光を移した瞬間に開く瞳―交互対光反射試験で見抜く「入力側」の障害
第105回医師国家試験 D問題 第60問
国試問題にチャレンジ
交互対光反射試験の結果の模式図を示す。 ただし,外円は角膜輪部,内円は瞳孔を示す。 考えられるのはどれか。

- a.右球後視神経炎
- b.左球後視神経炎
- c.右動眼神経麻痺
- d.左動眼神経麻痺
- e.右顔面神経麻痺
- f.左顔面神経麻痺
- g.右後頭葉の腫瘍
- h.左後頭葉の腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
交互対光反射試験で光を一方の眼へ移したときに両眼が散瞳する所見はRAPD(Marcus Gunn瞳孔)であり、その眼の求心路、つまり視神経や広範な網膜の障害を示します。求心路障害では遠心路が正常なため瞳孔不同はなく、動眼神経麻痺のような遠心路障害では患側の瞳孔散大と瞳孔不同が生じる点で区別できます。顔面神経は瞳孔を支配せず、後頭葉病変は対光反射の経路から外れるため、いずれもRAPDを起こしません。模式図は検者の視点で描かれるため図の左側が患者の右眼であることに注意すると、本問は左眼への移動で散瞳する左RAPDから左球後視神経炎と判断できます。眼底が正常にみえる球後視神経炎では、RAPDが診断の重要な客観的所見となるため、対光反射の経路とあわせて確実に理解しておきたい知識です。
解答・解説
正解はbです
交互対光反射試験(swinging flashlight test)とは
暗めの部屋で、ペンライトの光を左右の眼に数秒ずつ交互にすばやく移しながら、瞳孔の大きさの変化を観察する検査である。対光反射の入力(求心路)の左右差を検出するのが目的である。 正常では、光刺激は一側の眼から入っても左右両側の動眼神経副交感線維に伝わるため、光を当てた眼の縮瞳(直接対光反射)と同時に反対眼も縮瞳する(間接対光反射)。したがって左右どちらに光を移しても、両眼の瞳孔は縮瞳したまま保たれる。 一方、片眼の視神経(求心路)に障害があると、健眼から患眼へ光を移した瞬間に脳へ届く光の信号が弱まるため、両眼の瞳孔が逆に散大する。この所見を相対的求心性瞳孔反応欠損(RAPD:relative afferent pupillary defect)、または Marcus Gunn瞳孔という。
図の読み取り
図は検者が患者と向かい合って見た模式図なので、図の左側の眼が患者の右眼、右側の眼が患者の左眼である。 ①右眼に光を当てる:両眼とも縮瞳している。右眼からの入力は正常に伝わっている。 ②光を左眼へすばやく移す:両眼とも散瞳した。左眼からの入力が右眼からの入力より弱いことを示す。 ③光を右眼へすばやく戻す:両眼とも再び縮瞳した。 いずれの段階でも左右の瞳孔径は等しく(瞳孔不同がない)、光刺激に対して両眼が常に同じように反応している。これは、瞳孔を動かす出力側(動眼神経・瞳孔括約筋)は左右とも正常で、入力側の左右差だけがあることを意味する。
結論の導き方
瞳孔不同がなく、左眼に光を移したときにだけ両眼が散瞳する → 左眼の求心路(網膜~視神経)の障害による左RAPD陽性である。選択肢のうち、一側の視神経を障害して左RAPDを生じるのは左球後視神経炎である。遠心路の障害(動眼神経麻痺)では患側の瞳孔が常に散大して瞳孔不同を示すはずであり、図と合わない。
選択肢考察
- ×a. 右球後視神経炎
誤り。右視神経の障害であれば、右眼に光を当てたとき(または右眼へ光を移したとき)に両眼が散瞳し、左眼に光を移すと両眼が縮瞳するはずである。図では右眼に光を当てると両眼とも縮瞳しており、左右が逆の所見である。
- ○b. 左球後視神経炎
正しい。左視神経が障害されると、左眼からの光の信号が中脳まで十分に届かない。右眼から左眼へ光を移すと、それまで右眼から入っていた強い入力が弱い入力に切り替わるため、両眼とも散瞳する(左RAPD陽性)。遠心路は正常なので瞳孔不同はなく、右眼に光を当てれば両眼とも正常に縮瞳する。図の所見と一致する。球後視神経炎は視神経乳頭より後方の視神経の炎症であり、急性の片眼視力低下、中心暗点、眼球運動時痛を示す一方で、急性期の眼底は正常にみえる。
- ×c. 右動眼神経麻痺
誤り。動眼神経には瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が含まれるため、その麻痺では対光反射の遠心路が障害され、右瞳孔は光をどちらの眼に当てても散大したまま縮瞳しない(右の直接・間接対光反射がともに消失)。左眼は正常に縮瞳するため、瞳孔不同が生じる。さらに眼瞼下垂や、眼球の外下方偏位(内転・上転・下転障害)を伴う。図は左右の瞳孔が常に同じ大きさで反応しており、合わない。
