎に急性膵炎が合併した場面で、まず何をすべきかが問われている。
病態の整理
急性胆管炎と急性膵炎が同時に起こる典型は、胆石(多くは総胆管結石)が十二指腸乳頭部(Vater乳頭)に嵌頓・通過する「胆石性膵炎」である。乳頭部は胆管と主膵管の共通出口であるため、ここが結石でふさがると、 ・胆汁の流れが止まり、うっ滞した胆汁に細菌が増殖して胆管炎を起こす ・膵液の流出も妨げられ、膵管内圧が上がって膵炎を起こす という二つの病態が一つの原因から生じる。
治療の考え方
胆管炎は「閉塞した胆管の中に感染した胆汁がたまった状態」であり、抗菌薬だけでは閉塞が解除されず、敗血症・ショック・多臓器不全へ急速に進行しうる。したがって治療の柱は、 1. 絶食・十分な輸液・抗菌薬投与・鎮痛などの全身管理 2. 閉塞を解除して感染胆汁を排出する胆道ドレナージ の二つである。胆管炎を合併した胆石性膵炎や、胆道の通過障害が続く胆石性膵炎では、早期の内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)による結石除去・ドレナージが推奨されている。原因である胆管閉塞を取り除けば、胆管炎と膵炎の双方の進行を抑えることができる。 つまり本問は、「原因(胆道閉塞)を解除する処置」を初期対応として選べるかを問うている。
選択肢考察
- ×a. 血漿交換を行う。
血漿交換は、血液中の病因物質(自己抗体、毒素など)を除去する治療で、劇症肝炎や一部の自己免疫疾患、高トリグリセリド血症による膵炎などで用いられることがある。重症急性膵炎で過剰な炎症性サイトカインを除去する目的の血液浄化療法が行われることもあるが、これは重症化した後の集中治療の一手段であり、胆管炎合併膵炎の初期対応ではない。胆管閉塞という原因を取り除く効果もない。
- ×b. 緊急開腹手術を行う。
現在、胆道ドレナージは内視鏡的(ERCP下の経鼻胆管ドレナージや胆管ステント留置)あるいは経皮経肝的に行うのが標準であり、全身状態の悪い胆管炎患者にいきなり開腹手術を行うことは侵襲が大きく、死亡率も高い。開腹による胆道ドレナージは、内視鏡的・経皮的ドレナージがいずれも不成功または施行不能といった例外的な状況での最終手段にとどまる。また、急性膵炎自体も感染性膵壊死などの特殊な場合を除き早期の手術適応はない。
- ×c. 高脂肪食に変更する。
脂肪の摂取は、十二指腸からコレシストキニン(CCK)の分泌を促し、膵酵素分泌と胆嚢収縮を刺激する。膵炎では膵の安静が必要であり、胆管閉塞がある状態で胆汁排出を促しても症状を悪化させるだけである。急性期は原則として絶食とし、胆道ドレナージなどの処置にすぐ対応できる状態にしておく。食事再開は症状と炎症が落ち着いてから低脂肪食で始める。
- ○d. 胆道ドレナージを行う。
胆管炎の本態は胆管閉塞と感染胆汁のうっ滞であり、胆道ドレナージで閉塞を解除し胆汁を排出することが根本的な治療となる。胆石が乳頭部に嵌頓して胆管炎と膵炎を同時に起こしている場合、ERCP下に乳頭括約筋切開・結石除去や経鼻胆管ドレナージ(ENBD)、胆管ステント留置を行うことで、胆管炎と膵炎の原因を同時に取り除ける。絶食・輸液・抗菌薬と並行して、速やかに(重症度に応じて緊急〜早期に)行うべき処置である。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
急性膵炎や胆管炎の強い腹痛に対して鎮痛薬を使うこと自体は適切であり、NSAIDsが鎮痛に用いられることもある。しかしNSAIDsは痛みを和らげる対症療法にすぎず、胆管閉塞や感染を解消できないため、胆管炎・膵炎の進行は止められない。さらに発熱をマスクして病状評価を難しくしたり、脱水状態では腎障害を助長したりするおそれもある。「初期対応として最も重要なもの」には当たらない。
急性胆管炎
胆管の閉塞(総胆管結石が最多、ほかに悪性腫瘍による胆管狭窄など)に細菌感染が加わった状態。発熱・黄疸・右上腹部痛のCharcotの3徴が古典的で、これに意識障害とショックが加わるとReynoldsの5徴と呼ばれ、重篤である。診断・重症度判定には急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン(Tokyo Guidelines 2018)の基準が用いられ、全身の炎症所見・胆汁うっ滞所見(黄疸、肝胆道系酵素上昇)・画像所見(胆管拡張、結石など)を組み合わせて判断する。
重症度とドレナージのタイミング(Tokyo Guidelines 2018の考え方)
・重症(臓器障害を伴う):全身管理を行いながら緊急胆道ドレナージ ・中等症:早期の胆道ドレナージ ・軽症:抗菌薬などで改善しなければドレナージを考慮
胆石性膵炎
胆石が原因の急性膵炎で、アルコール性と並んで急性膵炎の主要な原因である。胆管炎の合併や胆道通過障害の持続があれば早期のERCP/ESTが推奨される。胆管炎のない軽症例では、再発予防のため、膵炎の改善後に胆嚢摘出術を行うことが勧められる。
胆道ドレナージの方法
・内視鏡的:内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)、内視鏡的胆管ステント留置(EBS)、EST併用の結石除去 ・経皮経肝的:経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)。内視鏡が困難な例(術後再建腸管など)で選択 ・外科的:上記が不成功・施行不能な場合の最終手段
POINT
・急性胆管炎の治療の基本は「全身管理+抗菌薬+胆道ドレナージ」。 ・胆管炎を合併した胆石性膵炎では、早期のERCP/ESTで胆管閉塞を解除する。 ・ドレナージは内視鏡的が第一選択、困難なら経皮経肝的、開腹は最終手段。 ・急性期は絶食。脂肪摂取は膵・胆道を刺激するため避ける。 ・鎮痛薬は対症療法にすぎず、原因治療にはならない。
