卵巣が腫れたら胃を疑え―若い女性の両側卵巣腫瘍とKrukenberg腫瘍
第104回医師国家試験 I問題 第43問
国試問題にチャレンジ
34歳の女性。3か月前からの食欲不振と体重減少とを主訴に来院した。上腹部に圧痛を認める。下腹部に腫瘤を触知する。CEA 65 ng/dL(基準5以下)。骨盤部造影CTを別に示す。転移性悪性腫瘍が疑われる。 原発巣として最も考えられるのはどれか。

- a.食道癌
- b.胃癌
- c.肝癌
- d.胆管癌
- e.子宮癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
両側の卵巣に充実性腫瘍を認め、食欲不振・体重減少・上腹部圧痛などの消化器症状とCEA高値を伴う場合は、消化管癌からの転移性卵巣腫瘍、とくに胃癌の卵巣転移であるKrukenberg腫瘍をまず考えます。Krukenberg腫瘍の原発巣として最も多いのは印環細胞癌を含む低分化型胃癌で、若年女性に比較的多いスキルス胃癌は腹膜播種や卵巣転移を起こしやすいのが特徴です。食道癌は扁平上皮癌が主体、肝癌はAFP・PIVKA-II上昇、胆管癌は閉塞性黄疸、子宮癌は不正性器出血が典型で、本例の臨床像とは合致しません。Virchow転移、Schnitzler転移、Sister Mary Joseph結節とあわせて胃癌の転移様式を整理しておくと、卵巣腫瘍を見たときに消化管精査へつなげる臨床判断に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・34歳の若い女性。3か月前から食欲不振と体重減少が続いている。 ・上腹部に圧痛があり、上部消化管、特に胃の病変を疑わせる。 ・下腹部に腫瘤を触れ、骨盤内の腫瘍が疑われる。 ・CEA(癌胎児性抗原)が著しく高い。CEAは主に消化管の腺癌(大腸癌、胃癌など)で上昇する腫瘍マーカーである。 ・骨盤部造影CTでは、両側の卵巣が充実性の成分を含んで腫大し、腹水も伴っている。 ・問題文には「転移性悪性腫瘍が疑われる」とある。
診断へのプロセス
両側の卵巣に充実性の腫瘍があり、しかも消化器症状とCEA高値を伴っている場合は、消化管の癌が卵巣に転移した転移性卵巣腫瘍をまず考える。消化管からの卵巣転移のうち、印環細胞癌(細胞質内に粘液がたまり、核が端に押しやられて指輪のような形をした癌細胞)を含み、卵巣の間質が増生するものをKrukenberg腫瘍と呼ぶ。その原発巣として最も多いのは胃癌で、特に印環細胞癌を含む低分化型の胃癌(スキルス胃癌を含む)である。 本例は若年女性で、上腹部の圧痛・食欲不振・体重減少という胃癌を思わせる症状があり、CEA高値と両側卵巣腫大がそろっていることから、胃癌の卵巣転移(Krukenberg腫瘍)が最も考えられる。若年女性の胃癌では、進行が速く腹膜播種を起こしやすい低分化型(びまん型)が比較的多いことも、この推定を支持する。
設問の考え方
「両側卵巣の充実性腫瘍+消化器症状(またはCEA高値)」をみたら、原発巣として胃癌、次いで大腸癌を想定する。卵巣への転移経路としては、腹膜播種(腹腔内に散らばった癌細胞が卵巣表面に付着する)のほか、リンパ行性・血行性転移が考えられている。
選択肢考察
- ×a. 食道癌
食道癌は大部分が扁平上皮癌で、50〜70歳代の男性に多く、飲酒・喫煙が危険因子である。進行すると嚥下時のつかえ感や嚥下障害、胸痛などが主症状となる。転移はリンパ節、肺、肝、骨などが中心で、両側の卵巣に転移して下腹部腫瘤を形成することはまれである。本例は若年女性で、上腹部の圧痛がありつかえ感の記載もないため、原発巣としては考えにくい。
- ○b. 胃癌
