StudyMed医師国家試験

30代の膝に潜む「巨細胞」―骨端の溶骨性病変は年齢で読み解く

第104回医師国家試験 D問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第41問

36歳の男性。1か月前からの右膝関節の疼痛と腫脹とを主訴に来院した。右膝のエックス線写真(A)と生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。  考えられるのはどれか。

第104回 D問題 第41問の問題画像
  1. a.類骨骨腫
  2. b.骨芽細胞腫
  3. c.骨巨細胞腫
  4. d.軟骨芽細胞腫
  5. e.非骨化性線維腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は膝周囲の骨腫瘍を見分ける問題だ。原発性骨腫瘍は「年齢」「長管骨のどこにできたか(骨端・骨幹端・骨幹)」「エックス線像」の3点でかなり絞り込める。そこに病理所見を重ねて診断を確定させよう。
医学生医学生
骨腫瘍は種類が多くて、整形外科の講義でも一番覚えにくかった分野です。
ドクタードクター
だからこそ、3つの軸で整理するのがコツなんだ。まず年齢。36歳ということは、骨端線はもう閉じている成人だね。次にエックス線を見ると、脛骨近位の骨端部、関節面の直下まで達する偏在性の溶骨性病変がある。境界は比較的明瞭で、悪性を強く疑わせる骨膜反応や軟部組織への著しい浸潤像は目立たない。
医学生医学生
関節面ぎりぎりまで骨が溶けているのは、骨端にできた病変ということですね。
ドクタードクター
そう。そしてH-E染色では、単核の間質細胞を背景に、たくさんの核をもつ破骨細胞型の多核巨細胞が一面に散らばっている。ところどころに褐色のヘモジデリン沈着も見える。
医学生医学生
成人、骨端、溶骨性、多核巨細胞……骨巨細胞腫でしょうか。
ドクタードクター
正解。骨巨細胞腫は20〜40歳代、骨端線閉鎖後の成人に好発し、大腿骨遠位、脛骨近位、橈骨遠位といった骨端部に偏在性にできる。内部に隔壁様の像があると石鹸泡状と表現されることもある。今回の所見はすべて典型像に合うね。
医学生医学生
でも、骨端にできる腫瘍には軟骨芽細胞腫もあったと思います。CBTの問題集で混同して間違えました。
ドクタードクター
そこが最大の鑑別ポイントだ。軟骨芽細胞腫も骨端に好発するけれど、好発年齢は骨端線が閉鎖する前の10歳代。エックス線では薄い硬化縁を伴う透亮像の中に点状・斑点状の石灰化がみられることが多く、組織では類円形の軟骨芽細胞が敷石状に並び、chicken-wire calcificationと呼ばれる格子状の石灰化が特徴だ。多核巨細胞が混じることもあるから、組織だけでなく年齢で区別するのが実践的だね。
医学生医学生
同じ骨端でも、骨端線が開いているか閉じているかで分けるんですね。
ドクタードクター
その通り。次に類骨骨腫と骨芽細胞腫を見ておこう。どちらも骨をつくる良性腫瘍だ。
医学生医学生
類骨骨腫は夜間痛がアスピリンでよく効く、というのが有名ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。類骨骨腫は10〜20歳代に多く、長管骨の骨幹部皮質にできる。エックス線では厚い反応性骨硬化に囲まれた1〜2cm未満の小さな透亮巣、ナイダスが特徴だ。骨芽細胞腫は組織が類骨骨腫に似ているけれど2cmを超える大きさで、脊椎の後方要素が最も多い好発部位。どちらも組織の主体は類骨や骨梁の形成と骨芽細胞の増生だから、多核巨細胞が一面に広がる今回とは違う。
医学生医学生
非骨化性線維腫は、小児科の実習で偶然見つかった子のエックス線を見せてもらったことがあります。
ドクタードクター
いい経験だね。非骨化性線維腫は小児〜思春期の骨幹端の皮質に偏在してできる線維性の良性病変で、硬化縁に囲まれた分葉状の透亮像を示す。多くは無症状で偶然見つかり、成長とともに自然に骨化・消退することが多い。部位が骨幹端で、年齢も症状も今回とは合わないね。
医学生医学生
骨巨細胞腫は良性なのに、骨を強く壊すのはなぜなんでしょうか。
ドクタードクター
良い疑問だ。実は腫瘍の本体は巨細胞ではなく単核の間質細胞のほうで、ほとんどの例でヒストンH3.3遺伝子の変異をもつ。この間質細胞がRANKLを産生して、破骨細胞型の巨細胞を集めて骨を吸収させるんだ。だから良性に分類されつつも局所侵襲性が強く、中間悪性的な腫瘍と位置づけられている。
医学生医学生
RANKLが鍵なら、骨粗鬆症で使うデノスマブが効きそうですね。
ドクタードクター
まさにその通りで、切除が難しい例や再発例ではRANKLに対する抗体であるデノスマブが使われる。基本の治療は病巣掻爬に補助療法と骨セメント充填や骨移植を組み合わせるもので、掻爬だけでは局所再発が多い。またまれに肺転移をきたすことがあるから、治療後も局所再発と肺の経過観察が欠かせない。
医学生医学生
年齢、部位、画像、組織の順に積み上げれば、似た腫瘍もきちんと分けられると分かりました。
ドクタードクター
そうだね。もう一つ、良性・悪性の画像の見分け方も合わせて覚えておこう。良性は境界明瞭で硬化縁を伴うことが多く、悪性は虫食い状の境界不明瞭な破壊やCodman三角などの骨膜反応を伴いやすい。ただ骨巨細胞腫は良性でも硬化縁に乏しく、皮質を膨隆・菲薄化させることがあるので、画像だけで安易に判断しないことが大切だ。

