扁桃炎から2週間後のコーラ色の尿―急性糸球体腎炎で「起こらないもの」を見抜く
第104回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
16歳の男子。顔面の浮腫を主訴に来院した。約2週前に扁桃炎に罹患し,昨日から顔面の浮腫が出現した。尿の色は暗赤色である。 この疾患の主徴候とならないのはどれか。
- a.体重増加
- b.高血圧
- c.貧血
- d.蛋白尿
- e.血尿
対話形式の解説
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ドクターまとめ
咽頭炎・扁桃炎の1〜2週後に肉眼的血尿、浮腫、高血圧が出現すれば溶連菌感染後急性糸球体腎炎を考え、感染直後の血尿ならIgA腎症を考えます。本症の主徴候はGFR低下によるNa・水貯留(浮腫、体重増加、高血圧)と糸球体障害(血尿、蛋白尿)で説明でき、高血圧は体液量依存性でレニンはむしろ抑制されます。貧血はエリスロポエチン産生低下による慢性腎臓病の所見であり急性糸球体腎炎の主徴候ではなく、強い貧血があればRPGNや慢性腎炎の急性増悪などを疑う手がかりになります。検査ではASO上昇と8週以内に回復する低補体血症が重要で、治療は塩分・水分制限を中心とした対症療法です。症状を病態生理から一つずつ説明できるようにしておくと、否定形の問題にも臨床での鑑別にも強くなります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・16歳の男子:小児〜若年者である。 ・約2週前に扁桃炎:先行する上気道感染があり、そこから一定の期間(潜伏期)を置いて症状が出ている。扁桃炎の原因としてはA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)が代表的である。 ・顔面の浮腫:腎臓でのナトリウム(Na)と水の排泄が減り、体液が貯留したことを示す。まぶたや顔面は皮下組織がやわらかく、浮腫が最初に目立ちやすい。 ・暗赤色の尿:肉眼的血尿(コーラ色、紅茶色と表現されることも多い)を示す。
診断へのプロセス
上気道感染と関連して肉眼的血尿が出る糸球体疾患として、急性糸球体腎炎、IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)が鑑別に挙がる。 ・IgA腎症:上気道感染の直後(当日〜数日以内)に肉眼的血尿が出るのが特徴で、感染と血尿の間に潜伏期がない。 ・RPGN:数週〜数か月の単位で腎機能が急速に悪化する症候群で、中高年に多く、発熱や全身倦怠感などの非特異的症状が目立つ。 ・急性糸球体腎炎:先行感染から1〜2週間(咽頭炎後では平均約10日)の潜伏期を経て、血尿、浮腫、高血圧が急に出現する。 本例は若年で、扁桃炎の約2週後に浮腫と肉眼的血尿が出現しており、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)が最も考えられる。
設問の考え方
本問は、この疾患の「主徴候にならないもの」を選ぶ否定形の問題である。急性糸球体腎炎では、糸球体の急性炎症によって糸球体濾過量(GFR)が低下し、Naと水が体内に貯留する。これによって浮腫・体重増加・高血圧が生じ、糸球体の障害そのものによって血尿・蛋白尿が生じる。一方、貧血は腎臓のエリスロポエチン産生が長期にわたり低下した慢性腎臓病の所見であり、発症直後の急性糸球体腎炎の主徴候ではない。
選択肢考察
- ×a. 体重増加
GFRが低下する一方で尿細管でのNa再吸収は保たれるため、Naと水が体内に貯留して細胞外液量が増える。これが浮腫とともに体重増加として現れる。体液貯留に伴う体重増加は浮腫の程度を客観的に追う指標にもなり、本症の主徴候の一つである。
- ×b. 高血圧
Naと水の貯留によって循環血液量が増え、発症初期から高血圧をきたす。血尿・浮腫とともに急性糸球体腎炎の三主徴を構成する。この高血圧は体液量の増加によるもので、レニン活性はむしろ抑制されている。高度になると高血圧性脳症(頭痛、嘔吐、けいれん、意識障害)や、体液過剰によるうっ血性心不全・肺水腫を起こすことがある。
