StudyMed医師国家試験

胸元の「赤いクモ」は肝臓からのサイン―くも状血管腫を見たら何を調べるか

第104回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第50問

54歳の男性。皮疹を主訴に来院した。数か月前から頸部,前胸部および両上腕伸側に紅色皮疹が出現し,徐々に増数,拡大してきた。皮疹は圧迫で消退する。頸部から前胸部にかけての写真を別に示す。  行う検査はどれか。

第104回 G問題 第50問の問題画像
  1. a.頭部MRI
  2. b.胸部エックス線撮影
  3. c.腹部超音波検査
  4. d.サーモグラフィー
  5. e.ガリウムシンチグラフィ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚所見から、その背景にある内臓疾患を見抜く問題だ。皮疹そのものを調べる検査ではなく、皮疹が何を示しているかを考えて検査を選ぶ、という点がポイントになる。まずは皮疹の性質と分布に注目しよう。
医学生医学生
圧迫で消えるということは、紫斑ではないということですよね。
ドクタードクター
その通り。紫斑は血管の外に漏れた出血だから押しても消えない。押して消えるのは、血管が拡張して充血している病変だ。写真では、中心に小さな赤い点があって、そこから細い血管が放射状に脚を伸ばしているように見える。何か思い浮かぶかな。
医学生医学生
クモのような形……くも状血管腫ですか。
ドクタードクター
正解。中心に拡張した細動脈があって、そこから毛細血管が放射状に広がる病変だ。中心を細い棒やガラス板で押さえると全体が退色し、離すと中心から赤みが戻ってくるのも特徴だよ。分布についてはどうだろう。
医学生医学生
頸部、前胸部、上腕ということは、上半身に集中していますね。
ドクタードクター
そう、くも状血管腫は上大静脈の灌流域、つまり顔面・頸部・前胸部・肩・上肢に好発して、臍より下にはまれなんだ。今回の分布とぴったり合う。では、中年男性にくも状血管腫が多発して増えてきている。これは何を疑う?
医学生医学生
内科の講義で肝硬変の身体所見として習いました。肝臓が悪いということでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。肝機能が落ちるとエストロゲンの肝での不活化が滞り、相対的な高エストロゲン状態になって血管が拡張すると考えられている。だから、ここで求められているのは肝臓を評価する検査だ。選択肢の中で肝臓を見られるのは何かな。
医学生医学生
腹部超音波検査ですね。消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんの肝臓表面がでこぼこしているのをエコーで見せてもらいました。
ドクタードクター
いい経験だ。腹部超音波なら、肝表面の凹凸、辺縁の鈍化、実質エコーの粗雑化、右葉萎縮と左葉腫大といった肝硬変の形態変化がわかる。さらに門脈圧亢進を反映する脾腫や側副血行路、腹水、そして肝硬変に合併しやすい肝細胞癌の検索まで、非侵襲的にできるんだ。
医学生医学生
前胸部に皮疹があるので、胸部エックス線も必要かと一瞬思いました。
ドクタードクター
そう考えたくなる気持ちはわかるけど、皮疹の場所と病気の臓器は別の話だ。くも状血管腫の背景は肝疾患だから、胸部エックス線では肝臓の状態はわからない。頭部MRIはどうだろう。
医学生医学生
顔面の血管腫と脳の血管奇形を合併するSturge-Weber症候群が頭に浮かびましたが……。
ドクタードクター
よく知っているね。ただ、あれは生まれつきの顔面のポートワイン母斑が特徴で、中年になってから体幹上部に増えてくる今回の皮疹とはまったく違う。頭部の画像検査をする根拠はないよ。
医学生医学生
サーモグラフィーは皮膚温を見る検査でしたよね。血管が拡張しているなら温度は上がりそうですが。
ドクタードクター
理屈としてはそう思えるかもしれないけれど、サーモグラフィーは末梢循環障害や神経障害による皮膚温の左右差などを見るための検査で、くも状血管腫の診断にも背景の肝疾患の評価にも役立たない。ガリウムシンチグラフィは悪性リンパ腫やサルコイドーシス、不明熱の炎症巣を全身で探す核医学検査だから、これも目的が違う。
医学生医学生
皮膚の所見をきっかけに肝臓を疑って、まずエコーで肝臓を見る、ということですね。
ドクタードクター
その通り。実際にはエコーに加えて、AST・ALT、アルブミン、プロトロンビン時間、血小板数、肝炎ウイルスマーカーなどの血液検査で肝機能と原因を評価する。発展知識として、同じ高エストロゲン状態で起こる所見も押さえておこう。
医学生医学生
手掌紅斑と女性化乳房ですね。OSCEの腹部診察の練習で、まず手を見るように言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
素晴らしい。ほかに精巣萎縮や腋毛・陰毛の減少もある。そして肝硬変全体では、黄疸、腹水、脾腫、腹壁静脈の怒張、羽ばたき振戦、ばち指や白色爪なども見逃せない。注意点として、くも状血管腫は妊婦や経口避妊薬の使用者、健常な小児にも少数ならみられるから、1〜2個あるだけで肝硬変と決めつけないこと。成人男性で多発し、増えているという経過が重要なんだ。
医学生医学生
皮膚科の外来で見つかった所見が、内科の大事な病気の入り口になることもあるんですね。
ドクタードクター
そう。皮膚は内臓の鏡と言われる。目の前の皮疹だけでなく、その背後の病態まで考える習慣をつけておこう。

