StudyMed医師国家試験

炎症がなくても速く沈む―妊娠が教えてくれる赤沈のしくみ

第105回医師国家試験 H問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第13問

赤沈が亢進するのはどれか。

  1. a.妊娠
  2. b.肥満症
  3. c.片頭痛
  4. d.便秘症
  5. e.骨粗鬆症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は赤沈が亢進する状態を選ぶ問題だ。暗記で解くこともできるけれど、赤沈が何によって速くなるのかというしくみを理解しておくと、応用がぐっと効くようになる。まずは赤沈がどんな検査か確認しよう。
医学生医学生
クエン酸ナトリウムと混ぜた血液を細い管に立てて、1時間で赤血球がどれだけ沈んだかを見る検査ですよね。臨床検査医学の実習でWestergren法をやりました。
ドクタードクター
その通り。上澄みの血漿層の高さをmmで読む。では、なぜ赤血球が速く沈んだり遅く沈んだりするんだろう。
医学生医学生
炎症があると速くなる、というイメージしかなくて、理由まではあまり考えたことがなかったです。
ドクタードクター
多くの人がそうだよ。赤血球の表面は負に帯電していて、普段は互いに反発してばらばらに浮いている。ところがフィブリノゲンや免疫グロブリンのような大きな蛋白が増えると、この反発が弱まって、赤血球が硬貨を積み重ねたように連なる。これが連銭形成で、塊が大きいほど速く沈むんだ。
医学生医学生
炎症でフィブリノゲンやグロブリンが増えるから赤沈が速くなる、ということですね。
ドクタードクター
そう。もう一つの因子が赤血球側で、ヘマトクリットが低い、つまり貧血だと赤血球同士の押し合いが少なくなって沈みやすい。逆に多血症では遅くなる。この2本柱で選択肢を見てみよう。
医学生医学生
妊娠は病気ではないので、赤沈には関係ないと思ってしまいそうです。
ドクタードクター
そこが狙われるところだ。妊娠中は凝固系が亢進してフィブリノゲンがかなり増える。さらに循環血漿量が大きく増えるのに赤血球量の増え方はそれより小さいから、希釈されてヘマトクリットが下がる。2本柱の両方がそろうので、炎症がなくても赤沈が亢進するんだ。正解は妊娠だね。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦さんは生理的に貧血気味になると習いました。それも赤沈に効いているんですね。
ドクタードクター
よくつながったね。だから妊婦の赤沈は炎症の指標としては解釈しにくい、という臨床上の注意点も出てくる。次に肥満症はどうかな。
医学生医学生
脂肪組織からサイトカインが出て、軽い慢性炎症があると聞いたことがあります。少しは上がりそうな気もします。
ドクタードクター
鋭いね。集団としてわずかに高めになるという報告はある。ただ、フィブリノゲンやグロブリンの著明な増加やヘマトクリット低下を本質的に伴うわけではなく、赤沈亢進の原因として挙げられる状態ではない。片頭痛はどうだろう。
医学生医学生
一次性頭痛なので全身の炎症はなく、赤沈は正常だと思います。頭痛で赤沈を測るとしたら、高齢者の側頭動脈炎を疑うときですよね。
ドクタードクター
その通り。巨細胞性動脈炎では赤沈が著明に亢進して、側頭動脈の圧痛や顎跛行、視力障害を伴う。失明につながりうるから見逃せない。便秘症も機能性なら赤沈に影響しないけれど、便通異常に赤沈亢進や貧血が加われば、炎症性腸疾患や大腸癌を考える手がかりになる。
医学生医学生
骨粗鬆症も炎症がないので普通は正常ですね。でも、骨が弱いと思っていたら実は多発性骨髄腫だった、という症例がありそうです。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の落とし穴。骨病変があって赤沈が高ければ、Mタンパクで著明に赤沈が亢進する多発性骨髄腫や癌の骨転移を鑑別する。関節リウマチに続発する骨粗鬆症なら原疾患で赤沈が上がることもあるね。
医学生医学生
フィブリノゲン・グロブリンの増加と、ヘマトクリットの低下。この2つで考えれば、覚えていない状態でも推測できそうです。
ドクタードクター
そのとおり。発展として、遅延させる要因も押さえよう。多血症や脱水、そしてDICではフィブリノゲンが消費されるから、炎症があっても赤沈が正常化することがある。CRPとの違いも大事で、CRPは数時間で上がって数日で下がる鋭敏な指標、赤沈は上がるのも下がるのも遅い。CRPが陰性化したのに赤沈が高いときは回復期のことがある、と覚えておくと便利だよ。

