ショックの皮膚は「冷たく湿る」―心原性ショックの所見を3つの視点で読み解く
第105回医師国家試験 G問題 第5問
国試問題にチャレンジ
心原性ショックの所見として誤っているのはどれか。
- a.意識混濁
- b.呼吸困難
- c.四肢冷感
- d.皮膚乾燥
- e.乏尿
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心原性ショックは、心臓のポンプ機能低下によって心拍出量が保てず、全身の組織灌流が障害される状態で、急性心筋梗塞が最も多い原因です。所見は、臓器低灌流(意識混濁、乏尿)、交感神経の緊張(四肢冷感、蒼白、頻脈、冷汗)、うっ血(呼吸困難、頸静脈怒張)の3つの視点で整理できます。交感神経が汗腺を刺激するため、ショックの皮膚は冷たく湿っているのが典型で、皮膚乾燥は誤りです。ショックの5P(蒼白、虚脱、冷汗、脈拍触知不能、呼吸不全)もあわせて覚えておくと役立ちますが、神経原性ショックでは皮膚が温かく乾燥し、徐脈となる例外があります。所見を病態から説明できるようになることが、ショックの早期認識と適切な初期対応につながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、心原性ショックでみられる身体所見を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。 ショックとは、何らかの原因で全身の臓器や組織への血流(組織灌流)が保てなくなり、酸素の供給が需要に追いつかず、細胞の機能が障害される状態である。心原性ショックはその中でも、心臓のポンプ機能が低下して心拍出量が保てなくなることが原因のショックで、急性心筋梗塞(特に広範な前壁梗塞や機械的合併症)が最も多い原因である。 心原性ショックの所見は、次の三つの視点で整理すると理解しやすい。 1. 臓器への血流低下による症状:脳の血流低下で意識が混濁し、腎臓の血流低下で尿量が減る(乏尿)。 2. 代償としての交感神経の緊張による症状:血圧を保とうとして交感神経が強く働き、皮膚や四肢の血管が収縮して冷たく蒼白になり、頻脈になる。さらに交感神経が汗腺を刺激するため、冷や汗(冷汗)が出て皮膚は湿った状態になる。 3. 心臓の手前に血液がたまる(うっ血)ことによる症状:左心不全では肺うっ血が起こり呼吸困難を生じる。右心不全を伴えば頸静脈が怒張する。 このように、ショック時の皮膚は「冷たく湿っている(冷汗)」のが典型であり、「乾燥している」というのは誤りである。
選択肢考察
- ×a. 意識混濁
心原性ショックでみられる所見であり、記述は正しい。心拍出量の低下と血圧低下によって脳への血流が減り、さらに肺うっ血による低酸素血症も加わるため、脳の機能が保てなくなる。初期には不穏・興奮や不安感として現れ、進行すると意識レベルが低下して混濁する。
- ×b. 呼吸困難
心原性ショックでみられる所見であり、記述は正しい。左心室が血液を十分に送り出せないと、左心房から肺静脈に血液がたまり肺うっ血・肺水腫となる。肺胞でのガス交換が障害されて低酸素血症となり、呼吸困難や頻呼吸が生じる。重症では起坐呼吸や泡沫状のピンク色の痰がみられる。加えて、組織の低灌流による代謝性アシドーシスを代償するため呼吸が速くなることも寄与する。
- ×c. 四肢冷感
心原性ショックでみられる所見であり、記述は正しい。心拍出量の低下に対して、交感神経系とカテコールアミンの働きで皮膚や四肢の末梢血管が強く収縮し、重要臓器(脳、心臓)へ血液を優先的に回そうとする。その結果、四肢への血流が減って手足が冷たくなり、皮膚は蒼白となる。末梢の毛細血管再充満時間(爪を押して離した後に色が戻るまでの時間)も延長する。
- ○d. 皮膚乾燥
心原性ショックの所見として誤っており、これが正解である。ショックでは交感神経が強く緊張し、汗腺が刺激されるため発汗が増える。同時に皮膚の血管は収縮しているので、皮膚は冷たく湿った状態(冷汗、冷たく湿った皮膚)となる。したがって皮膚乾燥はみられない。皮膚の乾燥は脱水の所見として知られるが、ショックの典型像ではない。
- ×e. 乏尿
心原性ショックでみられる所見であり、記述は正しい。心拍出量と血圧が下がると腎臓への血流が減り、糸球体でのろ過量が低下する。さらに、交感神経やレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系、抗利尿ホルモン(バソプレシン)が働いて水とナトリウムを体に保持しようとするため、尿量が減る。成人では尿量0.5 mL/kg/時未満が乏尿の目安とされ、重症では無尿になる。尿量は臓器灌流を評価する重要な指標で、ショックの治療効果の判定にも用いられる。
ショックの5P
ショックの典型的な徴候を、英語の頭文字で覚える方法である。 ・Pallor(蒼白) ・Prostration(虚脱) ・Perspiration(冷汗) ・Pulselessness(脈拍が触れない、または微弱) ・Pulmonary insufficiency(呼吸不全)
ショックの分類
・循環血液量減少性ショック:出血、脱水、熱傷など ・心原性ショック:急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎、心筋症、弁膜症など ・心外閉塞・拘束性ショック:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺血栓塞栓症など ・血液分布異常性ショック:敗血症、アナフィラキシー、神経原性ショック(脊髄損傷など) なお、敗血症性ショックの初期には末梢血管が拡張して四肢が温かい(warm shock)ことがあり、神経原性ショックでは交感神経が遮断されるため徐脈で皮膚が温かく乾いていることがある。これらは他のショックと異なる点として押さえておくとよい。
心原性ショックの特徴
収縮期血圧の低下(おおむね90 mmHg未満、あるいは普段より30 mmHg以上の低下)に、組織の低灌流の所見(意識障害、乏尿、四肢冷感・冷汗、血中乳酸値の上昇など)を伴う。心拍出量が低下する一方で、心臓の手前に血液がたまるため肺動脈楔入圧や中心静脈圧は上昇していることが多い。Forrester分類ではサブセットIV(心係数2.2 L/分/m²以下、肺動脈楔入圧18 mmHg超)に相当する。その他の所見として、頻脈で弱い脈、頸静脈怒張、チアノーゼ、胸痛や胸部不快感、悪心などがある。
治療の概要
原因(急性心筋梗塞なら冠動脈の再灌流など)の治療が最も重要である。血圧と心拍出量を保つために強心薬(ドブタミンなど)や血管収縮薬(ノルアドレナリンなど)を用い、改善しない場合は大動脈内バルーンパンピング(IABP)、補助循環用ポンプカテーテル(Impella)、体外式膜型人工肺(VA-ECMO)などの機械的循環補助を考慮する。
POINT
・ショックの皮膚所見は「冷たく湿った皮膚(冷汗)」であり、乾燥ではない。交感神経の緊張で発汗が増えるためである。 ・心原性ショックの所見は、臓器低灌流(意識混濁、乏尿)、交感神経緊張(四肢冷感、蒼白、冷汗、頻脈)、うっ血(呼吸困難、頸静脈怒張)に分けて整理する。 ・ショックの5P:蒼白、虚脱、冷汗、脈拍触知不能、呼吸不全。 ・例外として、神経原性ショックは徐脈で皮膚が温かく乾燥していることがある。
