意識しなくても漏れない理由―内肛門括約筋だけが「不随意」な訳
第105回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
排便機能に関与する筋肉のうち不随意筋はどれか。
- a.内肛門括約筋
- b.外肛門括約筋
- c.恥骨直腸筋
- d.恥骨尾骨筋
- e.腸骨尾骨筋
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
筋肉は平滑筋・心筋が不随意筋、骨格筋が随意筋という原則があり、排便に関わる筋ではそれぞれの組織学的な由来を考えることが鍵となります。内肛門括約筋は消化管の内輪走筋層が肥厚した平滑筋で、自律神経に支配され、安静時の肛門閉鎖を無意識に担う唯一の不随意筋です。外肛門括約筋と、恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋からなる肛門挙筋は骨格筋で、陰部神経や仙骨神経に支配される随意筋であり、恥骨直腸筋は直腸肛門角をつくって便の保持に働きます。排便は直腸伸展による直腸肛門抑制反射で内肛門括約筋が弛緩し、外肛門括約筋と恥骨直腸筋を意識的に緩めることで成立し、この反射の消失はHirschsprung病の診断に役立ちます。筋の性質と神経支配を結びつけて理解しておくことは、便失禁や排便障害の病態を考えるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はaです
排便(排便の保持と排出)に関わる筋肉を、随意筋か不随意筋かで分類できるかを問う一般問題である。
考え方
筋肉は組織学的に平滑筋・心筋・骨格筋の3種類に分けられ、原則として平滑筋と心筋は自律神経に支配される不随意筋、骨格筋は体性神経(運動神経)に支配される随意筋である。したがって、各選択肢の筋が「平滑筋か骨格筋か」を判断すればよい。 消化管の壁の筋層は、内側の輪走筋と外側の縦走筋からなる平滑筋である。この内輪走筋層が肛門管の部分で厚くなったものが内肛門括約筋であり、消化管の筋層の延長であるから平滑筋、すなわち不随意筋となる。 これに対し、外肛門括約筋と、骨盤底を形づくる肛門挙筋(恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋)は、いずれも骨格筋であり、陰部神経や仙骨神経の枝(主にS2〜S4)に支配される随意筋である。 以上から、不随意筋は内肛門括約筋のみである。
選択肢考察
- ○a. 内肛門括約筋
不随意筋であり、これが正解である。内肛門括約筋は直腸の内輪走筋層が肛門管の部分で肥厚したもので、平滑筋からなる。自律神経支配を受け、交感神経(下腹神経)は収縮を、副交感神経(骨盤内臓神経)は弛緩を促す。安静時には持続的に収縮しており、肛門管の静止圧の大部分(おおむね7〜8割)を担って、意識しなくても便やガスが漏れないように保っている。直腸に便が入って直腸壁が伸展されると、反射的に弛緩する(直腸肛門抑制反射)。
- ×b. 外肛門括約筋
随意筋であるため誤りである。外肛門括約筋は内肛門括約筋の外側を取り囲む骨格筋で、消化管の縦走筋層とは由来が異なる。陰部神経(S2〜S4)の支配を受け、意識的に締めることができる。便意を感じても排便に適した状況でないときに肛門を締めて我慢できるのは、この筋の働きによる。随意収縮によって肛門管の圧(随意収縮圧、スクイーズ圧)を高める。
- ×c. 恥骨直腸筋
随意筋であるため誤りである。恥骨直腸筋は肛門挙筋の一部で、恥骨から起こって直腸と肛門管の移行部の後方をU字状に取り巻き、再び恥骨に戻る骨格筋である。安静時には直腸を前方へ引き寄せて直腸肛門角(安静時おおよそ90°前後)を形成し、便の保持に重要な役割を果たす。排便時にはこの筋が弛緩して直腸肛門角が鈍角になり、便が通りやすくなる。
- ×d. 恥骨尾骨筋
随意筋であるため誤りである。恥骨尾骨筋は恥骨の後面から起こり、肛門尾骨靱帯や尾骨に付着する骨格筋で、肛門挙筋の主要部分を構成する。骨盤内臓器を下から支える骨盤底の一部として働き、排便・排尿の調節や腹圧に対する支持に関与する。
- ×e. 腸骨尾骨筋
随意筋であるため誤りである。腸骨尾骨筋は内閉鎖筋の筋膜が肥厚した肛門挙筋腱弓から起こり、尾骨や肛門尾骨靱帯に付着する骨格筋で、肛門挙筋の後外側部を構成する。比較的薄い筋であるが、骨盤底の支持に関わる。
排便に関わる筋の整理
・内肛門括約筋:平滑筋(不随意筋)。自律神経支配(交感神経で収縮、副交感神経で弛緩)。安静時の肛門閉鎖の主役。 ・外肛門括約筋:骨格筋(随意筋)。陰部神経支配。意識的な肛門の締めを担う。 ・肛門挙筋(恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋):骨格筋(随意筋)。仙骨神経の枝や陰部神経に支配され、骨盤底を形成する。恥骨直腸筋は直腸肛門角をつくり便の保持に働く。なお、恥骨直腸筋は外肛門括約筋と一体となって働くことから、外肛門括約筋の一部とみなす考え方もある。
排便の仕組み
1. 便が直腸に入り直腸壁が伸展されると、その刺激が便意として感じられる。 2. 同時に内肛門括約筋が反射的に弛緩する(直腸肛門抑制反射)。 3. 排便してよい状況であれば、外肛門括約筋と恥骨直腸筋を意識的に弛緩させ、腹圧をかけて便を排出する。 4. 排便に適さない状況では、外肛門括約筋と恥骨直腸筋を随意的に収縮させて便を保持する。
臨床との関連
・ヒルシュスプルング病では、腸管壁内神経節細胞が欠如しているため直腸肛門抑制反射が消失する。直腸肛門内圧検査でこの反射の有無を調べることが診断に役立つ。 ・分娩時の損傷や陰部神経障害では外肛門括約筋の機能が低下し、便失禁の原因となる。
POINT
・平滑筋・心筋は不随意筋、骨格筋は随意筋が原則。 ・内肛門括約筋は消化管の内輪走筋層の延長で平滑筋=不随意筋(自律神経支配)。 ・外肛門括約筋と肛門挙筋(恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋)は骨格筋=随意筋(陰部神経・仙骨神経支配)。 ・安静時の肛門閉鎖は主に内肛門括約筋、意識的な我慢は外肛門括約筋と恥骨直腸筋が担う。
