暗記より計算―「1gは何kcal?」で選ぶ栄養素の1日摂取量
第105回医師国家試験 E問題 第1問
国試問題にチャレンジ
生活活動強度Ⅲの30歳の男性の1日摂取目標量として適切なのはどれか。
- a.鉄 1 mg
- b.脂質 150 g
- c.糖質 100 g
- d.蛋白質 70 g
- e.カルシウム 200 mg
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
身体活動レベルⅢの30歳代男性の推定エネルギー必要量は約3,050 kcal/日で、糖質・蛋白質4 kcal/g、脂質9 kcal/gの換算係数を使えば、脂質150 gは過剰、糖質100 gは過少と判断できます。鉄やカルシウムは吸収率が低いため、体内からの喪失量や吸収量ではなく、その数倍の摂取量が必要であり、1 mgや200 mgでは不足します。蛋白質は成人男性の推奨量が60〜65 g前後で、体重1 kgあたり約1 gという目安からも70 gが最も妥当です。食事摂取基準の各指標(推定平均必要量・推奨量・目安量・耐容上限量・目標量)の定義と、エネルギー比からの逆算を身につけておくと、国試だけでなく臨床の栄養管理や食事指導にも応用できます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
身体活動量の多い(生活活動強度Ⅲ、現在の用語では身体活動レベルⅢ=高い)30歳男性が1日に摂るべき栄養素量として、妥当な数値を選ぶ問題である。日本人の食事摂取基準の細かな数値を暗記していなくても、エネルギー必要量とエネルギー産生栄養素の換算、各栄養素の生理学的知識を組み合わせれば、明らかに不合理な選択肢を除外できる。
考え方の手順
1. まず推定エネルギー必要量を見積もる。30歳代男性で身体活動レベルⅢなら約3,050 kcal/日である(身体活動レベルⅡでは約2,650〜2,700 kcal/日)。 2. エネルギー産生栄養素の換算係数を使う。糖質(炭水化物)と蛋白質は1 gあたり約4 kcal、脂質は1 gあたり約9 kcalである。 3. 総エネルギーに占める割合の目安(炭水化物はおよそ50〜65%、脂質はおよそ20〜30%)から、グラム数を逆算して選択肢と照らし合わせる。 4. 鉄・カルシウムのようなミネラルは、吸収率や体内での出入り(鉄の1日喪失量は約1 mg、カルシウムは骨の維持に数百mg単位が必要)から、極端に少ない数値を除外する。 この手順で検討すると、脂質150 gは過剰、糖質100 gは過少、鉄1 mgとカルシウム200 mgは不足であり、成人男性の蛋白質推奨量(60〜65 g/日前後)に近い蛋白質70 gが最も妥当な値となる。
選択肢考察
- ×a. 鉄 1 mg
不適切である。成人男性が汗・便・尿中に剥がれ落ちた細胞などとして失う鉄は1日約1 mgであり、これを補うには腸管から約1 mgを「吸収」する必要がある。ところが食事中の鉄の吸収率は10〜15%程度と低いため、「摂取量」としてはその数倍が必要になる。30歳代男性の推奨量は7.5 mg/日前後であり、1 mgでは明らかに不足する。なお鉄には推奨量と耐容上限量が定められているが、生活習慣病予防を目的とした目標量は設定されていない。
- ×b. 脂質 150 g
過剰であり不適切である。推定エネルギー必要量3,050 kcalのうち、脂質から摂るべき割合は20〜25%(出題当時の基準。現行基準では20〜30%)とされる。20〜25%で計算すると610〜約760 kcalで、1 g=9 kcalで割ると約68〜85 gとなる。脂質150 gは150×9=1,350 kcalに相当し、総エネルギーの約44%を脂質だけで占めることになるため、明らかに多すぎる。
- ×c. 糖質 100 g
