StudyMed医師国家試験

「触れて正常」と「触れたら異常」―3歳児の肝・脾・扁桃・リンパ節を見分ける物差し

第105回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第13問

3歳児の診察所見で病的なのはどれか。

  1. a.左肋骨弓下に脾を3cm触知
  2. b.右肋骨弓下に肝を1cm触知
  3. c.口蓋扁桃が口蓋咽頭弓をはみ出して腫大
  4. d.両側頸部に米粒大のリンパ節を3個ずつ触知
  5. e.両側鼠径部に小豆大のリンパ節を1個ずつ触知

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の身体診察で「年齢相応の正常」と「病的」を線引きする問題だ。成人なら異常とされる所見でも、子どもでは生理的なことがよくある。肝臓、脾臓、扁桃、リンパ節それぞれについて、3歳児の物差しで判断できるかがポイントだよ。
医学生医学生
成人の感覚だと、肝臓を触れるのも扁桃が大きいのも、全部異常に見えてしまいそうです。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴なんだ。まず肝臓から考えよう。小児は体格に比べて肝臓が相対的に大きいから、右肋骨弓下に軟らかく辺縁の鋭い肝を1〜2cm程度触れるのは正常。乳幼児では2〜3cm程度まで正常範囲とされることもある。
医学生医学生
じゃあ肝を1cm触れるのは、まったく問題ないということですね。
ドクタードクター
大きさの点ではそうだね。ただし、硬い、辺縁が鈍い、表面が不整といった性状の異常があれば、大きさにかかわらず精査が必要だ。触診では大きさと性状をセットで評価する習慣をつけよう。
医学生医学生
小児科の臨床実習で、指導医の先生が「子どもの肝臓は触れて当たり前」と言っていたのを思い出しました。では脾臓も同じように考えていいですか。
ドクタードクター
そこが違うところなんだ。脾臓は新生児では約30%、幼児では約10%で先端を触れるとされるけれど、触れても肋骨弓下1〜2cm程度まで。しかも年齢とともに触れにくくなる。幼児期以降に肋骨弓下2cm以上で明らかに触れるなら脾腫と考える。
医学生医学生
3歳で3cmというのは、先端がちょっと触れるどころではないですね。これが病的な所見ということですか。
ドクタードクター
その通り。3歳児で左肋骨弓下に脾を3cm触知するのは明らかな脾腫で、これが正解だ。原因の検索が必要になる。どんな疾患を思い浮かべるかな。
医学生医学生
伝染性単核症と、白血病でしょうか。CBTの勉強で、遺伝性球状赤血球症でも脾腫が出ると覚えました。
ドクタードクター
いいね。感染症ならEBウイルスによる伝染性単核症やサイトメガロウイルス感染症、血液疾患なら遺伝性球状赤血球症などの溶血性貧血や白血病・リンパ腫。ほかに門脈圧亢進によるうっ血性脾腫、Gaucher病などのライソゾーム病のような蓄積症も鑑別に挙がる。では扁桃はどうだろう。
医学生医学生
口蓋弓からはみ出すほど大きいと、扁桃肥大で病的な気がします。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、口蓋扁桃は2〜3歳頃から大きくなり、7〜8歳頃に最大となって思春期にかけて退縮する生理的肥大を示す。口蓋弓を越える程度はMackenzie分類のI度、つまり軽度の肥大で、症状がなければ病的とはいえないんだ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、左右の扁桃が正中でくっつくほどのIII度の子を見ました。その子はいびきがひどくて手術予定でした。
ドクタードクター
まさにそれが治療を考える目安だね。いびきや睡眠時無呼吸、嚥下障害、扁桃炎の反復などがあれば扁桃摘出術を検討する。大きさだけでなく症状で判断するんだ。最後にリンパ節。頸部に米粒大が左右3個ずつ、鼠径部に小豆大が1個ずつ、これはどう考える?
医学生医学生
複数あるので一瞬ドキッとしますが、小さくて両側性なので反応性の範囲でしょうか。
ドクタードクター
正解。子どもはリンパ組織が発達していて、上気道感染などの抗原刺激を繰り返し受けるから、頸部・腋窩・鼠径部に小さく軟らかい、可動性のあるリンパ節を触れるのは健常児でもありふれている。鼠径部は下肢の小さな傷の影響も受けやすいしね。一般に頸部・腋窩で1cm、鼠径部で1.5cmを超えると腫大とみなす目安がある。
医学生医学生
逆に、どんなリンパ節なら精査が必要になりますか。
ドクタードクター
鎖骨上窩のリンパ節、2cmを超える大きさ、硬く可動性が悪いもの、急速に大きくなるもの、そして発熱・体重減少・盗汗などの全身症状を伴うもの。こうした特徴があれば悪性腫瘍なども念頭に精査を考える。
医学生医学生
脾臓だけは「触れたら疑う」側、ほかは「触れても年齢相応」側に入る、という整理ですね。
ドクタードクター
よくまとまったね。発展として、脾臓の触診のコツも覚えておこう。脾は吸気で下降するので、深呼吸させながら左肋骨弓下を触り、右側臥位にすると触れやすくなる。泣いて腹に力が入る子どもでは、あやしながら、あるいは保護者に抱っこしてもらって診察するのも大切な工夫だ。
医学生医学生
OSCEの小児診察では、まず子どもを安心させることから、と教わりました。
ドクタードクター
その姿勢が正確な所見につながるんだ。小児の診察では、年齢ごとの正常像を頭に入れて、そこから外れたものを拾い上げる。それが見逃しを防ぐ一番の近道だよ。