まとめ

赤沈は、フィブリノゲンやγグロブリンの増加による赤血球の連銭形成の促進と、ヘマトクリットの低下によって亢進します。妊娠ではフィブリノゲンが増え、循環血漿量の増加による希釈でヘマトクリットが下がるため、炎症がなくても生理的に赤沈が亢進し、炎症の指標としては解釈に注意が必要です。片頭痛、機能性便秘症、原発性骨粗鬆症、肥満症は赤沈亢進の原因とはされず、むしろ高齢者の頭痛での巨細胞性動脈炎や骨病変での多発性骨髄腫など、赤沈高値が別の疾患を示唆する場面が重要です。多血症やDICでの遅延、CRPとの時間経過の違いまで含めてしくみで理解しておくと、日常診療で赤沈の値を正しく読み解く力になります。

解答・解説

正解はaです

赤沈(赤血球沈降速度、ESR: erythrocyte sedimentation rate)は、抗凝固薬(3.8%クエン酸ナトリウム)と混ぜた血液を細いガラス管に入れて垂直に立て、1時間後に赤血球が沈んでできた上澄み(血漿層)の高さを mm で読む検査である。代表的な測定法はWestergren法で、基準値はおおむね男性2〜10 mm/時、女性3〜15 mm/時とされる。 赤沈を左右する主な因子は次の2つに整理できる。 1. 血漿蛋白の変化:赤血球表面は負に帯電しており(ゼータ電位)、通常は互いに反発してばらばらに浮いている。フィブリノゲンや免疫グロブリン(γグロブリン)など大きな蛋白が増えると、この反発が弱まって赤血球が連銭形成(硬貨を積み重ねたような凝集)を起こし、大きな塊となって速く沈む。逆にアルブミンは沈降を抑える方向に働く。 2. 赤血球側の変化:貧血でヘマトクリットが低いと、赤血球同士の「押し合い」が少なくなり沈みやすくなる。多血症ではその逆で沈降が遅れる。 したがって本問は、選択肢の中から「フィブリノゲン・グロブリンの増加」「炎症」「ヘマトクリットの低下」のいずれかを伴う状態を探せばよい。妊娠は、フィブリノゲンの増加と循環血漿量の増加(それに伴う希釈性のヘマトクリット低下)の両方を伴うため、生理的な状態でありながら赤沈が亢進する代表例である。他の選択肢はいずれも全身性炎症や血漿蛋白・赤血球の変化を本質的に伴わない。

選択肢考察

  1. ○a.  妊娠

    妊娠中は凝固系が亢進し、血漿フィブリノゲン濃度が非妊娠時より明らかに上昇する(妊娠後期には400〜600 mg/dL程度に達することも多い)。フィブリノゲンは赤血球の連銭形成を促進する。さらに循環血漿量が約40〜50%増えるのに対し赤血球量の増加はそれより小さいため、ヘマトクリットが低下する(生理的な水血症・希釈性貧血)。この2つの理由から、妊娠では炎症がなくても赤沈が亢進する。赤沈は妊娠中期ごろから上昇し、分娩後しばらくして元に戻る。したがって妊婦の赤沈値は炎症の指標として解釈しにくい点にも注意が必要である。

