StudyMed医師国家試験

羊水がない子宮で18週―「奇形」ではなく「変形」を見抜くPotterシークエンス

第105回医師国家試験 E問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第47問

28歳の女性。妊娠38週で分娩した。妊娠20週に破水し,その後の超音波検査で羊膜腔がほとんど認められていなかった。  児に認められる可能性が高いのはどれか。

  1. a.内反足
  2. b.腎嚢胞
  3. c.脳梁欠損
  4. d.肺分画症
  5. e.動脈管開存症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠中期に破水して羊水がほとんどない状態が長く続いた赤ちゃんに、何が起こりうるかを考える問題です。ポイントは「破水した時期」と「羊水の役割」。この2つを押さえれば迷わず解けます。まず、羊水にはどんな働きがあると思いますか。
医学生医学生
胎児を外からの衝撃から守るクッション、でしょうか。
ドクタードクター
それが一つ目。ほかにも、胎児が手足を自由に動かせる空間をつくること、胎児が羊水を出し入れする呼吸様運動で肺の発育を促すこと、臍帯の圧迫を防ぐことなどがあります。では羊水がほぼない状態が長く続くと、どうなるでしょう。
医学生医学生
子宮の壁が赤ちゃんを直接押しつけてしまう……ということですか。
ドクタードクター
その通り。胎動も制限され、狭い空間で体が押し固められたまま育つことになります。その結果として起こる一連の変化をPotterシークエンス、あるいは羊水過少シークエンスと呼びます。鼻が平たく耳介が低い特有の顔貌、四肢の変形や関節拘縮、そして肺低形成が代表です。
医学生医学生
産婦人科の講義で「Potter症候群は腎無形成」と習ったので、腎臓の異常が答えかと思いました。腎嚢胞はどうですか。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴です。妊娠中期以降、羊水の主な供給源は胎児の尿です。だから腎無形成や多嚢胞性異形成腎などで尿がつくられないと、羊水過少になる。つまり腎嚢胞は羊水過少の「原因」であって「結果」ではありません。今回は破水で羊水が失われたので、因果の向きが逆なんです。
医学生医学生
なるほど、原因と結果を取り違えるところでした。では、答えは内反足ですか。
ドクタードクター
正解です。下肢が子宮壁に押しつけられ、足関節を動かす余地もないまま長期間育つと、足部が内側に曲がって固定されやすい。これは臓器のつくりそのものの異常ではなく、外からの機械的圧迫による「変形(deformation)」です。関節拘縮や股関節脱臼も同じ仕組みで起こります。
医学生医学生
脳梁欠損や肺分画症は、発生学で習った「形成異常」のほうですよね。
ドクタードクター
そうです。ここで「破水した時期」が効いてきます。主要な器官形成期は妊娠4〜12週頃で、おおむね16週頃までに大部分が終わります。今回の破水は20週なので、羊水過少をきっかけに新たな奇形が生じるとは考えにくい。脳梁欠損は遺伝子や染色体の異常などによる形成過程の障害、肺分画症は胎生早期に前腸から余分な肺芽が生じる形成異常で、どちらも子宮内の圧迫とは関係しません。
医学生医学生
羊水過少で肺の問題といえば、分画症ではなく肺低形成なんですね。
ドクタードクター
その区別はとても大事です。肺低形成は羊水の出入りによる肺の伸展刺激が失われることで起こり、特に肺の発育が盛んな妊娠中期の小管期、16〜26週頃に羊水が失われると重症化しやすい。今回の児では予後を最も左右する所見になりえます。
医学生医学生
動脈管開存症はどうでしょう。小児科の実習で、早産児に多いと教わりました。
ドクタードクター
よく覚えていますね。動脈管開存症は早産児や先天性風疹症候群、染色体異常などで多いものです。今回は38週の正期産ですし、羊水過少そのものが動脈管の閉鎖不全を起こすわけではありません。
医学生医学生
器官形成期を過ぎてからの羊水過少では、奇形ではなく圧迫による変形と肺低形成が起こる、と整理すればいいですね。
ドクタードクター
完璧です。発展として、羊水過少の原因も整理しておきましょう。最も多いのは前期破水、次に腎無形成や後部尿道弁などによる胎児尿の減少、胎児発育不全や過期妊娠などの胎盤機能不全、そして薬剤です。NSAIDsやACE阻害薬・ARBは胎児の腎血流や腎機能を障害するので、妊婦への処方では要注意です。
医学生医学生
超音波ではどう判断するんですか。
ドクタードクター
最大羊水深度2cm未満、または羊水インデックス5cm以下が目安です。また分娩時には臍帯が圧迫されやすく、変動一過性徐脈などの胎児機能不全にも注意が必要です。逆に羊水過多は、食道閉鎖や十二指腸閉鎖など嚥下の障害や、母体糖尿病による胎児尿の増加で起こります。羊水の「入り口は尿、出口は嚥下」と覚えると整理しやすいですよ。

