StudyMed医師国家試験

ねじれるのは「ぶら下がった臓器」だけ―固定のされ方で見抜く軸捻転症

第105回医師国家試験 D問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第14問

軸捻転症が起こり得るのはどれか。2つ選べ。

  1. a.胃
  2. b.十二指腸
  3. c.下行結腸
  4. d.S状結腸
  5. e.直腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化管のどこに軸捻転症が起こりうるかを問う問題だ。症状や画像ではなく、解剖、それも「その臓器がお腹の中でどう固定されているか」に注目すると、一気に解ける。まず、軸捻転症とはどんな病態か説明できるかな。
医学生医学生
腸がくるっとねじれて詰まってしまう、腸閉塞の一種ですよね。
ドクタードクター
そう。腸間膜や固定靱帯を軸にして消化管が回転した状態だ。ねじれた部分は前後の両端が閉じた閉鎖ループになり、内圧がどんどん上がる。さらに腸間膜の血管も一緒にねじれて絞められるから、血流障害を伴う絞扼性イレウスになりやすい。放置すれば壊死や穿孔に至る緊急疾患なんだ。
医学生医学生
ということは、ねじれるにはその臓器がある程度自由に動けないといけない、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが核心だ。発生の過程で消化管は回転・移動したあと、一部は後腹壁に癒着して固定され、二次的な後腹膜臓器になる。残りは腸間膜や靱帯でぶら下がったまま腹腔内にとどまる。後者だけが捻転しうるわけだ。
医学生医学生
解剖学実習で腹膜の翻転を追ったとき、上行結腸と下行結腸は後腹壁にぺったり貼り付いていて、横行結腸とS状結腸だけ間膜で持ち上がったのを覚えています。
ドクタードクター
いい記憶だね。それがそのまま答えにつながる。まずS状結腸。S状結腸間膜をもつ腹膜内臓器で可動性が大きい。腸管が長く、間膜の根元が狭いと、そこを軸に回りやすい。成人の腸軸捻転症で最も多い部位だよ。
医学生医学生
慢性便秘の高齢者に多いと講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。便やガスで腸管が重くなることが誘因で、長期臥床の高齢者や、神経・精神疾患の患者、抗精神病薬を飲んでいる人に多い。腹部X線で、拡張して折れ曲がったS状結腸がコーヒー豆のように見えるcoffee bean signが有名だね。
医学生医学生
もう一つは胃ですか。胃って結構しっかり固定されているイメージがあったので、意外でした。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。胃は噴門と幽門の2点では比較的固定されているけれど、小網や胃脾間膜、胃結腸間膜などの靱帯はゆるやかに支えているだけで、位置は変わりやすい。靱帯が先天的に欠損・弛緩していたり、食道裂孔ヘルニアや横隔膜弛緩症で胃が持ち上がっていたりすると、胃軸捻転症が起こる。
医学生医学生
胃の捻転にも種類があるんですか。
ドクタードクター
回転軸で2つに分ける。噴門と幽門を結ぶ長軸で回る臓器軸性と、小彎と大彎の中点を結ぶ短軸で回る腸間膜軸性だ。急性型では、激しい上腹部痛、吐こうとしても吐けない空嘔吐、経鼻胃管が入らない、というBorchardtの三徴が知られている。
医学生医学生
では十二指腸はどうでしょう。小児外科の講義で中腸軸捻転の話を聞いたので、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いところを突くね。十二指腸は球部を除いて後腹膜に固定された二次的後腹膜臓器だから、正常の解剖なら単独で捻転することはまずない。中腸軸捻転は腸回転異常症という先天異常で、十二指腸から横行結腸までの中腸が上腸間膜動脈を軸に捻れる特殊な病態だ。正常解剖を前提にしたこの問題では、十二指腸は捻転しない臓器と考える。
医学生医学生
下行結腸と直腸は、どちらも固定されているから外れるんですね。
ドクタードクター
そう。下行結腸は発生途中で間膜が後腹壁と癒合して固定された二次的後腹膜臓器。直腸は腸間膜をもたず、中部から下部は腹膜翻転部より下の腹膜外にあって、骨盤内の結合組織や筋で強く固定されている。どちらも動けないから捻転は起こらない。
医学生医学生
整理すると、胃・小腸・横行結腸・S状結腸、それに移動盲腸がねじれうる場所で、十二指腸・上行結腸・下行結腸・直腸はねじれない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も押さえよう。S状結腸軸捻転症で壊死や穿孔の徴候がなければ、まず内視鏡で捻転を解除する。ただ再発しやすいので、待機的にS状結腸切除を検討する。一方、腹膜刺激症状、発熱、白血球増加、代謝性アシドーシスや乳酸上昇があれば腸管壊死を疑って緊急手術だ。
医学生医学生
盲腸の捻転も内視鏡で戻せるんでしょうか。
ドクタードクター
盲腸軸捻転症は内視鏡での整復が難しいことが多く、手術が原則になる。それから新生児の胆汁性嘔吐を見たら、中腸軸捻転を必ず思い浮かべること。広範な腸管壊死を来しうるので、Ladd手術を含む緊急対応が必要になる。

