「キス病」の落とし穴―伝染性単核球症で本当に正しいのはどれ?
第104回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
伝染性単核球症で正しいのはどれか。
- a.末梢血では単球が増加する。
- b.心筋炎の合併はまれである。
- c.治療薬としてアンピシリンを用いる。
- d.EBウイルスによる垂直感染が原因である。
- e.EBNA〈Epstein-Barr nuclear antigen〉抗体は急性期に陽性になる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
伝染性単核球症は主にEBウイルスの初感染で起こり、唾液を介した水平感染で思春期以降に発症しやすく、発熱・咽頭痛(扁桃炎)・頸部リンパ節腫脹を三主徴とします。末梢血で増えるのは単球ではなくリンパ球で、異型リンパ球の正体は活性化したCD8陽性T細胞です。肝機能障害や脾腫は高頻度ですが、心筋炎の合併はまれです。治療は対症療法で、アミノペニシリン系抗菌薬は高頻度に薬疹を起こすため投与せず、脾腫のある間は接触スポーツを控えます。急性期はVCA-IgM陽性・EBNA抗体陰性で、EBNA抗体は回復期以降に陽性化するという抗体の推移は、初感染と既感染を見分けるうえで臨床でも欠かせない知識です。
解答・解説
正解はbです
伝染性単核球症(IM: infectious mononucleosis)は、主にEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染によって起こる急性感染症である。EBVはヘルペスウイルス科に属し、唾液を介して口腔・咽頭の上皮細胞とBリンパ球に感染する。乳幼児期の初感染はほとんど不顕性に終わるが、思春期以降に初めて感染すると典型的なIMを発症しやすい。キスで感染することから「kissing disease」とも呼ばれる。 典型的な症状は次の3つ(三主徴)である。 ・発熱 ・咽頭痛・扁桃炎(白苔を伴う滲出性扁桃炎が多い) ・頸部を中心とするリンパ節腫脹 これに加えて、肝脾腫、眼瞼浮腫、肝機能障害(AST・ALTの上昇)がしばしばみられる。 EBVに感染したB細胞に対して細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞)が強く反応して増殖し、これが末梢血に「異型リンパ球」として出現する。したがって血液検査ではリンパ球増加と異型リンパ球の出現が特徴であり、単球が増えるわけではない。「単核球症」という名称は、リンパ球(単核球の一種)が増える病態を指したものである。 本問では、血液所見、合併症の頻度、治療上の注意点、感染経路、EBV抗体の推移という、IMの基本事項が一通り問われている。合併症については、脾腫・肝機能障害は頻度が高い一方、心筋炎はまれである点を押さえておく。
選択肢考察
- ×a. 末梢血では単球が増加する。
IMの末梢血で増えるのはリンパ球であり、特に異型リンパ球の出現が特徴である。異型リンパ球は、細胞質が広く好塩基性で核の形が不整な大型のリンパ球で、実体はEBV感染B細胞に反応して活性化・増殖したCD8陽性T細胞である。白血球数は増加することが多く、リンパ球が50%以上、異型リンパ球が10%以上を占めることが典型的である。単球が増加するわけではないので誤り。
- ○b. 心筋炎の合併はまれである。
IMの合併症として頻度が高いのは、肝機能障害(ほとんどの症例でトランスアミナーゼが軽度上昇する)や脾腫である。一方、心筋炎や心膜炎の合併は報告こそあるものの、まれである。その他のまれな合併症として、脾破裂、上気道閉塞(扁桃の著しい腫大による)、血球貪食症候群(HLH)、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症、脳炎・髄膜炎、Guillain-Barré症候群などがある。したがって正しい。
