聞こえを奪うウイルスたち―ムンプス・風疹・CMVと内耳炎
第104回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
内耳炎を起こすのはどれか。3つ選べ。
- a.風疹
- b.突発性発疹
- c.急性灰白髄炎
- d.流行性耳下腺炎
- e.サイトメガロウイルス感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
内耳炎は蝸牛や前庭に炎症が及び、感音難聴やめまいをきたす病態で、中耳炎などからの細菌性とウイルス性に大別されます。ウイルス性では、生後感染の代表がムンプス(一側性の高度難聴で回復しにくい)、胎内感染の代表が風疹(先天性風疹症候群:白内障・先天性心疾患・感音難聴)とサイトメガロウイルス(非遺伝性小児難聴の最多原因で、遅発性・進行性難聴に注意)です。突発性発疹は熱性けいれん、急性灰白髄炎は弛緩性麻痺が主な問題で、内耳炎は起こしません。麻疹やRamsay Hunt症候群、細菌性髄膜炎後の難聴も関連知識として押さえておくとよいでしょう。多くがワクチンで予防可能であることを理解することは、難聴の予防と早期発見という臨床・公衆衛生の両面で重要です。
解答・解説
正解はa, d, eです
内耳炎とは、蝸牛(聴覚をつかさどる)や前庭・半規管(平衡覚をつかさどる)からなる内耳に炎症が起こり、感音難聴やめまい・平衡障害をきたす病態である。原因は大きく、中耳炎や真珠腫などから細菌・毒素が波及する細菌性(中耳炎性)内耳炎と、血行性や髄膜経由でウイルスが内耳に達するウイルス性内耳炎に分けられる。 本問はウイルス感染症のうち内耳炎(感音難聴)の原因となるものを問うている。押さえるべきなのは次の二つのグループである。 ・生後の感染で内耳炎を起こす代表: ムンプスウイルス(流行性耳下腺炎)。ほかに麻疹、水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)なども内耳障害をきたしうる。 ・胎内感染で内耳を障害する代表: 風疹ウイルス(先天性風疹症候群)とサイトメガロウイルス(先天性サイトメガロウイルス感染症)。いずれも胎児の内耳に感染して先天性の感音難聴を起こす。 一方、突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6型・7型)や急性灰白髄炎(ポリオウイルス)は、それぞれ熱性けいれん・脳炎、脊髄前角障害による弛緩性麻痺が問題となる疾患であり、内耳炎の原因とはならない。
選択肢考察
- ○a. 風疹
風疹ウイルスは、妊娠初期(特に妊娠12週頃まで)の妊婦が感染すると胎盤を通過して胎児に感染し、先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)を起こす。CRSの三主徴は白内障、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、感音難聴であり、このうち感音難聴は最も頻度が高い症状である。ウイルスが胎児の内耳(蝸牛)に感染して障害することで難聴が生じる。妊娠20週以降の感染では難聴のみが生じることもあり、出生時に気づかれず後から判明する例もある。内耳炎の原因となるため正しい。予防には女性だけでなく男性も含めた風疹ワクチン接種が重要である。
- ×b. 突発性発疹
ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)または7型(HHV-7)の初感染によって起こり、主に生後6か月〜2歳頃の乳幼児にみられる。3日程度の高熱が続いた後、解熱とともに体幹を中心とした発疹が出現するのが特徴である。合併症として熱性けいれんが多く、まれに脳炎・脳症をきたすが、内耳炎・感音難聴の原因とはならない。よって誤りである。
- ×c. 急性灰白髄炎
