無月経と乳汁漏出の裏にある3つの臓器―プロラクチンを「止める仕組み」から考える
第104回医師国家試験 E問題 第52問
国試問題にチャレンジ
34歳の女性。無月経を主訴に来院した。8年前に正常分娩し,その後月経に異常はなかったが,1年ほど前から稀発月経となり半年前から無月経となっていた。診察時に乳頭部の圧迫を行った後の写真を別に示す。 疾患に関与するのはどれか。3つ選べ。

- a.視床下部
- b.下垂体
- c.甲状腺
- d.副腎皮質
- e.卵巣
対話形式の解説
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ドクターまとめ
続発性無月経に病的な乳汁漏出を伴う場合は、まず高プロラクチン血症を考えます。プロラクチンは下垂体前葉で産生され、視床下部からのドパミンで常に抑制され、TRHで刺激されるため、プロラクチノーマなどの下垂体病変、ドパミンが届かなくなる視床下部・下垂体茎の病変、TRHが増える原発性甲状腺機能低下症の3つが主な原因となります。過剰なプロラクチンはGnRH分泌を抑えてLH・FSHを低下させるため、卵巣は原因ではなく機能が低下する結果側であり、副腎皮質も直接は関与しません。実臨床では薬剤性の頻度が高く、妊娠の除外、服薬歴の確認、甲状腺機能の測定、下垂体MRIの順に進め、プロラクチノーマにはドパミン作動薬が第一選択です。プロラクチンだけが抑制優位の調節を受けるという生理を理解すると、原因の整理から治療薬の選択まで一貫して説明できるようになります。
解答・解説
正解はa, b, cです
所見の整理
34歳の女性。8年前の分娩後は月経が順調であったが、1年前から稀発月経、半年前から無月経となった(続発性無月経)。乳頭部を圧迫すると乳頭から乳汁が漏れ出ていることが写真で示されている。分娩・授乳から長期間経過しており、妊娠・授乳に伴う生理的な乳汁分泌では説明できない。
診断へのプロセス
無月経と病的な乳汁漏出の組み合わせ(無月経・乳汁漏出症候群)は、高プロラクチン血症を最も強く示唆する。プロラクチン(PRL)は下垂体前葉の乳腺刺激ホルモン産生細胞から分泌され、乳汁の産生を促す。PRLが過剰になると、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のパルス状分泌が抑制され、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌が低下する。その結果、卵巣での卵胞発育・排卵が起こらなくなり、稀発月経から無月経へ進行する。本例の経過はこの病態に合致する。
設問の考え方
問われているのは、高プロラクチン血症(乳汁漏出を伴う無月経)の発症に関与しうる臓器である。PRL分泌の調節機構を押さえると整理しやすい。 ・PRL分泌は、視床下部から下垂体門脈を介して届くドパミン(PRL分泌抑制因子、PIF)によって、常に抑制的に制御されている(他の下垂体前葉ホルモンと異なり、主な調節は抑制系である)。 ・甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)はPRL分泌を刺激する。 したがって、①PRLを産生する下垂体そのものの病変(プロラクチノーマなど)、②ドパミンの産生・輸送を障害する視床下部・下垂体茎の病変、③TRHを増加させる原発性甲状腺機能低下症、の3つが高プロラクチン血症の原因となる。副腎皮質と卵巣はPRL分泌の調節に直接関わらない。
選択肢考察
- ○a. 視床下部
視床下部の弓状核などで産生されるドパミンは、下垂体門脈を通って下垂体前葉に達し、PRL分泌を持続的に抑制している。視床下部の腫瘍(頭蓋咽頭腫など)、炎症・肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)、下垂体茎の圧迫・断裂(非機能性下垂体腺腫による茎の圧迫を含む)ではドパミンが届かなくなり、抑制が外れてPRLが上昇する。ドパミン受容体遮断作用をもつ薬剤(スルピリド、メトクロプラミド、抗精神病薬など)やドパミンを枯渇させる薬剤による高プロラクチン血症も、この抑制系の破綻によるものである。さらに、PRL過剰は視床下部のGnRH分泌を抑えることで無月経を引き起こすため、視床下部は病態の成立そのものにも関与する。
- ○b. 下垂体
PRLは下垂体前葉で産生・分泌される。高プロラクチン血症の原因として頻度が高いのはPRL産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)で、女性では無月経・乳汁漏出、男性では性欲低下や勃起障害で発見されることが多い。また、PRL過剰によってGnRH分泌が抑えられると下垂体からのLH・FSH分泌が低下し、これが無月経の直接の原因となる。したがって下垂体は原因・病態の両面で中心的な役割を果たす。
