StudyMed医師国家試験

「考えが浮かばない」は誰の言葉?―訴えから読み解く思考の異常

第104回医師国家試験 H問題 第16問

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第104回 H問題 第16問

うつ状態に特徴的な訴えはどれか。

  1. a.「考えが浮かびません」
  2. b.「考えが頭から離れません」
  3. c.「考えが声となって聞こえます」
  4. d.「考えが誰かに抜き取られます」
  5. e.「考えが他人に伝わってしまいます」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの言葉そのものから、どんな精神症状にあたり、どの疾患に典型的かを結びつける問題だ。思考の異常は「思考の流れ」「思考の内容」「考えが自分のものだという感覚」の3つに分けて整理すると見通しがよくなる。まず、うつ状態ではどんなことが起こると習ったかな。
医学生医学生
気分が落ち込んで、興味や喜びがなくなるというのが中心だったと思います。
ドクタードクター
そうだね。それに加えて、精神活動全体にブレーキがかかったように遅くなる。これを精神運動制止という。思考の面では、考えが進まない、まとまらない、決められない、という形で現れるんだ。
医学生医学生
それなら「考えが浮かびません」が思考制止そのものですね。でも「考えが頭から離れません」も、うつの人がくよくよ考え込む感じに近い気がして迷いました。
ドクタードクター
迷うのはよくわかる。実際、うつ病でも悲観的な考えを繰り返し反芻することはある。ただ「頭から離れない」という表現は、典型的には強迫観念を指すんだ。本人も不合理だとわかっている考え、たとえば手が汚れている、鍵をかけ忘れたといった考えが意思に反して浮かび、振り払えない。強迫症の中核症状だね。
医学生医学生
精神科の実習で、何度も手洗いを繰り返してしまう患者さんを見ました。不安を打ち消すための強迫行為ですよね。
ドクタードクター
その通り。強迫観念の大事な特徴は、その考えが「自分の考え」だと自覚されていることだ。ここが残りの3つとの決定的な違いになる。「考えが声となって聞こえる」「考えが誰かに抜き取られる」「考えが他人に伝わってしまう」は、それぞれ何という症状かな。
医学生医学生
考想化声、思考奪取、思考伝播です。統合失調症のシュナイダーの一級症状として講義で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。これらはどれも、自分の考えが自分のものであるという感覚や、自分と他人の境界が損なわれた自我障害なんだ。考えが外から操作される、外に漏れ出す、と体験される点が特徴だよ。
医学生医学生
思考奪取と思考制止って、どちらも「考えがなくなる」感じで似ていませんか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。違いは体験のされ方にある。うつ状態の思考制止は「自分の頭が働かない」と、あくまで自分の能力の問題として感じられる。一方で思考奪取は「誰かに抜き取られた」と、外からの作用として体験される。同じ空白でも、主語が自分か他者かで意味が全く変わるんだ。
医学生医学生
なるほど、誰のせいで考えが止まったと感じているかを聞けば区別できるんですね。OSCEの医療面接でも、そこを丁寧に聞く必要がありそうです。
ドクタードクター
まさにそう。患者さんの言葉をそのまま記録して、その体験の構造を確かめることが精神科の診察の基本だ。少し発展させよう。躁状態では思考制止とは逆に、考えが次々に湧いて話題が飛んでいく。これを観念奔逸という。
医学生医学生
思考の流れでいうと、うつが制止、躁が奔逸と対にして覚えればいいですね。思考内容のほうはどうですか。
ドクタードクター
うつ状態では自分を過小評価する方向の微小妄想が出てくる。罪業妄想、貧困妄想、心気妄想が代表だ。躁状態では反対に誇大妄想がみられる。
医学生医学生
「とんでもない罪を犯した」「お金がなくて破産する」「重い病気にかかっている」という訴えですね。
ドクタードクター
その通り。臨床で気をつけてほしいのは、思考制止が強いうつの患者さんは、口数が少なく反応も遅いので、一見すると落ち着いているように見えることがある点だ。でも内面では強い苦痛や自殺念慮を抱えていることも少なくない。訴えが乏しいからこそ、こちらから希死念慮を具体的に尋ねることが大切なんだ。
医学生医学生
話さないから大丈夫、ではなく、話せないほど苦しいのかもしれないと考えるわけですね。肝に銘じます。

まとめ

うつ状態では精神活動全体が遅くなる精神運動制止が生じ、思考面では「考えが浮かばない」「頭が働かない」「決められない」という思考制止として訴えられます。「考えが頭から離れない」は自分の考えと自覚しながら振り払えない強迫観念で、強迫症に特徴的です。考想化声、思考奪取、思考伝播は、考えが外から操作されたり外へ漏れたりすると体験される自我障害で、統合失調症に特徴的なシュナイダーの一級症状に含まれます。思考の異常を「流れ・内容・自分のものという感覚」に分け、うつの思考制止と微小妄想、躁の観念奔逸と誇大妄想を対にして整理すると覚えやすくなります。患者さんの言葉の背後にある体験の構造を読み解く力は、精神科診療の基本であり、口数の少ないうつ患者さんの自殺リスクを見逃さないことにもつながります。

