StudyMed医師国家試験

顔は左、体は右―交叉するしびれとしゃっくりが指し示す延髄外側

第104回医師国家試験 E問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第47問

52歳の男性。起床時からのふらつきと左顔面・右半身のしびれとを主訴に来院した。水を飲むとむせてしまい,しゃっくりが続いている。眼部の写真を別に示す。  病巣部位はどれか。

第104回 E問題 第47問の問題画像
  1. a.視床
  2. b.中脳
  3. c.橋
  4. d.延髄
  5. e.小脳

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性に起こった神経症状の組み合わせから、脳のどこに病巣があるかを特定する問題だ。脳幹の病変は「どの脳神経の症状があるか」で高さを決め、「左右の分布」で側と内外を絞るのが基本。起床時の発症という点からまず何を考えるかな。
医学生医学生
急性発症なので脳梗塞などの脳血管障害でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。では症状を一つずつ意味づけしていこう。いちばん特徴的なのは、しびれが顔面は左、体は右と、左右で分かれていることだ。
医学生医学生
左右がバラバラなので、病変が2か所あるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、実は1か所で説明できる。顔面の温痛覚は同側の三叉神経脊髄路核と脊髄路が担っていて、延髄まで下りてきている。一方、体幹・四肢の温痛覚を運ぶ外側脊髄視床路は、脊髄で交叉した後に上行するから、脳幹では反対側の体の情報を運んでいる。この2本が隣り合って走るのが延髄外側なんだ。
医学生医学生
なるほど、左の延髄外側が障害されれば、左の顔と右の体に症状が出るわけですね。神経解剖の実習で脳幹の横断切片をスケッチしたのを思い出しました。
ドクタードクター
その横断面のイメージが大事。次に、水でむせる嚥下障害としゃっくりはどうだろう。
医学生医学生
嚥下は舌咽神経と迷走神経なので、その運動核の疑核ですね。どちらも延髄にあります。
ドクタードクター
正解。しゃっくりの持続も延髄外側病変でよくみられる症状だ。そして眼部の写真では、左の眼裂が狭く、左の瞳孔が小さい。つまり左のHorner症候群だ。視床下部から下行する交感神経路は脳幹の外側を通るから、ここが障害されたと考えられる。ふらつきは下小脳脚や前庭神経核の障害で説明できる。
医学生医学生
交叉性感覚障害、嚥下障害、同側のHorner症候群、失調……これはWallenberg症候群ですね。病巣は延髄です。
ドクタードクター
その通り、延髄外側症候群、Wallenberg症候群だ。では、ほかの部位がなぜ違うかも確認しよう。まず視床はどうかな。
医学生医学生
視床は感覚の中継核なので、しびれは起こりそうですが…。
ドクタードクター
視床病変では反対側の顔面を含む半身の感覚障害になる。顔と体が同じ側になるんだ。後から激しい視床痛が出るDejerine-Roussy症候群が有名だね。交叉性の分布や嚥下障害、Horner症候群は説明できない。
医学生医学生
中脳と橋は、障害される脳神経が違うということですね。
ドクタードクター
そう。中脳では動眼神経麻痺に対側片麻痺を伴うWeber症候群、橋では外転神経・顔面神経麻痺に対側片麻痺を伴うMillard-Gubler症候群などが代表だ。橋下部の外側病変は延髄外側と似た症状をとることもあるけれど、疑核の症状である嚥下障害やしゃっくりは延髄でこそよく説明できる。小脳はふらつきは説明できても、感覚路や脳神経核、交感神経路は通らないから、ほかの症状が説明できないね。
医学生医学生
脳神経のⅢが中脳、ⅤからⅧが橋、ⅨからⅫが延髄、とCBTの前に覚えたのが役立ちました。逆に、Wallenberg症候群で起こらない症状はありますか。
ドクタードクター
いい質問だ。延髄の内側を走る錐体路、内側毛帯、舌下神経核は保たれる。だから原則として片麻痺はなく、触覚や深部感覚も保たれ、舌の麻痺もない。これらが障害されるのは延髄内側症候群、Dejerine症候群で、同側の舌下神経麻痺と対側の片麻痺・深部感覚障害を呈する。
医学生医学生
外側と内側で、障害される構造がきれいに分かれているんですね。原因はどの血管でしょうか。
ドクタードクター
延髄外側は椎骨動脈とその枝の後下小脳動脈、PICAの灌流域だ。臨床で特に注意したいのは、比較的若い人や中年での椎骨動脈解離。後頸部痛や頭痛に続いて発症することが多いから、問診で必ず確認したい。それから嚥下障害があるので、誤嚥性肺炎の予防のために嚥下評価を行うまでは経口摂取を慎重にすることも大切だ。
医学生医学生
脳神経内科の実習で、Wallenberg症候群の患者さんが首を揉んだ後から症状が出たと話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに解離を疑うエピソードだね。症状を構造に結びつけ、横断面で位置関係を描けるようになると、脳幹症候群はぐっと整理しやすくなるよ。

