健診で見つかった両側肺門の腫れと目のかすみ―ACEが語るサルコイドーシス
第104回医師国家試験 I問題 第68問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。職場の健康診断で胸部エックス線写真の異常を指摘され来院した。最近,目のかすみを自覚している。喫煙歴はない。胸部エックス線写真を別に示す。 この疾患の診断に有用な検査項目はどれか。

- a.ACE〈angiotensin-converting enzyme〉
- b.NSE〈neuron-specific enolase〉
- c.ANCA
- d.リンパ球刺激試験
- e.インターフェロンγ試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の健診で見つかった左右対称の両側肺門リンパ節腫脹(BHL)に、霧視などのぶどう膜炎を思わせる眼症状を伴えば、全身性の肉芽腫性疾患であるサルコイドーシスを第一に考えます。肉芽腫の類上皮細胞がACEを産生するため血清ACE活性が上昇し、診断や活動性の評価に役立ちますが、感度は十分でなくACE阻害薬で低値となる点に注意が必要です。ほかにリゾチームや可溶性IL-2受容体の上昇、高カルシウム血症、BALでのCD4/CD8比上昇、ツベルクリン反応の陰性化が特徴で、確定診断は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の組織学的証明によります。NSEは肺小細胞癌、ANCAはANCA関連血管炎、薬剤リンパ球刺激試験は薬剤アレルギー、インターフェロンγ遊離試験は結核感染の検査であり、それぞれの対象疾患と結びつけて整理しておくと鑑別に強くなります。突然死につながる心臓病変の検索まで含め、一つの所見から全身を見渡す姿勢を身につけることが大切です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
(1) 25歳の若年男性で、自覚症状に乏しく、健康診断の胸部エックス線写真で異常を指摘された。 (2) 胸部エックス線写真では、両側の肺門部が左右対称性に腫大している。これは両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)の所見である。肺野に目立つ浸潤影や腫瘤影はない。 (3) 最近、目のかすみ(霧視)を自覚している。若年者の霧視で胸部異常を伴う場合、ぶどう膜炎を疑う。 (4) 非喫煙者である。
診断のプロセス
BHLを来す疾患には、サルコイドーシス、悪性リンパ腫、肺癌・他臓器癌のリンパ節転移、肺結核(小児の初感染結核では片側性の肺門リンパ節腫脹が多い)、じん肺(珪肺など)などがある。本例は若年で全身症状や咳嗽に乏しく、健診で偶然見つかった左右対称性のBHLであり、さらにぶどう膜炎を思わせる眼症状を伴うことから、肺と眼を同時に侵す全身性の肉芽腫性疾患であるサルコイドーシスが最も考えやすい。サルコイドーシスは、健診の胸部エックス線でBHLとして発見されるきっかけと、霧視・飛蚊症などの眼症状で発見されるきっかけがわが国では多い。
設問の考え方
サルコイドーシスの診断に役立つ検査を選ぶ。サルコイドーシスの肉芽腫を構成する類上皮細胞やマクロファージはアンジオテンシン変換酵素(ACE)を産生するため、血清ACE活性が上昇し、診断基準の特徴的検査所見の一つに含まれている。他の選択肢は、それぞれ別の疾患(肺小細胞癌、ANCA関連血管炎、薬剤アレルギー、結核)の診断に用いる検査である。
選択肢考察
- ○a. ACE〈angiotensin-converting enzyme〉
サルコイドーシスでは、肉芽腫を形成する類上皮細胞や活性化マクロファージがACEを産生するため、血清ACE活性が上昇する。上昇の程度は全身の肉芽腫の量(病勢)を反映するとされ、診断の補助だけでなく活動性や治療効果の指標にも用いられる。わが国の診断基準では、血清ACE活性高値(またはリゾチーム高値)は、BHL、血清可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)高値、ガリウムシンチグラフィ/FDG-PETでの集積、気管支肺胞洗浄液(BALF)のリンパ球増加またはCD4/CD8比上昇と並ぶ特徴的検査所見の一つである。ただし感度は十分ではなく(正常値の症例も少なくない)、ACE遺伝子多型の影響も受け、ACE阻害薬内服中は低値となるので、結果の解釈には注意を要する。
- ×b. NSE〈neuron-specific enolase〉
神経特異エノラーゼ(NSE)は神経細胞や神経内分泌細胞に含まれる解糖系酵素で、肺小細胞癌や神経芽腫の腫瘍マーカーとして用いられる(肺小細胞癌ではProGRPも用いる)。肺小細胞癌も肺門・縦隔リンパ節腫大を来しうるが、喫煙者の高齢者に多く、非喫煙の25歳の男性でBHLと眼症状を示す本例には当てはまらない。
