子どもの命は救われてきたか―開発途上国の保健医療を数字と対策で読む
第105回医師国家試験 B問題 第18問
国試問題にチャレンジ
開発途上国の保健医療について誤っているのはどれか。
- a.成人HIV感染率はサハラ以南アフリカが最も高い。
- b.5歳未満児死亡率はこの20年で横ばいである。
- c.肺炎は5歳未満児の3大死因の一つである。
- d.乳児の下痢には母乳の継続が有効である。
- e.マラリアの予防には蚊帳が有効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
世界の5歳未満児死亡率は、予防接種、経口補水療法、殺虫剤処理蚊帳、母乳育児、水・衛生環境の改善などにより1990年以降大きく低下しており、「横ばい」は誤りです。5歳未満児の主な死因は、新生児期の疾患を除けば肺炎・下痢症・マラリアで、背景に低栄養があり、死亡の約半数は新生児期に起こります。乳児の下痢ではORSで脱水に対処しつつ母乳を継続し、マラリアには殺虫剤処理蚊帳が有効、HIVの成人感染率はサハラ以南アフリカで最も高いことも押さえておきましょう。GOBIに代表される安価で簡便な介入の意義とMDGs・SDGsの目標を理解しておくことは、国際保健の全体像をつかむ基礎となります。
解答・解説
正解はbです
開発途上国の保健医療に関する基本的な状況を問う一般問題で、「誤っているもの」を選ぶ形式である。
考え方
開発途上国の子どもの健康を考えるうえで押さえるべき柱は次の3つである。 1. 5歳未満児死亡率(under-5 mortality rate:出生1,000人あたり5歳の誕生日までに死亡する数)は、国際社会の取り組みによって1990年以降大きく低下してきた。 2. 5歳未満児の主要な死因は、新生児期の疾患(早産合併症・出生時仮死など)を除くと、肺炎・下痢症・マラリアといった感染症であり、その背景には低栄養がある。 3. これらの多くは、母乳栄養、経口補水療法(ORS)、予防接種、殺虫剤処理蚊帳などの安価で簡便な手段で予防・治療できる。 この3点を知っていれば、「5歳未満児死亡率が20年間横ばい」という記述が事実に反すると判断できる。国際目標(ミレニアム開発目標〈MDGs〉、その後継の持続可能な開発目標〈SDGs〉)の中心指標の一つとして5歳未満児死亡率の低下が掲げられ、実際に世界全体で大幅に改善したという流れを理解しておくことが大切である。 なお、本問は統計数値の年次に依存する内容を含むため、現在の国試対策としての有用性は高くない設問とされている。ただし、開発途上国の子どもの死因や基本的な保健対策の知識は現在も重要である。
選択肢考察
- ×a. 成人HIV感染率はサハラ以南アフリカが最も高い。
記述は正しい。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者は世界に約3,000万人以上存在し、その約3分の2がサハラ以南アフリカに集中している。成人(15〜49歳)の感染率も同地域、とくに東部・南部アフリカが世界で突出して高く、国によっては成人の1割を超える。異性間性交渉による感染が中心で、女性の感染者が多いことや母子感染が多いことも特徴である。
- ○b. 5歳未満児死亡率はこの20年で横ばいである。
記述は誤りであり、これが正解となる。世界の5歳未満児死亡率は1990年に出生1,000人あたり約90人であったものが、2010年頃には約50〜60人、近年では40人を下回る水準まで低下しており、明らかに改善している。1990年から約20年の間にも3〜4割程度の減少がみられた。予防接種の普及、ORSの普及、殺虫剤処理蚊帳の配布、母乳育児の推進、安全な水や衛生環境の改善などが寄与している。ただし、サハラ以南アフリカや南アジアでは依然として高く、地域間格差は大きい。
- ×c. 肺炎は5歳未満児の3大死因の一つである。
記述は正しい。新生児期特有の死因(早産合併症、出生時仮死など)を除くと、5歳未満児の感染症による死因の上位は肺炎・下痢症・マラリアであり、肺炎は常に最大級の死因である。かつては肺炎・下痢症・麻疹、あるいは肺炎・下痢症・低栄養が3大死因と整理されていた時期もあるが、いずれの整理でも肺炎は含まれる。肺炎球菌ワクチンやインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、早期の抗菌薬治療が対策の柱である。
- ×d. 乳児の下痢には母乳の継続が有効である。
記述は正しい。乳幼児の急性下痢症では、脱水の予防・是正を経口補水液(ORS:oral rehydration solution)で行うことが治療の基本であり、同時に母乳は中断せずに続けることが推奨される。母乳は水分・電解質・栄養を補給できるうえ、分泌型IgAなどの感染防御因子を含み、腸粘膜の回復を助ける。絶食はかえって低栄養を招くため勧められない。WHOとUNICEFはORSに加えて亜鉛の補充も推奨している。
- ×e. マラリアの予防には蚊帳が有効である。
記述は正しい。マラリアはマラリア原虫(Plasmodium属)による感染症で、ハマダラカ(Anopheles属)が主に夜間に吸血する際に媒介する。そのため就寝時に殺虫剤処理蚊帳(ITN:insecticide-treated net)を用いることは、安価で効果の高い予防策であり、とくに5歳未満児や妊婦に対する対策の中心となっている。ほかに屋内残留噴霧、虫除け剤、流行地への渡航者に対する予防内服なども用いられる。
5歳未満児死亡の現状
・世界の5歳未満児死亡数は1990年に年間約1,200万人を超えていたが、近年は年間約500万人前後まで減少している。 ・死亡の約半数は生後28日以内の新生児期に起こり、早産合併症、出生時仮死・分娩外傷、新生児敗血症などが主な原因である。 ・新生児期以降では肺炎、下痢症、マラリアが主要な死因であり、低栄養がこれらの死亡の背景要因として大きく関与する。 ・死亡はサハラ以南アフリカと南アジアに集中している。
国際目標
・ミレニアム開発目標(MDGs、2000〜2015年):目標4として「5歳未満児死亡率を1990年の水準から3分の2削減」を掲げた。 ・持続可能な開発目標(SDGs、2016〜2030年):5歳未満児死亡率を出生1,000人あたり25人以下、新生児死亡率を12人以下に下げることを目標としている。
子どもの命を守る基本的な手段
・UNICEFが提唱したGOBI(Growth monitoring:成長モニタリング、Oral rehydration:経口補水療法、Breast feeding:母乳育児、Immunization:予防接種)は、プライマリヘルスケアの代表的な手段としてよく知られる。 ・これに加え、殺虫剤処理蚊帳、安全な水と衛生設備(WASH)、ビタミンA補給、亜鉛補充なども重要である。
HIV/エイズ
・サハラ以南アフリカが感染者数・成人感染率ともに世界最大であり、母子感染予防や抗レトロウイルス療法の普及が課題となってきた。
POINT
・世界の5歳未満児死亡率は1990年以降大きく低下している(横ばいではない)。 ・5歳未満児の主要死因は、新生児期の疾患を除くと肺炎・下痢症・マラリア。背景に低栄養。 ・乳幼児下痢症の基本はORSによる脱水対策と母乳の継続(亜鉛補充も推奨)。 ・マラリアはハマダラカが媒介し、殺虫剤処理蚊帳が有効な予防策。 ・HIV感染者数・成人感染率ともにサハラ以南アフリカが最多。
