MCV 131 fLが語るもの―「大きすぎる赤血球」から巨赤芽球性貧血と骨髄異形成症候群を導く
第104回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。半年前からの労作時の息切れを主訴に来院した。眼瞼結膜に貧血を認める。血液所見:赤血球130万,Hb 5.2 g/dL,Ht 17%,網赤血球1.2%。 考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.赤芽球癆
- b.サラセミア
- c.鉄芽球性貧血
- d.巨赤芽球性貧血
- e.骨髄異形成症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
貧血の鑑別は、赤血球数・Hb・HtからMCV(Ht÷赤血球数×10)を計算し、小球性・正球性・大球性に分けることから始まります。本例はMCV約131 fLの著明な大球性貧血で、網赤血球は百分率では一見正常でも絶対数は少なく、骨髄での産生低下や無効造血を示しています。この組み合わせで考えるべき代表疾患は、ビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血と、中高年に多い骨髄異形成症候群です。サラセミアや典型的な鉄芽球性貧血は小球性、赤芽球癆は正球性で網赤血球がほぼ消失する点で区別されます。両者の鑑別には血清ビタミンB12・葉酸の測定と骨髄検査が重要で、数値から病態を読み解く力は日常診療の血算評価に直結します。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・54歳男性。半年前から続く労作時の息切れ。眼瞼結膜は貧血様。 ・赤血球130万/μL、Hb 5.2 g/dL、Ht 17%と高度の貧血である。息切れは貧血による酸素運搬能の低下を反映した症状であり、半年かけて緩徐に進行したことで高度の貧血でも比較的耐えられていたと考えられる。 ・網赤血球1.2%。
赤血球指数の計算
貧血の鑑別では、まず赤血球の大きさ(平均赤血球容積、MCV)で小球性・正球性・大球性に分けるのが基本である。 ・MCV(fL)= Ht(%)÷ 赤血球数(10⁶/μL)× 10 = 17 ÷ 1.30 × 10 ≒ 131 fL ・MCH(平均赤血球ヘモグロビン量、pg)= Hb(g/dL)÷ 赤血球数(10⁶/μL)× 10 = 5.2 ÷ 1.30 × 10 = 40 pg ・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度、%)= Hb ÷ Ht × 100 = 5.2 ÷ 17 × 100 ≒ 31% MCVは基準(おおむね80〜100 fL)を大きく超えており、大球性貧血である。MCHCは正常範囲で、MCHの高値は赤血球が大きいことを反映している。
網赤血球の評価
網赤血球は1.2%であるが、赤血球数が著しく少ないため絶対数に直すと、130万 × 0.012 ≒ 1.6万/μLにすぎない。貧血の程度で補正した網赤血球(1.2 × 17/45 ≒ 0.45%)も低く、骨髄での赤血球産生が貧血に見合って増えていない(無効造血または産生低下)ことを示す。溶血や出血後の回復期のように網赤血球が著増する状況ではない。
設問の考え方
MCVが120 fLを超えるような著明な大球性貧血で、網赤血球の反応が乏しい場合、まず考えるのは巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)であり、中高年ではこれと骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別が重要となる。選択肢の中から、大球性貧血をきたす代表的疾患を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 赤芽球癆
赤芽球癆(pure red cell aplasia)は、骨髄で赤血球系の前駆細胞(赤芽球)だけが選択的に著減し、白血球・血小板は保たれる病態である。胸腺腫、自己免疫疾患、薬剤、パルボウイルスB19感染などが原因となる。貧血は原則として正球性正色素性で、網赤血球はほぼ消失(多くは1%未満、絶対数1万/μL未満)するのが特徴である。MCV 130 fLに及ぶ著明な大球性を示すことは通常なく、本例の第一の候補とはならない。
- ×b. サラセミア
サラセミアは、グロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成が遺伝的に低下し、ヘモグロビン産生が不足する疾患である。赤血球は小さくヘモグロビンが少ない小球性低色素性貧血となり、赤血球数が貧血の程度の割に保たれる(むしろ多い)ことや標的赤血球がみられることが特徴である。本例のように赤血球数が著減した大球性貧血とは合わない。
