麻痺がないのに危ない―後頭蓋窩の出血で真っ先に崩れるのは「意識」
第105回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
69歳の男性。夕食中に突然,頭痛と気分不良とを訴え,1時間後に家族に伴われて来院した。5年前から降圧薬を服用している。意識はやや混濁しており,頻繁に嘔吐している。四肢に麻痺を認めない。頭部単純CTを別に示す。 急速な進行が予想されるのはどれか。

- a.意識障害
- b.四肢麻痺
- c.感覚障害
- d.血圧低下
- e.体温上昇
対話形式の解説
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医学生まとめ
高血圧のある患者が活動中に突然の頭痛・回転性めまい・反復する嘔吐を訴え、麻痺がないのに起立困難や意識障害がみられる場合は小脳出血を疑います。後頭蓋窩は狭いため、大きな血腫は前方の脳幹を直接圧迫し、第四脳室の閉塞による急性閉塞性水頭症も加わって、上行性網様体賦活系の障害から意識障害が急速に進行します。四肢麻痺や感覚障害は小脳出血の主症状ではなく、急性期の血圧はCushing現象でむしろ上昇し、血圧低下は脳ヘルニア末期の所見です。最大径3cm以上で症状が増悪している場合や、脳幹圧迫・水頭症を伴う場合は血腫除去術や脳室ドレナージを考慮するため、意識レベルの頻回な評価が手術のタイミングを左右します。出血部位ごとの症状の違いと後頭蓋窩の解剖学的特徴を結びつけて理解することが、脳卒中の重症化を予測する力につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・69歳男性、5年来の降圧薬内服(高血圧):脳卒中、とくに高血圧性脳出血の最大の危険因子である。 ・夕食中という活動時に突然発症した頭痛と気分不良:活動中の突然発症は脳出血に典型的である。 ・頻回の嘔吐:頭蓋内圧亢進や、小脳・前庭系の障害(めまいを伴う)を示唆する。 ・意識はやや混濁しているが、四肢麻痺はない:被殻出血や視床出血であれば対側の片麻痺が目立つはずであり、麻痺がないのに頭痛・嘔吐・意識障害が強い点は小脳出血を考えさせる。
画像所見と診断
頭部単純CTでは、後頭蓋窩の小脳正中部(虫部)から両側小脳半球にかけて、径3cmを大きく超える高吸収域(新鮮な血腫)を認める。第四脳室は血腫で圧排されて同定しにくく、側脳室下角の拡大がうかがわれ、閉塞性水頭症を合併しつつあると考えられる。以上から、高血圧性小脳出血と診断する。
設問の考え方
後頭蓋窩はテント(小脳テント)と頭蓋骨に囲まれた狭い区画で、余裕がほとんどない。この中で血腫が大きくなると、すぐ前方にある脳幹(橋・延髄)が直接圧迫される。さらに第四脳室が押しつぶされると髄液の流れがせき止められ、急性閉塞性水頭症となって頭蓋内圧が上昇する。脳幹には覚醒を維持する上行性網様体賦活系があるため、脳幹圧迫と水頭症によって最初に、しかも急速に悪化するのは意識レベルである。数時間のうちに昏睡から呼吸停止へ至ることもあり、意識障害の進行は緊急手術の判断に直結する最重要の徴候である。
選択肢考察
- ○a. 意識障害
小脳の大きな血腫が腹側の脳幹を圧迫し、脳幹網様体(覚醒を保つ神経回路)が障害されると意識レベルが低下する。加えて第四脳室の閉塞による急性水頭症が頭蓋内圧を急速に高め、意識障害をさらに悪化させる。本例ではすでに軽い意識混濁があり、短時間で昏迷・昏睡へ進行するおそれが大きい。意識レベルの低下は外科治療(開頭血腫除去術、水頭症に対する脳室ドレナージ)の適応を決める重要な指標である。
- ×b. 四肢麻痺
脳幹圧迫が進んで両側の錐体路(皮質脊髄路)が障害されれば四肢麻痺が起こりうるが、通常はその前に意識障害が先行し、急速進行する症状として最も予想されるものではない。そもそも小脳自体は運動の協調を担う部位であり、小脳出血では麻痺ではなく失調(ふらつき、歩行・起立困難)が主体となる。本例でも四肢麻痺は認めていない。
- ×c. 感覚障害
感覚障害は脳幹内の感覚路(脊髄視床路・内側毛帯)が障害されれば生じうるが、小脳出血の経過で急速に前景に立つ症状ではない。脳幹圧迫では感覚障害より先に意識障害が進行する。小脳は感覚の伝導路そのものではないため、出血初期に感覚障害が目立つことはない。
- ×d. 血圧低下
脳出血の急性期には、もともとの高血圧に加え、頭蓋内圧亢進に対する反応として血圧は上昇することが多い。頭蓋内圧亢進時に血圧上昇・徐脈・呼吸の異常がそろうものをCushing現象という。血圧低下は延髄の循環中枢が障害される脳ヘルニアの末期にみられる所見であり、急速な進行として予想される変化ではない。
- ×e. 体温上昇
体温調節の中枢は視床下部にあり、中枢性の高体温は視床下部障害や橋出血などで起こりうるが、小脳出血で急速に進行する症状として一定の傾向はない。発症後数日してからの発熱は、嘔吐による誤嚥性肺炎などの合併症を考えるべきものである。
高血圧性脳出血の好発部位と特徴
・被殻出血(最多、約30〜40%):対側片麻痺、感覚障害、病側への共同偏視、優位半球では失語。 ・視床出血(約30%):対側の感覚障害が目立ち、片麻痺も伴う。眼球の内下方偏位(鼻先をにらむ)。脳室穿破を起こしやすい。 ・皮質下出血:部位に応じた症状。高齢者ではアミロイド血管症によるものも多い。 ・小脳出血(約10%):突然の後頭部痛、激しい回転性めまい、反復する嘔吐、起立・歩行不能。四肢麻痺は伴わないことが多い。病側と反対方向への共同偏視や眼振がみられる。 ・橋出血(約10%):急速な昏睡、四肢麻痺、両側の著しい縮瞳(針先瞳孔)、眼球正中固定、高体温、呼吸異常。
小脳出血の治療方針
後頭蓋窩は狭いため、血腫が大きいと急速に脳幹圧迫・閉塞性水頭症をきたし致死的となる。一方で、適切な時期に手術を行えば機能予後は比較的良好である。脳卒中治療ガイドラインでは、最大径3cm以上で神経症状が増悪している場合、または血腫が脳幹を圧迫し脳室閉塞による水頭症をきたしている場合に、手術(開頭血腫除去術)を考慮するとされている。水頭症に対しては脳室ドレナージを行う。手術適応を判断するうえで、意識レベルの推移を頻回に評価することが重要である。
内科的管理
急性期には降圧(収縮期血圧140mmHg未満を目標とすることが推奨される)、抗脳浮腫療法(高張グリセロールなど)、呼吸・誤嚥対策を行う。抗凝固薬を内服中であれば中和も必要である。
POINT
・活動中の突然の頭痛・回転性めまい・反復嘔吐・起立困難で麻痺がない→小脳出血を疑う。 ・後頭蓋窩は狭く、血腫は脳幹圧迫と第四脳室閉塞による急性水頭症を起こし、意識障害が急速に進行する。 ・径3cm以上で症状増悪、脳幹圧迫や水頭症があれば手術(血腫除去、脳室ドレナージ)を考慮。 ・頭蓋内圧亢進では血圧は上昇(Cushing現象)し、血圧低下は脳ヘルニア末期の所見。
