夜に疼く高齢女性の膝―エックス線の「小さな凹み」から特発性膝骨壊死を見抜く
第104回医師国家試験 I問題 第59問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。6か月前からの右膝の疼痛と腫脹とを主訴に来院した。膝関節痛は夜間と階段昇降時とに増強する。右膝のエックス線写真を別に示す。 診断に最も有用なのはどれか。

- a.CT
- b.MRI
- c.関節造影
- d.超音波検査
- e.骨シンチグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
60歳以上の女性で、誘因なく生じた膝内側の痛みに夜間痛・安静時痛を伴う場合は、変形性膝関節症だけでなく特発性膝骨壊死を考えます。好発部位は大腿骨内側顆の荷重部で、単純エックス線写真では初期に異常がなく、進行すると荷重面の扁平化、軟骨下の透亮像、周囲の骨硬化像が現れます。診断と病変範囲の評価に最も有用なのはMRIで、骨髄浮腫や軟骨下の低信号帯に加え半月板や軟骨も評価でき、被曝もありません。骨シンチグラフィは感度が高いものの特異性が低く、CTは形態評価向き、超音波や関節造影は骨内部を評価できません。痛みの性質から病態を推定し、知りたい情報に合わせて画像検査を選ぶ考え方は、運動器診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・68歳の女性、6か月前からの右膝の疼痛と腫脹:高齢女性の慢性の膝関節痛である。 ・疼痛は夜間と階段昇降時に増強する:荷重時の痛み(運動時痛)に加え、安静時である夜間にも痛む。変形性膝関節症の痛みは動作開始時や荷重時が中心で、安静にすると軽快するのが普通であり、強い夜間痛は骨内部の病変(骨壊死、骨髄浮腫、腫瘍、感染など)を疑わせる。 ・右膝単純エックス線写真(正面像):腓骨が写っている側が外側である。反対側の大腿骨内側顆の荷重面(脛骨と接する部分)で、関節面直下に扁平化と透亮像(骨が薄く黒く抜けて見える部分)がみられる。一方、関節裂隙の著明な狭小化や大きな骨棘など、進行した変形性膝関節症の所見は目立たない。
診断のプロセス
高齢女性の膝痛の鑑別には、変形性膝関節症、関節リウマチ、偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)、化膿性関節炎、骨腫瘍、神経障害性関節症(Charcot関節)、そして膝の骨壊死が挙がる。ステロイド使用や飲酒などの誘因の記載がなく、60歳以上の女性で、大腿骨内側顆の荷重部に限局した軟骨下の病変があり、夜間痛を伴うことから、特発性膝骨壊死(大腿骨内側顆骨壊死、spontaneous osteonecrosis of the knee:SONK)と考えられる。偽痛風であれば半月板の石灰化、関節リウマチであれば両側性・多関節性の炎症と関節裂隙の均等な狭小化、Charcot関節であれば高度の関節破壊がみられるはずであり、本例とは合わない。
設問の考え方
本症は、骨の内部(骨髄)と軟骨下骨で起こる変化が病態の本質であり、単純エックス線写真では発症から数週〜数か月たたないと異常が現れず、初期には正常にみえることも多い。病変の存在、範囲、大きさ(予後や治療方針の決定に重要)を最も鋭敏かつ詳しく、しかも放射線被曝なしに評価できるのはMRIである。
選択肢考察
- ×a. CT
CTは骨皮質や骨梁の形態、軟骨下骨の骨折線、骨片の分離・陥没などを立体的に詳しく評価でき、進行期に病変の形を確認するには役立つ。しかし、骨壊死の初期にみられる骨髄浮腫など骨内部の信号変化はとらえられず、骨の形態変化が乏しい段階では異常を検出しにくい。病変の検出と範囲評価の点でMRIに劣るため、最も有用とはいえない。
- ○b. MRI
MRIは骨髄の水分量の変化を鋭敏にとらえられるため、単純エックス線写真で異常がない初期から、大腿骨内側顆の軟骨下に広がる骨髄浮腫(T1強調像で低信号、T2強調像・脂肪抑制像で高信号)と、関節面直下の病変部(T1・T2強調像で低信号の帯状・線状像)を描出できる。病変の範囲や大きさ、軟骨・半月板の状態(内側半月板後角の損傷・逸脱を伴うことが多い)も同時に評価でき、保存療法か手術かを決める判断材料になる。被曝がなく非侵襲的である点でも優れ、本症の診断に最も有用な検査である。