まとめ

小児の身体診察では、成人なら異常とされる所見の多くが年齢相応の生理的変化として正常範囲に含まれます。肝は相対的に大きく、右肋骨弓下に軟らかい辺縁を1〜2cm(乳幼児では2〜3cm程度まで)触れるのは正常で、口蓋扁桃も7〜8歳頃に最大となる生理的肥大を示すため、口蓋弓を越える程度(Mackenzie分類I度)は症状がなければ病的ではありません。頸部や鼠径部の米粒大〜小豆大のリンパ節も、抗原刺激の多い小児ではよくみられる所見です。一方、脾は幼児期以降に肋骨弓下2cm以上触れれば脾腫であり、3歳児で3cm触知する場合は伝染性単核症、溶血性貧血、白血病、門脈圧亢進症、蓄積症などの検索が必要です。年齢ごとの正常像を物差しとして持つことが、過剰な検査を避けつつ重要な異常を見逃さない小児診療の基本になります。

解答・解説

正解はaです

小児の身体診察では、成人なら異常とされる所見でも年齢相応の生理的変化として正常範囲に入るものが多い。本問は3歳児について、肝・脾の触知、扁桃の大きさ、表在リンパ節の触知のそれぞれが生理的範囲か病的かを判断させる問題である。 【肝臓】小児は体格に比べて肝臓が相対的に大きく、右肋骨弓下に軟らかい肝辺縁を1〜2cm程度(乳幼児では2〜3cm程度まで)触れるのは正常である。 【脾臓】新生児・乳児早期では脾の先端(1〜2cm程度)を触れることがあるが、年齢とともに触れにくくなる。幼児期に肋骨弓下で2cm以上、明らかに脾を触知する場合は脾腫と考え、感染症(伝染性単核症など)、溶血性貧血、白血病などの血液疾患、門脈圧亢進、代謝疾患などを検索する。 【扁桃】口蓋扁桃は幼児期から増大し、学童期前半に最大となる生理的肥大を示すため、口蓋弓を越える程度の腫大は病的とはいえない。 【リンパ節】小児はリンパ組織が発達しており、上気道感染などに繰り返し曝露されるため、頸部・腋窩・鼠径部に小さなリンパ節を触れることは健常児でもよくみられる。 以上から、3歳児で左肋骨弓下に脾を3cm触知する所見は脾腫であり、病的と判断する。

選択肢考察

  1. ○a.  左肋骨弓下に脾を3cm触知

    脾臓は新生児では約30%、幼児では約10%で先端を触れるとされるが、触れても肋骨弓下1〜2cm程度までであり、年齢とともに触知率は下がる。3歳児で肋骨弓下に3cmも脾を触れる場合は明らかな脾腫であり、病的である。伝染性単核症などの感染症、遺伝性球状赤血球症などの溶血性貧血、白血病・リンパ腫、門脈圧亢進症、ライソゾーム病などの蓄積症を鑑別する必要がある。

  2. ×b.  右肋骨弓下に肝を1cm触知

    小児では肝臓が体格に比して大きく、右肋骨弓下(右鎖骨中線上)に軟らかく辺縁の鋭い肝を1〜2cm程度触れるのは生理的である。乳幼児では2〜3cm程度まで正常範囲とされる。1cmの触知は正常所見である。なお、硬い、辺縁が鈍い、表面不整といった性状の異常があれば大きさにかかわらず精査を要する。