まとめ

骨巨細胞腫は、骨端線閉鎖後の20〜40歳代に好発し、大腿骨遠位・脛骨近位・橈骨遠位などの骨端部に、関節面直下まで達する偏在性の溶骨性病変として現れます。組織では単核の間質細胞の中に破骨細胞型多核巨細胞がびまん性に分布し、間質細胞が産生するRANKLが骨破壊の中心的な役割を担います。同じ骨端に好発する軟骨芽細胞腫は骨端線閉鎖前の10歳代に多く斑点状石灰化を伴う点で、類骨骨腫・骨芽細胞腫・非骨化性線維腫は年齢や部位、組織像の違いで区別できます。良性ながら局所再発が多くまれに肺転移もあるため、掻爬と補助療法に加え、切除困難例ではデノスマブを用い、長期の経過観察を行います。「年齢・部位・画像・組織」を順に組み合わせる考え方は、骨腫瘍全般の診断の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

患者は36歳の男性で、1か月前から右膝の痛みと腫れが続いている。外傷歴の記載はなく、年齢からみて変形性膝関節症のような退行性疾患も考えにくい。膝周囲の骨に生じた腫瘍性病変をまず疑う。

画像所見

エックス線写真では、脛骨近位端(骨端部から骨幹端にかけて)の外側寄りに、偏在性の溶骨性(骨透亮)病変がみられる。病変は関節面の直下まで及び、境界は比較的明瞭である。骨膜反応や周囲軟部組織への著しい浸潤像といった、悪性骨腫瘍を強く示唆する所見は目立たない。

病理所見

H-E(ヘマトキシリン・エオジン)染色標本では、単核の間質細胞(腫瘍の本体)を背景に、多数の核をもつ破骨細胞型の多核巨細胞がびまん性に散在している。

診断へのプロセス

原発性骨腫瘍は「年齢」「発生部位(長管骨のどこか:骨端・骨幹端・骨幹)」「エックス線像」の3点でかなり絞り込める。 ・年齢:20〜40歳代(骨端線が閉鎖した成人) ・部位:膝周囲(大腿骨遠位・脛骨近位)の骨端部、偏在性 ・画像:境界明瞭な溶骨性病変 ・組織:多核巨細胞が一面に分布 これらがそろうのは骨巨細胞腫である。骨端に好発する他の腫瘍として軟骨芽細胞腫があるが、こちらは骨端線閉鎖前の10歳代が中心であり、年齢が合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  類骨骨腫

    類骨骨腫は10〜20歳代に多い良性の骨形成性腫瘍で、大腿骨・脛骨など長管骨の骨幹部皮質に好発する。夜間に増強する痛みが特徴で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、特にアスピリン)がよく効く。エックス線では、厚い反応性骨硬化に囲まれた直径1〜2cm未満の小さな透亮巣(nidus:ナイダス)がみられ、その中心に石灰化を伴うことがある。本例は骨端の広い溶骨性病変で、周囲の強い骨硬化も小さなナイダスもなく、組織も多核巨細胞が主体であるため合致しない。

  2. ×b.  骨芽細胞腫

    骨芽細胞腫は組織学的に類骨骨腫と類似するが、大きさが2cmを超える良性の骨形成性腫瘍である。10〜20歳代に多く、脊椎の後方要素(椎弓・棘突起など)が最も多い好発部位で、そのほか長管骨や頭蓋骨などにも生じる。組織では類骨・骨梁形成と、それを縁取る骨芽細胞の増生が主体となる(反応性の破骨型巨細胞が混じることはあるが、一面に分布するわけではない)。年齢・部位・組織像のいずれも本例と一致しない。