食欲不振と体重減少、上腹部の圧痛は胃癌を示唆し、CEA高値は消化管の腺癌に合致する。そのうえで骨盤CTの両側卵巣腫大(腹水を伴う)は、胃癌が卵巣に転移したKrukenberg腫瘍として説明できる。Krukenberg腫瘍の原発巣として最も多いのが胃癌であり、特に若年女性に多い印環細胞癌を含む低分化型(スキルス胃癌など)は腹膜播種や卵巣転移を起こしやすい。以上より原発巣として最も考えられる。
- ×c. 肝癌
肝細胞癌は主にB型・C型慢性肝炎やアルコール性・代謝機能障害関連の肝硬変などの慢性肝疾患を背景に発生し、腫瘍マーカーはAFP(αフェトプロテイン)やPIVKA-IIが上昇する。CEAは通常、目立って上昇しない。遠隔転移は肺、骨、リンパ節、副腎などが多く、卵巣への転移はまれである。本例は慢性肝疾患の記載もなく、原発巣として考えにくい。
- ×d. 胆管癌
胆管癌は腺癌であり、CEAやCA19-9が上昇することがあるが、主症状は胆管の閉塞による閉塞性黄疸(皮膚の黄染、灰白色便、褐色尿、瘙痒感)であり、高齢者に多い。卵巣への転移は起こりうるものの頻度は低く、本例の若年女性、黄疸のない経過、上腹部の圧痛と食欲不振という臨床像には胃癌の方がはるかに合致する。
- ×e. 子宮癌
子宮頸癌は不正性器出血や接触出血、帯下の増加などで発見されることが多く、大部分は扁平上皮癌でSCC抗原が腫瘍マーカーとなる。子宮体癌は閉経前後の不正性器出血が典型的で、進行すると付属器(卵巣)へ広がることもあるが、その場合は子宮内膜の肥厚や子宮体部の腫瘤などの子宮の所見を伴う。本例には不正性器出血などの婦人科的症状の記載がなく、食欲不振・上腹部圧痛・CEA高値という消化器系の所見が中心であるため、原発巣としては考えにくい。
転移性卵巣腫瘍
・卵巣悪性腫瘍の一部を占め、原発巣は胃癌、大腸癌、乳癌、膵癌・胆道癌、虫垂癌などが多い。日本では胃癌からの転移の割合が比較的高い。 ・両側性であることが多い(原発性卵巣癌と比べて両側例の割合が高い)。 ・卵巣腫瘍が先に見つかり、精査によって消化管の原発巣が判明することも少なくない。
Krukenberg腫瘍
・狭義には、印環細胞癌の卵巣転移で、卵巣間質の増生を伴うものを指す。 ・原発巣として最も多いのは胃癌(特に低分化腺癌・印環細胞癌)で、次いで大腸癌、乳癌(小葉癌)などがある。 ・両側性の充実性腫瘍が多く、腹水を伴うことが多い。卵巣は腫大しても元の形(腎臓形)をおおむね保つことが多い。 ・転移経路としては、腹膜播種、リンパ行性、血行性が考えられている。 ・予後は不良である。
胃癌の遠隔転移(覚えておきたい転移巣の名称)
・Virchow転移:左鎖骨上窩リンパ節への転移(胸管を経由するリンパ行性転移)。 ・Schnitzler転移:Douglas窩(直腸子宮窩・直腸膀胱窩)への腹膜播種。直腸診で硬い腫瘤として触れる。 ・Krukenberg腫瘍:卵巣への転移。 ・Sister Mary Joseph結節:臍部への転移。
腫瘍マーカーの整理
・CEA:大腸癌、胃癌などの消化管腺癌、肺腺癌などで上昇。喫煙者や高齢者で軽度上昇することがある。 ・CA19-9:膵癌、胆道癌で上昇しやすい。 ・AFP、PIVKA-II:肝細胞癌。 ・SCC抗原:扁平上皮癌(子宮頸癌、食道癌、肺扁平上皮癌など)。 ・CA125:卵巣癌(特に漿液性癌)。子宮内膜症などの良性疾患でも上昇する。
POINT
・両側の卵巣の充実性腫瘍+消化器症状・CEA高値→転移性卵巣腫瘍(Krukenberg腫瘍)を疑う。 ・Krukenberg腫瘍の原発巣として最も多いのは胃癌(印環細胞癌を含む低分化型)。 ・若年女性の胃癌は低分化型(びまん型、スキルス胃癌)が比較的多く、腹膜播種や卵巣転移を起こしやすい。 ・胃癌の遠隔転移の名称:Virchow転移(左鎖骨上窩リンパ節)、Schnitzler転移(Douglas窩)、Krukenberg腫瘍(卵巣)、Sister Mary Joseph結節(臍)。