まとめ

妊娠中期の前期破水などで高度の羊水過少が長く続くと、胎児は子宮壁に直接圧迫され、内反足や関節拘縮などの四肢変形、Potter顔貌、肺低形成からなるPotterシークエンスをきたします。内反足は器官形成の異常ではなく機械的圧迫による「変形」であり、器官形成期を過ぎた妊娠20週の破水でも起こりえます。一方、腎嚢胞や腎無形成は胎児尿の減少を通じて羊水過少の「原因」となるもので、結果ではありません。脳梁欠損や肺分画症は発生早期の形成異常、動脈管開存症は早産などと関連し、いずれも羊水過少の結果とはいえません。羊水の産生(胎児尿)と吸収(嚥下)、そして器官形成期の時期を軸に考えると、羊水量の異常と胎児への影響を体系的に理解できます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

妊娠20週という妊娠中期に破水(前期破水:PROM, premature rupture of membranes)が起こり、その後の超音波検査で羊膜腔がほとんど見えない、すなわち高度の羊水過少が持続した。分娩は38週であるため、約18週間にわたって胎児は羊水のほとんどない子宮内で過ごしたことになる。

考え方

羊水には、①外力から胎児を保護するクッション、②胎児が四肢を自由に動かせる空間の確保、③胎児呼吸様運動による肺の発育促進、④臍帯圧迫の防止、などの役割がある。羊水が長期間ほぼ欠如すると、子宮壁が胎児を直接圧迫し、胎動も制限されるため、次のような変化がまとめて起こる。これをポッター(Potter)シークエンス(羊水過少シークエンス)という。 ・四肢の変形・拘縮:内反足、関節拘縮、股関節脱臼など ・特有の顔貌(Potter顔貌):鼻の扁平化、耳介低位・変形、下顎後退、眼瞼内側の皺 ・肺低形成:羊水の出入りによる肺の伸展刺激が失われるため。特に肺の発育が盛んな妊娠中期(小管期)に羊水が失われると重篤になりやすい ・子宮内発育不全 一方、本問の破水は妊娠20週であり、主要な器官形成期(妊娠4〜12週頃、おおむね16週頃まで)はすでに過ぎている。したがって、羊水過少の「結果」として臓器そのものの形成異常(奇形)が新たに生じることは考えにくい。設問は「羊水過少が長期間続いた児に何が起こりうるか」と読み替え、機械的圧迫による変形を選ぶのがポイントである。

選択肢考察

  1. ○a.  内反足

    羊水がほとんどない狭い子宮内では、胎児の下肢が子宮壁に押しつけられ、足関節を動かす余地も失われる。その状態で長期間発育すると、足部が内側に曲がって固定された内反足が生じやすい。これは器官形成の異常ではなく、外からの機械的圧迫による「変形(deformation)」であり、妊娠中期以降の長期羊水過少で起こりうる代表的な所見である。関節拘縮や股関節脱臼も同じ機序で生じる。

