垂れたまぶたと外を向く眼―1枚の顔写真から動眼神経麻痺を見抜く
第104回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
写真を別に示す。 障害されている脳神経はどれか。

- a.Ⅱ
- b.Ⅲ
- c.Ⅳ
- d.Ⅴ
- e.Ⅵ
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
眼瞼下垂と眼球の外(下)方偏位が同側にそろっていれば、動眼神経(第Ⅲ脳神経)麻痺を考えます。動眼神経は上眼瞼挙筋と、外直筋(外転神経)・上斜筋(滑車神経)を除く外眼筋、さらに瞳孔括約筋を支配するため、麻痺すると開瞼できず、拮抗筋に引かれて眼球が外方へ偏位します。外転神経麻痺は内斜視、滑車神経麻痺は上斜視と代償頭位が特徴で、いずれも眼瞼下垂は伴わず、視神経や三叉神経は眼位に関与しません。臨床では瞳孔所見が重要で、散瞳を伴えばIC-PC動脈瘤などの圧迫性病変を疑って緊急精査し、瞳孔が保たれていれば糖尿病などの微小血管障害が多いと考えます。外眼筋の支配神経を眼位の異常と結びつけて理解することは、脳神経診察と緊急疾患の見逃し防止の基本となります。
解答・解説
正解はbです
写真の所見
正面視の写真で、患者の右眼(写真では向かって左側)に眼瞼下垂があり、上眼瞼が瞳孔の上部にかかるほど下がっている。さらに右眼は正面を向かず、外側(耳側)へ偏位している(外斜視)。左眼は正常な位置にある。
所見から障害神経を考える
眼瞼を持ち上げる上眼瞼挙筋と、眼球を内側に向ける内直筋は、いずれも動眼神経(第Ⅲ脳神経)の支配である。動眼神経が麻痺すると、上眼瞼挙筋が働かずに眼瞼下垂が起こり、内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋が働かなくなる結果、麻痺していない外直筋(外転神経支配)と上斜筋(滑車神経支配)の作用が優位となって、眼球は外方(しばしば外下方)へ偏位する。「眼瞼下垂+外斜視(外下方偏位)」の組み合わせは動眼神経麻痺の典型像である。 これに加えて、動眼神経には瞳孔を縮める副交感神経線維(瞳孔括約筋・毛様体筋へ)が含まれるため、障害の仕方によっては散瞳や対光反射の消失を伴う。瞳孔所見の有無は原因の推定に重要である(supplement参照)。 眼瞼下垂だけならHorner症候群や重症筋無力症も鑑別に挙がるが、Horner症候群の眼瞼下垂は軽度で眼球運動障害を伴わず、重症筋無力症では日内変動・易疲労性がみられる。本問のように眼瞼下垂と眼球の外方偏位が同側に揃っている場合は、まず動眼神経麻痺を考える。
選択肢考察
- ×a. Ⅱ
誤り。第Ⅱ脳神経は視神経であり、視覚情報を伝える感覚神経である。障害されると視力低下・失明、視野欠損、患側への光刺激で両眼の対光反射が減弱する相対的求心性瞳孔障害(RAPD)などを生じるが、眼瞼や外眼筋は支配しないため、眼瞼下垂や眼位異常(斜視)の原因にはならない。
- ○b. Ⅲ
正しい。第Ⅲ脳神経は動眼神経である。上眼窩裂から眼窩に入って上枝と下枝に分かれ、上枝は上眼瞼挙筋と上直筋、下枝は内直筋・下直筋・下斜筋を支配する。さらに下枝から毛様体神経節を経る副交感神経線維が瞳孔括約筋と毛様体筋に分布する。動眼神経麻痺では、上眼瞼挙筋の麻痺による眼瞼下垂と、内直筋などの麻痺で外直筋・上斜筋の作用が相対的に優位になることによる眼球の外(下)方偏位がみられる。写真の右眼の所見はこれに一致する。
