StudyMed医師国家試験

しこりを触れたら次の一手は?―マンモグラフィの後に「まず」行う検査

第104回医師国家試験 D問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第44問

48歳の女性。乳がん検診で異常を指摘され来院した。視診で異常を認めない。触診で右乳房上外側領域に2 cm大の腫瘤を認める。マンモグラフィを別に示す。  まず行うのはどれか。

第104回 D問題 第44問の問題画像
  1. a.乳管造影
  2. b.乳房超音波検査
  3. c.乳管内視鏡検査
  4. d.穿刺細胞診検査
  5. e.ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳がん検診で見つかった乳房のしこりを、どんな順番で精査していくかを問う問題だ。病名を当てるのではなく、「いま、この段階で何をするか」がテーマになる。触診でしこりを触れて、マンモグラフィでも影が写っている。この時点で何がわかっていて、何がまだわかっていないかを考えてみよう。
医学生医学生
しこりが実際にあることはわかりました。でも、癌なのか良性なのかはまだ決まっていない、ということですよね。
ドクタードクター
その通り。マンモグラフィでは右乳房に周囲より白い、円形から分葉状の腫瘤影があって、輪郭は比較的はっきりしている。ただ、これだけでは線維腺腫や嚢胞などの良性病変なのか、乳癌なのかは断定できない。
医学生医学生
輪郭がはっきりしているなら良性っぽい気がします。病理の講義で、癌はスピキュラのような棘状の辺縁になると習いました。
ドクタードクター
いい知識だね。ただ、そこが落とし穴なんだ。充実腺管癌や粘液癌のように、境界が明瞭に見える乳癌もある。だから「きれいな形だから良性」と決めつけず、もう一段詳しく調べる必要がある。では、その次に行うべき検査は何だと思う?
医学生医学生
確定診断をつけたいので、すぐに針を刺して細胞診をしたくなります。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、穿刺細胞診は侵襲を伴う検査だ。まず腫瘤の性状を画像で詳しく見て、本当に刺す必要があるか、どこを刺すかを決めてから行う。しかも実際には、超音波で針先を確認しながら刺すのが普通なんだ。だから正解は乳房超音波検査になる。
医学生医学生
超音波なら被曝もなく、何度でもできますね。
ドクタードクター
そう。超音波では、まず中身が液体の嚢胞か、充実性の腫瘤かを区別できる。充実性なら、形、境界が平滑か不整か、内部エコー、後方エコー、縦横比、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、血流などを見て、良悪性を推定していく。縦に長い腫瘤は悪性を疑う所見のひとつだ。
医学生医学生
乳腺外科の実習で、エコーを当てながら「縦長だから要注意」と指導医の先生が言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその視点だね。それに、閉経前の女性は乳腺が濃い、いわゆる高濃度乳房が多く、マンモグラフィでは病変が乳腺に隠れやすい。超音波はそれを補ってくれる。では残りの選択肢も見ておこう。乳管造影と乳管内視鏡検査はどんなときに使うかな。
医学生医学生
どちらも乳管の中を見る検査なので、乳頭から分泌がある場合でしょうか。
ドクタードクター
正解。血性の乳頭分泌があるときに、乳管内乳頭腫や乳管内に広がる癌を探すための検査だ。今回は乳頭分泌の記載がなく、触れるしこりの最初の精査として行うものではない。
医学生医学生
PETは全身を一度に調べられるので、悪性かどうかの判定にも使えそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。PETはFDGというブドウ糖類似物質の取り込みを見る検査で、乳癌診療では主に遠隔転移や再発の検索に使う。小さな病変や悪性度の低い病変では集積が弱いこともあり、しこりの良悪性鑑別のために最初に行う検査ではない。
医学生医学生
流れとしては、視触診、マンモグラフィと超音波、細胞診や針生検、癌と確定したら広がり診断、という順番ですね。
ドクタードクター
その通り。発展として押さえておきたいのは、現在は穿刺吸引細胞診だけでなく、コア針生検や吸引式組織生検がよく選ばれることだ。組織型に加えて、ホルモン受容体やHER2の状態も調べられ、治療方針に直結するからね。癌と確定したら、造影MRIで乳房内の広がりや多発病変を、CTや骨シンチグラフィなどで遠隔転移を評価する。
医学生医学生
乳癌は上外側に多いと習いましたが、今回のしこりもその部位ですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。上外側は乳腺組織が多く、乳癌が最も多く発生する部位だ。また、日本の対策型乳がん検診は40歳以上を対象に2年に1回のマンモグラフィで行われる。検診で拾い上げ、超音波で性状を評価し、針で確定する。この段階を踏む感覚を、臨床でも大切にしてほしい。

