ねじれるのは「ぶら下がった臓器」だけ―固定のされ方で見抜く軸捻転症
第105回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
軸捻転症が起こり得るのはどれか。2つ選べ。
- a.胃
- b.十二指腸
- c.下行結腸
- d.S状結腸
- e.直腸
対話形式の解説
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ドクターまとめ
軸捻転症は、消化管が腸間膜や靱帯を軸に回転して閉鎖ループと血流障害を生じる緊急疾患で、腸間膜や靱帯でぶら下がった可動性のある臓器にのみ起こります。胃、小腸、横行結腸、S状結腸、移動盲腸は捻転しえますが、二次的後腹膜臓器である十二指腸(球部以外)・上行結腸・下行結腸や、骨盤内に固定された直腸では通常起こりません。成人で最多のS状結腸軸捻転症は高齢・慢性便秘・長期臥床がリスクで、coffee bean signが特徴的であり、壊死がなければまず内視鏡的整復を行います。急性胃軸捻転症ではBorchardtの三徴(上腹部痛・空嘔吐・胃管挿入不能)が手がかりとなります。腹膜との位置関係という基礎解剖を押さえることが、捻転部位の判断から治療方針の理解まで一貫して役立ちます。
解答・解説
正解はa, dです
消化管のどの部位に軸捻転症が起こりうるかを、各臓器の固定のされ方(解剖)から考える問題である。 軸捻転症とは、消化管が腸間膜や固定靱帯を軸として回転し、ねじれた状態をいう。ねじれた部分では内腔が閉塞して閉塞性の腸閉塞(捻転部の前後両端が閉じた閉鎖ループ)となり、同時に腸間膜内の血管が絞扼されて血流障害(絞扼性イレウス)を起こすため、放置すると壊死・穿孔に至る緊急疾患である。 捻転が起こるには、その臓器が「動ける」ことが前提となる。消化管は発生の過程で回転・移動したのち、一部は後腹膜に癒着して固定され(二次的に後腹膜臓器となる)、一部は腸間膜や靱帯でぶら下がった状態で腹腔内に残る。 ・後腹膜に固定されている部位:十二指腸(球部を除く)、上行結腸、下行結腸、直腸 → 可動性が乏しく、通常は捻転しない。 ・腸間膜や靱帯で吊られた可動性のある部位:胃、空腸・回腸(小腸)、盲腸(移動盲腸の場合)、横行結腸、S状結腸 → 捻転が起こりうる。 このうち選択肢に含まれるのは胃とS状結腸である。特にS状結腸は、成人の腸軸捻転症の中で最も頻度の高い部位であり、国家試験でも頻出である。
選択肢考察
- ○a. 胃
胃は噴門部(食道との接合部)と幽門部の比較的固定された2点の間に位置し、小彎側は小網(肝胃間膜)、大彎側は胃脾間膜・胃結腸間膜・胃横隔間膜などの靱帯で支えられているが、これらはゆるやかな固定にすぎず、体位や隣接臓器の状態で位置が変わりやすい。固定靱帯が先天的に欠損・弛緩している場合や、食道裂孔ヘルニア・横隔膜弛緩症(横隔膜挙上)などで胃が挙上している場合に、胃軸捻転症が起こる。回転軸により、噴門と幽門を結ぶ長軸を軸に回る臓器軸性捻転と、小彎と大彎の中点を結ぶ短軸を軸に回る腸間膜軸性捻転に分類される。急性型では、激しい上腹部痛、嘔吐しようとしても吐けない空嘔吐、経鼻胃管が挿入できないことの三徴(Borchardtの三徴)が知られる。胃には軸捻転症が起こりうる。
- ×b. 十二指腸
十二指腸は、腹膜に覆われて可動性をもつ球部(上部の起始部)を除き、下行部・水平部・上行部の大部分が後腹膜に癒着して固定された二次的後腹膜臓器である。そのため十二指腸自体が単独で軸捻転を起こすことは通常ない。なお、腸回転異常症では十二指腸空腸曲から横行結腸までの中腸全体が上腸間膜動脈を軸に捻れる中腸軸捻転が起こるが、これは十二指腸が正常に固定されていない先天異常に伴う特殊な病態であり、正常解剖に基づく本問の判断では十二指腸は捻転を起こす臓器とはみなさない。