- ×c. 治療薬としてアンピシリンを用いる。
IMはウイルス感染症であり抗菌薬は効かない。治療は安静、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)、十分な水分補給といった対症療法が基本である。さらに、IMの患者にアンピシリンやアモキシシリンなどのアミノペニシリン系抗菌薬を投与すると、高頻度に全身の紅斑・丘疹(薬疹)が出現することが知られている。扁桃炎の所見が溶連菌による咽頭炎と似ているため誤って処方されやすく、注意が必要である。また、脾腫がある時期は脾破裂を防ぐため、発症後しばらくは激しい運動や接触を伴うスポーツを避ける。アンピシリンは治療薬として用いないので誤り。
- ×d. EBウイルスによる垂直感染が原因である。
垂直感染とは、妊娠・分娩・授乳を通じて母から子へ感染することを指す。EBVは主に唾液を介した水平感染(キスなどの濃厚な接触、飛沫、食器の共有など)でうつる。感染後、EBVは生涯B細胞に潜伏し、既感染者の唾液中に断続的に排出されるため、これが感染源となる。垂直感染が原因ではないので誤り。なお、IMの大部分はEBVによるが、サイトメガロウイルス(CMV)などでも類似の病像(伝染性単核球症様症候群)を呈することがある。
- ×e. EBNA〈Epstein-Barr nuclear antigen〉抗体は急性期に陽性になる。
EBNA(EBV核内抗原)は、感染細胞にEBVが潜伏する段階で発現する抗原である。そのためEBNA抗体は急性期には陰性で、発症から数週〜数か月たって回復期以降に陽性となり、その後は生涯陽性が続く。急性期(初感染)の診断では、VCA(ウイルスカプシド抗原)-IgM抗体が陽性であること、VCA-IgG抗体が上昇していること、そしてEBNA抗体が陰性であることの組み合わせが重要となる。急性期に陽性になるわけではないので誤り。
EBV抗体のパターンと解釈
・VCA-IgM: 急性期に陽性となり、数週〜数か月で消える。初感染の指標。 ・VCA-IgG: 急性期から上昇し、生涯陽性。 ・EA(早期抗原)-IgG: 急性期に一過性に陽性となることが多い。慢性活動性EBV感染症などでも高値となる。 ・EBNA抗体: 回復期以降(数週〜数か月後)に陽性となり、生涯陽性。 初感染: VCA-IgM(+)、VCA-IgG(+)、EBNA(−) 既感染: VCA-IgM(−)、VCA-IgG(+)、EBNA(+) 未感染: すべて陰性
伝染性単核球症のまとめ
・病原体: 主にEBV(ヘルペスウイルス科)。CMV、HHV-6、HIV初感染などでも類似の症候を示すことがある。 ・感染経路: 唾液を介した水平感染。潜伏期は4〜6週程度と長い。 ・好発: 思春期〜若年成人。 ・症状: 発熱、咽頭痛・滲出性扁桃炎、頸部リンパ節腫脹(特に後頸部)、肝脾腫、眼瞼浮腫。 ・検査: リンパ球増加、異型リンパ球の出現、AST・ALTの上昇。欧米では異好抗体検査(Paul-Bunnell反応)も用いられる。 ・治療: 対症療法。アミノペニシリン系抗菌薬は薬疹の原因となるため避ける。脾腫がある間は接触スポーツを控える。重篤な気道閉塞などでは副腎皮質ステロイドを考慮する。
EBVが関連する疾患
Burkitt リンパ腫、上咽頭癌、Hodgkinリンパ腫の一部、節外性NK/T細胞リンパ腫(鼻型)、免疫不全者の移植後リンパ増殖性疾患、慢性活動性EBV感染症、胃癌の一部、口腔毛状白板症など。
POINT
・伝染性単核球症はEBVの初感染で、唾液を介した水平感染による(kissing disease)。 ・三主徴は発熱・咽頭痛(扁桃炎)・リンパ節腫脹。肝脾腫や肝機能障害も多い。 ・末梢血ではリンパ球増加と異型リンパ球(活性化CD8陽性T細胞)が特徴で、単球増加ではない。 ・アンピシリンなどのアミノペニシリン系抗菌薬で高頻度に薬疹が出るため投与しない。 ・急性期はVCA-IgM陽性・EBNA抗体陰性、EBNA抗体は回復期以降に陽性化する。 ・心筋炎の合併はまれ。