- ×c. 鉄芽球性貧血
鉄芽球性貧血は、ヘム合成が障害されて赤芽球のミトコンドリアに鉄が蓄積し、核周囲を取り囲む環状鉄芽球が骨髄に出現する貧血である。先天性(X連鎖性のALAS2(δ-アミノレブリン酸合成酵素2)異常など)や、ビタミンB6欠乏・アルコール・イソニアジドなどの薬剤による後天性のものは、ヘモグロビン合成障害を反映して小球性低色素性貧血となり、正常な赤血球との混在による二相性の分布を示すこともある。なお、環状鉄芽球を伴うMDSでは正球性〜大球性となるが、それは選択肢eの骨髄異形成症候群として扱うべき病態であり、鉄芽球性貧血の典型像としては小球性を考える。
- ○d. 巨赤芽球性貧血
巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12や葉酸の欠乏によりDNA合成が障害され、細胞質の成熟に比べて核の成熟が遅れる(核と細胞質の成熟の乖離)ことで、骨髄に大型の巨赤芽球が出現する貧血である。巨赤芽球の多くは骨髄内で壊れる(無効造血)ため、網赤血球は増えず、間接ビリルビンやLDが上昇する。末梢血ではMCVが著明に高い大球性貧血(120 fLを超えることも多い)となり、汎血球減少や好中球の過分葉を伴うことがある。原因として悪性貧血(抗内因子抗体・抗壁細胞抗体による萎縮性胃炎)、胃全摘後、葉酸摂取不足やアルコール多飲などがある。本例の著明な大球性貧血と網赤血球の反応不良に合致する。
- ○e. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞のクローン性異常により血球に形態異常(異形成)が生じ、骨髄は細胞に富むにもかかわらず血球が壊れて末梢の血球が減少する(無効造血)疾患群である。中高年に多く、急性骨髄性白血病へ移行することがある。貧血は正球性〜大球性を示すことが多く、網赤血球は増加しない。本例のような中高年男性の大球性貧血では、ビタミンB12・葉酸が正常であればMDSを強く疑い、骨髄検査で異形成や染色体異常を確認する。
MCVによる貧血の分類
・小球性(MCV 80 fL以下):鉄欠乏性貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血(先天性など)、慢性炎症に伴う貧血(一部) ・正球性(MCV 81〜100 fL):溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球癆、腎性貧血、急性出血、慢性炎症に伴う貧血 ・大球性(MCV 101 fL以上):巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、MDS、肝疾患、アルコール多飲、甲状腺機能低下症、網赤血球の著増(溶血後など)、薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなどの代謝拮抗薬) 一般にMCVが120 fLを超える著明な大球性は巨赤芽球性貧血やMDSで多く、肝疾患・アルコールでは軽度にとどまることが多い。
赤血球指数の計算式
・MCV(fL)= Ht(%)÷ RBC(10⁶/μL)× 10 ・MCH(pg)= Hb(g/dL)÷ RBC(10⁶/μL)× 10 ・MCHC(%)= Hb(g/dL)÷ Ht(%)× 100
網赤血球の見方
網赤血球は骨髄から出たばかりの若い赤血球で、骨髄の赤血球産生能の指標となる。赤血球数が減ると百分率は見かけ上高くなるため、絶対数(赤血球数×網赤血球%)や、貧血の程度で補正した値で評価する。貧血があるのに網赤血球が増えていなければ、骨髄での産生低下または無効造血を考える。
巨赤芽球性貧血とMDSの鑑別
・巨赤芽球性貧血:血清ビタミンB12・葉酸低値、好中球の過分葉、LD・間接ビリルビン高値、B12欠乏では舌炎(Hunter舌炎)や亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害など)を伴うことがある。補充療法で速やかに改善する。 ・MDS:B12・葉酸は正常、骨髄で2系統以上にわたることもある異形成(偽Pelger核異常、微小巨核球など)、芽球の増加、染色体異常(5q-、-7、+8など)。
POINT
・貧血をみたら、まずMCV=Ht÷RBC×10を計算して小球性・正球性・大球性に分ける。 ・本例はMCV≒131 fLの著明な大球性貧血で、網赤血球の絶対数も少ない。 ・大球性貧血の代表は巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)とMDS。 ・サラセミア・典型的な鉄芽球性貧血は小球性、赤芽球癆は正球性で網赤血球がほぼゼロ。