解答・解説

正解はaです

本問は、患者の訴え(主観的な体験の言葉)から、それがどの精神症状にあたり、どの疾患に典型的かを結びつける問題である。 思考の異常は大きく「思考過程(思考の流れ)の異常」「思考内容の異常」「思考体験(自我意識)の異常」に分けて整理すると理解しやすい。 ・思考過程の異常:考えの進み方そのものが障害される。うつ状態では考えが遅くなり、進まなくなる(思考制止)。躁状態では逆に次々と考えが湧く(観念奔逸)。 ・思考体験の異常:「自分の考えは自分のものである」という感覚(能動性・自他の境界)が損なわれる。考想化声、思考奪取、思考伝播、思考吹入などがあり、統合失調症に特徴的である。 ・強迫観念:自分の考えだと自覚しつつも、不合理な考えが意思に反して繰り返し浮かび、振り払えない。強迫症(強迫性障害)の中核症状である。 うつ状態では、気分の落ち込みに加えて精神活動全体がブレーキをかけられたように遅くなる(精神運動制止)。思考面では「考えが浮かばない」「頭が働かない」「考えがまとまらない」「決められない」といった訴えとして現れる。したがって、考えの進みにくさを表す訴えを選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  「考えが浮かびません」

    思考制止(思考抑制)を表す訴えである。うつ状態では思考のテンポが遅くなり、考えが湧いてこない、頭が回らない、考えがまとまらない、物事を決断できない、と自覚される。重くなると考えること自体ができない状態に至る。自我意識の障害は伴わず、「自分の頭が働かない」という形で体験される点が統合失調症の思考体験の異常と異なる。うつ状態に最も特徴的な訴えである。

  2. ×b.  「考えが頭から離れません」

    強迫観念(強迫思考)を表す訴えである。本人も不合理・過剰だとわかっている考え(汚れた気がする、鍵をかけ忘れたのではないか等)が繰り返し浮かび、打ち消そうとしても離れない。強迫症(強迫性障害)に特徴的で、不安を打ち消すための強迫行為(手洗い、確認など)を伴うことが多い。うつ病に合併することはあるが、うつ状態に特徴的な訴えではない。なお、うつ病でも悲観的な考えを繰り返し考え込む(反芻)ことはあるが、設問の選択肢の中で典型例として選ぶべきは思考制止である。

  3. ×c.  「考えが声となって聞こえます」

    考想化声(思考化声)である。自分の考えたことが声となって外から聞こえてくる体験で、幻聴と思考体験の異常が重なった症状である。シュナイダー(Schneider)の一級症状の一つに数えられ、統合失調症に特徴的である。

  4. ×d.  「考えが誰かに抜き取られます」

    思考奪取である。自分の考えが外部の何者かによって奪い去られると体験するもので、自分の思考の能動性(自分が考えているという感覚)が失われた自我障害の一種である。シュナイダーの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的である。単に考えが浮かばないうつ状態の思考制止とは、「外からの作用」として体験される点で区別される。

  5. ×e.  「考えが他人に伝わってしまいます」

    思考伝播(考想伝播)である。自分の考えが周囲の人に筒抜けになり知られてしまうと体験するもので、自己と他者の境界が曖昧になった自我障害である。シュナイダーの一級症状の一つで、統合失調症に特徴的である。

うつ病(大うつ病エピソード)の主な症状

抑うつ気分、興味・喜びの喪失、食欲・体重の変化、不眠(特に早朝覚醒)または過眠、精神運動制止または焦燥、易疲労感・気力の減退、無価値感・過剰な罪責感、思考力・集中力の低下や決断困難、死についての反復思考・自殺念慮がある。DSM-5では、抑うつ気分か興味・喜びの喪失のどちらかを含む5項目以上が2週間以上続くことが診断の要件である。

うつ状態の思考の異常

・思考過程:思考制止(考えが進まない、浮かばない、まとまらない) ・思考内容:微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)。自分を過小評価する方向の妄想である。

躁状態との対比

躁状態では思考が加速し、次々と考えが浮かんで話題が飛ぶ(観念奔逸)。思考内容では誇大妄想がみられる。

統合失調症の自我障害(させられ体験)

自分の思考・行為が自分のものであるという感覚が障害される。考想化声、思考奪取、思考吹入(他人の考えが入ってくる)、思考伝播、作為体験(させられ体験)などがあり、多くはシュナイダーの一級症状に含まれる。

強迫観念の特徴

考えが自分自身のものであると自覚されている点で、統合失調症の思考体験の異常(外部から操作される体験)とは異なる。不合理と分かっていても止められないことが本質である。

POINT

・「考えが浮かばない」「頭が働かない」「決められない」=思考制止 → うつ状態 ・「考えが頭から離れない」=強迫観念 → 強迫症 ・考想化声、思考奪取、思考伝播(思考吹入も)=自我障害 → 統合失調症(シュナイダーの一級症状) ・躁状態の思考過程の異常は観念奔逸、うつ状態は思考制止と対にして覚える

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。