まとめ

圧迫で退色する紅色皮疹は血管拡張による病変で、中心の細動脈から放射状に血管が広がる形はくも状血管腫を示します。くも状血管腫は顔面・頸部・前胸部・上肢といった上大静脈の灌流域に好発し、成人男性で多発・増加している場合は肝硬変などの慢性肝疾患を強く疑います。機序は肝でのエストロゲン不活化の低下による高エストロゲン状態で、手掌紅斑や女性化乳房も同じ背景から生じます。背景の肝疾患を確認するには、肝の形態変化・脾腫・腹水・肝細胞癌まで非侵襲的に評価できる腹部超音波検査を行い、血液検査で肝機能と原因を調べます。皮膚所見から内臓疾患を推測する視点は、身体診察の価値を高める重要な臨床能力です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・54歳男性。数か月の経過で頸部・前胸部・両上腕伸側に紅色の皮疹が出現し、数・大きさともに増えている。 ・皮疹は圧迫すると消える(ガラス圧で退色する)。これは血管外への出血である紫斑ではなく、血管の拡張・充血による紅色病変であることを意味する。 ・写真では、中心の小さな赤い点から細い血管が放射状に伸びる、クモが脚を広げたような形の毛細血管拡張が見られる。

診断へのプロセス

中心に拡張した細動脈があり、そこから放射状に毛細血管が広がる病変はくも状血管腫(spider angioma、くも状母斑とも呼ぶ)である。好発部位は上大静脈の灌流域、すなわち顔面・頸部・前胸部・肩・上肢であり、本例の分布と一致する。 くも状血管腫は健常者(小児や妊婦)にも少数みられるが、中年男性に多発し、しかも増えてきているという経過は、慢性肝疾患、特に肝硬変を強く疑わせる。肝機能が低下すると、エストロゲンの肝での代謝(不活化)が滞り、相対的な高エストロゲン状態となって血管拡張が起こると考えられている。

設問の考え方

皮膚所見そのものではなく、その背景にある肝疾患を確認する検査を選ぶことが求められている。選択肢の中で肝臓を評価できるのは腹部超音波検査であり、肝の形態(辺縁の鈍化、表面の凹凸、実質エコーの粗雑化、右葉萎縮・左葉腫大など)、脾腫、腹水、さらに肝細胞癌の有無まで非侵襲的に確認できる。実際の診療では、これに加えて血液検査(AST・ALT、アルブミン、プロトロンビン時間、血小板数、肝炎ウイルスマーカーなど)で肝機能と原因を評価する。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部MRI