- ○c. 甲状腺
原発性甲状腺機能低下症では、血中甲状腺ホルモンの低下によるネガティブフィードバックの解除で視床下部からのTRH分泌が増加する。TRHは甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけでなくPRLの分泌も刺激するため、高プロラクチン血症となり乳汁漏出や月経異常をきたしうる。長期間続くと下垂体の過形成で下垂体腫大を示すこともあり、プロラクチノーマと誤認しないよう、高プロラクチン血症の精査ではTSHと甲状腺ホルモン(遊離T4)を必ず測定する。この場合は甲状腺ホルモン補充でPRLが正常化する。
- ×d. 副腎皮質
副腎皮質は糖質コルチコイド(コルチゾール)、鉱質コルチコイド(アルドステロン)、副腎アンドロゲンを産生するが、これらはPRL分泌を直接促進せず、乳汁漏出の原因とはならない。副腎性のアンドロゲン過剰(先天性副腎過形成など)でも月経異常は起こりうるが、その場合は多毛や男性化徴候を伴い、乳汁漏出はみられない。本例の病態には関与しない。
- ×e. 卵巣
本例では卵巣は高プロラクチン血症の結果としてゴナドトロピン(LH・FSH)刺激が低下し、卵胞発育・排卵が止まっている「影響を受ける側」であり、原因ではない。卵巣自体の疾患(早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群など)でPRLが上昇して乳汁漏出を起こすことはない。なお、エストロゲンにはPRL産生細胞を刺激する作用があるため妊娠中や高用量エストロゲン製剤使用時にはPRLが上昇するが、これは本例の病態には当たらない。
プロラクチン分泌の調節
・抑制因子: ドパミン(視床下部から下垂体門脈経由。最も重要な調節因子) ・促進因子: TRH、エストロゲン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、吸啜刺激、ストレス、睡眠 PRLは下垂体前葉ホルモンの中で唯一、主に抑制性の調節を受けている。このため下垂体茎が障害されると、他の前葉ホルモンは低下するのにPRLだけは上昇する(下垂体茎効果、stalk effect)。
高プロラクチン血症の原因
・生理的: 妊娠、授乳(産褥)、睡眠、ストレス、乳頭刺激 ・薬剤性(頻度が高い): スルピリド、メトクロプラミド・ドンペリドン(制吐薬)、抗精神病薬(ハロペリドール、リスペリドンなど)、三環系抗うつ薬、H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)、レセルピン・α-メチルドパ(降圧薬)、エストロゲン製剤 ・下垂体疾患: プロラクチノーマ、先端巨大症(GH・PRL同時産生腺腫) ・視床下部・下垂体茎病変: 頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、サルコイドーシス、非機能性下垂体腺腫による茎圧迫、外傷 ・その他: 原発性甲状腺機能低下症、慢性腎不全(PRLの排泄低下)、胸壁の病変(帯状疱疹、胸部手術後など:神経反射による) ・マクロプロラクチン血症: 生物活性の乏しい大分子PRLが検出されるもので、症状を伴わないことが多い。
無月経が起こる機序
PRL過剰→視床下部のGnRHパルス分泌抑制→LH・FSH低下→卵胞発育・排卵の停止→エストロゲン低下・無月経。長期化すると骨密度低下の原因にもなる。
診断と治療の流れ
1. 妊娠の除外と服薬歴の確認 2. 血中PRL、TSH・遊離T4、腎機能の測定 3. 下垂体MRIで腺腫や視床下部病変の有無を評価 4. 治療: 薬剤性なら原因薬の中止・変更、甲状腺機能低下症なら甲状腺ホルモン補充。プロラクチノーマはドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)による薬物療法が第一選択で、多くは腫瘍縮小と排卵回復が得られる。薬物抵抗性・不耐容例などでは経蝶形骨洞手術を考慮する。
POINT
・続発性無月経+乳汁漏出→まず高プロラクチン血症を考える。 ・PRLは視床下部のドパミンで抑制、TRHで刺激される。 ・原因の3本柱: 下垂体(プロラクチノーマ)、視床下部・下垂体茎病変(ドパミン抑制の解除)、原発性甲状腺機能低下症(TRH増加)。 ・薬剤性(スルピリド、メトクロプラミド、抗精神病薬など)の頻度が高く、服薬歴の聴取が必須。 ・PRL過剰→GnRH分泌抑制→LH・FSH低下→無月経。卵巣は結果として機能が低下する側。 ・プロラクチノーマの第一選択はドパミン作動薬(カベルゴリン)。
