眉・頬・あごが語るホルモン異常―顔貌から先端巨大症と成長ホルモンを読み解く
第105回医師国家試験 E問題 第28問
国試問題にチャレンジ
顔面の写真を別に示す。 この疾患で異常値となるのはどれか。

- a.成長ホルモン
- b.抗利尿ホルモン
- c.黄体形成ホルモン
- d.甲状腺刺激ホルモン
- e.副腎皮質刺激ホルモン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
眉弓部・頬骨・下顎の突出、鼻や口唇の肥大といった顔貌は先端巨大症に特徴的で、骨端線閉鎖後に成長ホルモン(GH)が過剰分泌されることで生じ、原因の大部分は下垂体GH産生腺腫です。GHはIGF-1を介して骨・軟部組織を増殖させ、診断では血中GH・IGF-1の高値と、75g経口ブドウ糖負荷試験でGHが抑制されないことを確認します。LHなどの低下は腺腫の圧迫による二次的変化であり、抗利尿ホルモン、TSH、ACTHの異常はそれぞれ尿崩症・SIADH、甲状腺疾患、Cushing病・Addison病など別の顔貌や病態と結びつきます。治療は経蝶形骨洞手術が第一選択で、糖尿病・高血圧・心疾患・大腸腫瘍といった合併症の管理も予後に直結します。内分泌疾患の特徴的顔貌を責任ホルモンと対応させて覚えることは、外来での気づきと早期診断につながります。
解答・解説
正解はaです
問題の整理
顔面の写真のみが示され、そこから疾患を推定して、異常値を示すホルモンを答える問題である。提示された顔貌は、眉弓部(眉の上の骨の張り出し)・頬骨・下顎の突出、鼻や口唇の肥大といった、顔の骨格と軟部組織が全体に大きく粗くなった特徴をもつ。これは先端巨大症に特有の顔貌(先端巨大症様顔貌)である。
考え方
先端巨大症は、骨端線が閉じた成人で成長ホルモン(GH:growth hormone)が過剰に分泌されることにより起こる。原因の大部分は下垂体のGH産生腺腫である。過剰なGHは肝臓などでインスリン様成長因子-1(IGF-1:insulin-like growth factor-1)の産生を促し、IGF-1が骨・軟骨・軟部組織の増殖を引き起こす。骨端線が閉じた後なので身長は伸びず、骨の膜性骨化や軟部組織の肥厚によって顔貌の変化や手足の肥大が生じる(骨端線閉鎖前に発症すると高身長となり、下垂体性巨人症と呼ばれる)。 したがって、この疾患で異常(高値)を示す代表的なホルモンは成長ホルモンである。内分泌疾患には特徴的な顔貌を示すものが多く、顔貌から疾患と責任ホルモンを結びつけられるようにしておくことが重要である。
選択肢考察
- ○a. 成長ホルモン
先端巨大症はGHの過剰分泌によって生じ、血中GHは高値となる。GHは脈動的に分泌され単回測定では評価しにくいため、診断では75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)でGHが正常のように抑制されないこと(奇異性上昇を示すこともある)と、GHの作用を反映するIGF-1が年齢・性別の基準範囲を超えて高値であることを確認する。写真の眉弓部・頬骨・下顎の突出、鼻や口唇の肥大はGH・IGF-1過剰による典型的な変化であり、正しい。
- ×b. 抗利尿ホルモン
抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)は下垂体後葉から分泌され、腎集合管での水再吸収を促す。分泌不足で中枢性尿崩症(多尿・口渇)、過剰で抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH:低Na血症)となるが、いずれも特徴的な顔貌変化は起こさない。先端巨大症で異常値となる代表的なホルモンではなく誤りである。
- ×c. 黄体形成ホルモン
黄体形成ホルモン(LH)は性腺機能を調節する下垂体前葉ホルモンであり、その異常で本問のような顔貌変化は生じない。なお、先端巨大症の原因となる下垂体腺腫が大きいと正常下垂体を圧迫したり、合併する高プロラクチン血症の影響を受けたりして、LHなどのゴナドトロピンが低下し月経異常や性機能低下をきたすことがある。しかしこれは二次的な変化であり、この疾患を特徴づける異常値はGHである。
- ×d. 甲状腺刺激ホルモン
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の異常を伴う甲状腺疾患にも特徴的な顔貌がある。原発性甲状腺機能低下症(TSH高値)では眼瞼や顔面の粘液水腫性浮腫、眉毛外側の脱落、無表情な顔つきがみられ、Basedow病(TSH低値)では眼球突出や眼裂開大がみられる。しかし、いずれも骨格の肥大を伴う写真の顔貌とは異なり、誤りである。
- ×e. 副腎皮質刺激ホルモン
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰(Cushing病など)ではコルチゾール過剰により顔に脂肪が沈着し、丸く赤ら顔の満月様顔貌となる。一方、Addison病(原発性慢性副腎皮質機能低下症)ではコルチゾール低下に反応してACTHが上昇し、皮膚や口腔粘膜の色素沈着がみられる。いずれも写真のような骨格の突出・肥大とは異なるので誤りである。
先端巨大症の主な症候
・顔貌の変化:眉弓部・頬骨・下顎の突出(下顎前突による咬合不全)、鼻・口唇の肥大、巨大舌 ・四肢末端の肥大:手足の容積の増大(指輪や靴のサイズが合わなくなる) ・その他:発汗過多、頭痛、手根管症候群、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症 ・腫瘍の圧迫による症状:両耳側半盲などの視野障害、他の下垂体ホルモンの低下 ・合併症:耐糖能異常・糖尿病(GHにはインスリン拮抗作用がある)、高血圧、心肥大・心筋症、大腸ポリープ・大腸癌。これらが生命予後を左右する。
診断
・血中GH高値とIGF-1高値(年齢・性別の基準範囲に照らして評価) ・75g OGTTでGHが正常域まで抑制されない ・MRIで下垂体腺腫を確認する
治療
第一選択は経蝶形骨洞手術(鼻腔を経由して下垂体腺腫を摘出する手術)である。手術で治癒しない場合や手術困難例には、ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチドなど)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)、ドパミン作動薬などの薬物療法や放射線療法を行う。
内分泌疾患と特徴的な顔貌
・先端巨大症:眉弓部・下顎の突出、鼻・口唇の肥大(GH過剰) ・Cushing症候群:満月様顔貌、赤ら顔(コルチゾール過剰) ・甲状腺機能低下症:顔面浮腫、眉毛外側の脱落、無表情 ・Basedow病:眼球突出、眼裂開大 ・偽性副甲状腺機能低下症(Albright遺伝性骨異栄養症を伴う型):円形顔貌、低身長、第4・5中手骨の短縮
POINT
・眉弓部・頬骨・下顎の突出、鼻・口唇の肥大 → 先端巨大症 → GH過剰(大部分は下垂体GH産生腺腫)。 ・診断ではGH・IGF-1高値と、75g OGTTでGHが抑制されないことを確認する。 ・糖尿病・高血圧・心疾患・大腸腫瘍などの合併症に注意する。 ・内分泌疾患の特徴的顔貌(満月様顔貌、粘液水腫顔貌、眼球突出など)を責任ホルモンと対応させて整理しておく。