  2. ×b.  肥満症

    肥満症は赤沈亢進をきたす代表的な病態ではない。脂肪組織に由来する軽度の慢性炎症を背景に、集団として赤沈やCRPがわずかに高めになるという報告はあるものの、臨床的に赤沈亢進の原因として挙げられる状態ではない。フィブリノゲンやγグロブリンの著明な増加、ヘマトクリットの低下を本質的に伴わないため、本問の答えにはならない。

  3. ×c.  片頭痛

    片頭痛は三叉神経血管系の機能異常を主体とする一次性頭痛であり、全身性の炎症や血漿蛋白の変化を伴わないため赤沈は正常である。頭痛の鑑別で赤沈が重要になるのは、高齢者の新規発症の頭痛で巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)を疑う場合である。巨細胞性動脈炎では赤沈が著明に亢進し(しばしば50 mm/時以上)、側頭動脈の圧痛・顎跛行・視力障害などを伴う。赤沈が正常であることは、片頭痛のような一次性頭痛を支持する所見の一つとなる。

  4. ×d.  便秘症

    機能性の便秘症は炎症や血漿蛋白の異常を伴わず、赤沈には影響しない。なお、便通異常に赤沈亢進や貧血を伴う場合は、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・Crohn病)や大腸癌などの器質的疾患を考える手がかりになる。

  5. ×e.  骨粗鬆症

    原発性骨粗鬆症は骨量の減少と骨質の劣化による疾患で、全身性炎症を伴わないため赤沈は亢進しない。ただし、関節リウマチなどの炎症性疾患に続発する骨粗鬆症では原疾患のために赤沈が亢進しうる。また、骨粗鬆症と思われた骨病変で赤沈が高い場合は、多発性骨髄腫(Mタンパクの増加で著明に赤沈亢進)や癌の骨転移を鑑別する必要がある。

赤沈を亢進させる主な要因

・炎症:感染症、膠原病(関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、巨細胞性動脈炎など)、結核、悪性腫瘍など。急性期蛋白であるフィブリノゲンの増加、慢性化に伴うγグロブリンの増加による。 ・グロブリンの著増:多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症(Mタンパク)、肝硬変(多クローン性γグロブリン増加)。 ・アルブミンの低下:ネフローゼ症候群など。 ・ヘマトクリットの低下:各種貧血。 ・生理的要因:妊娠、加齢(高齢者では基準値がやや高い)、女性(男性より高め)。

赤沈を遅延させる主な要因

・赤血球増加:真性多血症、脱水などによるヘマトクリット上昇。 ・フィブリノゲンの低下:播種性血管内凝固(DIC)、無フィブリノゲン血症、重症肝不全。 ・赤血球形態の異常:鎌状赤血球症、球状赤血球症など連銭形成を起こしにくい赤血球。

CRPとの違い

CRP(C反応性蛋白)は炎症発生後6〜12時間で上昇し、数日で低下する鋭敏な指標である。赤沈はフィブリノゲン・グロブリンの変化を反映するため、上昇が遅く、炎症が治まった後も正常化が遅い。したがって「CRPは陰性化したが赤沈は高い」状態は回復期を示すことがある。一方、DICではフィブリノゲンが消費されるため、炎症があっても赤沈が遅延(正常化)する点が有名な乖離である。

POINT

・赤沈はフィブリノゲン・γグロブリンの増加(連銭形成の促進)とヘマトクリット低下で亢進する。 ・妊娠はフィブリノゲン増加と循環血漿量増加(希釈性のヘマトクリット低下)により、生理的に赤沈が亢進する。 ・赤沈遅延:多血症、DIC(フィブリノゲン消費)、無フィブリノゲン血症。 ・片頭痛、便秘症、原発性骨粗鬆症、肥満症は赤沈亢進の原因にならない。高齢者の頭痛で赤沈亢進なら巨細胞性動脈炎を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。