  3. ×c.  口蓋扁桃が口蓋咽頭弓をはみ出して腫大

    口蓋扁桃は2〜3歳頃から増大し、7〜8歳頃に最大となった後、思春期にかけて退縮する(生理的肥大)。口蓋弓(前口蓋弓・後口蓋弓)を越えてはみ出す程度は、扁桃肥大の分類(Mackenzie分類)ではⅠ度にあたる軽度の肥大であり、症状がなければ病的とはいえない。いびき・睡眠時無呼吸、嚥下障害、反復する扁桃炎などを伴う場合に治療(扁桃摘出術など)を検討する。

  4. ×d.  両側頸部に米粒大のリンパ節を3個ずつ触知

    小児はリンパ組織が発達し、上気道感染を繰り返すことから、頸部に米粒大(数mm程度)の軟らかく可動性のあるリンパ節を複数触れることは健常児でもしばしばみられる。両側性で小さく、圧痛や癒着がなければ生理的と考えてよい。一般に頸部で1cmを超える、硬い、周囲と癒着する、急速に増大する、鎖骨上窩にある、といった特徴があれば精査を考える。

  5. ×e.  両側鼠径部に小豆大のリンパ節を1個ずつ触知

    鼠径部は下肢の小さな外傷や感染の影響を受けやすく、健常者でも小豆大(5mm前後)程度のリンパ節を触れることはよくある。鼠径リンパ節は1.5cm程度までは正常範囲とされることが多い。両側性で小さく、圧痛や硬さの異常がなければ生理的な所見である。

小児の生理的な所見と病的所見の目安

・肝臓:右肋骨弓下に軟らかい辺縁を1〜2cm(乳幼児では2〜3cm程度まで)触れるのは正常。硬さや表面性状の異常、明らかな増大は肝腫大として精査する。 ・脾臓:新生児では約30%、幼児では約10%、思春期以降は数%で先端を触れるとされる。先端を触れる程度は正常のこともあるが、肋骨弓下2cm以上は脾腫と考える。脾は吸気時に下降するため、深吸気をさせながら左肋骨弓下を触診し、右側臥位にすると触れやすくなる。

脾腫をきたす主な疾患

・感染症:伝染性単核症(EBウイルス)、サイトメガロウイルス感染症、マラリア、敗血症など ・血液疾患:遺伝性球状赤血球症、サラセミアなどの溶血性貧血、白血病、悪性リンパ腫 ・うっ血:門脈圧亢進症(肝硬変、門脈血栓など) ・蓄積症:Gaucher病、Niemann-Pick病などのライソゾーム病 ・その他:若年性特発性関節炎(全身型)、組織球症など

口蓋扁桃肥大の分類(Mackenzie分類)

・Ⅰ度:口蓋弓からわずかに突出する程度 ・Ⅱ度:Ⅰ度とⅢ度の中間 ・Ⅲ度:左右の扁桃が正中(口蓋垂付近)で接するほどの肥大 口蓋扁桃は7〜8歳頃、アデノイド(咽頭扁桃)は4〜6歳頃に最大となる生理的肥大を示す。

小児のリンパ節腫脹の考え方

小児は抗原刺激が多く、頸部・腋窩・鼠径部の小さなリンパ節触知はありふれている。一般に頸部・腋窩で1cm、鼠径部で1.5cmを超えるものを腫大とみなす目安がある。鎖骨上窩リンパ節の触知、2cmを超える大きさ、硬く可動性不良、急速な増大、発熱・体重減少・盗汗などの全身症状を伴う場合は悪性腫瘍などを考えて精査する。

POINT

・小児では肝を肋骨弓下に1〜2cm(乳幼児では2〜3cm程度まで)触れるのは正常である。 ・脾は幼児期以降に肋骨弓下2cm以上触れれば脾腫であり病的と考える。 ・口蓋扁桃は7〜8歳頃に最大となる生理的肥大を示し、口蓋弓を越える程度(Mackenzie分類Ⅰ度)は病的とはいえない。 ・頸部・鼠径部の米粒大〜小豆大のリンパ節触知は健常児でもよくみられる。 ・小児の診察所見は年齢による生理的変化を踏まえて判断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。