まとめ

軸捻転症は、消化管が腸間膜や靱帯を軸に回転して閉鎖ループと血流障害を生じる緊急疾患で、腸間膜や靱帯でぶら下がった可動性のある臓器にのみ起こります。胃、小腸、横行結腸、S状結腸、移動盲腸は捻転しえますが、二次的後腹膜臓器である十二指腸(球部以外)・上行結腸・下行結腸や、骨盤内に固定された直腸では通常起こりません。成人で最多のS状結腸軸捻転症は高齢・慢性便秘・長期臥床がリスクで、coffee bean signが特徴的であり、壊死がなければまず内視鏡的整復を行います。急性胃軸捻転症ではBorchardtの三徴(上腹部痛・空嘔吐・胃管挿入不能)が手がかりとなります。腹膜との位置関係という基礎解剖を押さえることが、捻転部位の判断から治療方針の理解まで一貫して役立ちます。

解答・解説

正解はa, dです

消化管のどの部位に軸捻転症が起こりうるかを、各臓器の固定のされ方(解剖)から考える問題である。 軸捻転症とは、消化管が腸間膜や固定靱帯を軸として回転し、ねじれた状態をいう。ねじれた部分では内腔が閉塞して閉塞性の腸閉塞(捻転部の前後両端が閉じた閉鎖ループ)となり、同時に腸間膜内の血管が絞扼されて血流障害(絞扼性イレウス)を起こすため、放置すると壊死・穿孔に至る緊急疾患である。 捻転が起こるには、その臓器が「動ける」ことが前提となる。消化管は発生の過程で回転・移動したのち、一部は後腹膜に癒着して固定され(二次的に後腹膜臓器となる)、一部は腸間膜や靱帯でぶら下がった状態で腹腔内に残る。 ・後腹膜に固定されている部位:十二指腸(球部を除く)、上行結腸、下行結腸、直腸 → 可動性が乏しく、通常は捻転しない。 ・腸間膜や靱帯で吊られた可動性のある部位:胃、空腸・回腸(小腸)、盲腸(移動盲腸の場合)、横行結腸、S状結腸 → 捻転が起こりうる。 このうち選択肢に含まれるのは胃とS状結腸である。特にS状結腸は、成人の腸軸捻転症の中で最も頻度の高い部位であり、国家試験でも頻出である。

選択肢考察

  1. ○a.  胃

    胃は噴門部(食道との接合部)と幽門部の比較的固定された2点の間に位置し、小彎側は小網(肝胃間膜)、大彎側は胃脾間膜・胃結腸間膜・胃横隔間膜などの靱帯で支えられているが、これらはゆるやかな固定にすぎず、体位や隣接臓器の状態で位置が変わりやすい。固定靱帯が先天的に欠損・弛緩している場合や、食道裂孔ヘルニア・横隔膜弛緩症(横隔膜挙上)などで胃が挙上している場合に、胃軸捻転症が起こる。回転軸により、噴門と幽門を結ぶ長軸を軸に回る臓器軸性捻転と、小彎と大彎の中点を結ぶ短軸を軸に回る腸間膜軸性捻転に分類される。急性型では、激しい上腹部痛、嘔吐しようとしても吐けない空嘔吐、経鼻胃管が挿入できないことの三徴(Borchardtの三徴)が知られる。胃には軸捻転症が起こりうる。

  2. ×b.  十二指腸

    十二指腸は、腹膜に覆われて可動性をもつ球部(上部の起始部)を除き、下行部・水平部・上行部の大部分が後腹膜に癒着して固定された二次的後腹膜臓器である。そのため十二指腸自体が単独で軸捻転を起こすことは通常ない。なお、腸回転異常症では十二指腸空腸曲から横行結腸までの中腸全体が上腸間膜動脈を軸に捻れる中腸軸捻転が起こるが、これは十二指腸が正常に固定されていない先天異常に伴う特殊な病態であり、正常解剖に基づく本問の判断では十二指腸は捻転を起こす臓器とはみなさない。

