顔は右、手足は左―「ねじれた麻痺」が指し示す橋の病変
第105回医師国家試験 H問題 第12問
国試問題にチャレンジ
左片麻痺,左Babinski徴候および右顔面神経麻痺を認める。 病巣部位として考えられるのはどれか。
- a.内包
- b.視床
- c.中脳
- d.橋
- e.延髄
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
四肢の麻痺と脳神経の麻痺が左右反対側に出る交代性片麻痺は脳幹病変を示し、脳神経麻痺の側が病変側、障害された脳神経の種類が病変の高さを表します。病変側の顔面神経麻痺と反対側の片麻痺・Babinski徴候の組み合わせは、顔面神経核と腹側を走る錐体路が同時に障害される橋下部の病変で、Millard-Gubler症候群と呼ばれ、外転神経麻痺を伴うこともあります。内包・視床・大脳脚の病変では顔面と四肢の麻痺が同じ側(病変の反対側)にそろい、中脳では動眼神経麻痺を伴うWeber症候群、延髄では舌下神経麻痺を伴う延髄内側症候群が代表的です。脳幹の高さと脳神経核の対応(中脳Ⅲ・Ⅳ、橋Ⅴ〜Ⅷ、延髄Ⅸ〜Ⅻ)を軸に考える習慣は、脳卒中診療で病変を素早く推定する力の土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・左片麻痺と左Babinski徴候:左半身の運動を司る錐体路(皮質脊髄路)の障害を示す。錐体路は延髄下端の錐体交叉で左右が入れ替わるため、左半身の麻痺は、錐体交叉より上であれば右側の病変で生じる。 ・右顔面神経麻痺:麻痺が四肢とは反対の右側に出ている。
交代性片麻痺という考え方
四肢の麻痺と脳神経の麻痺が左右反対側に出る状態を交代性片麻痺という。脳幹の片側に病変があると、その高さの脳神経核や脳神経線維は交叉前(または交叉しない部分)で障害されるため脳神経麻痺は病変と同じ側に出る。一方、錐体路は延髄で交叉する前なので、四肢の麻痺は病変と反対側に出る。本例では右顔面神経麻痺と左片麻痺がそろっていることから、病変は右側の脳幹にあり、しかも顔面神経(第Ⅶ脳神経)の核または神経線維と錐体路が同時に障害されうる高さにあると考える。
病変の高さの決定
脳神経はおおよそ脳幹の高さごとに分担されている。中脳には動眼神経(Ⅲ)と滑車神経(Ⅳ)の核、橋には三叉神経(Ⅴ)・外転神経(Ⅵ)・顔面神経(Ⅶ)・内耳神経(Ⅷ)の核、延髄には舌咽神経(Ⅸ)・迷走神経(Ⅹ)・副神経(Ⅺ)・舌下神経(Ⅻ)の核がある。顔面神経核は橋の下部の被蓋にあり、そのすぐ腹側を錐体路が下行している。したがって病巣は右の橋(下部)であり、これはMillard-Gubler症候群に相当する。
選択肢考察
- ×a. 内包
内包後脚には錐体路が、内包膝部には顔面・舌の運動を支配する皮質延髄路(皮質核路)が通る。内包の病変では両者がまとめて障害されるため、片麻痺と顔面神経麻痺はどちらも病変と反対側の同じ側に出る。このときの顔面神経麻痺は、額のしわ寄せが保たれる中枢性(核上性)麻痺である。本例のように顔面と四肢の麻痺の側が異なることは説明できない。
- ×b. 視床
視床は感覚情報を大脳皮質へ中継する神経核の集まりであり、視床自体の障害では主に病変と反対側の感覚障害(視床痛を含む)が起こる。視床出血などで隣接する内包が巻き込まれると反対側の片麻痺を伴うが、その場合も顔面を含めて同じ側の麻痺となる。四肢と顔面の麻痺側が異なる交代性の麻痺は生じない。
- ×c. 中脳
