StudyMed医師国家試験

「壊れている量」ではなく「残っている力」を測れ―肝予備能を映す3つの血液検査

第104回医師国家試験 G問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第18問

肝予備能の評価に有用な血液検査項目はどれか。3つ選べ。

  1. a.AST
  2. b.カリウム
  3. c.アルブミン
  4. d.総ビリルビン
  5. e.プロトロンビン時間〈PT〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝予備能を評価する血液検査を選ぶ問題だ。肝予備能とは、肝臓に残っている「働く力」の余裕のこと。肝硬変の重症度判定や、肝細胞癌で手術に耐えられるかを判断するときに欠かせない考え方なんだ。まず、肝臓の機能にはどんなものがあるか整理してみよう。
医学生医学生
生理学の講義では、合成、解毒・排泄、代謝の3つと習いました。
ドクタードクター
その通り。だから肝予備能を知るには、その機能がどれだけ保たれているかを映す検査を選べばいい。では、肝機能の検査と聞いて真っ先に思い浮かぶのは?
医学生医学生
ASTとALTです。健診でも「肝機能」の欄に載っているので、ASTは入ると思っていました。
ドクタードクター
多くの人が引っかかるところだね。ASTやALTは肝細胞の中にある酵素で、細胞が壊れると血中に漏れ出す、いわゆる逸脱酵素だ。つまり「いまどれだけ肝細胞が壊れているか」、炎症や壊死の活動性を示すだけで、残っている肝臓の機能量は表さない。
医学生医学生
壊れている量と、残っている力は別物ということですか。
ドクタードクター
そう。例えば末期の肝硬変では、壊れる肝細胞そのものが減っているので、ASTは軽度上昇にとどまることもある。数値が低いから予備能が良いとは限らないんだ。しかもASTは心筋や骨格筋、赤血球にも含まれていて、肝臓に特異的でもない。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんのASTが意外と高くなかったのを思い出しました。そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。では合成能を見る検査は何だろう。
医学生医学生
肝臓で作られる蛋白というとアルブミンです。それと凝固因子も肝臓で作られるので、プロトロンビン時間でしょうか。
ドクタードクター
正解。アルブミンは肝細胞でのみ合成されるから、蛋白合成能をそのまま反映する。下がれば膠質浸透圧が低下して腹水や浮腫の一因にもなる。ただ半減期が約3週間と長いので、急な変化よりも慢性肝疾患の評価に向いている。
医学生医学生
プロトロンビン時間はどう違うんですか。
ドクタードクター
PTは外因系凝固を見る検査で、第II・V・VII・X因子やフィブリノゲンを反映する。どれも肝臓で作られ、特に第VII因子は半減期が数時間と短いから、合成能の低下を鋭敏かつ速やかに映し出す。急性肝不全の診断基準にPTが使われるのもそのためだ。ただし、ビタミンK欠乏やワルファリン内服でも延長するから、その影響は除いて考える必要がある。
医学生医学生
排泄能のほうは総ビリルビンですね。
ドクタードクター
そう。ビリルビンは肝細胞に取り込まれ、グルクロン酸抱合を受けて胆汁へ排泄される。肝細胞の機能が落ちるとこの流れが滞って血中で上昇する。胆道閉塞や溶血でも上がるから、それらを除外して解釈しよう。最後にカリウムはどうかな。
医学生医学生
カリウムは腎臓やアルドステロンで調節されるので、肝臓の機能とは直接関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。肝硬変ではスピロノラクトンで高カリウム、ループ利尿薬で低カリウムになりやすく、低カリウム血症は肝性脳症の誘因になるので管理上は大切だ。でも肝予備能の指標ではない。結局、正解はアルブミン、総ビリルビン、プロトロンビン時間の3つになる。
医学生医学生
これってChild-Pugh分類の血液検査項目と同じですね。CBTのときに語呂で覚えました。
ドクタードクター
よく気づいたね。Child-Pugh分類は肝性脳症、腹水、総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間の5項目をそれぞれ1〜3点で評価し、合計5〜6点がA、7〜9点がB、10〜15点がCだ。Cほど予備能が低い。日本の肝癌診療ではICG15分停滞率を加えた肝障害度も使われ、肝切除の範囲を決める際にはICG停滞率が重視される。
医学生医学生
ほかにも予備能を反映する検査はありますか。
ドクタードクター
合成能ならコリンエステラーゼや総コレステロール、肝硬変の進行度なら血小板数の減少も参考になる。肝移植の優先度判定にはビリルビン、INR、クレアチニンを使うMELDスコアがある。検査値を「何を反映しているか」で分類して覚えておくと、実際の患者さんでも数値の意味を読み違えずに済むよ。

