止められない動きと声―Tourette症のチックに効く薬は「ドパミンを抑える」薬
第105回医師国家試験 D問題 第35問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。不登校を心配した母親に伴われて来院した。10歳時に急に首を傾けたり,顔をしかめたり,咳払いや「オッ」という声を発作的に発したりするようになった。自分では制御できずに卑猥な言葉も発するようになった。緊張すると顔しかめや発声の発作が増えるため,学校では奇異な目で見られ,いじめられた。2年前から欠席が目立ち始め,1か月前から不登校となった。身体所見に異常を認めない。尿,血液および血液生化学所見に異常を認めない。頭部CTと脳波とに異常を認めない。 治療薬として適切なのはどれか。
- a.L-dopa
- b.炭酸リチウム
- c.パロキセチン
- d.ハロペリドール
- e.メチルフェニデート
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
多彩な運動チックと音声チックが18歳未満で発症し1年以上続く場合はTourette症と診断し、汚言症は特徴的ですが必須ではありません。病態には大脳基底核回路のドパミン系過活動が想定されるため、薬物療法の中心はハロペリドールなどのドパミンD2受容体遮断薬で、現在はアリピプラゾールやリスペリドンも多く用いられます。一方、L-dopaや中枢刺激薬のメチルフェニデートはドパミン作用でチックを悪化させるおそれがあり、メチルフェニデートは運動チックやTourette症候群に禁忌です。ADHDや強迫性障害の合併が多いこと、軽症では心理教育と環境調整が基本で行動療法も選択肢となることも押さえておきましょう。症状の背景にある神経伝達物質から薬の効き方を考える姿勢は、精神・神経疾患の薬物療法全般の理解につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・15歳男子。10歳で発症し、症状は5年間持続している。 ・運動チック:首を傾ける、顔をしかめる(複数種類)。 ・音声チック:咳払い、「オッ」という発声。さらに卑猥な言葉を発する(汚言症、コプロラリア)。 ・本人の意思では抑えられず、緊張で増悪する。 ・身体所見、血液・尿検査、頭部CT、脳波はいずれも正常で、器質的な神経疾患やてんかんを示す所見はない。 ・症状のためにいじめを受け、不登校に至っている(社会生活への支障が大きい)。
診断へのプロセス
チックとは、突発的・急速・反復的で、リズムをもたない運動や発声である。多彩な運動チックと音声チックが併存し、1年以上続き、18歳未満で発症していることから、Tourette症(Gilles de la Tourette症候群、DSM-5ではトゥレット症)と診断できる。汚言症は診断に必須ではないが、本症に特徴的な症状の一つである。検査正常であることは、てんかん発作、Huntington病・Wilson病などの不随意運動を呈する疾患、薬剤性の運動異常などを除外する意味をもつ。チックは緊張・興奮・疲労で増え、リラックスして何かに集中しているときや睡眠中には減少する。
設問の考え方
チックの病態には大脳基底核を中心とする回路でのドパミン系の過活動が関与していると考えられており、薬物療法の中心はドパミンD2受容体遮断作用をもつ抗精神病薬である。チックは軽症なら経過観察や心理教育(本人・家族・学校への説明)、環境調整が優先されるが、本例は症状によっていじめ・不登校に至っており、薬物療法を検討すべき状況である。選択肢の中でドパミン遮断作用をもつのはハロペリドールであり、逆にドパミン系を賦活する薬剤(L-dopa、中枢刺激薬)はチックを悪化させうる。
選択肢考察
- ×a. L-dopa
L-dopaはドパミンの前駆体で、脳内でドパミンに変換されて不足を補う薬であり、Parkinson病などのドパミン欠乏状態に用いる。Tourette症ではドパミン系の過活動が想定されているため、ドパミンを増やすL-dopaは治療にならず、むしろチックを増悪させる方向に働く。
- ×b. 炭酸リチウム
炭酸リチウムは気分安定薬で、双極性障害(躁うつ病)の躁病エピソードの治療や再発予防に用いる。チックに対する有効性は確立しておらず、治療有効域が狭く、中毒(振戦、意識障害、腎障害など)を防ぐため血中濃度の測定が必要な薬でもある。本例に用いる根拠はない。
- ×c. パロキセチン
