体温は上がるのに月経が来ない―二相性の基礎体温が指し示す「下流」の障害
第105回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
基礎体温が二相性を示す無月経の原因部位はどれか。2つ選べ。
- a.視床下部
- b.下垂体
- c.卵巣
- d.子宮
- e.腟
対話形式の解説
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ドクターまとめ
基礎体温の高温相は排卵後の黄体が分泌するプロゲステロンによって生じるため、二相性であれば排卵があり、視床下部-下垂体-卵巣系は正常に機能していると判断できます。そのうえで無月経があれば、原因はホルモンに反応する子宮か、経血を排出する腟にあり、子宮性ではMayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群・Asherman症候群・子宮内膜結核、腟性では処女膜閉鎖や腟閉鎖による潜伏月経が代表です。一方、視床下部性・下垂体性・卵巣性の無月経では無排卵のため基礎体温は一相性となり、卵巣性ではFSH・LHが高値を示します。診療では妊娠の除外を最優先とし、ホルモン測定や負荷試験による消退出血の有無を組み合わせて障害部位を絞り込みます。基礎体温を「ホルモンの流れのどこまでが正常か」を示す指標として読む考え方は、無月経や不妊の診療全般の基礎になります。
解答・解説
正解はd, eです
基礎体温が二相性を示す意味
基礎体温(basal body temperature:BBT)は、朝の起床直後、安静状態で測定する体温である。排卵が起こると卵巣に黄体が形成され、黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が視床下部の体温調節中枢に作用して体温を約0.3〜0.5℃上昇させる。そのため排卵のある周期では、排卵前の低温相と排卵後の高温相からなる「二相性」を示す。高温相は通常12〜14日程度続き、黄体の退縮とともに体温が下がって月経が来る。 つまり基礎体温が二相性であれば、「排卵が起こり、黄体がプロゲステロンを分泌している」=視床下部→下垂体→卵巣という内分泌の流れ(視床下部-下垂体-卵巣系)が正常に機能していることを意味する。
無月経の原因部位との対応
月経は、卵巣ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の周期的変動に反応して子宮内膜が剝がれ落ち、その血液が腟を通って体外に出る現象である。したがって無月経の原因部位は、ホルモンを「作る・調節する側」(視床下部・下垂体・卵巣)と、ホルモンに「反応する・経血を排出する側」(子宮・腟)に分けて考えることができる。 ・視床下部・下垂体・卵巣に原因がある場合:排卵が起こらないため黄体が形成されず、基礎体温は一相性(低温相のみ)となる。 ・子宮・腟に原因がある場合:内分泌系は正常で排卵も起こるため基礎体温は二相性を保つが、子宮内膜が反応できない、あるいは経血が外に出られないために無月経となる。 このように、基礎体温が二相性を示すことは、無月経の原因がホルモン系より下流の子宮または腟にあることを示唆する。
選択肢考察
- ×a. 視床下部
視床下部性無月経(体重減少性無月経、神経性やせ症、心因性・ストレス性、過度の運動など)では、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が低下し、下垂体からのゴナドトロピン(LH・FSH)分泌も低下する。卵胞が発育せず排卵が起こらないため黄体は形成されず、基礎体温は一相性となる。
- ×b. 下垂体
下垂体性無月経(Sheehan症候群〔分娩時大出血後の下垂体壊死〕、下垂体腫瘍、下垂体手術後など)ではLH・FSHの分泌が低下し、卵巣が刺激されないため無排卵となる。プロゲステロンを分泌する黄体ができないので基礎体温は一相性である。
- ×c. 卵巣
卵巣性無月経(早発卵巣不全、Turner症候群などの性腺形成不全、両側卵巣摘出後、放射線・化学療法後など)では、卵胞が存在しないか反応しないため排卵が起こらず、黄体も形成されない。基礎体温は一相性となる。なお、このときはエストロゲン低下に対するフィードバックでFSH・LHは高値となる。
- ○d. 子宮
子宮性無月経では、視床下部-下垂体-卵巣系は正常で排卵も黄体形成も起こるため、基礎体温は二相性を示す。ホルモンは正常に周期的変動するにもかかわらず、それに反応する子宮内膜が欠如・破壊されているため月経が起こらない。代表例は、Müller管(将来の子宮・卵管・腟上部になる胎生期の管)の発生異常による先天性の子宮欠損(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群)、頻回の子宮内容除去術や子宮内感染後に子宮腔が癒着するAsherman症候群(子宮腔癒着症)、子宮内膜結核などである。
- ○e. 腟
処女膜閉鎖や腟閉鎖(腟横中隔など)では、子宮内膜は周期的に剝離・出血しているが経血が体外に出られないため、見かけ上の無月経となる。これを潜伏月経(仮性無月経)という。排卵は正常に起こっているため基礎体温は二相性である。思春期に周期的な下腹部痛を訴え、腟や子宮に経血が貯留して(腟留血腫・子宮留血腫)下腹部腫瘤として見つかることがある。
無月経の分類
・原発性無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの。 ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの。
原因部位別の主な疾患と基礎体温
・視床下部性:体重減少性無月経、神経性やせ症、ストレス、過度の運動、Kallmann症候群(嗅覚障害を伴うGnRH欠損)→一相性 ・下垂体性:Sheehan症候群、下垂体腺腫、プロラクチン産生腺腫による高プロラクチン血症 →一相性 ・卵巣性:Turner症候群、早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群(排卵障害)→一相性 ・子宮性:MRKH症候群、Asherman症候群、子宮内膜結核、子宮摘出後 →二相性 ・腟性:処女膜閉鎖、腟閉鎖 →二相性(潜伏月経)
Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群
46,XXの女性で、Müller管の発生異常により子宮(痕跡的)と腟上部が欠損・低形成となる。卵巣はMüller管由来ではないため正常で、排卵があり、二次性徴(乳房発育・陰毛)も正常である。原発性無月経を主訴に受診する。腎・尿路系の奇形を合併することがある。
無月経の診断の流れ
妊娠を必ず除外したうえで、基礎体温、ホルモン(LH・FSH・エストラジオール・プロラクチン・甲状腺ホルモン)の測定を行う。さらにゲスターゲン(黄体ホルモン)試験とエストロゲン・ゲスターゲン試験で消退出血の有無をみる。ホルモンを投与しても消退出血が起こらなければ子宮性無月経が疑われる。
補足
妊娠すると黄体が維持されるため高温相が続く(高温相が3週間以上続けば妊娠を疑う)。基礎体温が高温相のまま月経が来ない場合は、まず妊娠を考える。
POINT
・基礎体温の高温相は、排卵後の黄体から出るプロゲステロンによる。 ・二相性=排卵あり=視床下部-下垂体-卵巣系は正常。 ・二相性を示す無月経の原因部位は子宮と腟(子宮性:MRKH症候群、Asherman症候群/腟性:処女膜閉鎖・腟閉鎖による潜伏月経)。 ・視床下部性・下垂体性・卵巣性の無月経は無排卵のため一相性。 ・ホルモン負荷試験で消退出血がなければ子宮性無月経を考える。