まとめ

乳がん検診で腫瘤を指摘され、触診とマンモグラフィで病変の存在が確認できても、その時点では良性か悪性かは判断できません。次にまず行うのは、被曝がなく非侵襲的で、嚢胞と充実性腫瘤の区別や形状・境界・縦横比などから良悪性を推定できる乳房超音波検査です。穿刺吸引細胞診や針生検は超音波で評価した後に超音波ガイド下で行い、乳管造影・乳管内視鏡は乳頭異常分泌の精査、PETは主に遠隔転移や再発の検索に用います。境界明瞭な腫瘤でも乳癌のことがあるため、見た目だけで良性と決めつけないことが重要です。「視触診→画像→病理→広がり診断」という順序を理解しておくことは、乳腺疾患に限らず、侵襲の少ない検査から段階的に進める診療の基本姿勢につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・48歳の女性(乳癌の罹患が多い40歳代後半〜50歳代にあたる) ・乳がん検診で異常を指摘されて受診した精密検査の場面 ・視診では異常なし:皮膚のくぼみ(えくぼ徴候)、発赤、乳頭・乳輪のびらん(Paget病)、乳頭陥凹などはない ・触診で右乳房上外側(C領域)に2 cm大の腫瘤を触れる。上外側は乳腺組織が多く、乳癌が最も多く発生する部位である ・マンモグラフィ(頭尾方向撮影)では、右乳房に周囲の乳腺より高濃度の、円形〜分葉状で比較的境界の明瞭な腫瘤影がみられる。左乳房に明らかな異常はない

診断へのプロセス

触診とマンモグラフィで、右乳房に実在する腫瘤性病変があることは確認できた。しかし、この段階では良性腫瘍(線維腺腫、葉状腫瘍、嚢胞など)か乳癌かの区別はついていない。境界が比較的明瞭に見える腫瘤でも、充実腺管癌や粘液癌などの乳癌であることがあるため、さらに評価を進める必要がある。

設問の考え方

乳腺の腫瘤の精密検査は、「視診・触診 → マンモグラフィ・超音波検査による画像評価 → 穿刺吸引細胞診・針生検による病理学的診断 → 乳癌と確定したら広がり診断(MRI、CTなど)」の順に進めるのが基本である。マンモグラフィの次にまず行うのは、非侵襲的で腫瘤の性状を詳しく評価できる乳房超音波検査である。超音波で腫瘤の内部構造・境界・形状を評価して良悪性を推定し、悪性が疑われれば超音波で見ながら針を刺して細胞や組織を採取する。

選択肢考察

  1. ×a.  乳管造影

    乳管造影は、分泌のある乳管の開口部から造影剤を注入し、乳管の拡張・狭窄・途絶や、乳管内の陰影欠損を調べる検査である。対象は血性乳頭分泌などの乳頭異常分泌がある場合で、乳管内乳頭腫や乳管内に広がる癌の評価に用いる。本例には乳頭分泌の記載がなく、触知できる腫瘤の精査として最初に行う検査ではない。

  2. ○b.  乳房超音波検査

    乳房超音波検査は被曝がなく非侵襲的で、繰り返し施行できる。嚢胞(内部が無エコー)と充実性腫瘤の区別がつき、充実性腫瘤では形状、境界の性状(明瞭平滑か、不整・粗ぞうか)、内部エコー、後方エコー、縦横比(縦長の腫瘤は悪性を示唆)、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、血流などを評価して良悪性を推定できる。乳腺の濃い(高濃度乳房の)若年〜閉経前女性でも病変を描出しやすく、マンモグラフィを補完する。悪性を疑う所見があれば、そのまま超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診や針生検へつなげられるため、マンモグラフィで腫瘤を認めた後にまず行う検査として最も適切である。

