しこりを触れたら次の一手は?―マンモグラフィの後に「まず」行う検査
第104回医師国家試験 D問題 第44問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。乳がん検診で異常を指摘され来院した。視診で異常を認めない。触診で右乳房上外側領域に2 cm大の腫瘤を認める。マンモグラフィを別に示す。 まず行うのはどれか。

- a.乳管造影
- b.乳房超音波検査
- c.乳管内視鏡検査
- d.穿刺細胞診検査
- e.ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
乳がん検診で腫瘤を指摘され、触診とマンモグラフィで病変の存在が確認できても、その時点では良性か悪性かは判断できません。次にまず行うのは、被曝がなく非侵襲的で、嚢胞と充実性腫瘤の区別や形状・境界・縦横比などから良悪性を推定できる乳房超音波検査です。穿刺吸引細胞診や針生検は超音波で評価した後に超音波ガイド下で行い、乳管造影・乳管内視鏡は乳頭異常分泌の精査、PETは主に遠隔転移や再発の検索に用います。境界明瞭な腫瘤でも乳癌のことがあるため、見た目だけで良性と決めつけないことが重要です。「視触診→画像→病理→広がり診断」という順序を理解しておくことは、乳腺疾患に限らず、侵襲の少ない検査から段階的に進める診療の基本姿勢につながります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・48歳の女性(乳癌の罹患が多い40歳代後半〜50歳代にあたる) ・乳がん検診で異常を指摘されて受診した精密検査の場面 ・視診では異常なし:皮膚のくぼみ(えくぼ徴候)、発赤、乳頭・乳輪のびらん(Paget病)、乳頭陥凹などはない ・触診で右乳房上外側(C領域)に2 cm大の腫瘤を触れる。上外側は乳腺組織が多く、乳癌が最も多く発生する部位である ・マンモグラフィ(頭尾方向撮影)では、右乳房に周囲の乳腺より高濃度の、円形〜分葉状で比較的境界の明瞭な腫瘤影がみられる。左乳房に明らかな異常はない
診断へのプロセス
触診とマンモグラフィで、右乳房に実在する腫瘤性病変があることは確認できた。しかし、この段階では良性腫瘍(線維腺腫、葉状腫瘍、嚢胞など)か乳癌かの区別はついていない。境界が比較的明瞭に見える腫瘤でも、充実腺管癌や粘液癌などの乳癌であることがあるため、さらに評価を進める必要がある。
設問の考え方
乳腺の腫瘤の精密検査は、「視診・触診 → マンモグラフィ・超音波検査による画像評価 → 穿刺吸引細胞診・針生検による病理学的診断 → 乳癌と確定したら広がり診断(MRI、CTなど)」の順に進めるのが基本である。マンモグラフィの次にまず行うのは、非侵襲的で腫瘤の性状を詳しく評価できる乳房超音波検査である。超音波で腫瘤の内部構造・境界・形状を評価して良悪性を推定し、悪性が疑われれば超音波で見ながら針を刺して細胞や組織を採取する。
選択肢考察
- ×a. 乳管造影
乳管造影は、分泌のある乳管の開口部から造影剤を注入し、乳管の拡張・狭窄・途絶や、乳管内の陰影欠損を調べる検査である。対象は血性乳頭分泌などの乳頭異常分泌がある場合で、乳管内乳頭腫や乳管内に広がる癌の評価に用いる。本例には乳頭分泌の記載がなく、触知できる腫瘤の精査として最初に行う検査ではない。
- ○b. 乳房超音波検査
乳房超音波検査は被曝がなく非侵襲的で、繰り返し施行できる。嚢胞(内部が無エコー)と充実性腫瘤の区別がつき、充実性腫瘤では形状、境界の性状(明瞭平滑か、不整・粗ぞうか)、内部エコー、後方エコー、縦横比(縦長の腫瘤は悪性を示唆)、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、血流などを評価して良悪性を推定できる。乳腺の濃い(高濃度乳房の)若年〜閉経前女性でも病変を描出しやすく、マンモグラフィを補完する。悪性を疑う所見があれば、そのまま超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診や針生検へつなげられるため、マンモグラフィで腫瘤を認めた後にまず行う検査として最も適切である。