ポリオウイルス(エンテロウイルス属)の感染によって起こる疾患で、いわゆるポリオ(小児麻痺)である。経口感染し、多くは不顕性感染に終わるが、ごく一部で脊髄前角の運動神経細胞が障害され、左右非対称の急性弛緩性麻痺をきたす。感覚障害は伴わない。障害されるのは主に脊髄前角や脳幹の運動ニューロンであり、内耳炎の原因とはならない。よって誤りである。なお、本邦では不活化ポリオワクチンを含む四種混合(現在は五種混合)ワクチンによって予防されている。
- ○d. 流行性耳下腺炎
ムンプスウイルスの感染症で、耳下腺の腫脹が主症状である。合併症として無菌性髄膜炎、精巣炎・卵巣炎、膵炎とともにムンプス難聴が知られている。ウイルスが血行性あるいは髄液経由で内耳に達し、内耳炎(主に蝸牛の障害)を起こすと考えられている。典型的には一側性の高度〜重度の感音難聴で、めまいなどの平衡障害を伴うことがある。頻度は以前考えられていたより高く、数百〜1,000人に1人程度とする報告がある。耳下腺腫脹が目立たない不顕性感染でも起こりうる。ムンプス難聴は治療に反応しにくく、多くは難聴が回復しないため、ワクチンによる予防が重要である。内耳炎の原因となるため正しい。
- ○e. サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルス(cytomegalovirus: CMV)は、風疹とともにTORCH症候群(胎内感染により胎児に障害を起こす病原体群)の一つである。妊婦の初感染または再活性化・再感染によって胎児に感染し、先天性CMV感染症を起こす。出生児のおよそ0.3%前後に先天性感染がみられるとされ、症候性の場合は小頭症、脳室周囲石灰化、肝脾腫、黄疸、血小板減少、網脈絡膜炎などを呈する。感音難聴は最も重要な後遺症の一つで、出生時は無症候でも後になって難聴が出現・進行することがある。先天性CMV感染症は、遺伝性以外の原因による小児の感音難聴で最も多い原因とされている。内耳炎の原因となるため正しい。
内耳炎の分類
・細菌性(中耳炎性)内耳炎: 急性・慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎から、正円窓・卵円窓や骨破壊部を経由して炎症や細菌毒素が内耳に波及する。細菌性髄膜炎から蝸牛小管などを経て波及することもあり、髄膜炎後の高度難聴の原因となる。 ・ウイルス性内耳炎: ムンプス、麻疹、風疹、CMV、水痘・帯状疱疹ウイルスなどが原因となる。
ウイルスと感音難聴の関係の整理
・ムンプス: 生後感染。一側性の高度感音難聴が典型で、回復しにくい。 ・麻疹: 生後感染。内耳炎による両側性感音難聴をきたすことがある。 ・水痘・帯状疱疹ウイルス: 再活性化によるRamsay Hunt症候群(耳介の帯状疱疹、顔面神経麻痺、難聴・めまいなどの第VIII脳神経症状)。 ・風疹: 胎内感染による先天性風疹症候群(白内障、先天性心疾患、感音難聴)。 ・CMV: 胎内感染による先天性CMV感染症(小頭症、脳室周囲石灰化、難聴など)。遅発性・進行性難聴に注意する。
TORCH症候群
T: トキソプラズマ、O: その他(梅毒、パルボウイルスB19、水痘など)、R: 風疹(rubella)、C: サイトメガロウイルス、H: 単純ヘルペスウイルス。胎内感染・周産期感染により胎児・新生児に障害を起こす病原体の総称である。このうち先天性の感音難聴の原因として特に重要なのが風疹とCMVである。
内耳炎を起こさない本問の選択肢の主な合併症
・突発性発疹(HHV-6/7): 熱性けいれん、脳炎・脳症 ・急性灰白髄炎(ポリオウイルス): 脊髄前角障害による非対称性の急性弛緩性麻痺
POINT
・生後の感染で内耳炎(感音難聴)を起こす代表はムンプスで、一側性高度難聴が典型である。 ・胎内感染で先天性感音難聴を起こす代表は風疹(先天性風疹症候群)とサイトメガロウイルスである。 ・先天性風疹症候群の三主徴は白内障、先天性心疾患、感音難聴である。 ・先天性CMV感染症は非遺伝性の先天性難聴の最多原因で、遅発性・進行性の難聴にも注意する。 ・突発性発疹は熱性けいれん、急性灰白髄炎は弛緩性麻痺が問題となり、内耳炎は起こさない。
