4か月健診の開排制限―いきなりギプスはNG、月齢で選ぶ股関節脱臼の治療
第105回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
4か月の男児。健康診査で左股関節の開排制限を指摘され来院した。初診時の下肢の写真を別に示す。 対応として適切でないのはどれか。

- a.家族歴と成長歴とを聴取する。
- b.超音波検査を行う。
- c.徒手整復後にギプス固定を行う。
- d.リーメンビューゲル装具による治療を行う。
- e.将来,変形性関節症になる可能性を両親に説明する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児の無痛性の片側開排制限と大腿皮膚溝の非対称は、発育性股関節形成不全(DDH)を疑う重要な所見であり、女児、骨盤位、家族歴、寒い季節の出生、下肢を伸ばした包み込みなどが危険因子です。乳児期は骨頭が軟骨主体でX線に写りにくいため、被曝のない超音波検査が診断と整復確認に有用です。生後3〜6か月頃の治療はリーメンビューゲル装具が第一選択で、いきなりの徒手整復・ギプス固定は大腿骨頭壊死の危険があるため不適切であり、装具無効例や遅発見例に対し牽引の後に段階的に行います。整復後も臼蓋形成不全が遺残すると成人期に二次性変形性股関節症を生じうるため、長期の経過観察と家族への説明が欠かせません。月齢に応じた治療段階と医原性合併症を理解することは、乳児健診から整形外科診療までをつなぐ実践的な知識になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・4か月の男児。乳児健康診査(3〜4か月健診)で左股関節の開排制限(仰向けで股・膝を曲げた状態から両膝を外側に開く動きが制限される)を指摘された。 ・痛みや発熱の訴えはなく、全身状態の異常もない。 ・下肢の写真では、大腿内側の皮膚のしわ(大腿皮膚溝)の数や深さに左右差がみられ、患側の大腿が相対的に短く見える。
診断へのプロセス
乳児期に無痛性・非炎症性の一側性開排制限と大腿皮膚溝の非対称があれば、まず発育性股関節形成不全(DDH:developmental dysplasia of the hip、従来の先天性股関節脱臼)を考える。脱臼側では大腿骨頭が後上方へ外れているため、大腿が短縮して皮膚溝が増えたり深くなったりし、内転筋の緊張により開排が制限される。膝を立てると患側の膝の高さが低くなる所見(Allis徴候)や、クリック徴候も参考になる。化膿性股関節炎では発熱や不機嫌・患肢を動かさないなどの症状を伴い、Perthes病は幼児〜学童期の疾患であり、4か月児・無症状という本例の状況には合わない。 確定診断には超音波検査(乳児期では骨頭がまだ軟骨で単純X線に写りにくいため特に有用)や単純X線検査を用いる。
設問の考え方
本問は「適切でない」対応を選ぶ問題である。DDHの治療は発見時の月齢によって異なり、生後3〜6か月頃(おおむね7か月未満)に発見された脱臼では、リーメンビューゲル装具による保存的整復が第一選択である。いきなり徒手整復してギプス固定を行うのは、装具で整復できなかった例や発見が遅れた例に対する次の段階の治療であり、しかも強引な整復は大腿骨頭壊死の原因となる。月齢に応じた治療段階を理解していれば正解を導ける。
選択肢考察
- ×a. 家族歴と成長歴とを聴取する。
適切な対応である。DDHには明らかな遺伝的素因があり、家族(とくに母・姉妹)に股関節脱臼や臼蓋形成不全の既往があることはリスク因子となる。また、骨盤位(逆子)での出生、女児、寒い季節の出生、両下肢を伸ばした状態でおむつや衣類で包む習慣(股関節を伸展・内転位に保つ)なども危険因子である。成長歴では、周産期の胎位や分娩様式、出生後の育児環境(抱き方・おむつのあて方)、運動発達の状況などを確認することで、診断の裏付けや生活指導に役立つ。
- ×b. 超音波検査を行う。
適切な対応である。乳児の大腿骨頭や臼蓋の大部分は軟骨で、単純X線では骨頭核(大腿骨頭の骨化中心、生後3〜6か月頃に出現)がまだ見えにくく、位置関係の評価が難しい。超音波検査は軟骨成分を直接描出でき、骨頭と臼蓋の関係(Graf法による臼蓋形態の分類など)を評価できる。放射線被曝がなく非侵襲的で、治療中の整復状態の確認にも繰り返し使えるため、新生児〜乳児期の股関節脱臼の診断に広く用いられる。
- ○c. 徒手整復後にギプス固定を行う。