- ×c. 乳管内視鏡検査
乳管内視鏡検査は、乳頭の乳管開口部から細い内視鏡を挿入して乳管の内腔を直接観察する特殊な検査である。乳頭異常分泌の原因となる乳管内病変(乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌など)の観察に用いられる。乳頭分泌のない触知腫瘤の最初の精査として行うものではない。
- ×d. 穿刺細胞診検査
穿刺吸引細胞診は、腫瘤に細い針を刺して細胞を吸引し、悪性細胞の有無を調べる検査で、良悪性の鑑別に有用である。しかし侵襲を伴う検査であり、超音波検査で腫瘤の性状を評価して穿刺が必要かどうかを判断したうえで、通常は超音波で針先を確認しながら行う。したがって超音波検査の後に行う検査であり、「まず」行う検査ではない。現在は組織型やホルモン受容体・HER2の評価もできる針生検(コア針生検、吸引式組織生検)が選ばれることも多い。
- ×e. ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉
PET(ポジトロンエミッション断層撮影)は、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)の取り込みから、糖代謝の盛んな病変を全身にわたって検出する検査である。乳癌診療では、主に進行癌の遠隔転移や再発の検索に用いられる。小さな病変や、悪性度の低い病変では集積が乏しいこともあり、乳房腫瘤の良悪性鑑別のためにまず行う検査ではない。
乳房腫瘤の精査の流れ
1. 問診・視診・触診:腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、皮膚所見(えくぼ徴候、発赤、橙皮状皮膚)、乳頭の異常(陥凹、びらん、異常分泌)、腋窩リンパ節の腫大を確認する。 2. 画像検査:マンモグラフィと乳房超音波検査を組み合わせて評価する。マンモグラフィは微細石灰化の検出に優れ、超音波は腫瘤の内部性状の評価や高濃度乳房での病変検出に優れる。 3. 病理学的診断:穿刺吸引細胞診、針生検(コア針生検、吸引式組織生検)で確定診断を得る。 4. 乳癌と確定したら:造影MRIで乳房内の広がりや多発病変を評価し、CT・骨シンチグラフィ・PETなどで遠隔転移を検索する(病期に応じて選択する)。
マンモグラフィ・超音波検査での良悪性の目安
・良性を示唆:円形・楕円形、境界明瞭で平滑、縦横比が小さい(横長)、粗大な石灰化 ・悪性を示唆:形状不整、境界不明瞭、スピキュラ(辺縁から放射状に伸びる棘状の突起)、縦横比が大きい(縦長)、境界部高エコー像(halo)、乳腺前方境界線の断裂、微細で線状・分枝状や多形性の集簇した石灰化 ・境界明瞭な腫瘤でも、充実腺管癌、粘液癌、髄様な増殖を示す癌などは悪性であり、所見だけで良性と決めつけない。
乳頭異常分泌の精査
血性の乳頭分泌では、分泌物の細胞診や潜血反応、超音波検査に加え、乳管造影や乳管内視鏡で乳管内病変(乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌など)を評価する。
乳癌の疫学
日本女性の癌で罹患数が最も多い。発症年齢は40歳代後半と60歳代前半にピークがある。部位は上外側(C領域)に最も多い。対策型乳がん検診は40歳以上を対象に、2年に1回のマンモグラフィで行われる。
POINT
・乳房腫瘤の精査は「視触診 → マンモグラフィ+超音波 → 細胞診・針生検 → 広がり診断」の順 ・マンモグラフィで腫瘤を認めたら、まず乳房超音波検査で性状を評価する ・穿刺吸引細胞診・針生検は超音波で評価した後、超音波ガイド下に行う ・乳管造影・乳管内視鏡は乳頭異常分泌(特に血性)の精査に用いる ・PETは乳房腫瘤の良悪性鑑別ではなく、主に遠隔転移・再発の検索に用いる ・乳癌は上外側(C領域)に最も多い
