「名前が似ている」は罠―熱傷瘢痕に潜む有棘細胞癌と皮膚癌の発生母地
第105回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
疾患と発生母地の組合せで正しいのはどれか。
- a.乳房外Paget病 ―― Bowen病
- b.有棘細胞癌 ―― 熱傷瘢痕
- c.悪性黒色腫 ―― 黒色表皮腫
- d.血管肉腫 ―― 血管拡張性肉芽腫
- e.菌状息肉症 ―― 体白癬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
有棘細胞癌は表皮角化細胞に慢性的なダメージが続く状態を母地として生じやすく、熱傷瘢痕は数十年を経て瘢痕癌が生じる代表的な母地です。ほかにも日光角化症、Bowen病、慢性放射線皮膚炎、慢性潰瘍・瘻孔、色素性乾皮症、ヒ素曝露などが母地となります。一方、悪性黒色腫の母地は先天性巨大色素性母斑や異形成母斑であって黒色表皮腫(デルマドローム)ではなく、血管拡張性肉芽腫は良性で血管肉腫にはならず、菌状息肉症の前駆病変は体白癬ではなく局面状類乾癬で、乳房外Paget病とBowen病も由来細胞が異なります。名前の類似に惑わされず、腫瘍の由来細胞と母地をセットで整理することが、この分野の問題を解く鍵です。臨床では、古い瘢痕に生じた難治性潰瘍や治りにくい湿疹様病変を見たら悪性腫瘍を疑って生検する姿勢が求められます。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】皮膚悪性腫瘍の発生母地(その上に癌が生じやすい病変・状態)と前癌病変。 皮膚の悪性腫瘍には、先行する病変や皮膚の状態を土台として発生しやすいものがある。代表的なのは有棘細胞癌(SCC)で、紫外線・放射線・慢性的な炎症や瘢痕といった「表皮角化細胞に長期間ダメージが加わり続ける状態」が発生母地となる。熱傷瘢痕は数十年の経過を経て有棘細胞癌が生じる典型的な母地であり、瘢痕癌として知られる。 本問では、名称が似ている、あるいは同じ系統の語を含む疾患同士が組み合わされており、「名前が似ている=発生母地」という連想に引っかからないことが重要である。乳房外Paget病とBowen病(いずれも表皮内癌で湿疹と誤診されやすい)、悪性黒色腫と黒色表皮腫(どちらも「黒色」)、血管肉腫と血管拡張性肉芽腫(どちらも「血管」)、菌状息肉症と体白癬(どちらも「菌」を連想させる)は、いずれも発生母地の関係にない。各腫瘍の本当の母地・前駆病変を整理しておけば、正解は熱傷瘢痕と有棘細胞癌の組合せに定まる。
選択肢考察
- ×a. 乳房外Paget病 ―― Bowen病
乳房外Paget病は、アポクリン汗腺の分布する外陰部・肛囲・腋窩に好発する、主にアポクリン腺系への分化を示す腺癌で、初期は表皮内にとどまる。高齢者に多く、境界明瞭な紅斑・びらん・脱色素斑を呈し、湿疹や白癬と誤診されやすい。一方、Bowen病は有棘細胞癌の表皮内癌であり、ヒ素曝露やヒトパピローマウイルス(HPV)感染、紫外線などが関与する。両者は湿疹様の外観を示す表皮内癌という点で共通するが、由来する細胞が異なり、Bowen病が乳房外Paget病の発生母地になることはない。なおBowen病自体は進行すると浸潤性の有棘細胞癌(Bowen癌)となる。
- ○b. 有棘細胞癌 ―― 熱傷瘢痕
有棘細胞癌は表皮角化細胞由来の悪性腫瘍で、多くは発生母地となる病変をもつ。熱傷瘢痕は受傷から長い年月(しばしば数十年)を経て有棘細胞癌が生じる代表的な母地であり、瘢痕部に難治性の潰瘍や隆起が出現した場合は癌化を疑って生検する。同様の母地として、日光角化症(老人性角化症、表皮内癌とも位置づけられる)、慢性放射線皮膚炎、Bowen病、色素性乾皮症、慢性骨髄炎の瘻孔・慢性潰瘍、円板状エリテマトーデス、栄養障害型表皮水疱症、ヒ素曝露などがある。