  3. ×c.  乳管内視鏡検査

    乳管内視鏡検査は、乳頭の乳管開口部から細い内視鏡を挿入して乳管の内腔を直接観察する特殊な検査である。乳頭異常分泌の原因となる乳管内病変(乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌など)の観察に用いられる。乳頭分泌のない触知腫瘤の最初の精査として行うものではない。

  4. ×d.  穿刺細胞診検査

    穿刺吸引細胞診は、腫瘤に細い針を刺して細胞を吸引し、悪性細胞の有無を調べる検査で、良悪性の鑑別に有用である。しかし侵襲を伴う検査であり、超音波検査で腫瘤の性状を評価して穿刺が必要かどうかを判断したうえで、通常は超音波で針先を確認しながら行う。したがって超音波検査の後に行う検査であり、「まず」行う検査ではない。現在は組織型やホルモン受容体・HER2の評価もできる針生検(コア針生検、吸引式組織生検)が選ばれることも多い。

  5. ×e.  ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉

    PET(ポジトロンエミッション断層撮影)は、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)の取り込みから、糖代謝の盛んな病変を全身にわたって検出する検査である。乳癌診療では、主に進行癌の遠隔転移や再発の検索に用いられる。小さな病変や、悪性度の低い病変では集積が乏しいこともあり、乳房腫瘤の良悪性鑑別のためにまず行う検査ではない。

乳房腫瘤の精査の流れ

1. 問診・視診・触診:腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、皮膚所見(えくぼ徴候、発赤、橙皮状皮膚)、乳頭の異常(陥凹、びらん、異常分泌)、腋窩リンパ節の腫大を確認する。 2. 画像検査:マンモグラフィと乳房超音波検査を組み合わせて評価する。マンモグラフィは微細石灰化の検出に優れ、超音波は腫瘤の内部性状の評価や高濃度乳房での病変検出に優れる。 3. 病理学的診断:穿刺吸引細胞診、針生検(コア針生検、吸引式組織生検)で確定診断を得る。 4. 乳癌と確定したら:造影MRIで乳房内の広がりや多発病変を評価し、CT・骨シンチグラフィ・PETなどで遠隔転移を検索する(病期に応じて選択する)。

マンモグラフィ・超音波検査での良悪性の目安

・良性を示唆:円形・楕円形、境界明瞭で平滑、縦横比が小さい(横長)、粗大な石灰化 ・悪性を示唆:形状不整、境界不明瞭、スピキュラ(辺縁から放射状に伸びる棘状の突起)、縦横比が大きい(縦長)、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、微細で線状・分枝状や多形性の集簇した石灰化 ・境界明瞭な腫瘤でも、充実腺管癌、粘液癌、髄様な増殖を示す癌などは悪性であり、所見だけで良性と決めつけない。

乳頭異常分泌の精査

血性の乳頭分泌では、分泌物の細胞診や潜血反応、超音波検査に加え、乳管造影や乳管内視鏡で乳管内病変(乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌など)を評価する。

乳癌の疫学

日本女性の癌で罹患数が最も多い。発症年齢は40歳代後半と60歳代前半にピークがある。部位は上外側(C領域)に最も多い。対策型乳がん検診は40歳以上を対象に、2年に1回のマンモグラフィで行われる。

POINT

・乳房腫瘤の精査は「視触診 → マンモグラフィ+超音波 → 細胞診・針生検 → 広がり診断」の順 ・マンモグラフィで腫瘤を認めたら、まず乳房超音波検査で性状を評価する ・穿刺吸引細胞診・針生検は超音波で評価した後、超音波ガイド下に行う ・乳管造影・乳管内視鏡は乳頭異常分泌(特に血性)の精査に用いる ・PETは乳房腫瘤の良悪性鑑別ではなく、主に遠隔転移・再発の検索に用いる ・乳癌は上外側(C領域)に最も多い

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。