適切でない対応であり、これが正解である。生後4か月で発見されたDDHの初期治療は、リーメンビューゲル装具による機能的整復が第一選択であり、多くの例(おおむね80%程度)はこれで整復される。いきなり徒手整復してギプス固定を行うと、脱臼した骨頭を周囲の筋・軟部組織の緊張に逆らって無理に押し込むことになり、骨頭への血流が障害されて大腿骨頭壊死(ペルテス様変形)を起こす危険が高い。徒手整復とギプス固定は、装具で整復が得られなかった例や、生後7〜8か月以降に遅れて発見され装具の効果が期待しにくい例に対し、まず牽引療法(開排位持続牽引など)で周囲筋の緊張を十分に緩めてから、全身麻酔下に愛護的に整復し、ギプス固定する段階的治療として行われる。それでも整復できなければ観血的整復術を検討する。
- ×d. リーメンビューゲル装具による治療を行う。
適切な対応である。リーメンビューゲル(Riemenbügel)装具は、肩と下肢をバンドでつなぎ、股関節を屈曲位に保ったまま膝の伸展と内転を制限する装具である。股関節を屈曲・開排位に保ちつつ児自身の下肢の自然な動き(蹴る運動)を利用して、骨頭を臼蓋内へ自然に整復させる。生後3〜6か月頃に発見された脱臼に対する第一選択の治療であり、整復を確認した後は数か月間装着を続けて関節の安定化を図る。ただし、無理な強制開排位での装着は大腿骨頭壊死の原因となるため、装着状態と整復の有無を超音波などで定期的に確認する。
- ×e. 将来,変形性関節症になる可能性を両親に説明する。
適切な対応である。整復が得られた後も、臼蓋形成不全(臼蓋のかぶりが浅い状態)や大腿骨頭の変形が残存することがあり、成人以降に二次性の変形性股関節症を発症するリスクがある。日本の変形性股関節症の多くは臼蓋形成不全を背景とする二次性のものである。したがって、治療後も骨成長が終わるまで長期的に経過観察が必要であり、将来の見通しや定期受診の必要性を両親に説明しておくことは重要である。
発育性股関節形成不全(DDH)の概要
・定義:大腿骨頭が寛骨臼(臼蓋)から外れている(脱臼)、または外れかかっている(亜脱臼)状態、および臼蓋の形成不全を含む疾患概念。出生後の環境要因も発症に関与することから、「先天性股関節脱臼」から「発育性股関節形成不全」へと呼称が改められた。 ・疫学:わが国では、おむつのあて方や抱き方の指導(股関節を開排位に保つ育児法)が普及して頻度は大きく減少し、現在はおおむね0.1〜0.3%程度とされる。女児に多く、男児の数倍(5〜9倍程度)である。左側に多い。 ・危険因子:女児、骨盤位分娩、家族歴、寒い季節の出生、下肢を伸展位で包む習慣など。
診察所見
・開排制限:最も重要な所見で、乳児健診でのスクリーニングの中心となる。 ・大腿皮膚溝(大腿・鼠径部のしわ)の非対称。 ・Allis徴候:仰臥位で両膝を立てると患側の膝が低い。 ・クリック徴候(Ortolani法など):新生児期に、脱臼した骨頭が整復される際のクリック音・感触。生後数週以降は出にくくなる。 ・歩行開始後は、跛行やTrendelenburg徴候(片脚起立時に反対側の骨盤が下がる)がみられる。
画像診断
・超音波検査(Graf法など):乳児期に有用、被曝なし。 ・単純X線:Wollenberg線(両側Y軟骨を結ぶ線)とOmbrédanne線(臼蓋外縁からの垂線)による骨頭位置の評価、Shenton線の乱れ、臼蓋角(α角)の増大などで評価する。
月齢に応じた治療の流れ
・新生児期:開排を妨げない抱き方・おむつのあて方の指導で自然整復・安定化を待つ。 ・生後3〜6か月頃:リーメンビューゲル装具(第一選択)。 ・装具で整復されない例、発見が遅れた例(生後7〜8か月以降など):牽引療法で軟部組織を緩めた後、全身麻酔下の徒手整復とギプス固定。 ・それでも整復困難(関節唇の内反など介在物がある)な例:観血的整復術。 ・遺残した臼蓋形成不全:骨盤骨切り術などを学童期以降に検討。
合併症
・大腿骨頭壊死:無理な整復や強制的な開排位固定で生じる重要な医原性合併症。 ・二次性変形性股関節症:遺残した臼蓋形成不全を背景に成人期に発症する。
POINT
・乳児の無痛性の開排制限+大腿皮膚溝の非対称 → 発育性股関節形成不全(DDH)を疑う。 ・危険因子:女児、骨盤位、家族歴、寒い季節の出生、下肢伸展位での包み込み。 ・乳児期の診断には超音波検査が有用(骨頭がまだ軟骨で単純X線に写りにくい)。 ・生後3〜6か月頃の治療はリーメンビューゲル装具が第一選択。いきなりの徒手整復・ギプス固定は大腿骨頭壊死のリスクがあり不適切。 ・装具無効例・遅発見例は、牽引→全身麻酔下徒手整復→ギプス固定→(無効なら)観血的整復と段階的に進める。 ・将来の二次性変形性股関節症のリスクがあり長期経過観察が必要。