まとめ

顔面と体幹・四肢で左右が逆になる交叉性の温痛覚障害は、同側の三叉神経脊髄路核と対側由来の外側脊髄視床路が隣り合う延髄外側の病変を示します。これに疑核障害による嚥下障害、同側Horner症候群、下小脳脚・前庭神経核障害による失調やめまい、吃逆が加われば、延髄外側症候群(Wallenberg症候群)と判断できます。延髄内側の錐体路・内側毛帯・舌下神経核は保たれるため、原則として片麻痺や深部感覚障害は伴わず、これらがみられる延髄内側症候群(Dejerine症候群)と区別されます。原因は椎骨動脈や後下小脳動脈の閉塞で、若年〜中年では椎骨動脈解離に注意が必要です。障害された脳神経で脳幹の高さ(Ⅲ:中脳、Ⅴ〜Ⅷ:橋、Ⅸ〜Ⅻ:延髄)を決め、症状の左右分布で病巣を絞り込む考え方は、脳幹症候群全般の理解の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・52歳男性。起床時に気づいた症状であり、発症様式は急性で、脳血管障害(脳梗塞)をまず考える。 ・ふらつき:小脳やその連絡路(下小脳脚)、前庭神経核の障害による体幹・四肢の失調や回転性めまいを示唆する。 ・左顔面と右半身のしびれ:顔面と体幹・四肢で左右が逆になる「交叉性(交代性)感覚障害」である。顔面の感覚は同側の三叉神経脊髄路核・脊髄路が、体幹・四肢の温痛覚は反対側から交叉して上行する外側脊髄視床路が担う。両者が隣り合って走行する部位は延髄外側(および橋下部外側)であり、左側に病巣があれば左顔面と右半身に症状が出る。 ・水を飲むとむせる(嚥下障害):舌咽神経・迷走神経の運動核である疑核の障害を示す。 ・しゃっくり(吃逆)の持続:延髄の呼吸中枢周辺や迷走神経系の障害でみられ、延髄病変に特徴的な症状である。 ・眼部写真:左の眼裂狭小(軽度の眼瞼下垂)と左縮瞳がみられ、左Horner症候群と判断できる。視床下部から脳幹外側を下行する交感神経路が障害されたためである。

診断へのプロセス

交叉性感覚障害、疑核症状(嚥下障害)、同側Horner症候群、失調・めまい、吃逆という組み合わせは、左延髄外側症候群(Wallenberg症候群)に典型的である。延髄外側は椎骨動脈およびその枝である後下小脳動脈(PICA)の灌流域であり、両者の閉塞や、比較的若年~中年では椎骨動脈解離が原因となることが多い。 一方、延髄外側症候群では錐体路(延髄では前方の錐体を走る)は障害されないため、原則として片麻痺はない。本例でも運動麻痺の記載はなく、これも延髄外側病変に合致する。

設問の考え方

「顔面と体の感覚障害が左右で交叉している」「下位脳神経(Ⅸ・Ⅹ)の症状がある」「同側のHorner症候群がある」の3点がそろえば、病巣は延髄(外側)と特定できる。

選択肢考察

  1. ×a.  視床

    視床は全身の感覚の中継核であり、障害されると反対側の顔面を含む半身の感覚障害が生じる(顔面と体は同じ側になる)。視床症候群(Dejerine-Roussy症候群)では、対側半身の感覚障害、のちに出現する激しい視床痛、軽い片麻痺などがみられる。本例のように顔面と体で左右が交叉する感覚障害や、嚥下障害・Horner症候群は説明できない。

  2. ×b.  中脳

    中脳病変では、動眼神経(Ⅲ)麻痺に対側片麻痺を伴うWeber症候群、動眼神経麻痺に対側の不随意運動・失調を伴うBenedikt症候群(赤核の障害)などがみられる。黒質の障害で錐体外路症状を呈することもある。嚥下障害や吃逆は下位脳神経(延髄)の症状であり、中脳病変では説明できない。本例には動眼神経麻痺(散瞳、眼球運動障害)も認めない。

