横隔膜を越えたか、10%を超えたか―2つの物差しで決める悪性リンパ腫の病期
第105回医師国家試験 A問題 第29問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。頸部腫瘤を主訴に来院した。この半年で6 kgの体重減少を認めた。身長155 cm,体重45 kg。体温37.6℃。頸部と腋窩とに直径2 cmのリンパ節を数個触知する。腹部造影CTで腹部大動脈周囲にリンパ節の腫大がみられ,頸部リンパ節生検で悪性リンパ腫と診断された。 病期はどれか。
- a.ⅡA
- b.ⅡB
- c.ⅢA
- d.ⅢB
- e.ⅣA
対話形式の解説
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ドクターまとめ
悪性リンパ腫の病期はAnn Arbor分類(Cotswolds改訂)で決め、病変の広がりをⅠ〜Ⅳ期、B症状の有無をA・Bで表します。横隔膜の片側に限局すればⅡ期まで、上下両側のリンパ節領域に及べばⅢ期、肝臓や骨髄など節外臓器へのびまん性浸潤があればⅣ期です。B症状は38℃を超える原因不明の発熱、寝具を替えるほどの盗汗、6か月以内の10%を超える体重減少のいずれかで、体重減少率は元の体重を分母に計算します。本例は頸部・腋窩と腹部大動脈周囲に病変があり、約11.8%の体重減少を伴うためⅢBとなり、37.6℃の微熱やかゆみはB症状の根拠にならない点に注意が必要です。病期とB症状の正確な判定は治療方針や予後評価の土台となるため、定義の数値まで正確に押さえておくことが重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・68歳女性。頸部腫瘤を主訴に受診し、頸部リンパ節生検で悪性リンパ腫と確定している。 ・病変の分布:頸部と腋窩に直径2 cmのリンパ節を複数触知し、さらに腹部造影CTで腹部大動脈周囲リンパ節の腫大がある。 ・全身症状:半年で6 kgの体重減少。現体重45 kgなので、半年前は約51 kgであり、減少率は6÷51≒11.8%となる。体温は37.6℃である。
病期の決め方
悪性リンパ腫の病期は、Ann Arbor分類(およびそのCotswolds改訂、近年はLugano分類)で決める。考え方は「病変がどこまで広がっているか(Ⅰ〜Ⅳ)」と「全身症状(B症状)があるか(A/B)」の2軸である。 1)解剖学的広がり(ローマ数字) 頸部・腋窩は横隔膜より上、腹部大動脈周囲は横隔膜より下のリンパ節領域である。病変が横隔膜の上下両側のリンパ節領域に及んでいるので、少なくともⅢ期となる。問題文には肝・骨髄・肺など節外臓器へのびまん性浸潤を示す所見はないため、Ⅳ期とする根拠はない。よってⅢ期である。 2)B症状の有無(A/B) B症状は次の3つのいずれかがあれば「B」と付記する。 ・原因不明の38℃を超える発熱 ・寝具を替えるほどの盗汗(寝汗) ・診断前6か月以内の、原因不明の10%を超える体重減少 本例の体温37.6℃は発熱の基準(38℃超)を満たさないが、半年で約11.8%の体重減少は基準を満たす。したがってB症状ありと判断する。 以上から病期はⅢBとなる。
設問の考え方
この種の問題では、まず「横隔膜のどちら側に病変があるか」でⅠ・Ⅱ期とⅢ期を分け、次に節外臓器へのびまん性浸潤の有無でⅣ期かを判断し、最後にB症状の定義(特に体重減少の10%という数値と、発熱の38℃という数値)を当てはめる。体重減少は現体重ではなく元の体重を分母として計算することに注意する。