- ×d. 左動眼神経麻痺
誤り。左動眼神経麻痺では左瞳孔が常に散大し、光をどちらに当てても縮瞳しない。一方、右瞳孔は光をどちらに当てても縮瞳するため、瞳孔不同がみられる。図では左右の瞳孔が常に同径で連動して反応しており、遠心路の障害ではない。
- ×e. 右顔面神経麻痺
誤り。顔面神経は表情筋を支配し、副交感線維として涙腺・顎下腺・舌下腺も支配するが、瞳孔括約筋も瞳孔散大筋も支配しない。対光反射の求心路にも遠心路にも関与しないため、瞳孔反応に異常は生じない。顔面神経麻痺で障害されるのは角膜反射の遠心路(眼輪筋による閉瞼)である。
- ×f. 左顔面神経麻痺
誤り。eと同様に、顔面神経は対光反射の経路に含まれないため、交互対光反射試験で異常はみられない。
- ×g. 右後頭葉の腫瘍
誤り。右後頭葉(一次視覚野)の病変では左同名半盲が生じうる。しかし、対光反射を担う線維は視索から外側膝状体に入る手前で分かれて中脳の視蓋前域へ向かうため、後頭葉は対光反射の経路に含まれない。そのため後頭葉病変では、視野障害があっても対光反射は正常に保たれ、RAPDも生じない。
- ×h. 左後頭葉の腫瘍
誤り。左後頭葉病変では右同名半盲が生じうるが、gと同様に対光反射の経路は保たれるため、交互対光反射試験は正常である。
対光反射の経路
・求心路:網膜の光受容 → 視神経 → 視交叉(鼻側網膜からの線維が交叉)→ 視索 → 外側膝状体の手前で視覚路から分かれる → 中脳の視蓋前域(視蓋前核) ・中枢での連絡:視蓋前核から両側の動眼神経副核(Edinger-Westphal核)へ投射する(反対側への線維は後交連を通る)。このため一眼への光刺激で両眼が縮瞳する。 ・遠心路:Edinger-Westphal核 → 動眼神経(副交感神経節前線維)→ 毛様体神経節 → 短毛様体神経 → 瞳孔括約筋
障害部位と瞳孔所見
・一側の視神経障害(求心路):患眼に光を当てると両眼の縮瞳が弱い(両眼の直接・間接反射が減弱)。健眼に光を当てると両眼とも正常に縮瞳する。瞳孔不同はない。交互対光反射試験で患側RAPD陽性。 ・一側の動眼神経障害(遠心路):患側の瞳孔が散大し、直接・間接反射ともに消失する。健側の瞳孔はどちらの眼に光を当てても縮瞳する。瞳孔不同がある。 ・視交叉より後方の視覚野(後頭葉)の障害:同名半盲を示すが対光反射は正常。 ・なお、一側の視索障害では反対眼に軽度のRAPDがみられることがある。
RAPDを生じる主な疾患
視神経炎、虚血性視神経症、圧迫性視神経症(下垂体腫瘍・動脈瘤などによる)、外傷性視神経症、緑内障の進行例(左右差のある場合)、網膜中心動脈閉塞症や広範な網膜剥離など広範囲の網膜疾患。白内障などの中間透光体の混濁ではRAPDは原則として生じない。
球後視神経炎
・症状:急性~亜急性の片眼の視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、色覚異常(特に赤色の感じ方の低下)。 ・所見:RAPD陽性、中心フリッカー値の低下。視神経乳頭より後方の炎症なので急性期の眼底は正常(「患者も医師も何も見えない」と表現される)。乳頭炎型では視神経乳頭の発赤・腫脹がみられる。 ・背景疾患:特発性のほか、多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム障害(抗アクアポリン4抗体陽性)、抗MOG抗体関連疾患などがある。MRIでの視神経の造影効果や脳内の脱髄病変の評価が重要である。 ・治療:ステロイドパルス療法が行われる。抗アクアポリン4抗体陽性例は重症化・再発しやすく、血漿交換療法などを要することがある。
POINT
・交互対光反射試験で、光を患眼へ移したときに両眼が散瞳するのがRAPD(Marcus Gunn瞳孔)であり、その眼の求心路(視神経・広範な網膜)の障害を示す。 ・求心路障害では瞳孔不同はない。遠心路障害(動眼神経麻痺)では患側の瞳孔が散大し瞳孔不同を示す。 ・模式図は患者と向かい合って見ているため、図の左側の眼が患者の右眼である。 ・顔面神経は瞳孔を支配しない。後頭葉病変では対光反射は保たれる。 ・球後視神経炎:片眼の急性視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、RAPD陽性、眼底は正常。