- ×c. ANCA
抗好中球細胞質抗体(ANCA)は、ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症〈旧称:Wegener肉芽腫症〉、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)の診断に用いる。多発血管炎性肉芽腫症では主にPR3-ANCA、顕微鏡的多発血管炎では主にMPO-ANCAが陽性となる。多発血管炎性肉芽腫症も肉芽腫を形成し眼病変を伴いうるが、肺病変は多発結節・空洞影が主で、BHLは典型的ではない。
- ×d. リンパ球刺激試験
薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は、患者のリンパ球を被疑薬とともに培養し、その増殖反応から薬剤に対する感作(主にIV型アレルギー)の有無を調べる検査で、薬剤性肺障害や薬剤性肝障害、薬疹の原因薬の推定に用いられる。本例には薬剤の使用歴がなく、サルコイドーシスの診断には用いない。
- ×e. インターフェロンγ試験
インターフェロンγ遊離試験(IGRA:クォンティフェロンやT-SPOTなど)は、結核菌に特異的な抗原で患者のリンパ球を刺激し、放出されるインターフェロンγを測定して結核菌感染の有無を調べる検査である。BCG接種の影響を受けない点がツベルクリン反応より優れる。結核もBHLの鑑別に挙がるが、サルコイドーシスの診断に有用な検査ではない。なお、サルコイドーシスでは細胞性免疫の変調によりツベルクリン反応が陰性化しやすい。
サルコイドーシスの概要
原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、侵された臓器に乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が形成される。何らかの抗原(アクネ菌〈Cutibacterium acnes〉などの関与が考えられている)に対するIV型アレルギー反応が想定されている。わが国では20~30歳代と中高年(特に女性)に発症の山がある。
主な臓器病変
・肺・胸郭内リンパ節:BHLが最も多い。肺野病変(リンパ路に沿った粒状影など)を伴うこともある。多くは無症状で、健診で発見される。 ・眼:ぶどう膜炎(特に肉芽腫性前部ぶどう膜炎、網膜血管周囲炎)。霧視・飛蚊症・羞明で発症し、眼科から発見されることも多い。 ・皮膚:結節性紅斑、皮膚サルコイド、瘢痕浸潤。 ・心臓:房室ブロック、心室性不整脈、心不全。突然死の原因となるため予後を左右する重要な病変である。 ・神経:顔面神経麻痺、尿崩症(視床下部・下垂体病変)など。 ・その他:耳下腺腫脹、肝脾病変、高カルシウム血症(肉芽腫内のマクロファージが活性型ビタミンDを産生するため)、腎病変など。
診断に用いる検査
・胸部エックス線・CT:BHL、縦隔リンパ節腫大、肺野のリンパ路に沿った粒状影。 ・血液検査:血清ACE活性上昇、リゾチーム上昇、sIL-2R上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症。 ・画像:ガリウムシンチグラフィやFDG-PETで病変部に集積。 ・気管支肺胞洗浄(BAL):リンパ球比率の増加、CD4/CD8比の上昇(3.5以上が目安)。過敏性肺炎(急性型ではCD4/CD8比低下)との鑑別点となる。 ・ツベルクリン反応:陰性化しやすい。 ・確定診断:経気管支肺生検、超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)、皮膚・リンパ節生検などで非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を証明し、結核などの他の肉芽腫性疾患を除外する。
治療と経過
BHLのみの症例は自然に軽快することが多く、経過観察が基本である。眼・心臓・神経病変や、進行する肺病変、高カルシウム血症などでは副腎皮質ステロイドを用いる。
BHLの鑑別
サルコイドーシス、悪性リンパ腫、癌のリンパ節転移、結核、じん肺(珪肺では卵殻状石灰化を呈することがある)。若年・無症状・左右対称・眼症状や皮膚症状の合併はサルコイドーシスを示唆する。
POINT
・若年者の健診で見つかった両側肺門リンパ節腫脹(BHL)+霧視(ぶどう膜炎)→ サルコイドーシス。 ・血清ACE活性上昇は肉芽腫の類上皮細胞が産生することによる。リゾチーム、sIL-2R上昇、高カルシウム血症も特徴。 ・BALではリンパ球増加とCD4/CD8比上昇(過敏性肺炎の急性型では低下)。 ・確定診断は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の組織学的証明。ツベルクリン反応は陰性化しやすい。 ・NSE:肺小細胞癌、ANCA:ANCA関連血管炎、DLST:薬剤アレルギー、IGRA:結核感染。