選択肢考察
- ×a. ⅡA
Ⅱ期は、横隔膜の同じ側に限局した2つ以上のリンパ節領域の病変を指す。本例は頸部・腋窩(横隔膜より上)と腹部大動脈周囲(横隔膜より下)の両側に病変があるためⅡ期ではない。さらに半年で10%を超える体重減少というB症状があるので「A」も誤りである。
- ×b. ⅡB
B症状があるという判断は正しい。しかし、病変が横隔膜の上下両側のリンパ節領域に及んでいるため、横隔膜の片側に限られるⅡ期には当てはまらない。
- ×c. ⅢA
横隔膜の上下両側にリンパ節病変があるのでⅢ期という判断は正しい。しかし、半年で6 kg(約51 kgから45 kgへ、約11.8%)の原因不明の体重減少は、B症状の基準である「6か月以内に10%を超える体重減少」を満たす。したがって「A(B症状なし)」ではない。
- ○d. ⅢB
頸部・腋窩(横隔膜より上)と腹部大動脈周囲(横隔膜より下)の両側にリンパ節病変があり、節外臓器へのびまん性浸潤を示す所見はないのでⅢ期である。加えて、診断前6か月以内に約11.8%の体重減少があり、B症状の基準(10%超)を満たす。体温37.6℃は発熱の基準(38℃超)には届かないが、B症状は3項目のうち1つでもあれば「B」とするため、ⅢBとなる。
- ×e. ⅣA
Ⅳ期は、肝・骨髄・肺など節外臓器へのびまん性(多発性)浸潤がある場合を指す。本例ではリンパ節病変のみが示され、節外臓器への浸潤を示す所見はないのでⅣ期ではない。またB症状があるので「A」も誤りである。
Ann Arbor分類(Cotswolds改訂)の概要
・Ⅰ期:1つのリンパ節領域、またはリンパ組織(脾臓、ワルダイエル輪など)の病変。あるいはリンパ節以外の1臓器・1部位に限局した病変(ⅠE)。 ・Ⅱ期:横隔膜の同じ側にある2つ以上のリンパ節領域の病変。節外病変が隣接して限局的に及ぶ場合はⅡE。 ・Ⅲ期:横隔膜の上下両側にあるリンパ節領域の病変。脾臓病変を伴えばⅢS、限局した節外病変を伴えばⅢEと付記する。 ・Ⅳ期:1つ以上の節外臓器へのびまん性または多発性の浸潤(リンパ節病変の有無を問わない)。肝浸潤や骨髄浸潤があればⅣ期となる。
付記記号
・A:B症状なし ・B:B症状あり(以下のいずれか) ① 原因不明の38℃を超える発熱 ② 寝具を替えるほどの盗汗 ③ 診断前6か月以内の原因不明の10%を超える体重減少 ・E:リンパ節から連続して、または限局して節外臓器に病変がある ・X:巨大腫瘤(bulky disease)。縦隔の腫瘤が胸郭横径の1/3を超える、または最大径10 cm以上など
補足
・かゆみ(瘙痒感)や倦怠感はB症状に含まれない。 ・病期決定には、CT、PET-CT(ポジトロン放出断層撮影とCTの組み合わせ)、必要に応じて骨髄検査を用いる。現在はLugano分類でもAnn Arborの枠組みが用いられ、ホジキンリンパ腫ではA/Bの付記が引き続き重視される。 ・横隔膜を境に病変を上下に分けるのが病期決定の基本である。腹部大動脈周囲・腸間膜・骨盤内・鼠径のリンパ節は横隔膜より下の領域となる。
POINT
・悪性リンパ腫の病期はAnn Arbor分類(Cotswolds改訂)で決める。 ・横隔膜の片側ならⅡ期まで、上下両側ならⅢ期、節外臓器へのびまん性浸潤があればⅣ期。 ・B症状は「38℃を超える発熱」「寝具を替えるほどの盗汗」「6か月以内に10%を超える体重減少」の3つ。1つでもあればB。 ・体重減少率は元の体重を分母にして計算する(本例:6÷51≒11.8%)。37.6℃は発熱の基準を満たさない。
