痛いか、痛くないか―外陰部の病変で性器ヘルペスを見抜く一番の手がかり
第104回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
外陰部疼痛をきたすのはどれか。
- a.梅毒
- b.性器ヘルペス
- c.トリコモナス症
- d.尖圭コンジローマ
- e.性器クラミジア感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
外陰部に強い疼痛をきたす代表的な性感染症は性器ヘルペスで、HSVの感染により多発する小水疱が破れて浅い潰瘍となり、有痛性の鼠径リンパ節腫脹を伴います。一方、梅毒の硬性下疳は硬い潰瘍でありながら無痛性で、鼠径リンパ節も無痛性に腫れるため、外陰部潰瘍では「痛みの有無」が鑑別の最大の手がかりになります。尖圭コンジローマはHPV6・11型による無痛性の乳頭状のいぼ、トリコモナス症は泡沫状帯下と瘙痒感、クラミジア感染症は無症状の子宮頸管炎が多く、PIDや卵管性不妊の原因となります。性感染症を「病変の部位」と「自覚症状」で整理しておくことは、早期診断と重複感染・パートナーへの対応を含めた適切な診療の土台になります。
解答・解説
正解はbです
性感染症(STI: sexually transmitted infection)は、病変の出現する部位と自覚症状の特徴で整理すると覚えやすい。 ・外陰部に潰瘍やびらんをつくるもの: 性器ヘルペス(有痛性)、梅毒の硬性下疳(無痛性) ・外陰部に隆起性病変(いぼ)をつくるもの: 尖圭コンジローマ(無痛性) ・腟や子宮頸管の炎症が主体のもの: トリコモナス腟炎(泡沫状帯下と瘙痒感)、性器クラミジア感染症(子宮頸管炎、多くは無症状) 外陰部の「疼痛」が前面に立つ代表的な疾患は性器ヘルペスである。外陰部の潰瘍性病変をみたときは「痛みがあるか・ないか」が鑑別の最大の手がかりとなり、強い痛みを伴えば性器ヘルペス、痛みがなければ梅毒の硬性下疳を考える。
選択肢考察
- ×a. 梅毒
梅毒はスピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による感染症である。第1期には感染から約3週間後、侵入部位(女性では大・小陰唇や子宮頸部など)に初期硬結ができ、それが潰瘍化して硬性下疳となる。硬性下疳は周囲が硬く触れる潰瘍で、痛みを伴わないのが特徴である。鼠径リンパ節も腫れるが、これも無痛性である(無痛性横痃)。痛みがないため放置されやすく、自然に消退したあと第2期(バラ疹、扁平コンジローマなど)へ進行する。外陰部疼痛をきたす疾患ではないので誤り。
- ○b. 性器ヘルペス
性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV: herpes simplex virus)2型または1型の感染により生じる。初感染では感染後2〜10日ほどで外陰部に多数の小水疱ができ、これが破れて浅い潰瘍(びらん)となる。強い疼痛が特徴で、歩行や排尿が困難になるほどのこともあり、発熱や鼠径リンパ節の有痛性腫脹を伴うことが多い。HSVは治癒後も腰仙髄の神経節に潜伏し、疲労やストレス、月経などを誘因に再発を繰り返す(再発時は症状が軽い)。外陰部疼痛をきたす代表的疾患であり、正しい。
- ×c. トリコモナス症
トリコモナス症は原虫である腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)の感染症で、女性では腟炎が主体となる。黄緑色で泡沫状、悪臭のある帯下の増加と、外陰・腟の瘙痒感が典型的な症状である。腟壁や子宮腟部に点状出血がみられることもある(いちご状子宮頸部)。治療はメトロニダゾールなどで、再感染を防ぐためにパートナーも同時に治療する。主症状は帯下と痒みであり、外陰部の強い疼痛を特徴とする疾患ではないので誤り。
- ×d. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV: human papillomavirus)の主に6型・11型(低リスク型)の感染による良性の乳頭腫である。外陰部、腟、肛門周囲などに、先の尖った乳頭状〜鶏冠状(カリフラワー状)のいぼが多発する。通常は痛みを伴わず、軽い瘙痒感がある程度である。治療はイミキモドクリームの外用、凍結療法、電気焼灼、切除などで、再発しやすい。無痛性の疾患であり誤り。
- ×e. 性器クラミジア感染症
性器クラミジア感染症はクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)による、わが国で最も多い性感染症である。女性では子宮頸管炎が主体で、帯下の増加や不正出血がみられることもあるが、半数以上は無症状である。気づかれないまま上行感染すると子宮付属器炎や骨盤内炎症性疾患(PID)、さらに肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こし、卵管の癒着・閉塞による卵管性不妊や異所性妊娠の原因となる。外陰部に病変をつくる疾患ではなく、外陰部疼痛は特徴ではないため誤り。
外陰部潰瘍を来す性感染症の比較
・性器ヘルペス: HSV-2(またはHSV-1)。多発する小水疱→浅い潰瘍。強い疼痛あり。鼠径リンパ節は有痛性に腫脹。治療はアシクロビル、バラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬。 ・梅毒(硬性下疳): 梅毒トレポネーマ。単発の硬い潰瘍。無痛性。鼠径リンパ節も無痛性に腫脹。診断は梅毒血清反応(RPRなどの非トレポネーマ抗体検査とTPHA・TPLAなどのトレポネーマ抗体検査)。治療はペニシリン系抗菌薬。 ・軟性下疳: 軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)。柔らかい潰瘍で有痛性。わが国ではまれ。
腟炎・頸管炎を主体とする性感染症
・トリコモナス腟炎: 泡沫状・黄緑色で悪臭のある帯下、瘙痒感。治療はメトロニダゾール(パートナーも治療)。 ・性器クラミジア感染症: 無症状が多い。PID、肝周囲炎、卵管性不妊の原因。治療はアジスロマイシン、ドキシサイクリンなど。 ・淋菌感染症: 膿性帯下。クラミジアとの混合感染が多い。 【参考】外陰腟カンジダ症は性感染症ではないが、酒粕状・カッテージチーズ状の白色帯下と強い瘙痒感を特徴とし、帯下の性状による鑑別でよく比較される。
POINT
・外陰部の潰瘍で強い痛みがあれば性器ヘルペス、痛みがなければ梅毒の硬性下疳を考える。 ・尖圭コンジローマ(HPV 6・11型)は無痛性の乳頭状のいぼである。 ・トリコモナス症は泡沫状帯下と瘙痒感、クラミジア感染症は無症状の頸管炎が多く、PIDや不妊の原因となる。