過少であり不適切である。炭水化物(糖質+食物繊維)はエネルギーの主な供給源で、総エネルギーの50〜70%(出題当時の基準。現行基準では50〜65%)が目標とされる。3,050 kcalの50〜70%は1,525〜2,135 kcalで、1 g=4 kcalで割ると約380〜530 gとなる。糖質100 gでは400 kcalにしかならず、総エネルギーの約13%にすぎない。また脳はブドウ糖を主なエネルギー源とし、それだけで1日100 g以上を消費するため、この量では足りない。
- ○d. 蛋白質 70 g
選択肢の中で最も妥当な値である。蛋白質の必要量は窒素出納試験(摂取した窒素と排泄される窒素の釣り合い)から求められており、成人男性の推奨量は出題当時の基準で60 g/日、現行基準では65 g/日である。目安として「体重1 kgあたり約1 g」とも言われ、身体活動量の多い30歳男性の体重を60〜70 kg程度と考えると、70 gは推奨量の近くにあり適切と判断できる。なお出題当時、蛋白質には目標量が定められておらず、70 gは厳密には推奨量をやや上回る値である。現行の基準では、蛋白質にもエネルギー比13〜20%という目標量が加わっている。
- ×e. カルシウム 200 mg
不足であり不適切である。カルシウムは骨量の維持に必要で、腸管からの吸収率は成人で25〜30%程度にとどまる。30歳代男性の推奨量は出題当時の基準で650 mg/日、現行基準では750 mg/日であり、200 mgでは大きく不足する。日本人はもともとカルシウムの摂取不足が目立つ栄養素である。カルシウムにも目標量は設定されておらず、推奨量と耐容上限量(2,500 mg/日)が定められている。
日本人の食事摂取基準の指標
厚生労働省が5年ごとに改定する。栄養素について、次の指標が設定されている。 ・推定平均必要量(EAR):集団の50%が必要量を満たすと推定される量 ・推奨量(RDA):集団のほとんど(97〜98%)が必要量を満たす量。原則として推定平均必要量の約1.2倍 ・目安量(AI):上の2つを算定するだけの科学的根拠がないときに、良好な栄養状態を保てる量として示す値 ・耐容上限量(UL):過剰摂取による健康障害を避けるための上限 ・目標量(DG):生活習慣病の発症予防のために、当面の目標とすべき摂取量 エネルギーについては推定エネルギー必要量が示され、2015年版以降は体格指数(BMI)を指標として過不足を評価する考え方がとられている。
目標量が設定されている主な栄養素
出題当時(2010年版)は脂質、炭水化物、食物繊維、ナトリウム(食塩相当量)、カリウムなどに目標量が設定されていた。2015年版以降は、蛋白質・脂質・炭水化物のエネルギー比率(エネルギー産生栄養素バランス)として目標量が示されている(18〜49歳では、蛋白質13〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%)。食塩相当量の目標量は、2020年版で男性7.5 g未満・女性6.5 g未満とされている。
身体活動レベル
以前は「生活活動強度」と呼ばれたが、現在は身体活動レベル(PAL:1日の総エネルギー消費量÷基礎代謝量)で、Ⅰ(低い、約1.50)、Ⅱ(ふつう、約1.75)、Ⅲ(高い、約2.00)の3段階に分ける。推定エネルギー必要量は「基礎代謝量×身体活動レベル」で求める。
エネルギー換算係数(Atwater係数)
蛋白質4 kcal/g、脂質9 kcal/g、炭水化物4 kcal/g、アルコール7 kcal/g。
POINT
・30歳代男性・身体活動レベルⅢの推定エネルギー必要量は約3,050 kcal/日。 ・換算係数は蛋白質・糖質が4 kcal/g、脂質が9 kcal/g。エネルギー比率からグラム数を逆算すれば、極端な数値を除外できる。 ・成人男性の推奨量の目安は、蛋白質60〜65 g、鉄7.5 mg前後、カルシウム650〜750 mg。 ・食事摂取基準の指標(推定平均必要量・推奨量・目安量・耐容上限量・目標量)の定義を区別して覚える。