    くも状血管腫は中枢神経系の疾患を示唆する所見ではなく、頭部の画像検査を行う根拠はない。なお、顔面の血管腫と脳の血管奇形を合併する疾患としてSturge-Weber症候群があるが、これは生まれつきの顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)が特徴であり、中年以降に体幹上部へ多発・増加してくる本例の皮疹とは異なる。

  2. ×b.  胸部エックス線撮影

    皮疹が前胸部にあるからといって胸部臓器の異常を示すわけではない。くも状血管腫の背景となるのは肝疾患であり、胸部エックス線撮影では肝臓の状態を評価できない。

  3. ○c.  腹部超音波検査

    多発・増加するくも状血管腫は慢性肝疾患(特に肝硬変)を示唆するため、肝臓の評価が必要である。腹部超音波検査は非侵襲的かつ簡便に、肝表面の凹凸・辺縁の鈍化・実質の不均一といった肝硬変の形態変化、門脈圧亢進を反映する脾腫や側副血行路、腹水の有無、さらに肝硬変に合併しやすい肝細胞癌の検索まで行えるため、最初に行う画像検査として適切である。

  4. ×d.  サーモグラフィー

    サーモグラフィーは体表から放射される赤外線を捉えて皮膚温の分布を画像化する検査であり、末梢循環障害や神経障害に伴う皮膚温の左右差の評価などに用いられる。くも状血管腫の診断や背景の肝疾患の評価には役立たない。

  5. ×e.  ガリウムシンチグラフィ

    ガリウム(67Ga)シンチグラフィは、悪性リンパ腫などの腫瘍や、サルコイドーシス・不明熱の原因となる炎症巣を全身で検索するための核医学検査である。本例では肝疾患の評価が目的であり、適応とならない。

くも状血管腫(spider angioma)

・構造: 中心に拡張した細動脈があり、そこから放射状に細い血管が広がる。中心部をガラス板や細い棒で圧迫すると周囲の血管も含めて全体が退色し、圧迫を解くと中心から再び赤みが広がる。 ・好発部位: 上大静脈の灌流域(顔面、頸部、前胸部、肩、上肢)。臍より下にはまれである。 ・原因: 高エストロゲン状態による血管拡張と考えられている。肝硬変では肝でのエストロゲン不活化が低下し、また副腎由来のアンドロゲンが末梢でエストロゲンに変換される割合も増える。 ・肝疾患以外: 妊婦、経口避妊薬の使用者、健常な小児などにもみられる。少数であれば病的意義は乏しいが、成人男性での多発は肝疾患を疑う手がかりになる。

高エストロゲン状態に伴う肝硬変の身体所見

・くも状血管腫 ・手掌紅斑(母指球・小指球が赤くなる) ・女性化乳房(男性) ・精巣萎縮、腋毛・陰毛の減少

その他の肝硬変の身体所見

・黄疸、腹水、下腿浮腫 ・門脈圧亢進による脾腫、腹壁静脈の怒張(メドゥーサの頭)、食道・胃静脈瘤 ・羽ばたき振戦、意識障害(肝性脳症) ・ばち指、白色爪

POINT

・圧迫で退色する紅色皮疹は血管拡張(紅斑・血管腫)であり、紫斑(出血)ではない。 ・くも状血管腫は上大静脈の灌流域(顔面・頸部・前胸部・上肢)に好発し、成人男性での多発は肝硬変を疑う。 ・機序は肝でのエストロゲン不活化の低下による高エストロゲン状態であり、手掌紅斑・女性化乳房も同じ機序である。 ・背景の肝疾患の評価には、まず非侵襲的な腹部超音波検査と血液検査を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。