- ×c. 関節造影
関節造影は関節腔内に造影剤を注入してエックス線撮影する検査で、関節腔の形や、半月板・関節軟骨・滑膜の輪郭を間接的に評価するものである。骨の内部の変化は写らないため、軟骨下骨の壊死は診断できない。侵襲的で感染のリスクもあり、現在ではMRIの普及によりほとんど行われていない。
- ×d. 超音波検査
超音波は骨の表面で強く反射されて骨の内部へは届かないため、骨内部の病変である骨壊死は評価できない。関節液の貯留、滑膜の肥厚、腱・靱帯・半月板の辺縁の評価や、関節穿刺のガイドには有用であるが、本症の診断には用いられない。
- ×e. 骨シンチグラフィ
骨シンチグラフィ(テクネチウム標識リン酸化合物を静注して骨代謝の亢進部位を描出する検査)では、特発性膝骨壊死の病変部に早期から強い集積がみられ、単純エックス線写真で異常が出る前に病変をとらえられる。しかし、集積は骨折、骨髄炎、腫瘍、変形性関節症などでも生じるため特異性が低く、病変の大きさや形の評価も不十分である。放射線被曝があり、検査に時間もかかる。MRIがより特異的で詳細な情報を与えるため、最も有用とはいえない。骨シンチグラフィは主に悪性腫瘍の骨転移の検索などに用いられる。
特発性膝骨壊死(SONK)の概要
・60歳以上の女性に多く、男性の約3倍とされる。 ・大腿骨内側顆の荷重部に好発する(約90%以上)。脛骨内側顆などにも生じうる。多くは片側性である。 ・典型的には、誘因なく突然膝の内側に強い痛みが出現し、夜間痛・安静時痛を伴う。関節水腫(腫脹)を伴うこともある。 ・ステロイド大量投与、アルコール多飲、全身性エリテマトーデスなどに伴う続発性(二次性)骨壊死とは区別される。続発性は若年者に多く、多発性・両側性で、大腿骨顆部の広範囲に生じやすい。
病態の考え方
名称は「骨壊死」であるが、近年は、骨粗鬆症などで弱くなった軟骨下骨に荷重による微小な骨折(軟骨下脆弱性骨折:subchondral insufficiency fracture of the knee:SIFK)が起こり、その結果として骨片の壊死が二次的に生じるという考え方が有力である。内側半月板後角の損傷(後根断裂など)で荷重の分散が損なわれることが発症に関与すると考えられている。
単純エックス線写真の病期分類(腰野分類)
・Stage 1(発症期):エックス線上異常なし ・Stage 2(吸収期):大腿骨内側顆の荷重面の扁平化、軟骨下の透亮像 ・Stage 3(完成期):透亮像の周囲に骨硬化像が出現し、病巣が明瞭となる ・Stage 4(変形・退行期):関節裂隙の狭小化、骨棘形成など二次性の変形性膝関節症へ移行 初期(Stage 1)はエックス線写真で異常がないため、MRIや骨シンチグラフィで確認する必要がある。
治療
・保存療法:病変が小さい初期例では、杖などによる免荷、消炎鎮痛薬、足底板(外側楔状足底板)、大腿四頭筋訓練などで経過をみる。小さな病変は自然に修復されることもある。 ・手術療法:病変が大きい例や保存療法で改善しない例では、高位脛骨骨切り術(荷重線を外側へ移して内側の負担を減らす)、骨軟骨移植、人工膝単顆置換術(UKA)、人工膝関節全置換術(TKA)などが選択される。
MRIとほかの画像検査の使い分け
・単純エックス線:最初に行う基本検査。初期には異常が出ない。 ・MRI:骨髄浮腫・軟骨下病変・半月板・軟骨を同時に評価。初期診断と範囲評価に最適。 ・CT:骨片の形態・陥没の評価。 ・骨シンチグラフィ:感度は高いが特異性が低い。
POINT
・60歳以上の女性で、誘因のない膝内側痛・夜間痛 → 特発性膝骨壊死を考える。 ・好発部位は大腿骨内側顆の荷重部。 ・単純エックス線写真では、初期は異常なし → 進行すると荷重面の扁平化・軟骨下透亮像・周囲の骨硬化像。 ・診断・病変範囲の評価に最も有用なのはMRI(骨髄浮腫、軟骨下の低信号帯)。 ・骨シンチグラフィは早期から集積するが特異性が低い。 ・変形性膝関節症との違い:夜間痛・安静時痛が強い、内側顆に限局した軟骨下病変。