  2. ×b.  腎嚢胞

    多嚢胞性異形成腎や常染色体劣性多発性嚢胞腎などの腎嚢胞性疾患は、胎児尿の産生低下を通じて羊水過少の「原因」となる。つまり因果関係の向きが逆である。本問では破水によって羊水が失われたのであり、羊水過少が腎嚢胞を引き起こすことはない。腎の形成異常は発生初期に決まるもので、妊娠20週の破水とは関係しない。

  3. ×c.  脳梁欠損

    脳梁は左右の大脳半球をつなぐ神経線維の束で、妊娠12週頃から前方より形成が始まり、妊娠18〜20週頃までにおおよその形が完成する。脳梁欠損はこの形成過程の障害(遺伝子異常、染色体異常、代謝異常など)によるもので、子宮内の機械的圧迫とは関係がない。羊水過少で生じる所見ではない。

  4. ×d.  肺分画症

    肺分画症は、正常な気管支と交通をもたず、大動脈から直接血液供給を受ける異常な肺組織が存在する先天性の形成異常である。胎生早期の前腸(気管支・肺の原基)から余分な芽が生じることが原因と考えられており、羊水過少によって生じるものではない。なお、長期の羊水過少で問題となる肺の異常は「肺低形成」であり、分画症とは区別する。

  5. ×e.  動脈管開存症

    動脈管は胎児期には肺動脈から大動脈へ血液を流すために開存しているのが正常で、通常は出生後数日以内に機能的に閉鎖する。出生後も閉鎖しない動脈管開存症は、早産児、先天性風疹症候群、染色体異常などで多い。本症例は38週の正期産であり、羊水過少そのものが動脈管の閉鎖不全を引き起こすわけではない。

羊水の産生と吸収

妊娠中期以降、羊水の主な供給源は胎児尿であり、主な吸収経路は胎児の嚥下である。このほか胎児肺からの肺胞液も羊水に加わる。

羊水過少の原因

・羊水の流出:前期破水(最も多い) ・胎児尿の減少:腎無形成(Potter症候群)、多嚢胞性異形成腎、尿路閉塞(後部尿道弁など) ・胎盤機能不全:胎児発育不全(FGR)、妊娠高血圧症候群、過期妊娠(胎児への血流が減り腎血流も減少) ・薬剤:NSAIDs(胎児腎血流を低下させる)、ACE阻害薬・ARB(胎児腎障害)

羊水過少の評価

超音波検査で、最大羊水深度(MVP)2cm未満、または羊水インデックス(AFI)5cm以下を羊水過少の目安とする。

羊水過少による胎児・新生児への影響(Potterシークエンス)

・肺低形成:予後を最も左右する。妊娠中期(特に妊娠16〜26週頃の小管期)に羊水が失われると起こりやすい ・四肢変形:内反足、関節拘縮、股関節脱臼 ・Potter顔貌:鼻の扁平化、耳介低位、下顎後退 ・分娩時:臍帯圧迫による胎児機能不全(変動一過性徐脈)

羊水過多との対比

羊水過多は胎児の嚥下障害(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、無脳症など)や胎児尿の増加(母体糖尿病など)で起こる。羊水過少と羊水過多の原因は、羊水の「入り口(尿)」と「出口(嚥下)」のどちらの異常かで整理すると覚えやすい。

器官形成期

主要な器官が形成される時期は妊娠4〜7週頃が最も感受性が高く、妊娠12週頃(おおむね16週頃まで)に大部分が完了する。この時期を過ぎてからの障害は、形の形成異常(奇形)よりも、発育や機能の障害、あるいは機械的な変形として現れやすい。

POINT

・妊娠中期からの長期羊水過少では、胎児が子宮壁に圧迫されてPotterシークエンス(肺低形成、四肢変形、Potter顔貌)をきたす。 ・内反足・関節拘縮は、狭い子宮内での機械的圧迫による「変形」である。 ・腎嚢胞・腎無形成は羊水過少の「原因」であって「結果」ではない。 ・器官形成期(妊娠16週頃まで)を過ぎた破水では、臓器の形成異常は新たに生じにくい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。