パロキセチンは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で、うつ病、パニック障害、強迫性障害、社交不安障害などに用いる。Tourette症には強迫性障害が合併しやすく、その症状にはSSRIが使われることがあるが、チックそのものを抑える効果はない。また若年者では自殺関連行動のリスクに注意が必要とされる。
- ○d. ハロペリドール
ハロペリドールはブチロフェノン系の定型抗精神病薬で、強いドパミンD2受容体遮断作用によりチックを抑制する。1960年代からTourette症への有効性が報告され、古くから代表的な治療薬とされてきた。一方で、パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニア、遅発性ジスキネジアなどの錐体外路症状や眠気が出やすく、少量から開始して慎重に用いる必要がある(国内の添付文書上の適応症には含まれない)。現在の臨床では、副作用がより少ないアリピプラゾールやリスペリドンが選ばれることも多い。
- ×e. メチルフェニデート
メチルフェニデートは中枢刺激薬で、シナプス間隙のドパミン・ノルアドレナリン濃度を高める。徐放製剤は注意欠如・多動症(ADHD)の治療薬として用いられる。ドパミン作用によりチックを誘発・増悪させるおそれがあるため、国内では運動チックのある患者やTourette症候群(既往歴・家族歴を含む)には禁忌とされている。Tourette症にはADHDの合併が多いが、その場合も本剤の使用には慎重な判断が必要である。
チック症の分類(DSM-5)
・暫定的チック症:運動チックおよび/または音声チックがあり、持続は1年未満。 ・持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックか音声チックのどちらか一方のみが1年以上持続。 ・トゥレット症(Tourette症):多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが、病期のどこかで存在し(同時でなくてもよい)、最初の発症から1年以上持続。いずれも18歳未満の発症で、物質や他の疾患によるものではないことが条件となる。
チックの種類
・単純運動チック:まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめなど。 ・複雑運動チック:跳ねる、触る、他人の動作をまねる(反響動作)など。 ・単純音声チック:咳払い、鼻すすり、「ア」「オッ」などの発声。 ・複雑音声チック:汚言症(卑猥・攻撃的な言葉)、反響言語(他人の言葉の繰り返し)、自分の言葉の繰り返し(反復言語)など。汚言症はTourette症患者の一部(1〜2割程度)にみられるにすぎない。
Tourette症の特徴
・学童期(多くは4〜7歳頃)に運動チックで始まり、音声チックが遅れて加わることが多い。男児に多い。 ・症状は増悪と軽快を繰り返し、10歳前後から思春期早期に最も重くなり、その後青年期にかけて軽快する例が多い。 ・チックの前に「むずむずする」などの前駆衝動を感じることがあり、一時的に抑えることはできても長くは抑えられない。 ・ADHD、強迫性障害の合併が多く、社会生活の支障はこれらの合併症による部分も大きい。 ・原因は遺伝的素因の関与が大きいが、単一の原因遺伝子は同定されていない。皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常とドパミン系の関与が想定されている。
治療
・心理教育、環境調整(チックを叱責しない、周囲の理解を得る)。 ・行動療法:ハビット・リバーサル(習慣逆転法)を中心とした包括的行動介入(CBIT)。 ・薬物療法:抗精神病薬(ハロペリドール、ピモジド、アリピプラゾール、リスペリドンなど)、α2アドレナリン受容体作動薬(クロニジン、グアンファシン)など。 ・重症難治例では脳深部刺激療法(DBS)が検討されることもある。
POINT
・多彩な運動チック+音声チックが1年以上持続(18歳未満発症)→ Tourette症。汚言症は特徴的だが必須ではない。 ・病態にドパミン系の過活動が関与 → 薬物療法はドパミン遮断薬(ハロペリドール、アリピプラゾールなどの抗精神病薬)。 ・L-dopaや中枢刺激薬(メチルフェニデート)はチックを悪化させうる。メチルフェニデートは運動チック・Tourette症候群に禁忌。 ・ADHD・強迫性障害の合併が多い。軽症では心理教育・環境調整が基本。
