地域医療のチームに「上下関係」はいらない?―多職種協働の原則を考える
第105回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
地域医療でのチームワークの形成で優先度が低いのはどれか。
- a.家族との連携
- b.年功序列の尊重
- c.医療と介護との連携
- d.保健と福祉との連携
- e.地域連携クリニカルパスの利用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
地域医療のチームは、医師や看護師に加え、薬剤師、リハビリテーション職、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、介護職、保健師、そして患者本人と家族までを含む多職種・多機関の集まりです。家族との連携、医療と介護の連携、保健と福祉の連携、地域連携クリニカルパスの活用はいずれも切れ目のない支援に欠かせず優先度が高い一方、年功序列の尊重は若手や他職種の発言を妨げ、情報共有や判断の質を下げうるため優先度は低くなります。多職種協働の基本は、患者・家族中心の共通目標、各職種の専門性の相互尊重、立場にかかわらず意見を言える心理的安全性、そして場面に応じたリーダーシップです。住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの考え方とあわせて理解しておくことが、これからの臨床現場でチームの一員として働くための土台になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、地域医療における多職種・多機関のチームワークがどのような考え方で成り立つかを問う問題である。「優先度が低いもの」を選ぶ設問であることに注意する。
地域医療とチームワーク
地域医療とは、地域の限られた医療資源を活用し、住民が住み慣れた地域で適切かつ安全な医療・ケアを切れ目なく受けられるようにする仕組みである。高齢化に伴い、一人の患者が急性期病院、回復期リハビリテーション病院、かかりつけ医、訪問看護、介護サービス、行政の保健・福祉サービスなどを連続して利用することが一般的になった。そのため、医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士・作業療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護職、保健師、そして患者本人と家族までが一つのチームとして情報と目標を共有することが求められる。
チームワーク形成の原則
多職種協働(interprofessional work)では、各職種が自らの専門性を発揮し、対等な立場で意見を出し合い、患者中心の共通目標に向かって役割を分担することが基本となる。職位や年齢・経験年数による上下関係を優先すると、専門職としての意見が言いにくくなり、情報共有や意思決定が妨げられる。この原則に照らすと、連携や情報共有の仕組みに関わる選択肢は優先度が高く、年齢・勤続年数に基づく序列を重んじることは優先度が低いと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 家族との連携
優先度は高い。在宅療養や退院後の生活では、家族が日常のケアの担い手であり、患者の意向や生活状況を最もよく知る存在でもある。家族はケアチームの重要な一員であり、療養方針の決定(意思決定支援やアドバンス・ケア・プランニングを含む)、介護負担の把握と軽減策の検討などで密な連携が欠かせない。
- ○b. 年功序列の尊重
優先度が低いものとして正しい。年功序列は年齢や勤続年数によって地位や発言力が決まる考え方である。同一職種内で経験を重んじることには一定の意義があるものの、多職種・多機関が関わる地域医療のチームでは、各メンバーが専門性に基づいて役割を果たし、対等に意見を交わすことが重要である。年功序列を重視すると、若手や他職種が意見を言いにくくなり、情報共有や適切な判断の妨げとなりうるため、チームワーク形成で優先すべき事項ではない。
- ×c. 医療と介護との連携
優先度は高い。高齢者の多くは慢性疾患の治療と日常生活の支援を同時に必要とする。医療機関(主治医、訪問看護など)と介護サービス(ケアマネジャー、訪問介護、通所サービスなど)が情報を共有し、治療方針とケアプランを整合させることは、地域包括ケアシステムの中核をなす。退院時カンファレンスや在宅医療・介護連携推進事業などはこの連携を具体化する取り組みである。
- ×d. 保健と福祉との連携
優先度は高い。地域包括ケアの視点では、保健(健康づくり・疾病予防・介護予防)、医療、介護、福祉(生活支援・経済的支援・権利擁護)の各機能を一体的に提供することが求められる。保健所・市町村保健センターの保健師による保健活動と、福祉事務所や地域包括支援センターによる福祉サービスが連携することで、疾病の予防から生活の支援まで切れ目のない支援が可能になる。
- ×e. 地域連携クリニカルパスの利用
優先度は高い。地域連携クリニカルパスは、急性期病院から回復期病院、かかりつけ医・在宅まで、複数の医療機関・施設が共有する診療計画表である。各施設での治療目標、役割分担、転院・退院の基準などをあらかじめ定めておくことで、施設が変わっても一貫した医療を提供でき、重複検査や情報の欠落を防ぐ。作成・運用の過程で関係者が集まり協議するため、チームワークの形成そのものにも役立つ。
地域包括ケアシステム
重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制である。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに構築が進められてきた。おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(中学校区程度)を単位として想定している。中核的な機関として市町村などが設置する地域包括支援センターがあり、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置され、総合相談、介護予防ケアマネジメント、権利擁護などを担う。
地域連携クリニカルパス
・クリニカルパス(クリティカルパス)は、特定の疾患の治療・検査について、標準的な経過と介入内容を時間軸に沿って示した診療計画である。これを複数の医療機関にまたがって作成したものが地域連携クリニカルパスである。 ・大腿骨頸部骨折、脳卒中などで診療報酬上の評価が導入され、がんなどにも広がった。 ・利点:医療の標準化と質の向上、転院の円滑化、情報共有による重複検査の削減、患者・家族への見通しの提示。
多職種協働の基本
・患者・家族を中心に据え、共通の目標を設定する。 ・各職種の専門性と役割を相互に理解・尊重する。 ・職位や年齢にかかわらず対等に意見を交わせる関係(心理的安全性)を確保する。 ・カンファレンスや共通の記録・パスを用いて情報を共有する。 ・リーダーシップは固定的な上下関係ではなく、場面や課題に応じて適切な職種が担う。
POINT
・地域医療のチームには医療・介護・保健・福祉の専門職に加え、患者本人と家族も含まれる。 ・多職種協働では専門性の尊重と対等な関係に基づく情報共有が重要であり、年功序列は優先されない。 ・地域連携クリニカルパスは複数の医療機関が共有する診療計画で、切れ目のない医療とチーム形成に役立つ。 ・地域包括ケアシステムは住まい・医療・介護・予防・生活支援の一体的提供を目指す。
