すり減るのは骨ではなく軟骨―変形性膝関節症の「出発点」を見極める
第104回医師国家試験 E問題 第57問
国試問題にチャレンジ
63歳の女性。膝関節痛を主訴に来院した。10年前から歩行時に膝の痛みを感じるようになり,徐々に増悪している。下肢の写真(A)と膝関節エックス線写真(B)とを別に示す。 一次性病変があるのはどれか。

- a.骨
- b.軟骨
- c.滑膜
- d.筋肉
- e.神経
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中高年女性に長期間かけて進行する荷重時の膝痛があり、内反膝と内側関節裂隙の狭小化・骨棘・軟骨下骨硬化を認める場合は変形性膝関節症を考えます。その一次性病変は関節軟骨の変性・摩耗であり、エックス線上の関節裂隙狭小化は軟骨の菲薄化を反映しています。骨棘や骨硬化などの骨変化、二次的な滑膜炎、廃用性の筋萎縮はいずれも軟骨障害に続発する変化です。滑膜が一次性病変となる関節リウマチ、神経障害が原因の神経病性関節症(Charcot関節)と対比すると、各関節疾患の病態の出発点が整理できます。病変の起点を理解することは、画像所見の正しい解釈や、減量・筋力訓練から人工関節置換術に至る治療選択の理解につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・63歳女性。10年前から歩行時(荷重時)の膝痛があり、ゆっくりと悪化している。急性発症や発熱・発赤などの炎症症状の記載はない。 ・下肢の写真(A):両膝が外側へ弯曲し、膝同士の間が開いた内反膝(O脚)変形を示す。 ・膝関節エックス線写真(B):内側の関節裂隙(大腿骨と脛骨の間の隙間。エックス線に写らない関節軟骨の厚みを反映する)の狭小化、関節縁の骨棘形成、軟骨下骨の硬化がみられる。
診断へのプロセス
中高年女性、長い経過で荷重時に増悪する膝痛、内反膝、内側関節裂隙の狭小化と骨棘という組み合わせは、変形性膝関節症(膝OA: osteoarthritis)の典型像である。 鑑別として、関節リウマチ(RA)は朝のこわばりを伴う多関節炎で、手指・手関節など小関節の対称性の腫脹を伴い、エックス線では骨萎縮・骨びらんと内外側均等な裂隙狭小化を示し、骨棘は乏しい(膝は外反変形になりやすい)。化膿性膝関節炎は急性の発赤・熱感・腫脹と発熱を示す。痛風性関節炎は中年以降の男性に多く、急性の激痛発作として発症し、好発部位は第1中足趾節(MTP)関節である。偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)は高齢者の膝に急性関節炎を起こし、エックス線で半月板の石灰化を示す。本例はいずれにも当てはまらない。
設問の考え方
変形性関節症は、加齢や機械的ストレス(荷重・摩擦)によって関節軟骨が変性・摩耗することから始まる疾患である。軟骨の障害に引き続いて、軟骨下骨の硬化・骨棘形成・骨嚢胞といった骨の反応性変化、軟骨の破片などによる二次的な滑膜炎、痛みで動かさないことによる筋萎縮が生じる。したがって、一次性(最初に起こる、病態の出発点となる)の病変は関節軟骨にある。
選択肢考察
- ×a. 骨
膝OAでは軟骨下骨の硬化、関節縁の骨棘形成、軟骨下骨嚢胞、進行例での骨の摩耗・変形といった骨の変化が目立つ。しかしこれらは、軟骨が薄くなり衝撃を吸収できなくなった結果、骨に負荷が集中して生じる反応性(二次性)の変化である。エックス線で見える所見の多くは骨の変化だが、病変の出発点ではない。
- ○b. 軟骨
