放射線被曝の「早い症状」と「遅い症状」―白内障はなぜ早期に来ないのか
第104回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
放射線の全身被曝で早期にみられないのはどれか。
- a.悪心
- b.倦怠感
- c.白内障
- d.皮膚炎
- e.リンパ球数減少
対話形式の解説
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医学生まとめ
放射線の全身被曝による身体的影響は、数週間〜数か月以内に現れる早期障害と、数か月〜数年以上を経て現れる晩期障害に分けられます。早期障害は分裂の盛んな組織の障害によるもので、悪心・嘔吐・倦怠感などの前駆症状(放射線宿酔)、最も早い血液所見であるリンパ球数減少、皮膚炎・脱毛、消化管障害などがみられます。白内障は水晶体上皮の障害により通常数年の潜伏期を経て発症する晩期障害で、しきい線量をもつ確定的影響に分類され、2011年にICRPがしきい線量を約0.5Gyへ引き下げました。時期による分類と確定的・確率的影響の分類を別の軸として整理しておくことは、被曝事故時の対応や医療従事者の放射線防護を考えるうえでの基盤になります。
解答・解説
正解はcです
放射線による身体的影響は、症状が現れるまでの時期によって、被曝後数週間〜数か月以内に現れる早期(急性)障害と、数か月〜数年以上たってから現れる晩期(晩発)障害に分けられる。 早期障害は、細胞分裂が盛んな組織(骨髄の造血細胞、リンパ球、腸管上皮、皮膚の基底細胞、精巣の精原細胞など)が放射線で傷害されることで起こる。全身に一度に大量の放射線を浴びた場合には急性放射線症候群(ARS)を生じ、被曝後数時間以内の悪心・嘔吐・倦怠感などの前駆症状に始まり、線量に応じて造血障害、消化管障害、皮膚障害などが現れる。 一方、晩期障害は、細胞の入れ替わりがゆっくりな組織の障害や、血管の障害・線維化によって長い潜伏期ののちに生じるもので、白内障、肺線維症、腎障害、発癌などが代表である。 本問では、悪心・倦怠感(前駆症状)、皮膚炎(皮膚障害)、リンパ球数減少(造血障害の初期所見)はいずれも早期にみられる。白内障は水晶体の上皮細胞の障害によって長い潜伏期ののちに生じる晩期障害であり、早期にはみられない。
選択肢考察
- ×a. 悪心
悪心・嘔吐は急性放射線症候群の前駆症状の代表であり、およそ1Gy以上の全身被曝で出現しうる。被曝から症状が出るまでの時間が短いほど被曝線量が大きいと推定され、初期の線量評価の手がかりとなる。また放射線治療中にみられる宿酔(放射線宿酔:悪心、食欲不振、倦怠感などの二日酔いに似た症状)の症状でもある。早期にみられる。
- ×b. 倦怠感
倦怠感も悪心・嘔吐、食欲不振、発熱などとともに急性放射線症候群の前駆期にみられる症状であり、放射線宿酔の症状でもある。被曝後数時間〜数日のうちに出現する。早期にみられる。
- ○c. 白内障
放射線白内障は、水晶体の赤道部にある上皮細胞が傷害され、異常な線維細胞が後方へ移動して後嚢下に混濁を形成することで生じる。水晶体の細胞の入れ替わりはゆっくりであるため、被曝から発症まで通常数年(線量が多いほど短く、少ないほど長い)の潜伏期があり、晩期(晩発)障害に分類される。一定の線量(しきい線量)を超えると発生する確定的影響(組織反応)であり、国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年にしきい線量を約0.5Gyへ引き下げ、それに伴い水晶体の等価線量限度も引き下げられた。早期にはみられないので、本肢が該当する。
- ×d. 皮膚炎
皮膚の基底細胞は分裂が盛んなため放射線に感受性が高い。一度に数Gy以上の被曝を受けると、数時間〜数日で一過性の初期紅斑が出現し、その後2〜3週間で主紅斑、脱毛、さらに高線量では乾性・湿性落屑、水疱、潰瘍が生じる。放射線治療においても照射野の皮膚炎は治療中〜治療直後に起こる代表的な急性有害事象である。早期にみられる。(なお、皮膚の萎縮・毛細血管拡張・潰瘍などの慢性変化は晩期障害として生じる。)
- ×e. リンパ球数減少
リンパ球は体内で最も放射線感受性の高い細胞の一つであり、分裂していない成熟リンパ球でも放射線でアポトーシス(細胞死)を起こす。そのため全身被曝後、末梢血リンパ球数は数時間〜48時間以内に速やかに減少し、減少の程度は被曝線量の推定に用いられる。その後、顆粒球・血小板が1〜数週間かけて減少していく(造血障害)。早期にみられる。
放射線による身体的影響の時期別分類
・早期(急性)障害:数週間〜数か月以内に出現 放射線宿酔(悪心・嘔吐・食欲不振・倦怠感)、造血障害(リンパ球減少→顆粒球減少・血小板減少)、消化管障害(下痢・下血)、皮膚・粘膜障害(紅斑・脱毛・落屑・粘膜炎)、一時的な不妊、放射線肺臓炎(照射後1〜3か月ごろ)など ・晩期(晩発)障害:数か月〜数年以上たって出現 白内障、肺線維症、腎障害(放射線腎症)、腸管狭窄・潰瘍、骨壊死、甲状腺機能低下症、皮膚萎縮、永久不妊、発癌(白血病・固形癌)など
確定的影響(組織反応)と確率的影響
・確定的影響:しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が増えるほど重症になる。急性障害の大部分と、白内障・不妊などが含まれる。 ・確率的影響:しきい線量はないと仮定され、線量が増えるほど発生確率が高まる(重症度は線量によらない)。発癌と遺伝的影響が該当する。 ・白内障は「晩期障害」かつ「確定的影響」である点に注意する。
急性放射線症候群(ARS)の経過と病型
・経過:前駆期(数時間〜2日、悪心・嘔吐・倦怠感など)→潜伏期(見かけ上症状が落ち着く)→発症期(各臓器障害が顕在化)→回復期または死亡 ・病型(線量が増える順):造血器障害(骨髄障害)→消化管障害→神経・血管障害(中枢神経障害)。高線量ほど潜伏期が短く、重篤になる。
ベルゴニー・トリボンドーの法則
細胞分裂の頻度が高いもの、将来行う分裂回数が多いもの、形態・機能が未分化なものほど放射線感受性が高い。リンパ球は例外的に、分化した細胞でありながら感受性が極めて高い。
POINT
・全身被曝の早期障害:悪心・嘔吐・倦怠感(前駆症状)、リンパ球減少(最も早い血液所見)、皮膚炎・脱毛、下痢 ・晩期障害:白内障、肺線維症、腎障害、発癌など ・白内障は晩期障害であり、確定的影響(組織反応)に分類される ・リンパ球数の減少速度は被曝線量の推定に役立つ