- ×c. 下行結腸
下行結腸は、発生の過程でもともとの腸間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、腸間膜を失って後腹膜に固定される(上行結腸と同様の二次的後腹膜臓器)。可動性がほとんどないため、軸捻転は起こらない。結腸のうち腸間膜をもち可動性があるのは横行結腸とS状結腸であり、この2つとの違いを押さえておく。
- ○d. S状結腸
S状結腸はS状結腸間膜をもつ腹膜内臓器で、可動性が大きい。腸管が長く(過長症)、腸間膜の付着部(根部)が狭いと、その根部を軸として回転しやすくなる。慢性便秘や大量の腸内ガス・便の貯留で腸管が重くなることが誘因となり、長期臥床の高齢者、精神疾患・神経疾患の患者、抗精神病薬などを服用している患者に多い。腹部X線では、拡張して屈曲したS状結腸がコーヒー豆のような形にみえる coffee bean sign が特徴的である。絞扼や穿孔の徴候がなければ内視鏡による捻転解除(整復)をまず試み、壊死・穿孔があれば緊急手術とする。再発率が高いため、待機的なS状結腸切除術も検討される。成人の腸軸捻転症で最も多い部位であり、軸捻転症が起こりうる。
- ×e. 直腸
直腸は骨盤腔内にあり、上部の前面・側面が腹膜で覆われるのみで腸間膜をもたず、中部から下部は腹膜外(腹膜翻転部より下)に位置して骨盤内の結合組織や筋によって周囲に強く固定されている。このように可動性がほとんどないため、軸捻転は起こらない。
腹膜との関係による消化管の分類
・腹膜内臓器(間膜で吊られて可動性がある):胃、十二指腸球部、空腸、回腸、横行結腸、S状結腸(盲腸・虫垂も多くは可動性あり) ・二次的後腹膜臓器(発生途中で後腹壁に癒着し固定):十二指腸(球部以外)、上行結腸、下行結腸、膵臓(尾部を除く) ・腹膜外(腹膜の外にある):直腸の中・下部
軸捻転症を起こす代表的部位
・S状結腸軸捻転症:大腸軸捻転の大部分を占める。高齢者、慢性便秘、長期臥床、向精神薬服用がリスク。X線で coffee bean sign、CTで腸間膜の渦巻き状の捻れ(whirl sign)。治療はまず内視鏡的整復。 ・盲腸軸捻転症:盲腸・上行結腸の固定が不十分な移動盲腸がある人に起こる。内視鏡的整復は困難なことが多く、手術が原則である。 ・横行結腸軸捻転症:まれ。 ・小腸軸捻転症:腹腔内の癒着、腫瘍、Meckel憩室などが軸となって起こる。 ・中腸軸捻転症:腸回転異常症に合併し、新生児期に胆汁性嘔吐で発症する。上腸間膜動脈を軸として中腸全体が捻れ、広範な腸管壊死を来しうるため緊急手術(Ladd手術)の適応となる。 ・胃軸捻転症:小児では固定靱帯の先天的な欠損・弛緩や遊走脾などの合併、成人では食道裂孔ヘルニアや横隔膜弛緩症などが誘因となる。
軸捻転症の病態
捻転部は両端が閉じた閉鎖ループとなり、腸管内圧が上昇する。同時に腸間膜血管が絞扼されるため、早期に血流障害(絞扼性イレウス)に陥りやすい。腹膜刺激症状、発熱、白血球増加、代謝性アシドーシス、乳酸上昇などは腸管壊死を疑う所見であり、緊急手術が必要となる。
POINT
・軸捻転症は、腸間膜や靱帯で吊られていて可動性のある臓器に起こる。 ・起こりうる部位:胃、小腸、盲腸(移動盲腸)、横行結腸、S状結腸(成人で最多)。 ・後腹膜に固定された十二指腸(球部以外)、上行結腸、下行結腸、および骨盤内に固定された直腸では通常起こらない。 ・S状結腸軸捻転症:高齢者・慢性便秘、coffee bean sign、まず内視鏡的整復。 ・急性胃軸捻転症:Borchardtの三徴(上腹部痛、空嘔吐、胃管挿入不能)。