変形性関節症の一次性病変は関節軟骨の変性である。加齢に伴う軟骨基質(プロテオグリカン、II型コラーゲン)の変化と、肥満・内反膝などによる機械的ストレスが加わると、軟骨表面の細線維化(フィブリレーション)、亀裂、びらんが生じ、軟骨は次第にすり減る。関節軟骨には血管も神経もなく自己修復能が乏しいため、いったん始まった変性は進行しやすい。軟骨の厚みが失われることは、エックス線では関節裂隙の狭小化として表れる。
- ×c. 滑膜
滑膜が一次性病変となる代表は関節リウマチであり、増殖した滑膜(パンヌス)が軟骨や骨を侵食して破壊する。膝OAでも、摩耗した軟骨片などの刺激で二次的な滑膜炎が起こり、関節水腫(関節液の貯留)や痛みの原因となるが、これは軟骨変性に続発するものである。
- ×d. 筋肉
膝OAでは、痛みのために膝を動かさなくなることで大腿四頭筋などに廃用性の筋萎縮・筋力低下が生じ、それが関節の不安定性を増してさらに症状を悪化させる。しかし筋の変化は二次的なものである。一方で、大腿四頭筋の筋力訓練は膝OAの保存療法の柱であり、重要性は高い。
- ×e. 神経
神経に一次性病変があって関節が破壊される病態は神経病性関節症(Charcot関節)である。糖尿病、脊髄癆(神経梅毒)、脊髄空洞症などで痛覚・深部感覚が失われ、関節の保護機構が働かなくなることで、無痛性で高度の関節破壊・変形が起こる。本例のように疼痛を主訴とし、ゆっくり進行する膝OAの一次性病変ではない。
変形性膝関節症(膝OA)の概要
・関節軟骨の変性・摩耗を起点に、骨の増殖性変化(骨棘・骨硬化)と関節の変形を来す退行性疾患である。現在では、軟骨だけでなく軟骨下骨・滑膜・半月板・靱帯・筋など関節を構成する組織全体が関与する疾患とも捉えられているが、病変の出発点は関節軟骨とされる。 ・中高年の女性に多く、危険因子は加齢、女性、肥満、内反膝、膝の外傷歴(半月板損傷・靱帯損傷)、重労働など。 ・一次性(明らかな原因疾患のないもの。膝では大部分)と二次性(外傷、感染、関節リウマチ後、骨壊死などに続発するもの)に分けられる。
症状
・動き始めの痛み(立ち上がり、歩き始め)、階段昇降時の痛み(特に降りるとき)。 ・進行すると関節水腫、可動域制限(特に正座困難)、内反変形の進行、歩行時の外側動揺(lateral thrust)。
エックス線所見
・関節裂隙の狭小化(日本人では内側型が大部分) ・骨棘形成 ・軟骨下骨の硬化 ・軟骨下骨嚢胞 重症度はKellgren-Lawrence分類(グレード0〜4)で評価されることが多い。
治療
・保存療法:減量、大腿四頭筋訓練などの運動療法、外側楔状足底板、膝装具、杖、NSAIDsなどの鎮痛薬、ヒアルロン酸の関節内注射。 ・手術療法:関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術(比較的若く活動性の高い内側型)、人工膝関節置換術(単顆・全置換)。
鑑別の要点
・関節リウマチ:滑膜が一次性病変。多関節・対称性、朝のこわばり、骨びらん・骨萎縮。膝は外反変形を来しやすい。 ・化膿性関節炎:急性の発赤・熱感・腫脹、発熱。関節液の混濁と細菌の検出。 ・痛風:高尿酸血症、中年男性、第1MTP関節に好発、尿酸ナトリウム結晶。 ・偽痛風:高齢者の膝・手関節、半月板の石灰化、ピロリン酸カルシウム結晶。 ・神経病性関節症(Charcot関節):感覚障害を背景とする無痛性の高度関節破壊。 ・大腿骨内顆骨壊死:高齢女性に急激な膝痛で発症する。
POINT
・中高年女性の慢性・荷重時の膝痛+内反膝+内側関節裂隙狭小化・骨棘 → 変形性膝関節症。 ・変形性関節症の一次性病変は関節軟骨の変性・摩耗。骨棘・骨硬化、滑膜炎、筋萎縮は二次的変化。 ・関節リウマチの一次性病変は滑膜、神経病性関節症(Charcot関節)は神経障害が原因。 ・関節裂隙の狭小化は軟骨の菲薄化を反映する。