まとめ

肝予備能とは残存する肝臓の機能の余力であり、肝硬変の重症度判定や肝細胞癌の治療選択に用いられます。評価には合成能を映すアルブミンとプロトロンビン時間、排泄能を映す総ビリルビンが有用で、これらはChild-Pugh分類の血液検査項目そのものです。ASTやALTは肝細胞が壊れたときに漏れ出す逸脱酵素で、炎症や壊死の活動性を示しても残存機能の量は示さず、カリウムは主に腎臓とホルモンで調節されるため指標になりません。PTは凝固因子の半減期が短く急性の機能低下を鋭敏に反映し、アルブミンは慢性の評価に向くといった特性の違いや、ICG停滞率・MELDスコアなどの関連指標も押さえておきましょう。検査値を「何を反映しているか」で整理する習慣は、肝疾患の診療で数値を正しく読み解く基礎になります。

解答・解説

正解はc, d, eです

肝予備能とは

肝予備能とは、肝臓に残っている「働く力」の余裕、つまり残存する肝細胞がどれだけの機能を担えるかを指す。肝硬変の重症度判定、肝細胞癌に対する肝切除や治療法の選択、手術・薬物投与に耐えられるかの判断などに用いる。

どの検査が肝予備能を反映するか

肝臓の機能は大きく「合成」「解毒・排泄」「代謝」に分けられる。肝予備能を知るには、これらの機能がどの程度保たれているかを反映する検査を選ぶ必要がある。 ・合成能:アルブミン、凝固因子(プロトロンビン時間〈PT〉で評価)、コリンエステラーゼ、総コレステロール ・排泄能:総ビリルビン、ICG(インドシアニングリーン)停滞率 一方、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、肝細胞が壊れたときに血中へ漏れ出す酵素であり、「いま肝細胞がどれだけ壊れているか(炎症・壊死の活動性)」を示すにすぎない。残っている肝臓の機能量は示さない。

考え方

肝予備能評価の代表的な指標はChild-Pugh分類であり、血液検査項目として総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間の3つを含む(残る2項目は腹水と肝性脳症という臨床所見)。この3項目を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  AST

    ASTは肝細胞内に存在する逸脱酵素で、肝細胞の壊死・破壊が起こると血中濃度が上昇する。したがって肝障害の「活動性」を反映するが、残存肝機能の量は反映しない。例えば末期の肝硬変では壊れる肝細胞自体が少なくなるため、ASTはむしろ軽度上昇にとどまることがあり、数値が低いからといって肝予備能が良いとはいえない。また、ASTは心筋・骨格筋・赤血球にも含まれ、肝特異性も高くない。Child-Pugh分類にも含まれない。

  2. ×b.  カリウム

    血清カリウムは主に腎臓での排泄やアルドステロンなどのホルモン、酸塩基平衡によって調節される電解質であり、肝臓の合成・排泄機能を直接反映しない。肝硬変患者では利尿薬(スピロノラクトンによる高カリウム血症、ループ利尿薬による低カリウム血症)の影響で変動し、低カリウム血症は肝性脳症の誘因となるため管理上は重要だが、肝予備能の指標ではない。Child-Pugh分類にも含まれない。

  3. ○c.  アルブミン

    アルブミンは肝細胞でのみ合成される蛋白であり、血清アルブミン値は肝臓の蛋白合成能を反映する。肝予備能が低下すると低アルブミン血症となり、膠質浸透圧の低下を介して腹水や浮腫の一因となる。Child-Pugh分類の評価項目の一つである(3.5 g/dL超で1点、2.8〜3.5 g/dLで2点、2.8 g/dL未満で3点)。なお、血中半減期が約3週間と長いため急性の変化は反映しにくく、慢性肝疾患の評価に向いている。