- ×c. Ⅳ
誤り。第Ⅳ脳神経は滑車神経であり、上斜筋のみを支配する。上斜筋は眼球を下転(特に内転位での下転)・内旋させる。麻痺すると患側眼が上方に偏位し(上斜視)、下方視で垂直性・回旋性の複視が強まるため、階段を降りる動作や読書がしにくくなる。複視を避けるために頭を健側に傾ける代償頭位をとり、頭を患側に傾けると患側眼の上転が増強する(Bielschowsky頭部傾斜試験陽性)。眼瞼下垂は生じない。
- ×d. Ⅴ
誤り。第Ⅴ脳神経は三叉神経であり、感覚枝は顔面の大部分の皮膚、角膜、口腔・鼻腔粘膜の感覚を、運動枝は咀嚼筋(咬筋・側頭筋・内側および外側翼突筋)を支配する。障害では顔面の感覚低下、角膜反射の消失(求心路の障害)、咀嚼力の低下などがみられるが、外眼筋や上眼瞼挙筋は支配しないため、眼瞼下垂や斜視は生じない。
- ×e. Ⅵ
誤り。第Ⅵ脳神経は外転神経であり、外直筋を支配して眼球を外側へ向ける。麻痺すると患側眼の外転が障害されて内斜視となり、患側を見たときに水平性の複視が強くなる。本問の写真では右眼がむしろ外側へ偏位しており、外転神経麻痺とは逆の所見である。また外転神経麻痺で眼瞼下垂は生じない。
外眼筋と支配神経
動眼神経(Ⅲ):上直筋(上転)、下直筋(下転)、内直筋(内転)、下斜筋(外転位からの上転・外旋)、上眼瞼挙筋(開瞼)、瞳孔括約筋・毛様体筋(副交感:縮瞳・調節) 滑車神経(Ⅳ):上斜筋(内転位での下転・内旋) 外転神経(Ⅵ):外直筋(外転) 覚え方として「LR6 SO4、残りは3」が知られている。
動眼神経麻痺の原因と瞳孔所見
動眼神経の中で瞳孔を支配する副交感神経線維は、神経の表層(上内側)を走行している。 ・外からの圧迫(内頸動脈-後交通動脈分岐部〈IC-PC〉動脈瘤、鉤ヘルニアなど):表層の線維が先に障害されるため、散瞳・対光反射消失を伴いやすい(瞳孔障害を伴う動眼神経麻痺)。IC-PC動脈瘤は破裂するとくも膜下出血を起こすため、頭痛を伴う急性の動眼神経麻痺は緊急の画像検査(CTアンギオグラフィ、MRアンギオグラフィなど)が必要である。 ・神経内部の微小血管障害(糖尿病、高血圧など):神経の中心部が虚血に陥り、表層の瞳孔線維は保たれやすいため、瞳孔は正常なことが多い(瞳孔回避)。数か月で自然回復することが多い。 ・その他:海綿静脈洞病変、Tolosa-Hunt症候群、中脳病変(Weber症候群:同側動眼神経麻痺+対側片麻痺)なども原因となる。
眼瞼下垂の主な鑑別
動眼神経麻痺:高度の下垂、外斜視、しばしば散瞳。 Horner症候群(交感神経障害):軽度の下垂(瞼板筋〈Müller筋〉の麻痺)、縮瞳、顔面の発汗低下。眼球運動は正常。 重症筋無力症:日内変動・易疲労性のある下垂、複視。瞳孔は正常。 腱膜性(加齢性)眼瞼下垂:眼球運動・瞳孔ともに正常。
POINT
・眼瞼下垂+眼球の外(下)方偏位 → 動眼神経(Ⅲ)麻痺。 ・動眼神経は上眼瞼挙筋、上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋と瞳孔括約筋・毛様体筋を支配する。外直筋はⅥ、上斜筋はⅣ。 ・散瞳を伴う動眼神経麻痺 → IC-PC動脈瘤による圧迫をまず疑い、緊急で精査する。 ・瞳孔が保たれる動眼神経麻痺 → 糖尿病などの微小血管障害が多い。 ・滑車神経麻痺は上斜視と代償頭位(健側への頭部傾斜)、外転神経麻痺は内斜視と外転障害。