  3. ×c.  橋

    橋には三叉神経(Ⅴ)~内耳神経(Ⅷ)の神経核と錐体路があり、病変では同側の外転神経麻痺・顔面神経麻痺と対側片麻痺(Millard-Gubler症候群など)、内側縦束(MLF)症候群、両側病変での閉じ込め症候群などがみられる。橋下部外側病変では延髄外側症候群と似た症状をとることもあるが、疑核(嚥下障害)や吃逆は延髄の症状であり、本例の組み合わせは延髄の方がよく説明できる。

  4. ○d.  延髄

    左延髄外側の梗塞(Wallenberg症候群)で本例の症状はすべて説明できる。左三叉神経脊髄路核・脊髄路の障害で左顔面の温痛覚障害、左外側脊髄視床路の障害で右半身の温痛覚障害、疑核の障害で嚥下障害(嗄声を伴うこともある)、下行性交感神経路の障害で左Horner症候群、下小脳脚・前庭神経核の障害で失調・めまい・眼振が生じる。吃逆も延髄外側病変でよくみられる症状である。

  5. ×e.  小脳

    小脳病変では、病側の四肢の運動失調、体幹失調、構音障害、眼振、めまいなどがみられる。ふらつきは小脳病変でも説明できるが、小脳には感覚路や脳神経核、交感神経路は通らないため、交叉性感覚障害、嚥下障害、Horner症候群は生じない。なお、後下小脳動脈閉塞では延髄外側と小脳下面の梗塞が合併することがあるが、本例の中核となる病巣は延髄である。

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)

原因:椎骨動脈または後下小脳動脈(PICA)の閉塞。頻度としては椎骨動脈の閉塞によるものが多いとされ、中年以下では椎骨動脈解離(頭痛・後頸部痛で始まることが多い)が重要な原因である。 障害される構造と症状 ・病巣と同側  三叉神経脊髄路核・脊髄路 → 顔面の温痛覚障害  疑核(Ⅸ・Ⅹ) → 嚥下障害、嗄声、軟口蓋・咽頭の麻痺、カーテン徴候  下行性交感神経路 → Horner症候群(眼瞼下垂、縮瞳、顔面の発汗低下)  下小脳脚・小脳 → 四肢・体幹の運動失調(病側へ倒れやすい)  孤束核 → 味覚障害 ・病巣と反対側  外側脊髄視床路 → 頸部以下の半身の温痛覚障害 ・その他  前庭神経核 → 回転性めまい、嘔気・嘔吐、眼振  吃逆(しゃっくり) 障害されない構造:錐体路(片麻痺なし)、内側毛帯(触覚・深部感覚は保たれる)、舌下神経核(舌の麻痺なし)。これらは延髄内側にあり、前脊髄動脈や椎骨動脈の内側枝で灌流される。内側が障害されるのは延髄内側症候群(Dejerine症候群)で、同側の舌下神経麻痺、対側の片麻痺、対側の深部感覚障害を呈する。

脳幹症候群の整理

・中脳:Weber症候群(Ⅲ麻痺+対側片麻痺)、Benedikt症候群(Ⅲ麻痺+対側の不随意運動・失調) ・橋:Millard-Gubler症候群(Ⅵ・Ⅶ麻痺+対側片麻痺)、MLF症候群、閉じ込め症候群 ・延髄:Wallenberg症候群(外側)、Dejerine症候群(内側) 脳幹病変では「同側の脳神経症状+対側の長経路症状(運動・感覚)」という交代性の症候が特徴であり、どの脳神経が障害されているかで高さを決める。

POINT

・顔面と体幹・四肢で左右が逆の温痛覚障害(交叉性感覚障害)は延髄外側病変を示す。 ・Wallenberg症候群:同側の顔面温痛覚障害・Horner症候群・小脳失調・球麻痺(嚥下障害、嗄声)、対側の半身温痛覚障害。吃逆、めまい、眼振も伴う。 ・片麻痺と深部感覚障害は原則として伴わない。 ・原因は椎骨動脈・後下小脳動脈の閉塞で、若年~中年では椎骨動脈解離に注意する。 ・脳幹病変は障害される脳神経で高さを判断する(Ⅲ:中脳、Ⅴ~Ⅷ:橋、Ⅸ~Ⅻ:延髄)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。