  4. ○d.  総ビリルビン

    ビリルビンは肝細胞に取り込まれてグルクロン酸抱合を受け、胆汁中に排泄される。肝細胞機能が低下すると取り込み・抱合・排泄が障害され、血清総ビリルビン値が上昇する。したがって総ビリルビンは肝臓の排泄能(解毒能)を反映し、肝予備能の指標となる。Child-Pugh分類の評価項目の一つである(2.0 mg/dL未満で1点、2.0〜3.0 mg/dLで2点、3.0 mg/dL超で3点)。ただし、胆道閉塞や溶血でも上昇するため、それらを除外して解釈する必要がある。

  5. ○e.  プロトロンビン時間〈PT〉

    プロトロンビン時間は外因系凝固経路を評価する検査で、第II・V・VII・X因子およびフィブリノゲンの量を反映する。これらの凝固因子はいずれも肝臓で合成され、特に第VII因子は半減期が数時間と短いため、肝合成能の低下を鋭敏かつ速やかに反映する。Child-Pugh分類の評価項目の一つである(PT活性70%超で1点、40〜70%で2点、40%未満で3点。INRで評価する場合は1.7未満、1.7〜2.3、2.3超)。劇症肝炎(急性肝不全)の診断基準にもPTが用いられる。なお、ビタミンK欠乏やワルファリン内服でも延長するため、その影響を考慮する。

Child-Pugh分類

以下の5項目をそれぞれ1〜3点で評価し、合計点で重症度を分類する。 ・肝性脳症:なし(1点)/軽度〔昏睡度I〜II〕(2点)/昏睡度III以上(3点) ・腹水:なし(1点)/少量・治療でコントロール可能(2点)/中等量以上・難治(3点) ・血清総ビリルビン:2.0 mg/dL未満(1点)/2.0〜3.0(2点)/3.0超(3点) ・血清アルブミン:3.5 g/dL超(1点)/2.8〜3.5(2点)/2.8未満(3点) ・プロトロンビン時間活性:70%超(1点)/40〜70%(2点)/40%未満(3点) 合計5〜6点がgrade A、7〜9点がgrade B、10〜15点がgrade C であり、Cほど肝予備能が低い。

その他の肝予備能の指標

・ICG(インドシアニングリーン)15分停滞率:色素を静注し15分後の血中残存率をみる検査で、肝血流と肝細胞の取り込み・排泄能を反映する。正常は10%前後以下。肝細胞癌の切除範囲の決定(幕内基準など)に用いる。 ・コリンエステラーゼ、総コレステロール:肝臓の合成能を反映し、肝予備能低下で低値となる。 ・血小板数:肝硬変の進行に伴う門脈圧亢進と脾機能亢進、トロンボポエチン産生低下を反映して減少する。 ・日本の肝癌診療で用いられる「肝障害度」(日本肝癌研究会)は、腹水、血清ビリルビン、血清アルブミン、ICG 15分停滞率、プロトロンビン活性値の5項目で A〜C に分類する。 ・MELDスコア(総ビリルビン、INR、クレアチニンを用いる)は肝移植の優先度判定などに用いられる。

肝機能検査の整理

・肝細胞障害(壊死):AST、ALT、LDH ・胆汁うっ滞:ALP、γ-GTP、直接ビリルビン ・合成能:アルブミン、PT、コリンエステラーゼ、総コレステロール ・排泄・解毒能:総ビリルビン、ICG停滞率、血中アンモニア ・線維化:血小板数、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、M2BPGi など

POINT

・肝予備能=残存肝機能の量。合成能(アルブミン、PT、コリンエステラーゼ)と排泄能(ビリルビン、ICG停滞率)で評価する。 ・Child-Pugh分類の5項目:肝性脳症、腹水、総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間(血液検査はビリルビン・アルブミン・PTの3つ)。 ・AST・ALTは肝細胞壊死(炎症の活動性)の指標であり、肝予備能の指標ではない。 ・PTは凝固因子の半減期が短いため、急性の肝機能低下を最も早く反映する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。