中脳の大脳脚には錐体路と皮質延髄路がまだ交叉前の状態で走っているため、大脳脚の病変では顔面(中枢性麻痺)を含めて反対側の片麻痺が起こる。中脳に核をもつ脳神経は動眼神経(Ⅲ)と滑車神経(Ⅳ)であり、顔面神経核はない。中脳の交代性片麻痺として代表的なのはWeber症候群で、病変側の動眼神経麻痺(眼瞼下垂、散瞳、眼球の外下方偏位)と反対側の片麻痺を示す。本例の病変側の顔面神経麻痺は説明できない。
- ○d. 橋
橋下部の腹側寄りの病変では、同じ高さにある顔面神経核またはその神経線維と、腹側を下行する錐体路が同時に障害される。顔面神経の障害は病変側に末梢性(核性)の顔面神経麻痺として現れ、額のしわ寄せもできなくなる。錐体路は交叉前なので、反対側に片麻痺とBabinski徴候が出る。右橋下部の病変で、右顔面神経麻痺と左片麻痺・左Babinski徴候がそろい、本例の所見を説明できる。これをMillard-Gubler症候群といい、近くを走る外転神経(Ⅵ)の障害による病変側の外転神経麻痺(眼球の外転障害)を伴うことも多い。
- ×e. 延髄
延髄に核をもつ脳神経は舌咽神経(Ⅸ)・迷走神経(Ⅹ)・副神経(Ⅺ)・舌下神経(Ⅻ)であり、顔面神経核はより上の橋にあるため、延髄の病変で病変側の顔面神経麻痺は起こらない。延髄の病変で片麻痺が生じるのは主に延髄内側症候群(Dejerine症候群)で、病変側の舌下神経麻痺(舌が病変側へ偏位)と反対側の片麻痺・深部感覚障害を示す。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)では通常片麻痺はみられない。
交代性片麻痺の代表的な症候群
・Weber症候群(中脳・大脳脚):病変側の動眼神経麻痺+反対側の片麻痺。 ・Benedikt症候群(中脳被蓋):病変側の動眼神経麻痺+反対側の不随意運動(振戦など)・運動失調。赤核の障害による。 ・Millard-Gubler症候群(橋下部腹側):病変側の顔面神経麻痺(しばしば外転神経麻痺を伴う)+反対側の片麻痺。 ・Foville症候群(橋下部被蓋):病変側への水平注視麻痺、病変側の顔面神経麻痺+反対側の片麻痺。 ・延髄内側症候群(Dejerine症候群):病変側の舌下神経麻痺+反対側の片麻痺・深部感覚障害。 ・延髄外側症候群(Wallenberg症候群):病変側の顔面の温痛覚障害、Horner症候群、球麻痺(嚥下障害・嗄声)、小脳性運動失調+反対側の頸部以下の温痛覚障害。片麻痺は通常ない。
脳幹と脳神経核の対応
中脳:Ⅲ・Ⅳ、橋:Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ、延髄:Ⅸ・Ⅹ・Ⅺ・Ⅻ(Ⅰは嗅球、Ⅱは間脳に連なる)。Ⅵ・Ⅶ・Ⅷは橋と延髄の境界(橋延髄移行部)から脳幹を出る。
中枢性と末梢性の顔面神経麻痺
顔面神経核のうち額(前頭筋)を支配する部分は左右両側の大脳皮質から支配を受けるため、核より上(大脳・内包・大脳脚など)の障害による中枢性麻痺では額のしわ寄せが保たれる。顔面神経核そのものや神経線維の障害による末梢性麻痺では、額を含む病変側の顔面全体が麻痺する。橋病変による顔面神経麻痺は末梢性のパターンをとる。
POINT
・四肢と脳神経の麻痺が左右反対側に出る交代性片麻痺は脳幹病変を示し、脳神経麻痺の側が病変側、脳神経の種類が病変の高さを示す。 ・病変側の顔面神経麻痺+反対側の片麻痺は橋下部の病変(Millard-Gubler症候群)。 ・中脳ならⅢ(Weber症候群)、延髄ならⅫ(延髄内側症候群)と組み合わせて覚える。 ・内包・視床・大脳脚の病変では顔面と四肢の麻痺は同側(病変の反対側)にそろう。