- ×c. 悪性黒色腫 ―― 黒色表皮腫
悪性黒色腫はメラノサイト(色素細胞)が悪性化した腫瘍である。発生母地・危険因子としては、先天性巨大色素性母斑、異形成母斑(dysplastic nevus)の多発、色素性乾皮症、強い紫外線曝露などがある。一方、黒色表皮腫は腋窩・頸部・鼠径部などの間擦部に生じる、ビロード状で黒褐色の角化性局面であり、肥満・インスリン抵抗性に伴う良性型と、胃癌などの内臓悪性腫瘍(特に腺癌)に伴う悪性型がある。いわゆるデルマドローム(内臓疾患を反映する皮膚症状)であり、メラノサイトの腫瘍ではなく、悪性黒色腫の発生母地にもならない。
- ×d. 血管肉腫 ―― 血管拡張性肉芽腫
血管肉腫は血管内皮細胞由来のきわめて予後不良な悪性腫瘍で、高齢者の頭部・顔面に紫斑様の病変として好発する。乳癌術後などの慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)や放射線照射部位にも生じる。一方、血管拡張性肉芽腫(化膿性肉芽腫)は外傷などを誘因として急速に増大する易出血性の赤色結節で、毛細血管の増殖からなる良性病変である。悪性化して血管肉腫になることはない。臨床的には無色素性悪性黒色腫との鑑別が問題となる。
- ×e. 菌状息肉症 ―― 体白癬
菌状息肉症は皮膚T細胞リンパ腫の中で最も多い病型で、紅斑期→扁平浸潤期→腫瘍期と数年〜数十年かけて進行する。「菌」の字を含むが真菌とは無関係で、腫瘍期の外観がキノコ状であることに由来する名称である。紅斑期の病変は湿疹や乾癬、類乾癬と紛らわしく、局面状類乾癬(特に大局面型)は菌状息肉症の初期病変あるいは前駆病変と考えられている。体白癬は皮膚糸状菌(白癬菌)による表在性真菌感染症であり、菌状息肉症の発生母地ではない。
主な皮膚悪性腫瘍と発生母地・危険因子
・有棘細胞癌:熱傷瘢痕、慢性潰瘍・瘻孔、日光角化症、Bowen病、慢性放射線皮膚炎、色素性乾皮症、ヒ素曝露、円板状エリテマトーデス、栄養障害型表皮水疱症、HPV感染(外陰部・爪囲)。 ・基底細胞癌:最も頻度の高い皮膚癌。高齢者の顔面正中部に黒色の結節として生じ、転移はまれ。脂腺母斑から発生することがあるほか、紫外線、色素性乾皮症、基底細胞母斑症候群(PTCH1遺伝子異常)が関連する。 ・悪性黒色腫:先天性巨大色素性母斑、異形成母斑、色素性乾皮症、紫外線。日本人では足底・爪などの末端黒子型が多い。早期発見の目安としてABCDE(非対称性、境界不整、色調の多様性、直径6 mm超、拡大・変化)がある。 ・乳房外Paget病:高齢者の外陰部・肛囲・腋窩。表皮内にPaget細胞が増殖する。 ・血管肉腫:高齢者の頭部・顔面、慢性リンパ浮腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射部位。 ・菌状息肉症:局面状類乾癬が前駆病変とされる。白血化したものをSézary症候群(紅皮症、リンパ節腫脹、末梢血の異型リンパ球)という。
名前が紛らわしい組合せ
・黒色表皮腫:内臓悪性腫瘍(胃癌など)や肥満・インスリン抵抗性に伴う角化症(デルマドローム)。 ・血管拡張性肉芽腫:外傷後に生じる易出血性の良性病変。 ・体白癬:白癬菌による感染症。環状に拡大し、辺縁に鱗屑や小水疱を伴う。KOH直接鏡検で菌糸を確認する。
POINT
・熱傷瘢痕、慢性潰瘍、日光角化症、慢性放射線皮膚炎、Bowen病、色素性乾皮症は有棘細胞癌の発生母地。 ・悪性黒色腫の発生母地は先天性巨大色素性母斑・異形成母斑・色素性乾皮症で、黒色表皮腫ではない。 ・菌状息肉症の前駆病変は局面状類乾癬で、真菌感染とは無関係。 ・血管肉腫は高齢者の頭部・顔面、Stewart-Treves症候群。血管拡張性肉芽腫は良性。 ・脂腺母斑からは基底細胞癌などが発生しうる。 ・名称の類似に惑わされない。