  3. ×c.  下行結腸

    下行結腸は、発生の過程でもともとの腸間膜が後腹壁の腹膜と癒合し、腸間膜を失って後腹膜に固定される(上行結腸と同様の二次的後腹膜臓器)。可動性がほとんどないため、軸捻転は起こらない。結腸のうち腸間膜をもち可動性があるのは横行結腸とS状結腸であり、この2つとの違いを押さえておく。

  4. ○d.  S状結腸

    S状結腸はS状結腸間膜をもつ腹膜内臓器で、可動性が大きい。腸管が長く(過長症)、腸間膜の付着部(根部)が狭いと、その根部を軸として回転しやすくなる。慢性便秘や大量の腸内ガス・便の貯留で腸管が重くなることが誘因となり、長期臥床の高齢者、精神疾患・神経疾患の患者、抗精神病薬などを服用している患者に多い。腹部X線では、拡張して屈曲したS状結腸がコーヒー豆のような形にみえる coffee bean sign が特徴的である。絞扼や穿孔の徴候がなければ内視鏡による捻転解除(整復)をまず試み、壊死・穿孔があれば緊急手術とする。再発率が高いため、待機的なS状結腸切除術も検討される。成人の腸軸捻転症で最も多い部位であり、軸捻転症が起こりうる。

  5. ×e.  直腸

    直腸は骨盤腔内にあり、上部の前面・側面が腹膜で覆われるのみで腸間膜をもたず、中部から下部は腹膜外(腹膜翻転部より下)に位置して骨盤内の結合組織や筋によって周囲に強く固定されている。このように可動性がほとんどないため、軸捻転は起こらない。

腹膜との関係による消化管の分類

・腹膜内臓器(間膜で吊られて可動性がある):胃、十二指腸球部、空腸、回腸、横行結腸、S状結腸(盲腸・虫垂も多くは可動性あり) ・二次的後腹膜臓器(発生途中で後腹壁に癒着し固定):十二指腸(球部以外)、上行結腸、下行結腸、膵臓(尾部を除く) ・腹膜外(腹膜の外にある):直腸の中・下部

軸捻転症を起こす代表的部位

・S状結腸軸捻転症:大腸軸捻転の大部分を占める。高齢者、慢性便秘、長期臥床、向精神薬服用がリスク。X線で coffee bean sign、CTで腸間膜の渦巻き状の捻れ(whirl sign)。治療はまず内視鏡的整復。 ・盲腸軸捻転症:盲腸・上行結腸の固定が不十分な移動盲腸がある人に起こる。内視鏡的整復は困難なことが多く、手術が原則である。 ・横行結腸軸捻転症:まれ。 ・小腸軸捻転症:腹腔内の癒着、腫瘍、Meckel憩室などが軸となって起こる。 ・中腸軸捻転症:腸回転異常症に合併し、新生児期に胆汁性嘔吐で発症する。上腸間膜動脈を軸として中腸全体が捻れ、広範な腸管壊死を来しうるため緊急手術(Ladd手術)の適応となる。 ・胃軸捻転症:小児では固定靱帯の先天的な欠損・弛緩や遊走脾などの合併、成人では食道裂孔ヘルニアや横隔膜弛緩症などが誘因となる。

軸捻転症の病態

捻転部は両端が閉じた閉鎖ループとなり、腸管内圧が上昇する。同時に腸間膜血管が絞扼されるため、早期に血流障害(絞扼性イレウス)に陥りやすい。腹膜刺激症状、発熱、白血球増加、代謝性アシドーシス、乳酸上昇などは腸管壊死を疑う所見であり、緊急手術が必要となる。

POINT

・軸捻転症は、腸間膜や靱帯で吊られていて可動性のある臓器に起こる。 ・起こりうる部位:胃、小腸、盲腸(移動盲腸)、横行結腸、S状結腸(成人で最多)。 ・後腹膜に固定された十二指腸(球部以外)、上行結腸、下行結腸、および骨盤内に固定された直腸では通常起こらない。 ・S状結腸軸捻転症:高齢者・慢性便秘、coffee bean sign、まず内視鏡的整復。 ・急性胃軸捻転症:Borchardtの三徴(上腹部痛、空嘔吐、胃管挿入不能)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。