  3. ○c.  骨巨細胞腫

    骨巨細胞腫は20〜40歳代の骨端線閉鎖後の成人に好発し、大腿骨遠位・脛骨近位・橈骨遠位などの骨端部に偏在性に生じる。エックス線では関節面直下まで達する境界比較的明瞭な溶骨性病変を呈し、内部に隔壁様の像がみられると石鹸泡状(soap bubble appearance)と表現される。組織では、単核の腫瘍性間質細胞のなかに破骨細胞型の多核巨細胞が均一に多数散在するのが特徴である。36歳・脛骨近位端の溶骨性病変・多核巨細胞という本例の所見はすべてこれに一致する。

  4. ×d.  軟骨芽細胞腫

    軟骨芽細胞腫は骨端に生じる良性の軟骨形成性腫瘍で、骨巨細胞腫と同じく骨端が好発部位である点が鑑別上の要所となる。しかし好発年齢は骨端線が閉鎖する前の10歳代(おおむね10〜20歳)であり、大腿骨・脛骨・上腕骨近位の骨端に多い。エックス線では辺縁に薄い硬化縁を伴う境界明瞭な透亮像の内部に、点状・斑点状の石灰化を認めることが多い。組織では類円形の軟骨芽細胞が敷石状に並び、細胞間の格子状石灰化(chicken-wire calcification)が特徴的である。多核巨細胞が混在することもあるが、36歳という年齢は典型から外れ、石灰化の記載もない。

  5. ×e.  非骨化性線維腫

    非骨化性線維腫は成長期の小児〜思春期に多い線維性の良性病変(腫瘍類似病変)で、大腿骨遠位・脛骨近位の骨幹端部の皮質に偏在して生じる。エックス線では硬化縁に囲まれた分葉状・多房性の透亮像を示し、多くは無症状で、別の目的で撮影したエックス線で偶然見つかる。成長とともに自然に骨化・消退することが多い。発生部位が骨端ではなく骨幹端であること、年齢、疼痛・腫脹を伴う症状のいずれも本例と合わない。

骨巨細胞腫の概要

・良性に分類されるが局所で骨を強く破壊し、掻爬のみでは局所再発が多い(中間悪性、局所侵襲性の腫瘍と位置づけられる)。 ・まれに肺転移をきたすことがあり(組織学的には良性のままの転移)、さらにまれに悪性転化する。 ・腫瘍の本体は単核の間質細胞で、ほとんどの例でヒストンH3.3遺伝子(H3F3A)の変異(G34Wなど)を有する。間質細胞がRANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)を産生し、それによって破骨細胞型の巨細胞が集まって骨を吸収する。 ・好発部位:大腿骨遠位>脛骨近位>橈骨遠位、仙骨など。膝周囲が約半数を占める。 ・治療:病巣掻爬+補助療法(フェノール・液体窒素・アルコール等による処理、骨セメント充填)や骨移植が基本。切除不能例や再発例ではRANKLに対するモノクローナル抗体であるデノスマブが用いられる。治療後も局所再発と肺転移の経過観察が必要である。

年齢・部位からみた主な原発性骨腫瘍

・骨端:骨巨細胞腫(20〜40歳代、骨端線閉鎖後)、軟骨芽細胞腫(10歳代、骨端線閉鎖前) ・骨幹端:骨肉腫(10歳代、膝周囲に多い悪性腫瘍)、骨軟骨腫、非骨化性線維腫、単発性骨嚢腫(上腕骨近位・大腿骨近位・踵骨に多い) ・骨幹:Ewing肉腫(小児、玉ねぎの皮状骨膜反応)、類骨骨腫(皮質のナイダス) ・手足の短管骨:内軟骨腫(指節骨に多い) ・脊椎後方要素:骨芽細胞腫、動脈瘤様骨嚢腫

良性と悪性の画像上の見分け方

良性は境界明瞭で、硬化縁を伴うことが多く、骨膜反応や軟部組織腫瘤を欠く。悪性は境界不明瞭(虫食い状・浸透状)で、Codman三角・スピクラ・玉ねぎの皮状骨膜反応や軟部組織への進展を伴いやすい。骨巨細胞腫は良性ながら硬化縁に乏しいことが多く、皮質を膨隆・菲薄化させる点に注意する。

POINT

・骨端+20〜40歳代(骨端線閉鎖後)+溶骨性病変 → 骨巨細胞腫 ・骨端+10歳代+斑点状石灰化 → 軟骨芽細胞腫 ・骨巨細胞腫の組織は、単核間質細胞のなかに破骨細胞型多核巨細胞がびまん性に分布する ・エックス線で石鹸泡状陰影、局所再発が多く、まれに肺転移 ・切除困難例にはRANKL抗体(デノスマブ) ・原発性骨腫瘍は「年齢・部位(骨端/骨幹端/骨幹)・画像」で絞り込む

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。