- ○c. 貧血
腎性貧血は、腎臓の間質細胞からのエリスロポエチン産生が長期にわたって低下することで生じる、慢性腎臓病(CKD)の所見である。急性糸球体腎炎は発症から日が浅く、赤血球の寿命(約120日)を考えても、造血低下による貧血が短期間で明らかになることはない。体液貯留による血液の希釈で血色素値が軽く下がることはあるが、主徴候とはいえない。なお、RPGNや慢性腎炎の急性増悪では貧血を伴うことが多く、貧血の存在はこれらを疑う手がかりになる。
- ×d. 蛋白尿
糸球体の炎症によって濾過障壁が障害され、ほとんどの症例で蛋白尿がみられる。多くは軽度〜中等度で、血尿よりも早く、通常数週から数か月で消失する。ネフローゼ症候群に至るほどの高度蛋白尿は少ない。主徴候の一つである。
- ×e. 血尿
血尿はほぼ全例にみられる必発の所見で、本例のように肉眼的血尿(暗赤色〜コーラ色の尿)となることも多い。糸球体由来の血尿であるため、尿沈渣では変形赤血球や赤血球円柱がみられる。肉眼的血尿は数日〜数週で消えるが、顕微鏡的血尿は数か月以上続くことがある。浮腫・高血圧とともに三主徴の一つである。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の概要
・原因:A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎・扁桃炎や皮膚感染症(伝染性膿痂疹など)の後に発症する。溶連菌の抗原と抗体からなる免疫複合体が糸球体に沈着し、補体が活性化されて炎症が起こる(III型アレルギー)。 ・好発:小児(特に学童期)に多く、男児にやや多い。 ・潜伏期:咽頭炎の後は1〜2週(平均約10日)、皮膚感染の後は約3〜6週。 ・三主徴:血尿、浮腫、高血圧。そのほか乏尿、体重増加を伴う。
検査所見
・尿所見:血尿(変形赤血球、赤血球円柱)、軽度〜中等度の蛋白尿。 ・溶連菌感染の証拠:抗ストレプトリジンO(ASO)、抗ストレプトキナーゼ(ASK)の上昇。 ・補体:血清補体価(CH50)とC3が低下し、通常6〜8週以内に正常化する。低補体が8週以上続く場合は、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎など他の疾患を疑う。 ・腎生検(通常は不要):光学顕微鏡では管内増殖性糸球体腎炎(毛細血管内に好中球や増殖した細胞が充満する)、電子顕微鏡では上皮下の瘤状の沈着物(hump)、蛍光抗体法ではIgGとC3の顆粒状沈着がみられる。
治療と予後
・安静、塩分制限・水分制限、必要に応じて利尿薬(ループ利尿薬)や降圧薬を用いる対症療法が中心である。 ・溶連菌感染が残っていればペニシリン系抗菌薬を投与するが、抗菌薬で腎炎の経過そのものを変えることはできない。 ・小児では予後良好で、大部分が自然に治癒する。成人や高齢者では腎機能障害が残ることがある。
貧血を伴う腎疾患
腎性貧血は慢性腎臓病の進行に伴うエリスロポエチン産生低下によって起こる正球性正色素性貧血である。治療には赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬を用いる。急性の腎障害で貧血が強い場合は、慢性腎臓病が背景にある可能性や、RPGN、溶血性尿毒症症候群(HUS)などを考える。
POINT
・先行感染(咽頭炎・扁桃炎)の1〜2週後に血尿・浮腫・高血圧 → 溶連菌感染後急性糸球体腎炎。 ・感染直後(潜伏期なし)の肉眼的血尿 → IgA腎症を考える。 ・主徴候:血尿(必発)、蛋白尿、浮腫、高血圧、乏尿、体重増加。いずれもGFRの低下によるNa・水の貯留と糸球体障害で説明できる。 ・貧血は慢性腎臓病(エリスロポエチン産生低下)の所見であり、急性糸球体腎炎の主徴候ではない。 ・検査ではASO上昇と低補体血症(C3、CH50低下、8週以内に回復)が重要。
